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『寒木瓜の 紅染まりし 我が恋は 』
義覚jb9924)&jc0003

 白銀に染まる庭の寒木瓜に手を伸ばし、葵(jc0003)は黒子のある口元に笑みを刻んだ。
「まだ寒いというのに、難儀なことよのう……」
 季節は冬を迎え、寒さも本番となろうこの時期に、寒木瓜の花は雪に埋もれながらも見事に咲いている。
 白銀の中にある紅の花は、若干異質で奇妙な光景だが、葵にはこの光景こそが美しいと思える。
「私も、似たようなものよのう……」
 くすり。零して花に手を伸ばす。
 自身が美しいと称賛している訳ではない。異質である事が自身に似ている、そう称しているのだ。
 天魔に人の子としてすり替えられ、武家の娘として育てられた過去。それこそが異端で異質だと葵は思う。
(……異質が故に目を惹く、か……)
 ツッと花弁を指で辿ったところで目を見張った。
 いつの間にか、花弁ではなく枝に触れていたようだ。指先に浮かんだ赤の雫が、ゆっくりと白銀の野に落ちてゆく。
(……雪の野に広がる赤の染み……この光景は……)
 脳裏を過った記憶に目を細める。
 それこそ何十年――否、何百年も昔。まだ自分が武家の娘として暮らしていたあの時、葵は似たような景色を見た。
(……懐かしいのう……)
 彼女は緩やかに息を吐くと、記憶の糸を辿る様に瞼を伏せた。

   ***

 約800年前。
 葵がまだ武家の娘であった時、都に今と同じくらい大量の雪が降った。
 それは数年に一度の大雪で、都では平家の恨みが結晶の雪となって降ったのでは、と密やかに囁かれていた。
「都の者は面白いことを言う。恨みが白であろう筈もなかろうに……」
 源氏が平家の残党を追っているという話は、都外れの屋敷に身を置く葵の耳にも届いている。
 なんでも相当酷い刑を受けたと聞くが、それならば尚のこと恨みの色は白ではないだろう。
「恨みに色があるとすれば、黒……もしくは、赤であろうか」
 闇色に染まる黒は沸々と湧き上がる憎悪の色だ。そして赤は復讐の色。滾る血を胸の内に納め、それでもいつかその血を見舞うことを願う。
「いずれにせよ、悲しき色よのう……」
 葵はそう零すと、庭の雪を見る為に足を動かした。
 1つ、また1つと刻まれる足跡を振り返りながら歩を進める。
 狩られた平家の残党は、自らの過去を振り返る事無く死んだのだろうか。それとも過去を見、未来を見ることを拒んで死んだのだろうか。
「……考えても詮無いこと、か……」
 深窓の姫とは程遠い自身だが、それでも彼等の胸中を計る事は出来ない。それどころかまるで別世界の様に聞こえてくる噂話は、自分とは無関係の話。それこそ考えても答えの出るものではない。
(これも好奇心と言うのだろうか……)
 両親が耳にしたら慌てて口に蓋でもしそうな考えだが、葵は元々好奇心旺盛の姫。普段は公の場でもない限り扇で顔を隠しもしない、ややじゃじゃ馬だ。
 そんな葵に両親や侍女は苦言を呈すが、彼女は平然とそれを流す。先日も自分で夕餉を運ぼうとした所を見つかり、散々に絞られた所だった。
「何でもかんでも誰かに遣られておってはつまらぬであろうに……ん?」
 不意に足が止まった。
 それと同時に吸い寄せられた目に彼女の膝が落ちる。そうして伸ばした手が雪の一端を拾い上げると、赤の瞳が細められた。
「これは……」
 雪の上に落ちた赤い染み。良く見れば今掬った雪の他にも、点々と線を引く様に落ちている。
 葵は興味惹かれたように歩き出すと、敷かれている点を追い始めた。そして――
「ほう」
 思わず零した声。そこに居たのは、雪を真っ赤に染める異端の男だった。
 全身に目も当てられぬほどの深い傷を負い、衣服も粉々に破られた姿は異常。そもそもこれだけの傷を負って生きて居るなど、もうそれだけで異質だった。
「随分としてやられておるのう……」
 膝を折って手を伸ばす。そうして顔を伺おうと手を伸ばした所で彼女はもう1つの異質に気付いた。
「……手負いの獣」
 知らず、口角が上がった。
 額に有する2本の角と、見える苦痛の表情がたまらなく興味をそそる。けれどそれは異性に向ける感情ではない。
 単に興が乗っただけ。けれどそれが全ての始まりだった。
 葵は彼を背負うと、屋敷に運ぶべく足を動かした。

   ***

 雪を踏み追いかける音がする。
 行けども行けども途絶えない足音。振り返れば刃物が揺らめき、前に進めば負の感情が湧き上がる。
 何故こんな事になったのか。何故自分でなければならなかったのか。
 共に倒れた者達の悲鳴が今でも耳にこびり付いている。目を閉じれば耳に激痛を、目を開ければ瞳に激痛を。こんな境遇を与えたのは誰だ。
 誰が一族を――
「……ぃ……、……おい……大丈夫か?」
「!」
 ハッと目が開いた。
 一気に現実に引き戻される気配に息を呑む。そうして瞬くと、覗き込む黒の髪が目に入った。
「おお、漸く目覚めたか……酷く魘されておった様じゃが、大丈夫かのう?」
 ふと微笑んだ女性は、何処となく寂しげな印象を与える笑みを覗かせて額に浮かんだ汗を拭う。
 身なりからして貴族の娘だろうか。
 もし違ったとしても良い家の娘である事は間違いない。
「……、っ……」
 此処は? そう問おうとして口を動かした瞬間、電流を流したかのような激痛が体を駆け上がった。
 それに眉を顰めて息を呑むと、女性の柔らかな手が降ってくる。
 温かで、穢れなど知らない清らかな手が、眠りを誘うように瞼に触れる。その何とも言い難い優しさに眉を寄せると、男の唇が何か言いたげに揺れた。
「今はまだ寝ておれ……動くには暫しの時が必要じゃ」
 女性はそう言うと、反対の手で男の髪を撫でた。

   ***

 女性の名は葵、男の名は義覚(jb9924)と言った。
 義覚は葵の献身的な看護で、自らの足で動くまでに回復を果たす。けれど彼の傷が完全に言えることはなかった。
(やはり、増えておる……)
 いつもの様に義覚に宛がった部屋を訪れた葵は、彼の身に増えた傷を目の当たりにして視線を落とした。
 初めは気のせいかと思っていた。単純に傷が癒えていないのだろう、と。
 けれど目の前に在る傷は明らかに新しい。
(やはり、夜歩きが原因なのじゃろうか……)
 屋敷を訪れた際にあった傷の殆どは癒えている。となれば、目の前の傷は新しく付けたものということになる。
「……そなた、出歩いて何をしておる?」
 唐突な問いに義覚の眉が上がった。
 伺うように向けられた視線が、葵のそれとぶつかる。そうして葵の手が動くと、彼女は義覚の傷を晒すように着物の袖を捲った。
「何故新しい傷が出来ておる? そなた、夜な夜な何処へ行っておるのじゃ?」
 彼の過去がどのような物でも構わない。それについて問いただそうとも思わない。
 けれどせめて、新しい傷を負うことは無いようにと、そう願っている。
「出歩くなとは言わぬ。じゃが、怪我は――」
「放っておいてくれ」
 脳裏を過った昨夜の出来事。
 恨み故に滾る血を沈めるため、夜な夜な襲っていた源氏の一族。都では平家の生き残りが復讐に舞い戻って来たと噂しているが、その生き残りこそが自分なのだと。そう葵に言う気はない。
(……憎悪と無関係の姫……その手に触れられるたびに、俺がどんなに惨めな想いになるか……)
 初めて瞼を閉じた手は、穢れを知らない綺麗なものだった。その手が与える癒しは、温かくも辛い物だった。
「もう、放っておいてくれ……」
 億劫そうに零した言葉は心からの声だ。
 これ以上惨めな想いにしないでくれ、と。これ以上癒さないでくれ、と。
 けれどそんな想いを知ってか知らずか、葵は静かな口調で語りかけながら手を伸ばしてきた。
「放ってはおけぬ。そなたが怪我を負うことを私が止めぬで誰が止める」
 不意に伸ばされた手に息を呑んだ。同時に、彼女の手を払う。そして勢いのままに彼女を押し倒すと、覆い被さる様にして睨み付けた。
「放っておけと言っている! お前には関係ないだろう!」
「!」
 見開かれた目に、心の奥が痛んだ。
 一族が皆殺しにされた時とは違う、針に刺されたような小さな痛みだ。けれどその痛みが義覚の瞳を揺らした。
 そしてそれを見止めた葵が口を開く。
「なんじゃそなた、私が……怖いか?」
「なっ」
 見透かすような瞳で囁かれた声に今度は義覚の目が見開かれる。
(怖い、だと……?)
 確かに葵は清らかで自分とは正反対の存在だ。けれど彼女を怖いかと問われるとそこには疑問が生じてしまう。
 だが否定も出来ない。
(……清らかな姫……ああ、そうか……)
 触られる度に感じていた感情。先程の痛み。そして彼女が放った言葉。
 それら全てを繋ぎ合わせて見えてくるのは、彼女を汚してしまわないかと言う恐怖。そう、確かに義覚は葵を怖いと思っていた。
「いつまで呆けておる。何か言わぬか」
 気丈に淡く笑んだ葵に肩の力が抜ける。
 義覚は彼女に覆い被さる様に倒れ込むと、息のような声で言の葉を紡ぎ落とした。

   ***

「葵の君、血が出ているよ?」
 懐かしい記憶心を奪われていた葵は、心配する義覚の声で我に返った。
「おいで?」
 差し出された手の柔らかな動きに葵の目が緩む。そうして彼の元に歩むと、彼女は迷う事無く自らの手を重ねた。
「一体、何に気を取られていたのかな?」
 そう言いながら傷の手当てをする彼を見て「変わったな」と思う。
「何、昔を思い出しておってのう……」
 柔らかな仕草も、声も、昔とはまるで違う。
 彼は確かに変わった。
 それが良いことなのか悪いことなのかは、彼自身しかわからないだろう。それでも彼が傷を負うことが少なくなったことが嬉しい。
 葵は穏やかに微笑むと、義覚の頬に唇を寄せた。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 jb9924 / 義覚 / 男 / 28 / 悪魔 /アカシックレコーダー:タイプB 】
【 jc0003 / 葵 / 女 / 26 / 悪魔 / 鬼道忍軍 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
だいぶ色々書き足しましたが如何でしたでしょうか。
もし何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
snowCパーティノベル -
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エリュシオン
2015年01月05日

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