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『●表と、裏 』
蛇蝎神 黒龍jb3200

 静かな夜の雪。
 ――ふと、街灯の光が照らされぬ闇から闇へと渡り歩く人影が。
 その影が向かった先は、本日は閉館しましたという立札のある図書館。自動ドアが開き、ほわっとした空気が流れてきて、入る前に頭についた雪を手で叩くと、飛んで消えていった。
 身体に付いた分もはたき落したところで、背の低い、やや小太りの中年が両手を広げ歓迎してくれた。
「寒い中、わざわざこんな遠くまですまないねぇ」
「構いませんわ。それがボクの仕事で、趣味みたいなもんなんやし」
 閉じたような細い目のまま、真意が測りきれないぬるま湯のような笑みを浮かべた蛇蝎神 黒龍。
 本の修繕などを生業としている彼は、久遠以外の貨幣はこうして稼いでいた――と言っても、本人が言った通り、これはほとんど趣味みたいなものである。
 鼻歌混じりに作業をこなしていく黒龍。
 こんな本もあるんやなとか修繕しながら中身をちょっと読んだりしていれば、楽しく作業もはかどり、時間的にも気持ち的にもゆとりがあった。
「少し休憩したらどうだい?」
「やー、楽しゅうてなかなか手が離せんくてなー……ッ」
 黒龍の手が止まり、眉がピクリと動いた。
 薄く開いた片目から龍のような切れ長の紅目が覗き、窓の外を鋭く射抜く。
(俺の客とは、珍しい)
「――お言葉に甘えて、休憩しますわ。暖房が気持ち良すぎて眠ってしまいそうやし、ボク、ちょっと散歩してきますわ」
 そして黒龍はコートも着ずに、雪降る寒い外へと足早に向かうのであった――




●世界の白は何を覆うのか

(ここらへんでええか)
 図書館から少し歩いたところの河川敷で、立ち止まった。
 踏み込むたびにふわふわと舞うほど軽い雪の中、ここまでずっと自分の足あとしかない――が、気配を2つ感じる。それも、1つは覚えのある気配だ。
 まだ姿を見せてはいないが、白狼が彫られた鞘を手に持ち、鯉口を切る。
「……さっさと終わらせて帰りたいのだが。俺は」
 いつもの安穏とした口調ではなく、高圧的で凄みのある口調。。
「――昔馴染との久しぶりのご対面、ゆっくりしようとは思わなんだな。
 もっとも、その程度にまで落ちぶれたお前とは、話す事など無いのも確かだが」
 久しぶりに聞く高慢で、侮蔑、嘲りがまるで隠れていないその言葉に触発されたわけでもないのだが、遠い昔にしまい込んだ心の闇を奥底から掘り起こす。
 身体から黒い霧が溢れ冥府の纏わりつき、開いた両の目は紅く龍のような瞳孔で、その獰猛な眼が後ろを睨み付けた。
 その途端、羽ばたく音。
 知った気配が1つ消え、気配が1つ残る。
 そしてその気配から向けられる、ピリピリと空気を震わせる明確な殺気――背後に舞い落ちる雪が、斜めに寸断された。
 一歩前に踏み込み身を捻り、肘で鞘を突き上げて斬撃を受け止め、鞘に沿わせて軌道を変えさせると刀身を抜き放ち、自らの袖を貫いて気配の主へと、天をも貫かん鋭い突きを浴びせる。
 心を感じない無表情の男は幅の広い剣の腹で切っ先を止め、押されるがままに後ろへと飛び退いた。
「――アレから恩恵を受けた、冷たい骸か」
 もはや転生輪廻から離れてしまったそれに、冷ややかな視線を送る。
 憐みの情など、かけらもない。
 ただ滅するだけの存在――それだけである。
 再び踏み込んでくる男に合わせ、先に激しく踏み込み、地に積もった雪を舞い上がらせながら鋭い突き。雪の弾ける道筋は真っ直ぐ、男の顔へと続いていた。
 少しだけ首を倒し、耳に掠らせながらも切っ先をかわすと、振り上げた剣ではなく腰の位置から拳が最短距離を通って黒龍の脇腹へと突き刺さる。
「ぐ……ッ」
 呻く黒龍が、突きを放ち伸びきった腕を畳んで真下に落し肘を拳の甲へ打ち付ける――が、人のそれと違う硬さに、肘の方が痺れてしまった。
(素手だとこの程度か――俺の力も落ちきったものだ)
 たかだかアレの僕と油断があったのも確かだが、自分の力の低下具合は予想以上だった。
 痺れる腕は満足に振れぬと、刀をヒヒイロカネに戻し、一呼吸遅れて振り下ろされる剣の腹を満足に動く左手で押しのけ右肩を内側に入れて半身になり、刃を通過させる。
 そして懲りずに左の親指で男の目を狙うと、人だった時の習性なのかきっと効くはずもないのに後ろへ飛び退いて男は距離を取った。
(仕込みはこんな所か――これで終わらせる)
 黒龍はすかさず反転し逃げるかのようなそぶりを見せつけると、男は逃げるのがフリだとしても背後から斬りかかるチャンスを逃すはずもなく、踏み込もうとした――が、雪を這ってきた黒い鋼糸が絡みつき、足が開かなかった。
 前のめりに倒れかけ、鋼糸で引き裂かれた足で何とか踏みとどまったが、一瞬だけ顔を下に向けてしまい、黒龍の姿を見失ってしまう。
 その瞬間、真後ろ――つまり男の方へと向かって跳躍するかのように一気に間を詰め横を通り過ぎると、薄く覆っていた黒色の霧が濃い物となり黒龍の姿と一体化。そして霧散してその姿が降りしきる雪の中でも、完全に闇に溶け込んでしまった。
 男が振り返り姿が見えない事を不思議に思ったのか、動きが止まる。
 その隙が、致命的であった。
 激しい衝撃が男の胸を突き抜け、紅い雪が降り注ぐ。
 男が手を伸ばすも襟を掴んだだけで膝を折り、手はするりと抜けおちた。
 雪の上へ倒れた男の胸には大きな穴が穿たれていて、さっきまですり抜けていた雪が男の身体に降り積もるという事は、男がすでに事切れているという事を意味していた。
 過去の清算を1つ運んできた雪はいつか空へと帰るが、男は違う。
 帰る処なく、この世からなかった事にされる存在――それを肯定するかのように、雪は男を覆い尽くす。
 つまりここにはもう、何もない。元・人だったモノへ向けた無慈悲すらも。
 着物がはだけ露わになった自分の刺青に触れると、男を冷たく見下ろしていた紅眼を閉じ、ぬるま湯のような笑みに戻った。
「ここには『何も』なかった――ボクだけが、残った――……」




●今のこれが自分の世界

「おお、戻ったか。そんなカッコで寒かったろ?」
「いやぁ、ボク、身体とか丈夫な方なんで」
 心配そうな顔をする館長へ、笑みを向ける黒龍。そんな黒龍に、温かい缶のカフェオレが投げ渡される。
 冷えた手がじんわりと、温もりを感じていた。
「……おおきにな」
 外を眺める。
 かわらず降り続ける雪は、黒い世界をいつまでも白く染め上げているのであった――



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb3200 / 蛇蝎神 黒龍 / 男 / 24 / 闇を歩く者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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攻撃を頭部に集中し、それから背を見せ行動順を遅らせ、ワイヤーで警戒が薄くなっている脚を狙いランカー、その移動で敵の後ろへ回ると先手で霞影、見失ったところでダメージ底上げした闇討ちというコンボでした。きっとコストは足りてるはず。
前後の落差にガッツリ戦闘、色々楽しめて書けましたので、ご依頼ありがとうございました
snowCパーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年01月07日

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