▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『妖精は遊園地にいる 』
山田・ハナ8568

1.
「アテンションプリーズ! このエレベーターはこれから、妖精の国へと降りていくよ。この先、たくさんの不思議なことが皆さんに起きるかもしれないけど、その時はこの妖精の国の案内役『ハナちゃん』が皆様をお守りするから、きちんとついてきてね〜!」
『はーい!』
 子供達の大きな返事に山田(やまだ)ハナはにっこりと笑ってエレベーターの扉を閉めた。
 ここはとある遊園地にある雪の妖精たちが住む国、その国で不思議な体験ができるウォークスルー型のアトラクションの中である。
 片手には剣、ひらひらとしたマントと体にフィットしたファンタジー風の衣装が子供達には大うけである。が、その露出の高さからまじまじと見るお父さんはお母さんから怒られたりもする。
「この妖精の国は‥‥」
 妖精の国についての予備知識、アトラクションについての注意、カメラの使用禁止などを説明してエレベーターは目的の場所へと降り立つ。
「さぁ、妖精の国についたよ!」
 エレベーターが開くと目の前には妖精の国をイメージして飾り付けられた大きな氷柱とたくさんの雪だるまたち。その雪だるまたちが歌い、踊り、訪れた子供とその家族を歓迎してくれる。
「妖精の王様が、皆さんにご挨拶したいんだって。それじゃ、いってみよー!」
 元気にそう言いながらハナが先頭に立って歩いていくと、見え始めたのは大きな白いお城。楽しげな音楽と歌声が聞こえてくる。
「はーい! それじゃ、妖精さんたちの歓迎のレセプション、とくと楽しんでねー!」
 ハナはそう言うと、そっと連れてきたお客の列を離れて一息入れる。とはいえ、見えてしまわないように気をつけながらだ。
 時折、マイクで質問に答えたり、小さな説明を入れながら歓迎のレセプションが終わるとまた列へと戻る。
「さぁ、もう少しで妖精の国の出口だよ。忘れ物はないかな? え? もう少し居たかったって? ごめんね、妖精さんたちはみんな恥ずかしがりなんだ。でも、また来てくれるなら、きっと皆さんを歓迎してくれるはずだよ!」
 外に出た子供たちが、みんな笑顔で出ていく姿をハナは手を振って見送った。


2.
 外に出ればたくさんのアトラクションやお店、美味しい食べ物が待っている。
 子供たちは浮かれ、大人たちはそれを宥めるのに必死だ。けれど、大人たちの顔も笑顔で、浮足立っているのは子供だけではないのだとよくわかる。
「あぁ!? 風船が!」
 買った風船を受け取ろうとして手をつかみ損ね、空へと舞いあがる風船。
 飛んでしまった風船はどんどん空に昇って行き、大人のジャンプですら届く場所ではない。もう見送るしかないのだ。
「トォッ!!」
 掛け声一閃! マントを翻し颯爽と空に飛んだ小柄な影は、あっという間に風船を掴むと地上に降り立った。
「この風船は、キミのかな?」
 風船を持って子供の前にしゃがんだのはハナだった。
「うん! お姉ちゃんありがとう!」
「しっかりつかんでなきゃダメだよ?」
「わかった!」
 子供がぎゅっと風船の紐を持ったのを確認して、ハナはマントを翻して立ち去った。
「カッコいいね、あのお姉ちゃん」
 嬉しそうに笑う子供に、親もつられて微笑んだ。

 園内のあちこちにはゴミ箱がある。
 お客さんの大半はこのゴミ箱にゴミを入れて行ってくれるが、入りきらないゴミもある。園内ではいつでも綺麗に、清潔な状態で遊んでいただくためにクリーンスタッフを常駐している。
 しかし、このクリーンスタッフ。ただ掃除をするだけではない。
 あらゆる場所で掃除をしつつ、掃除をした場所でちょっとした芸を見せて移動しているのだ。
 そんなクリーンスタッフが水たまりの前で立ち止まっていた。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
 剣をほうきに持ち替えたハナはジーッと水たまりを見ている。1人の少女が不思議そうに話しかけたが、ハナはそれでも動かずにジーッと水たまりを見続ける。
「このお姉ちゃん、石になっちゃったの?」
 ハナの周りにはいつの間にかたくさんの子供たちが集まる。するとようやく、ハナは動き出した。
 ロボットのようなカクカクした動きに、子供たちの目が丸くなる。何かが始まるのだと、期待に満ちた目をしている。
 ハナは少しだけ後ろに身を引くと、その場で子供達も少し後ろに下がらせた。
 そうした後、ハナは素早い動きと高い跳躍で大きくその場で空中一回転をした。
 シュタッと着地を決めた後にかっこよいポーズで決めて笑顔で「ありがとう」と言うと、子供たちはハナに惜しみない拍手を贈った。


3.
「どうしたのかな?」
 泣いている女の子を見つけたハナは、しゃがむと女の子を覗き込んだ。
 パレードの時間が近く、人通りは賑やかだ。おそらくは迷子なのだと見当がついた。
「おかっ‥‥さん、と、おとー‥‥さんがいない‥‥のっ」
 しゃくりあげる女の子をにハナは優しく声を掛ける。
「一緒に探してあげる。大丈夫だよ! すぐに見つかるからね」
 励ましながら、ハナは迷子センターへと歩き出そうとした。
 しかし‥‥
「パレード‥‥見たいの! パレード楽しみ‥‥してきたの!」
 ハナの手を引いたまま、女の子は頑として動こうとしない。ハナは困った。
「でも、お父さんとお母さんが心配してるよ?」
「おとーさんも、おかーさんも見るの!」
 ボロボロと涙をこぼす女の子に、ハナは少しだけ考えてから女の子に提案した。
「それじゃあ、おねーさんといいところに行こうか!」

 パレードが始まる。たくさんのキャラクターとダンサーが集まって、長い列を作り、観客も巻き込んで踊る。
「さぁ! 一緒におどろ!!」
 ハナもそのパレードの舞台に立っていた。あの小さな女の子を連れて。
 自走式のちょっとだけ高くなった舞台の上、ライトアップし誰からも注目される舞台の上でハナと女の子は手を繋いで踊る。合間に女の子と一緒にお父さんとお母さんを探しながら、少しずつ動く。
 パレードを見ようとしていた親子なら、何気なくでも見てくれるのではないかと。もちろん迷子センターにもこのことは伝えてあるので、そちらに行ってもらえればすぐにでもこの場所は見つかるだろう。
「あ、おかーさん! おとーさん!」
 女の子が、興奮気味に手を振った。その方向には顔を真っ赤にして探し回っていたお母さんとお父さんの姿。
「よかったね! 見つかったね!」
 ハナは舞台を降りると、お母さんとお父さんの手を引いて女の子のいる舞台へと導く。
「さ、一緒に踊ろう!」
 無事に再会した女の子たちを乗せて、パレードの列はゆっくりと進んでいくのだった‥‥。

「お姉ちゃんは妖精なの? 妖精の国にも、風船もとって、お掃除もしてた。お姉ちゃんは妖精?」
 別れる時、女の子はハナにそう訊いた。
 ハナは驚いた。この子は一体いつから自分を見ていたのだろうか?
 けれど、すぐに笑顔で答えた。
「うん、おねーちゃんは妖精なんだよ。この遊園地でみんなの笑顔を見るのが好きな妖精なんだよ。だから、また会いに来てね!」
 そう言ってにっこりと笑う。すると女の子もにっこりと笑って「そっか!」と頷いた。
 手を振って去っていく女の子たちをハナも手を振って見送る。
 寒くても、暑くても、大変でも‥‥あたし、笑顔を見るのが好きなんだ!
 そうして新たな笑顔のために、ハナはとびっきりのスマイルでマントをなびかせて遊園地の中を駆け回るのだった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2015年01月05日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.