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『爪を立てる獣は心を取り戻すのか? 』
イアル・ミラール7523)&茂枝・萌(NPCA019)

1.
「ガルッ! グルルルルルルッ!!」
 威嚇の声が、地下の廊下に響く。一室に閉じ込められた獣が吠えているのだ。
 獣が入れられた部屋はIO2本部に設置された危険なモンスターを閉じ込め監視する強固な部屋だ。
「やっぱり‥‥ダメなんだね?」
 茂枝萌(しげえだ・もえ)はIO2の研究員たちの検査結果と目の前の獣を見比べる。
 獣‥‥汚くボロボロの服に身を包み、爪と牙で威嚇をし、その口から人間の言葉を発することを忘れた獣。
 イアル・ミラール。強く、美しかった女性の姿は、今はどこにも見る影がない。
 マジックミラーの向こう側、壁を一枚隔てた部屋の中で、イアルは徘徊し吠える。こちらの気配を察しているのか、マジックミラー越しの萌に向かって牙を剥こうとしている。
 イアルをここに連れてきたのは萌だった。
 魔女の術により獣となり、魔女の館に解き放たれていたイアルをIO2のマジックアイテムで石化した。それはイアルを無傷でいさせるために、またイアルに萌を傷つけさせないために最善の方法だった。IO2本部にイアルを連れて来て石化を解いたものの、獣化を治す方法はIO2の技術をもってしても無理であることが判明した。
 そして、IO2の技術者はこう結論した。
『魔女の呪いを解くのは魔女のみ』
 この結果に萌はイアルを見つめる。
 暴れ狂う獣は、四つん這いでマーキングをし、目に入る部屋中の全てを破壊し、汚していく。そして悪臭にまみれた体でなおも自由を得ようと部屋を徘徊する。いや、魔女の元に帰ろうとしているのか?
 とにかく、この状態でイアルをこのまま放置することはできない。IO2と相談した結果、イアルはこの部屋にある冷凍保存装置により冷凍されることになった。
 冷凍している間に様々な研究と、事の進展を進めることがIO2と萌にとって最良だという判断がなされた。時間経過で呪いがイアルの体にどのような効果を及ぼすかがわからない。ならば、冷凍により肉体を冷凍させるのが最良である、と。
 その間にIO2が呪いの解呪方法を見つけ出せば、それもまたよし。萌が魔女の呪いを解くのもまたよし。
 部屋の中で冷凍されていくイアルを見ながら、萌は苦しげに‥‥けれど、冷静に次の行動を考えていた。


2.
 都心、山の手にある一流ホテルは今日もセレブ達のパーティーににぎわっている。
 そのホテルの地下には、魔女たちが巣食っている。魔女によってつくられた結社の支部、兼闇ルートの売買場が備わっている。
 なんど、この場所に足を運んだだろう。
 萌はいつものように隠れ家に潜んだ後で、魔女の秘密結社へと忍び込む。
 これが最後になればいい‥‥何度もそう思ってここに来た。その度に、イアルは危険な目に遭い、死にかけてきた。
 今度こそ、これで最後にする。今度こそ決着をつけるのだ。
 イアルを元に戻し、元の生活へ‥‥!
 萌は慎重に魔女たちの部屋の屋根裏を這いながら、あるものを探していた。
 イアルは、ある手がかりを残していた。それは、イアルの親友に関する手掛かりだった。イアルはそもそもイアルの親友を追ってこの秘密結社に来たのだ。危ない目に遭おうとイアルがこの秘密結社にこだわったのはその為だった。
 イアルの親友は、どうやらこの秘密結社の中にいる魔女にとらわれているようだった。イアルはそれを救い出そうとしていた。
 けれど、それは何度となく阻まれた。魔女の手によって。
 では親友は何をされたのか、イアルは最後にそれを追っていたはずだった。そのイアルの痕跡を萌は追うことにした。
 イアルは魔女にはわからない、萌にだけわかる場所に情報を隠していた。隠れ家からの通路、魔女たちの部屋の秘密の抜け穴。
 イアルの痕跡を辿りながら、少しずつイアルの得た情報を得ていく。
 少しずつ明かされる事実。親友の名。イアルの思い。
 親友もまた、イアルと同じように名を奪われて、魔女の下僕となっていた。イアルは親友を助けるために命懸けでこの情報を残したのだ。親友の為。
 これは、嫉妬だろうか?
 萌の胸が痛くなる。
 イアルの思いが真っ直ぐすぎるから? 私はまだしっかり話してもいないのに、イアルは‥‥。
 イアルの痕跡はイアルが覚悟を持って親友を助け出すために動いていたかを物語っていた。
 頭を振って、私情を払拭する。今は魔女の解呪が最優先だ。
 あとを辿って、萌はとある魔女の部屋へと忍び込む。イアルの痕跡はこの部屋に集中していた。
 部屋に入ると、膨大な本が目に入った。イアルの残した通りだった。
 その本の中からイアルの言葉通りに、一冊の本を抜き取る。
 読みにくい古代文字にところどころ、小さなルビがふってある。おそらくイアルの字だ。小さな文字で書かれていたのを萌は繋ぎ合わせた。
「名前‥‥を、奪う? 支配?」
 萌はその言葉を今までの事実と照らし合わせる。
 イアルは何らかの魔女の術を受けた。野生化し、その心はどうやっても取り戻せなかった。
 それはつまり、大切なものを奪われたから。イアルが、イアルである証明を魔女に奪われたから。
 符合した。この本が鍵なのだ。イアルは既に鍵を見つけていたのだ!
 イアルが傍にいるような安堵感と、イアルを元に戻すことができる喜びに萌は知らず知らずに笑みをこぼす。
 イアルはやっぱりすごい女性だ。どんな境遇でもあきらめないのだから。
 だから‥‥私はあなたを救うことができる。
 その時、萌の後ろから物音がした。萌は瞬間的に身を引いた。
 振り下ろされた長剣が、身体をかすめていった。


3.
 目に飛び込んできたのはピンクの色だった。
 攻撃をかわした後体勢を立て直しながら、襲ってきた相手を萌は確認する。
 ‥‥見たことがある?
 長い髪、白い肌、美しい泣き黒子が特徴的な‥‥。
「あなた、イアルの‥‥?」
 しかし、相手は全くその質問には答えなかった。
「魔女様の部屋に侵入者有り。排除する!」
 問答無用、という訳か。‥‥いや、違う。これは‥‥。
「あなたも魔女に名前を奪われているのね!?」
 襲いかかるビキニアーマーの美女は、萌に一切の情を掛けずに攻撃を叩きつける。
 イアルは彼女を気傷つけないように自らの身を犠牲にした。ならば、萌がその意志に反しては折角のイアルの苦労がすべて水の泡になってしまう。
 萌は目の前の女性を攻撃するという選択肢を捨てた。
 けれど、萌がその選択肢を捨てたからといって攻撃がやむわけではない。むしろ、殺すつもりの勢いで攻撃は激しくなる。
 どうしようもなかった。
 切り付けられ、心の臓をえぐられようとしたその瞬間に、萌はイアルを石化したIO2のマジックアイテムを女性に仕掛けた。
 その体は見る見るうちに石化し、萌は静かに立ち上がった。
 もう大丈夫。あなたはイアルによって救われた。あなたは元に戻れるよ。
 魔女の部屋から魔術書と女性を抱き、萌はIO2の本部を目指す。早急に呪いを解き、イアルに早く会いたかった。

 萌がIO2を出発したときと同じ、イアルは氷漬けのままだった。
 同じ部屋に女性を入れ、IO2のマジックアイテムによる石化を解く。彼女は一瞬驚いたようだったが、すぐに萌に切りかかろうとした。もちろん、武器は既に回収済みだったが。
 萌は同じく魔女の部屋より回収した魔術書を取り出して、奪われた名前の返還を求める。IO2の研究員がそれを手にすると、頭脳を結集し瞬く間にそれを解呪した。
 奪われた名が体に定着し、個々の意識が元に戻るまでの間に萌は魔術書を手に取る。
 長年の蓄積された魔女の研究成果。刻まれた文字のひとつひとつが呪いなのだ。
 萌はその魔術書を燃やした。この魔術書の効果はこれですべて解き放たれる。すべて無に帰す。
 けれど、同じようにまた誰かがこの呪いを作って、同じように名を奪われるものが出てこないとは言い切れない。
 ‥‥その時はまた、燃やせばいい。
 対応がわかっているのなら、この本をここに残しておく意味はないのだ。
 ちりちりと燃えて黒い炭となっていく魔術書に萌は何の感慨もない視線を向けた。
 これはただ、目の前の問題を片付けただけなのだ。次に同じことが起こってもきっと同じことをするだけなのだ、と。


4.
 女性の方は一般人であるせいか呪いが解かれた後も昏倒し続けたが、イアルはすぐに目を覚ました。
 ただ、イアルも目覚めてすぐに動けたわけではなく、ただ虚ろな瞳で空を見つめていた。
「もう大丈夫でしょう」
 IO2の研究員たちはイアル達の状態を見て、関心を無くしたように去っていった。
 萌は、イアルの手を取った。
「‥‥も‥‥え? ここは?」
 たどたどしい言葉だったが、イアルは確かに言葉を話した。
「ここはIO2。気分は? 痛いところはない?」
「だい‥‥じょうぶ。わたし、どうしてここに‥‥?」
 まだぼんやりとしてはいるが、自分の置かれた状況を徐々に把握していくイアル。どうやら獣化していた時の記憶はないようだ。
 萌は少しだけホッとした。
「すべて終わったよ。あなたの大事な人もここにいるからね」
「!」
 イアルが振り返ると、眠る親友の姿が目に入る。柔らかく微笑んだイアルの顔が、萌には眩しく見えた。
「彼女が目を覚ます前に綺麗にしておこうね。一緒にお風呂に入ろう」
 纏った汚らしいボロを捨て、イアルを風呂場へと導く。
「すっごい汚れだから、洗ったらきっとさっぱりするよ」
 アワアワのお風呂の中で、イアルの汚れきった肌をごしごしと洗うと柔らかな肌が戻ってくる。悪臭もシャボンの泡に紛れて消えていく。
「ふふっ、くすぐったいわ」
 温かなお湯に触れて、イアルは感情のある声で、表情で笑う。人らしく。
 髪も、肌も、爪もすべてが元に戻っていく感覚。肌と肌が触れ合う中で、萌はやっとイアルと向き合えたことを幸せに思った‥‥。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2015年01月05日

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