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『往く年、来る年 』
小野友真ja6901


 空気が、キンと冷える。
「今日は、降るやろなー……」
 天気予報でも雪だるまマークがあちこちに。
 買い出しメモを確認し小野友真が街へ出向いたのは、そんな冬のある日。忙しない年の暮れ。


「降りすぎやん」


 両手に幾つもの紙袋を提げて最後の店を出た時には陽は傾き雪が積もっていた。
 『わあ、綺麗やな』と浮かれてテンション上がって30分かそこらが経過して、今ココである。
 大雪には慣れていない大阪育ち。たまに降っては直ぐ溶けて、積もるなんて極稀だから、面食らっている。
「せめて、風よ止みたまえぇええええ! 目ェ開けられへんし! 街中で遭難とか、ないわー」
(早よ、家に帰らな)
 暖かな家。優しい家人。きっと美味しい料理を作ってくれてる。恋しい。
 思考回路が、揺らめく炎を見守るマッチ売り某的な状態へと傾き始める。
 どろり、疲労も相まって、思考が本格的に溶けてくる。
 視界がゆらり、足元ふわり、行きつく先は――




 揺らいだ体を、細い腕が後ろから支えて止めた。
「こんなところで貧血か?」
「……、…………ッ ここは 天国ですか」
「その分なら、問題なさそうだな」
 冷ややかに見下ろす紫の瞳。
 闇の隙間からスルリと出てきたかのように、米倉創平はそこに居た。
 雪の白に、肌の白が際立つ。キャメルのビジネスコートに、革手袋姿。
「ありがとさんです、おらんかったらヤバかったすかね……。一人やないて安心しますねぇ」
 へらり。
 力なく笑う友真を、米倉はまじまじと見遣る。
「少しやり過ごせば、体力も回復するだろう」
 そこでお別れかと思えば、どうやら面倒を見てくれるらしい。ぽん、と頭を撫でられる。
(え)
 大丈夫、といった表情を作っておきながら、友真も内心は不安でドキドキしていて。
 周囲は一気に暗くなり、雪で道も不確かで。凍えて、疲れて。
 暗に、やり過ごすまでの間を共に居てくれるのだと言ってくれたことに酷く安心してしまった。
「そこでいいか。今日は俺が奢る。コーラのホットはないだろうがな」
 鼻で笑い、創平が指した先にはいつか花火を見た公園があった。
(あれ?)
 その公園は街から、こんなに近かっただろうか。
 公園がここに在るなら、家はもう……
 友真は考える、数秒で放棄する。此処に米倉がいるということは、『そういうこと』で片が付く。
 繋がるかどうかはわからないが、恋人へ帰宅困難で遅くなる旨だけをメールで送信。心配は、無用。
「米倉さんは……」
 ホットココアを受け取り、指先がジンワリ暖まるのを感じながら友真は問いかける。
「雪ってどうすか似合います!」
「……似合うか?」
「溶け込んで消えてしまいそうで。楽しい思い出、なんかありますか?」
 アドベンチャー的な物は、聞いたらあかんやつ。
 以前の会話を思い出しながら、友真は違う角度から問いかける。
「楽しい、か……」
 疑問には思わないようで、米倉は追憶に想いを馳せる。
「大雪が降ると近所の子供たちが集まって、かまくらを作って……蜜柑を冷やしたり、中で餅を食べたり」
「米倉さんにも、そんな子供時代が」
「という光景を眺めて塾へ通っていた」
「あったかいおもいでは」
「今思えば、自分も混ざればよかったろうに、とな。時間の工面なんて出来たはずだが、幼い頃には気づかなかった」
「そこまで悟りきったお子さんじゃなくて、よかったんじゃないでしょうか」
 恐らく友真は、友人たちと集まってかまくらを作る側だろう。
 毎日、何が楽しいのかわからない顔で塾へ通うクラスメイトが通りかかったなら……半ば強制的に、輪へ加えたかも知れなかった。
「俺は大阪だったんで、積もること自体めずらしいんですけど。ごく稀に降ったら、ミニ雪だるま作ったり連れにぶん投げたりしたなぁ」
 泥が混じって、残念な出来栄えの雪だるまだったり。
 石を混ぜたのは誰だ流血の雪合戦だったり。
「この調子なら、立派な雪だるまも作れそうだな」
「ですねー……。あ、そうや。丸めながら、コンビニ向かってみません? 肉まん買い食いして、雪遊びでも一つ」
 それは、学生時代にお約束のもの。
 友真は現在進行形、米倉は通り過ぎるどころかスルーしてしまったもの。
 気が付けば、あんなに重かった荷物がどこかに消えていて、それもタイミングというやつだということにして。




 とととと。
 雪が積もり、明るさが半減している道路を子猫たちが横ぎる。
 春に生を受けたのだろうか成長途中といった体格の猫二匹。
「にゃにゃーん」
 腰を落とした友真が、肉まんを小さくちぎって手を差しだした。
 声と匂いにピクリと反応し、子猫たちが振り返る。
「寒ぅて腹減りは、辛いやんなー。逞しいなー」
「経験者は語る、か」
 傘をさし、様子を眺める米倉がからかう。
「毛並みの綺麗な黒ネコちゃん。米倉さんに似てません?」
「……そこまで目つきは悪くないだろう」
「やだ、この人ったら自覚なし……!」
 コンビニで暖を取り、小腹を満たし、雪だるまをコロコロコロ。
(公園があってー、コンビニでー。そしたらきっと、この道を、こう)
 あてどなく歩いているようで、友真には目指す場所があった。

「ここ。今年最後の運試ししましょうか……?」
「俺をここへ誘うとは、勇気があるな?」

 朱塗りの鳥居をしばらく見上げ、米倉は傘を畳むと迂回しながら境内へ。
「この先に、運の必要な何かがあるとも思わないが…… 年の区切りに、面白いかも知れないな」
「でしょー!!」
 その後ろをトコトコついてゆき、友真が御神籤の傍らにある木箱へ料金を入れて。
 レトロな照明の無人神社で、運だめし。

「 凶 」

 引いたのは、友真だった。
 まさか。
 そんな。
 やだ笑えなi
「安心しろ」
 どこに安心材料があるのかと振り向けば、

 ――大凶

「……都市伝説やなかったんですか」
「いっそ幸運アイテムに思えるな」
 文面へ目を走らせる米倉の表情は、どこかしら愉快げだ。

 『末大吉』、どこからかペンをとりだして、友真がそこへ書き足す。
「ヒーローパワー、入れときました!」
 にっ、と歯を見せて笑う。
「他人へ発揮している場合でもないだろうに」
 『末大ヒーロー』
 無駄に達筆に、友真の神籤へと米倉が手を伸ばす。

 遠く、除夜の鐘が響く。
 ……除夜?
 そんな時期だったろうか。
 重く深い響きは、それでも確かに限りある時間の節目を告げていた。

「ヒーローというのがどんなものか、俺にはよくわからないが…… 叶えばいいな」
「今年もありがとでした、来年もよろしく! ……で、いいです、よね?」
「……大学へ、進学はできたのか?」
「あっ、それはもちろ――……」
 問いへ問いが返された。
 応じる途中で、音は全て鐘に塗りつぶされた。




 気が付けば、近所の公園、ベンチの上。
 買い込んだ荷物は、ビニール傘によって雪から守られていた。
「っと、危うく凍死するところやった……。風邪も引いてられへんし!!」
 頭上に降り積もった雪を払って立ち上がる。


 ベンチの傍らには、不格好な雪だるま。
 ふふっと笑って写メを撮り、大事な荷物を胸に抱えて友真は家路を急いだ。




【往く年、来る年 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja6901/ 小野友真 / 男 /19歳/ 祝福のベル】
【jz0092/ 米倉創平 / 男 /35歳/ 鎮魂の鐘】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
すみませ…… ダイスが酷かっ……
お楽しみいただけましたら幸いです。
snowCパーティノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年01月05日

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