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『●君よ、大人を急ぐなかれ 』
亀山 淳紅ja2261)&矢野 古代jb1679

 静かな日。静かな夜。
 いつも賑やかすぎる我が家だが、今日に限っては静かで、たまにはこんな日もいいかとのんびり煙草を咥えながら活字に目を走らせせ、存分に本を堪能する。
 そんな矢野 古代がだいぶ短くなった煙草を灰皿でもみ消し、もう一本取ろうかと煙草に手を伸ばしたところで、サイドテーブルの上に投げっぱなしの携帯がチカチカト点滅しているのに気付いた。
 煙草を取るのを止め、携帯を手に取って名前を確認する。
 差出人・亀山 淳紅。件名・こんばんは。
「亀山君か。こんな時間に何だ――お酒飲みにいきましょー……?」
 眉間に寄った皺が、なかなか取れない。
 指で眉間のシワを伸ばしながら、内容を全部読む前に返信ボタンを押す。
「亀山君。君はまだ未成年じゃ……ああ、そうか」
 文字を打ちこむ指が止まった。
 そういえば酒の飲める歳になったと、はしゃいでいたのを思い出して書き直した。
「承知した、と。場所は……ある程度騒ぐだろうから、人の多い居酒屋にしようか」
 本にしおりを挟んで立ちあがり携帯をソファーに放り投げ、軽い身支度をして少しだけ上等な裾の長いコートに袖を通して戻って来てみると、携帯がチカチカと光っている。
 携帯を手に取り、古代は帽子を手に少しだけ、年甲斐もなく喜び勇んで家を出るのであった。


 すでに店の前で待機していた淳紅は、古代が来るまでの間、うろうろしてみたり意味なくスクワットしてみたりと、さっぱり落ち着かない。
 ひっきりなしに周囲に目を走らせていると、やがて人ごみ中から少しだけ飛び出ている黒い帽子を見つけ、両手を振った。
「矢野さん、矢野こしろしゃん、ここやで!」
 人ごみの中から手だけが突き出ている――と言うほど低いわけではないが、この時間帯にこの辺りを歩く人達から見比べると、そんな風に思えてしまったなどと……
「さすがに言えない、か」
「?」
 駆け寄ってきた淳紅が首を傾げるも、古代は「何でもないさ」とサラリと流すと、チェーン店の居酒屋の暖簾をくぐる。
 席に着き、キョロキョロと落ち着きなく見回す淳紅。
 店員に飲み物のオーダーを聞かれると、古代が淳紅にメニューを見せる。
「亀山君は何を飲む?」
「最初は矢野先輩と同じ物で!」
 とりあえず生でいいかと思っていたが、それならばと、淳紅に合わせて比較的飲みやすいハイボールを頼むのだが、店員の目が淳紅に注がれていた。
 どう見ても、という顔だ。
「二十歳やで!」
 飲む前からすでにテンションの高い淳紅に、さらなる疑惑の目が向けられ「店長をお呼びします」とまで言われてしまう。
「あ、すみません二十歳です。本当です、信じてください」
 学生証を提示しても疑惑の目はなかなか晴れてはくれないのに、古代の落ち着いた「間違いないです」の一言だけで引き下がってくれた。
 釈然としない部分はあるが、さすがは矢野さんやなと思っておくことで下がりかけたテンションを何とか維持し、そんな少し下がったテンションも、飲み物が運ばれてくるなり急上昇である。
 薄い琥珀色の液体が、居酒屋の楽しそうな喧騒とリズムを合わせるかのように、パチンパチンと楽しそうに弾けている。
 グラスの輝きに負けないほど、淳紅の目が輝いていた。
「それじゃ、二十歳おめでとう――乾杯」
「乾杯!」
 まずは匂いと音を楽しむ古代――それに対して淳紅はすぐにグラスを傾けると、グラスの角度がどんどんきつくなり、やがてほぼ真上を向いた。
 グラスがコースターの上に戻された時には、ただ氷がぶつかり合う音しかしない。
「ちょっと苦いけど、飲みやすいんやな!」
「それはそうなんだが、そんなにグビグビ飲んだらすぐ来るぞ、亀山君。まだ慣れていないのに」
「平気やって、平気!」
 こういう時の平気はあてにならない事をよく知っているが、それでも水を差すのはあれかなと口には出さず、言葉を一緒に飲み込むように一口、二口。
 メニュー表を広げる淳紅だが、それよりも古代が先に店員を呼び止めビールを注文する。
「やはりビールは定番中の定番だしね」
「大人への第一歩って感じやんなぁ!」
 メニューを閉じてはまた開き、文字や写真に心躍らせて、軽くリズムに乗せて読み上げていた。
 お通しを口に運びつつちょっとずつ飲んでいく古代を前に、お喋りな感のある淳紅の口はますます止まらない。室内が暑いのもあるが、顔もすでにほんのりと赤く、間違いなくすでに酔いが回っている。
(初めての酒だ。すぐに出るのは仕方ないさ)
 自分の『初めての飲酒』を思い出し、それを肴に一口――もうだいぶ慣れた味のはずだが、爽やかなな旨味に身が震えてしまった。
 そうこうしているうちに、淳紅の前にはきめの細かい泡の帽子をかぶった黄金の輝きを放つ、きっと知らぬ日本国民はいないだろうというレベルの代表選手、ピルスナービールが運ばれてきた。
「おビール様やな。いざ、勝負!」
 ジョッキを掴み、今度も一気に飲み干す――かと思いきや半分ほどで一旦口を離したその途端に古代が低く、含んだ笑みを漏らしてしまった。
 ぐっと拳を作り、よっしゃと白髭の淳紅がしたり顔をする。
「これも基本やし、狙っていかんと」
 おしぼりで髭をふき取り、今まさに運ばれてきた唐揚げにレモンもかけず指でつかんで口の中へ。
 熱々の衣はサクサクで、噛もうとすると霜柱を踏んだ様な音が口の中に響き、弾けるように溢れ出てくる鳥の旨みと熱さ。それを熱いまま胃に押し込めると喉が熱いと訴えてくるので、黄金色の液体で黙らせる。
 口の中も喉も、すっきり満足。
「んでー、次はワインにも挑戦したいなー。日本酒とかもええし、名前がかっこいいカクテルもええし……ここら辺はグラスが小っちゃいみたいで色々試せてええなぁ」
 ここまで来ると、もはや自分の思うがままに注文をするようになるが、古代はちびりと最後の一口を飲み干すだけで、何も言わない。
(今夜の主役は亀山君みたいなもんだし、これも勉強だ)
 それに昔、自分だってやらかした事だと微笑ましく見守る事にしたのだった。
 個室の戸がノックされ、店員が顔を出すなり古代は空のグラスとお通しの皿を目の前に置く。
「冷酒、一本。それとアサリの酒蒸しを」
「とりあえず、これとこれとこれに、ついでのこれでお願いしま〜っしゅ!」
 酒ですでに呂律が回らなくなってきたのか、テンションが高くなりすぎて口が回らなかっただけなのかわからない淳紅。
 さて何を頼んだのかなと、呂律が所々怪しくも凄まじい勢いで次々に出てくる淳紅の話に相槌を打ちながら、楽しみに待っていたのだが、運んできたものを見て呆気にとられる。
「グラスワインに、芋焼酎、ミント付ならモヒート? そして梅酒のロックか」
 見た目の雰囲気と鼻孔をくすぐる薫りでおおよその見当をつけると、淳紅は「大正解やで!」と爽やかだが濃い梅の薫りが漂うグラスを、ほとんど一瞬で飲み干す。
「少ないなー!! 次はこれやな!」
 ロックは薫りを楽しみ、氷が融けて変化していく味を楽しむものだと言う前に、淳紅はもう別の物に口をつけていた。
「流石にそれは待て。ちゃんぽ――あー……」
 静止する前に、まさかの芋焼酎一気飲み。
 口から火でも吐き出しそうな淳紅の顔色が、間違いなく真っ赤である。
「かっらーーーー!」
 これも経験だよなと、さっきからほとんど飲んでばかりの淳紅へ、アサリの酒蒸しを勧める。
 その途端、きっちりと正座し直して半眼の、ほんのり笑みを浮かべているような穏やかな顔の淳紅は、アサリの匂いに誘われるがまま、箸で貝柱から引き剥がし、三つ葉を乗せて滴る出汁と一緒に口の中へ。
「出汁は貝より出でて、貝より美味し」
 どこかの受け売りを口にしたその瞬間、顔色が真っ青に。そのままトイレへと駆け込んで行った。


「若いころの特権、だな」
「スマソン――」
 吐いて飲んでを繰り返し見事、グロッキーとなった淳紅を亀山家に送るため、おんぶしていた。
(年上にでも、甘えたかったのかね)
 初の酒の席に呼んだのが自分だった事。終始ハイテンションだった事。そして、普段は子ども扱いをわりと嫌う傾向にあるのにも関わらず、こうして大人しくおんぶされている事からして、そうなのかもしれないと。
 迷惑とは思わない。
 むしろ、久しぶりどころか入学以来初めて、友人と飲みに出れた事が非常に嬉しかった。
「早くなぁ……こしろしゃんみたいに……立派な大人になりたい、もんやなぁ――」
 立派――そう言われても、今の自分は今更ながら天魔について悩み、揺れている日々を過ごしている。
 立派とは到底言えないと思っていたが、淳紅のために口には出さない。
 だから、かわりの言葉を用意する。
「どうせ何もしてなくても、大人になっていくんだ。焦る事はない――今だからやれる事をやって、気づけば大人になっていたでいいじゃないか」
 長い静寂。
 静寂でふと、思いついた。
「そういえば『お約束』は勘弁だぞ」
「――ごめ……!」
 淳紅が何も言葉を発しなかった理由を悟り、脳裏には亀山家に一泊かなとか、娘になんて言い訳しようかなとかそんな事がよぎり、今から迎える惨事に目をそむける古代であった――




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2261 / 亀山 淳紅 / 男 / \20歳やで!/ / 大魔道士(予定)】
【jb1679 / 矢野 古代 / 男 / 36だが何か?  / お父さんぽい  】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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楽しく美味しいお酒の席は如何だったでしょうか? きっとこれからもずっと、こんな関係が続くのかと思うと、それはそれで羨ましい限りですね。
ご依頼、ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。
snowCパーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年01月05日

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