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『雪原の獣たち 』
紫ノ眼 恋(ic0281)&庵治 秀影(ic0738)

 一晩中降り続いた雪は大地を白く染め、陽の光に照らされてキラキラと輝いている。
「まるで別世界だ……」
 そう零す紫ノ眼 恋(ic0281)は、瞬きながら辺りを見回す。
 此処は神楽の都の外れ。
 民家も人の気配もない其処は、まだ誰の足跡も付いていない。一歩踏み出せば自分だけの足跡が残るであろうその地を見詰め、恋は胸中に湧き上がるワクワクとした感覚と闘っていた。
「こういうのもたまには良いな」
 ふふ、そう零して目を細める。そうして一歩を踏み出すと、予想通りの足跡が大地に着いた。
「転ぶなよ」
 不意に響く声に足を止める。
「そう易々と転ぶ筈もない。狼をあまり馬鹿にするな――っ?!」

 ぼふっ☆

「言わんこっちゃない」
 やれやれと肩を竦めたからくりの視線の先では、恋が頭から雪に埋もれている。どうやら何かの溝に嵌ったようだ。
「くっ……不覚……」
 ふるりと雪の積もった頭を横に振って顔上げる。良く見れば陽がだいぶ高くなっているようだ。
「そろそろ昼の時間か……ふむ、確か秀影殿の庵がこの近くに在ったような……」
 雪を払って立ち上がりながらからくりを手招く。その仕草に首を傾げたからくりが近付いて来ると、彼女は突拍子もない事を言い出した。
「これから秀影殿の庵に行くぞ。何、別に腹が空いたからではない。世間話を行くのだ」
 良い案だろう? そう得意気に零す恋に、からくりの目が細められる。どう考えても昼飯目当てにしか思えないのだが、まあ突っ込んでも後が面倒だ。
「好きにしろ」
 からくりは半ば投げやりにそう言うと、彼女の袂に着いた雪を掃った。

   ***

 グツグツと煮える湯を覗き込み、庵治 秀影(ic0738)は熱燗代わりに用意した甘酒を徳利に移して湯の中に落す。そうして愛用の葉巻に手を伸ばすと戸を叩く音がした。
「うん? 誰だ?」
 外は久方振りに深い雪だ。こんな中を好き好んで遣って来る者はそう居ない。そう思って戸を開けたのだが、開けて直ぐに秀影は自分の予想に蓋をした。
「好き好んでくる奴が居たか」
 クツリ。喉をついて出た笑みに、戸の向こうにいた恋が首を傾げる。けれどそれも一瞬。彼女は得意気な笑みを浮かべると、道中で買ってきたらしい饅頭の袋を掲げてみせた。
「秀影殿、遊びに来たぞ」
「遊びに、ねぇ」
 良く見れば恋の髪が濡れている。衣服も若干濡れている事から、雪と戯れでもしたのだろう。となれば彼女が此処を訪れた目的は明白。
「くっくっく、恋君はまた迷子なのかぃ? まだまだ子供だねぇ」
 これは秀影が恋をカラカウ時の常套句だ。
 けれど恋はそんな言葉であろうと真面目に返してくる。不思議そうに首を傾げ、何かを思い至ったように獣耳が動いて、最後に首が横に振れる。
 その一連の動作が面白くて、秀影は思わず口元を緩めた。
「いや、今日は散歩の途中に寄っただけだ。ただ手土産なく来るのは非常識だからな。土産も用意したぞ」
 言って胸を張る仕草に笑いが喉から零れる。それに再び恋の耳が揺れた。
「秀影殿、わかっているか? 私は迷子ではないのだぞ」
 だから子供でもない。そう言い置いて向けられる支援に目が流れる。その上で彼女の後ろに立つからくりを見ると、秀影は戸を大きく開いた。
「ま、外で立ち話も難だ。そっちのからくりも一緒に……って、如何した?」
「何やら納得していない様だったのでな……もしやまだ子ども扱いしているのだろうか」
「子ども扱いなぁ……してるような、してないような、か?」
 完全にカラカウ口調に、恋の眉が寄る。そして威嚇するように尻尾が持ち上がると、鋭い眼差しを向けて刀に手を伸ばした。
「おぉっと、気に障ったかぃ?」
 流石に遣り過ぎたか。そう思った時には遅かった。
「納得がいかないのであれば剣で語るのみ。サムライとは剣で語るもの。いざ勝負だ、秀影殿ッ!」
 スラリと抜かれた刀身が、秀影の前に晒される。それに眉を上げると、彼は今一度恋の後ろに居るからくりを見た。
 からくりは恋の短気な行動に呆れているようだ。既に好きにしてくれと言わんばかりに足を下げている。
「仕方ねぇな。いいぜ、俺ぁ簡単に負けるほど老け込んでねぇぜぇ?」
 顎で庭先を示して歩き出す。
 流石に庵の入口で始めるほどの若さはない。それに恋も従って歩くのだが、今更ながらに雪深い大地を思い出した。
「大丈夫かぃ? 雪に足を取られてお終い、じゃぁ様にならねぇぜ?」
 クツクツ笑って太刀を構える。その仕草と言葉に恋の頬がかあっと熱くなった。
「秀影殿、何度言えばわかる! あたしは子供じゃないぞ!」
 叫んで飛び出した彼女に、秀影も表情を引き締める。幾ら闘いの経験が深いとは言え、相手は同じ開拓者。気を抜けばただで済まないだろう。
「っ、そんな真っ直ぐな攻撃、通じるかァッ!」
 細工もせずに間合いに飛び込む姿に声を上げる。けれど恋に細工など必要なかった。
 素早い動きで雪を掻いた刃が、力任せに振り降ろした太刀とぶつかる。そうして重い音を響かせると、双方の刃が弾かれた。
(重い……っ)
 予想以上に重い一撃に秀影の中で焦りが浮かぶ。だが驚いている暇はない。
 秀影は弾かれた勢いを借りて体を捻ると、太刀の重みと体に乗せた勢いを合せて踏み込んだ。まるで身と刃が一体となったかのような攻撃に、恋の足元がふらつく。
 それでも獣人特有の素早さと勘が彼女を救った。
「やるな、だがこれからだ! うおおおっ!」
 身軽な動作で雪を蹴って舞い上がると、陽の光を背に刃を振り降ろした。
 小手先の技など通用しない、真っ直ぐな太刀筋に秀影の口元に苦笑が滲む。それを見止めた恋の奥歯が噛み締められる。
(秀影殿はまだあたしを子供と思うのか……!)
「あたしが子供では無いことを思い知らせてやるッ!」
「!?」
 刃がぶつかる直前に加算された力。それに秀影の体が揺らぐ。
「っ、……なんて力だ……」
 思わず冷や汗が頬を伝う。けれど恋に退く気はない。
 秀影の体が揺らいだのを好機と取って踏込みを深くする。その上で刃を返すと、遠慮など微塵も見せずに斬り込んだ。
 これには流石の秀影も焦った。
 慌てて太刀を引いて雪に突き立てる。そうする事で盾を作り出すと、間一髪の所で恋の刃が止まった。
「やれやれ、お手上げだ。俺の負けだな」
 言って両手を上げてみせる。
「ええい、まだ勝負はついてないだろ……っ!」
「いや、俺の負けだ。これ以上やっても無駄ってぇもんだぜ」
 きっとこのまま続ければ恋の勝ちは完全なものとなるのは間違いない。
「それとも恋君は俺が怪我をしても良いって言うのかぃ? それこそ寂しいじゃねぇか」
 オドケて言っているが確かに彼の言う通りだ。
 良く見れば剣圧で其処彼処の雪が吹き飛んでいる。それはつまり、恋が本気で刃を振るっていたという証拠だ。
 もしこのまま続けていれば確実にどちらかが怪我をしていただろう。
「……釈然としないが仕方がない」
 恋はそう零すと刀を鞘に戻した。
 それに合わせて秀影の太刀も鞘に戻される。
「仕方ねぇ、恋君が大人になった祝いに美味ぇもんでも食わせてやるぜぇ」
「美味いもの?」
 ピクッと耳が揺れた。
「時間も時間だしな。腹ぁ減ってるだろう?」
 そう言えば当初は昼飯の時間だという事で此処を訪れた。否、別に昼飯に預かろうと訪れた訳ではない。
 そうではないのだが、たまたまそう言う事になった。
「そうか。秀影殿が其処まで言うのなら仕方がないな。特別に美味いものとやらをご馳走になってあげよう」
 ふふん、と得意気に言った直後、恋のお腹が盛大に鳴った。
「くくっ、恋君の腹は正直だねぇ。よし、何か食いたいもんはあるかぃ?」
「食べたいもの……」
 慌てて抑えたお腹は今も鳴っている。
 恋は僅かに頬を染めながら思考を辿る様に空を見上げた。其処に見えた雲に目を細める。
「白く長い……そうだ、餅は如何だ? 雑煮に入れて食べる餅は格別でな。あ、うどん……それに鍋も良いな!」
 次々と上がる食べ物に、秀影の目が細められる。そうして「はいはい」と零すと、彼は未だに食べ物を思案する恋を手招いた。
「まぁ、出来るまで甘酒でも飲んでてくれや。調度温まった頃だろうからよぉ」
「甘酒か、それは良いな!」
 言って駆け寄ってくる姿に密かに笑う。
 この様子を見るに、彼女が本当の意味で大人になるのはまだ先かもしれないな。と、そう思う秀影であった。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ic0281 / 紫ノ眼 恋 / 女 / 20 / 獣人 / サムライ 】
【 ic0738 / 庵治 秀影 / 男 / 27 / 人間 / サムライ 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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snowCパーティノベル -
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舵天照 -DTS-
2015年01月05日

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