▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『Amor Vincit Omnia 』
クランクハイト=XIIIka2091)&クリスティーナ=VIka2328

 夜に蠢く気配があった。
 分厚い雲が垂れ下がる新月の夜は瞼の裏より真っ暗い。その暗闇はクランクハイト=XIII(ka2091)の視界に広がる廃村を、いっそう不気味に引き立てていた。
「なんとまぁ、悍ましい」
 言葉とは裏腹に彼の言動はニコヤカだった。視線の先には傾いた廃教会がある。無人ではない。いつか死した時に甦る為に、邪なる存在に生贄を捧げている『邪教徒』達が、あそこにはいる。
 死の概念を主と崇め、全てに死の恩恵が下るよう願い、祈り、尽力する――そう信ずるクランクハイトの思想を逆撫でするそれは、正に邪教。
「ああ、悍ましいな」
 クランクハイトの隣で頷いたのはクリスティーナ=VI(ka2328)。
「お前と二人きりって事にドキドキしっぱなしだ。恋のイタズラってのは、悍ましくも甘く切ないな――」
 嫌に艶かしい物言いで溜息を吐くクリスティーナ。隣の恋人(とクリスティーナが一方的に思っている)へ楽しげに視線を向ける様は、まるでデートに来たかのようで。
「そうですか。私は悪寒がしますので近寄らないで下さい」
「おっ人工呼吸する?」
「顔面剥ぎますよ」
 笑顔で咽笛に貫手を決めるクランクハイト。「ゴへぇ」と噎せる男の声。やれやれと溜息の音。
 そんな調子ではあるものの、二人は『懲罰と救済』を掲げる秘密結社のメンバーである。そしてその教義を以て邪教のアジトを『粛正』するのが、異色ともいえるこの二人に下された任務であった。
 二人の足元には既に見張りの死骸が転がっている。廃教会を見据える『粛正者』達の目は物言わぬ断頭台の如くであった。
「では、作戦通りに」
「怪我するなよ」
「怪我は生きてる証拠ですよ」
 目配せは一瞬。危ない目には遭って欲しくないけれど言って聞く相手でない事は百も承知、故にクリスティーナがそれ以上何か言う事はなく。次の瞬間には、クランクハイトは重厚なライフルを持つと矢の如く駆け出していた。
 正面吶喊。目に付く見張り達に照準を定め片っ端から撃ち抜いてゆく。響く銃声。断末魔の中、『死神』が駆ける。流れる視界のあちこちに映る怪しげな痕跡――何か儀式でも行っているのだろうか。甘ったるい臭いまで漂ってくる。
 その間にも侵入者に気付いた邪教徒達が武器を手に駆けて来る。皆一様に口走るのは、彼等が信ずる邪なる存在への讃美の言葉で。
 クランクハイトは微笑んでいた。銃口を向けながら。
「死を冒涜するなど不愉快ですよ。死になさい」

 銃声。

「さて、俺も頑張るかね。愛しい恋人の為にも」
 闇に紛れたクリスティーナも動き出す。クランクハイトが起こした騒ぎに乗じて確実に制圧するのが彼の役割だ。クランクハイトがやりたいようにやらせてやりたい、そして己はそれを最大限効果的に活かせるように。
「回りくどいアプローチは好きじゃないんだがなぁ」
 だがそれも愛の為、恋人の為。彼の手には薔薇と茨の意匠を凝らした流麗なレイピアが握られていた。回り込んでクランクハイトを挟撃せんとする邪教徒、その背後から音も無く忍び寄り、心臓に一刺し。
「懲罰と救済を……ってね」
 そう呟いたクリスティーナの剣の切っ先は、真っ赤な薔薇の色に滴っていた。





 進めど進めど真っ暗闇。遠くの方から理解不能の言語の讃歌が響いている。甘ったるい臭いは頭痛を催すほどに増していた。
(可笑しい――)
 クランクハイトは襲い掛かってくる邪教徒達を撃ち抜きながら内心で眉を顰めた。随分と進んで建物に入った筈だが、ずっとずっと一本道なのだ。しかも真っ暗闇で、邪教徒も無尽蔵に湧いてくる。頭痛ばかりが増してゆく。
 可笑しい。下調べによるとここはこんな構造では無い筈だ。改造していた? だとしても広さに限度がある筈だ。
 ズキン。ズキン。頭痛が増す。今では一歩の衝撃すら眩暈がするほど痛い。気味の悪い讃歌と胃に障る甘い悪臭。気持ちが悪い。
 ズキン、ズキン、ズキン、ズキン――何度目かの痛む脈動で、「おそらくこれは罠だ」と、気が付いて、

 目が覚めた。

 おそらく、だ。あの甘い香の臭いか不気味な讃歌かどちらが理由かは分からない。幻覚を見せられていた。いつから幻覚に溺れていたのかは不明だ。
 いや、今重要なのはそれではない。
 クランクハイトにとって今重要なのは――敵の罠に嵌められ鹵獲されたという事。
「く、ふ……!」
 衣服を剥ぎ取られ、口枷を填められ、腐血で描かれた魔法陣の真ん中に、掌と足の甲に細い杭を打たれて拘束されている。
 周囲を照らすのは不気味に揺らめく蝋燭の光。浮かび上がるのは邪教の紋様が描かれた布で顔を隠した狂信者達。
 その中の一人がクランクハイトに近寄ってきた。彼の敵意と殺意の視線を向けられながら、司祭らしきその教徒は怖気る様子の欠片も無く、手にした瓶を近づけてくる。口枷に開いた穴より注ぎ込むそれは嫌に生臭い液体で。
「がはッ、」
 咳込み噎せて、けれどドロドロと粘った液体は容赦なくクランクハイトの咽の奥へ流し込まれてゆく。咽の絡む嫌な苦さ。鉄臭さ。何とも形容の出来ない不味さ。
 多数の人間のあらゆる体液を混ぜたそれは、邪教徒の間では『魂の欠片が詰まったモノ』として『生命のスープ』の名で崇められている――そんな事前情報を思い出しては、クランクハイトは猛烈に抵抗せんと試みた。だがもがけばもがくほど、杭に貫かれた両手足の傷口がぐちゃぐちゃと血を撒き散らして広がるのみ。
 クランクハイトは触れられる事を極端に嫌う。なのに、不特定多数の人間の体液を無理矢理に飲まされるのは、身体の内部から触れられ犯され穢されているようなものだ。
 気味が悪い。気持ちが悪い。溺れる様な噎せる声と、邪なる賛美歌と。クランクハイトの顔に最早笑みは無い。怒り狂ったケダモノの如く。
 大量の『生命のスープ』がクランクハイトの体内に注がれ終えた時には、彼の手足の傷は生々しいほどに広がっていた。鋭い痛みが響いている。
 掠れた息を吐く彼の周囲には邪教徒達が集まっていた。その手には悉く細く薄いナイフ。生贄を、邪なる為に捧げる為の道具。
 邪神を祝う声を聞こえた。
 瞬間、鳥葬の如く振り下ろされるのは、幾つもの刃。
 皮膚に突き立てられ切り裂かれる。急所は態と外されている。声にならぬ悲鳴が響く。対するは喝采の声。振り上げられる血濡れた刃。何度でも振り下ろされる狂った刃。

 ――刹那だった。
 そこにクランクハイトのものとは別の血が散ったのは。

 空間に動揺が走る。邪教徒達が振り返るそこには、
「白馬の王子様、参上」
 不敵に笑うクリスティーナ。いつもの様な笑みだけれど、その目の奥に宿る光は猛獣の如く抑えようともしない殺気にギラついていた。
 咽を貫かれ絶命した邪教徒を蹴り飛ばし、集団にぶつけた所で、踏み込み一閃。流れる軌跡は羽の様に軽い、けれど悪魔の如く無慈悲。教徒達から赤い飛沫が立ち上った。首から。何人も。一方的な蹂躙。
「生きてるな……良かった」
 赤いシャワーを浴びながらクリスティーナがクランクハイトの傍に屈みこんだ。その額を撫で、それから「痛むだろうが我慢しろよ」と手足の杭を手早く引き抜いてやる。
 噎せる神父は起き上がりながら自由になった手で口枷を取った。と、その身体にかけられるのはクリスティーナのシャツだった。大柄で筋肉質な彼の衣服は、丁度細身のクランクハイトを覆えてしまう。
「彼シャツって奴だな。似合ってるぞ、エロい」
「……このクズ」
 視線をそらした神父がいつもの笑みを浮かべながらも容赦なく毒を吐く。そのまま死した邪教徒の手から先ほどのナイフを取り上げると、彼方に向かって投げ付けた。クリスティーナの耳元を掠めたそれは、後方から新たに現れた敵の眉間に突き刺さる。
 いたぞ、殺せ、そんな声が四方八方から聞こえてきた。残りの邪教徒達が、二人を囲む。
「俺の愛しい恋人に手ぇ出しやがったのはてめぇらか?」
「誰が恋人ですか」
 立ち上がって剣の切っ先を向けたクリスティーナ、蹌踉めきながらも集めたナイフを手に構えるクランクハイト。『恋人達』は『死神』に横目で視線をやった。
「クランクハイト、戦えるか?」
「私を誰だと?」
「俺の恋人」
「殺しますよ」
「本望さ!」
「ふざけている場合ですか。……来ますよ」





 夜明けの頃には血の海だった。
 邪教徒の根城だった廃教会はすっかり静まり返り、生きているのはクランクハイトとクリスティーナだけ。残るは全て死体である。
「愛の勝利だな」
 息を整えたクリスティーナが、傍らで倒れているクランクハイトへ目をやった。血を失い陵辱を受け、心身共に疲れ切ったクランクハイトは返事をするのも億劫で、無言のまま。
 そんな恋人(仲間)にクリスティーナは愛おしげに微笑むと、徐に彼を抱えて立ち上がった。お姫様抱っこ、である。
「早く帰ってシャワーでも浴びようぜ、血じゃない奴を」
 何分二人は返り血塗れ、クランクハイトに至っては布一枚。抱き上げられた事に対し神父は何か言おうとしたが、クシャミの所為で掻き消えてしまった。
「なぁ」と、歩き始めたクリスティーナが口を開く。
「帰ったらご褒美のキスをおくれよ、お姫様」
 王子様にはお姫様のキスが必要だ。『白馬の王子様』は笑う。その横っ面を、クランクハイトは割と思い切り引っ叩いた。
「大人しく貴方に運ばれてあげてるのがご褒美ですよ」
 などと言いながらも、笑みを浮かべたクランクハイトは身体を仲間に深く預け、一段落の息を吐くのであった。
「ふふ」
 そんなクランクハイトを、怪我をして己を頼る彼を見るのを、クリスティーナは実のところ嫌いではないのである


『了』



━━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━

>登場人物一覧
クランクハイト=XIII(ka2091)
クリスティーナ=VI(ka2328)
snowCパーティノベル -
ガンマ クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年01月13日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.