▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『聖夜における理不尽の法則 』
小野坂源太郎(gb6063)
 ──世の中は、理不尽である。

 例えばイベントは、当日よりも前日までが盛り上がる。
 クリスマスイブの盛り上がりが尋常ではなくなったのは、何時の頃からだろう。
 街にはカップルや家族連れが繰り出し、
 この時ばかりとプレゼントを交換し、チキンやケーキに群がる。
 それはバグアとの戦争が始まる少し前から始まった風習であったが、
 30年にも渡る戦争で物がない今、更にエスカレートしているようであった。

 そんなクリスマスの雰囲気で賑わう街をサンタ達が走っていた。
 先頭は、二人の大柄のサンタである。
 スポーツマンのように躍動する筋肉が、分厚いサンタコスチュームを通しても見て
 判る大男達に不思議そうな視線を投げていた。

「ぶっ殺されたくなきゃ退きやがれぇ!」
 サンタと言う平和的シンボルよりも赤鬼という言葉が似合う言動である。
 最前を走るサンタは、弁当屋の旗を片手で掴むと人々に向って物凄い勢いで投げ
 つけた。
 アスファルトに槍のように突き刺さったクラスファイバーの旗が、
 ビン! と音を立てる。
 漸く軒並みならぬことが起きているのだと気が着いた人々が、
 悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 その様子に先頭を走るサンタが、笑う。
 ──だが、こうとも思った。
 世の中、誰もが自分では思い通りにならない理不尽な事ばかり起こる。
 その中でも一番理不尽な目にあっているのは、自分であろうと。

 計画では、今頃は女を抱き、酒でも飲んでいた筈である。
 それが色気の欠片もない傭兵らに追い掛け回されている。
 他人から見れば滑稽に見えるだろうが、追われている自分にとってはたまったもの
 ではない。

 幼い頃から「力こそ正義」と心に決め、暴力と共に生きてきた男であった。
 本能が「まともにやりあうのは、不味い」と告げていた。
 少しでも優位に戦える場所を求めて、男はここまで走ってきたのであった──。


 ──二番目を走るサンタもまた、世の中は理不尽だと思っていた。
 男の名を「小野坂源太郎(gb6063)」という。
 ラストホープの傭兵。能力者である。

 源太郎は、仲間と協力して凶悪な連続強盗殺人犯を追っていた。
 犯人は、源太郎と同じ能力者であった。

 覚醒状況のベテラン能力者であれば生身の身体でワームと対峙する事が出来るモンスター級のパワーを持つ。その日、SESを着けたばかりのひよこ能力者の小学生でもアスリート級の能力を持つことが出来るのだ。
 能力者を止めることが出来るのは、能力者しかいないのである。

 その能力者(犯人)の手口は、残忍であった。
 金品を奪い、被害者全員を嬲り殺しにした後、放火する。
 時には、被害者らを生きたまま放火現場に放置して焼き殺すという事もあった。

 犯人のせいで楽しいクリスマスを前に理不尽な死を遂げなければいけなかった被害者らの無念を想い、犯人に激しい憤りを感じ、犯人を捕らえるにした源太郎ら傭兵達だった。

 ──幾日が過ぎたクリスマスの日。
 目立たぬようサンタの格好で張り込みをしていた源太郎らの目の前に、ついに犯人が現れたのだった。

 源太郎らは協力して犯人を一般人から遠ざけて戦える場所へと追い立てている最中であった──。


 ***


「観念しろ。もう逃げ場はないぞ」
 仲間と協力し、大きなビルに挟まれた袋小路に男を追い込んだ源太郎。
 超人的な能力を持つ能力者とて覚醒しても、足場がないビルの壁面を駆け上る等には限度がある。
 戦う場所としては、最高だろう。
「貴様は、能力者が犯してならない一線を越えた。とはいえお上とて情けがある。
 大人しくお縄につけ」
「はっ! 時代劇かよ。超ウケるぜ」
 そう話しかけながらジリジリと間合いを詰める源太郎らと、
 逆に間合いを詰められまいとジリジリと下がる男。

「クリスマスだっていうのにマジ、俺はついていないぜ」
 神でも悪魔でも良い。
 そんな都合の良い存在がいるならば、この危機的状況を聖夜の奇跡で
 解消して欲しいと男は思った。
「俺を止められるもんなら、止めて見せやがれ!!」
 男が覚醒するの見た源太郎らも、逃がすまいとすぐさま覚醒した。

 源太郎の全身の筋肉が大きく盛り上がり、その身体が大きく巨大化していく。
 一回りも二回りも大きくなる。
 身体の膨張に服が耐え切れず弾け飛び、ぶ厚い装甲のような筋肉をさらけ出す。

 そして、
 神(悪魔)の気まぐれか、それともバグアの陰謀か。
 それは起こったのであった。


 ***


 いつもと違う覚醒に驚いたのは、男自身であった。
 見る見ると男の筋肉が肥大化し、身体自身が巨大化する。
 膨張に耐え切れなくなった男の服が、ビリビリと裂けていく。
 そう、源太郎の覚醒そっくりの肉体の変化だった。
「おおおっ?! 体中に力が漲っていくぜ」
 傭兵らを見下ろす程巨大化した男が、腕を振り回す。
 斬りかかって来た傭兵を腕を軽く一旋させただけで壁に叩き付けた。
「悪くねぇ」
 にやりと笑い全身の力を込める男。
「不味い! 何かするつもりだぞ」
「皆一斉に掛かれ!!」
「応っ!!」

「おおおおおおおーーーーーーーーっ!!!!」
 飛び掛ってきた源太郎らを叫び声と共に弾き飛ばす男。
 地面に叩きつけられた源太郎の一瞬意識が吹っ飛んだ。

 慌てて頭を振り立ち上がる源太郎の真後ろで轟音が鳴り響いた。
 振り向くと男の身体は、更に巨大化していた。
「うはははっ。超ウケるぜ。こんだけ大きければもう怖いものなしだぜ」
 男は、倒れている傭兵を蹴り上げ、掛かってくる傭兵を掴んで地面に叩きつける。
「腕や足よりも遠く。距離を保つんだ!」
 男はビルの壁を壊した破片を投げつけ攻撃をしてきた。
「ここは、ワシに任せろ!」
 超巨大化した男に対応できるのは、自在に身体を巨大化できる源太郎ぐらいであろう。
 源太郎も身体を更に大きく巨大化させようとしたが、
 男に能力を盗まれたかのよう身体に変化は起こらなかった。
「これは、どうしたことだ?」

「おら、どうした。爺、隙だらけだぜ!」
 男の巨大な張り手に吹っ飛ぶ源太郎。
 叩きつけられた壁が、大きく衝撃でえぐれる。
 コンクリート片に埋もれる源太郎の頭を掴んで立ち上がらせる男。
「さっき俺をビビらせてくれたお礼だぜ」
 源太郎を上に放り上げ、落ちてくるところを殴りつける男。
「ぐはぁっ!」
 身体を折り曲げ、大量の血を吐き出す源太郎。
 手助けしたくとも巨人同士の戦いに手を出せない傭兵達が悲痛な声援を送る。
「小野坂さん!」
「負けるな。爺!」

「ぎゃはははっ! 爺を片付けたら手前ら全員血祭りだ」
 男は残酷に笑うと、源太郎の顔面をサンドバッグかのように殴りつけた。


 ***


 カーン、カーン──
 どこか遠くで午前0時を告げる鐘の音が響いた。

「おぁ?!」
 神の奇跡か、悪魔の悪戯か。それとも単なるタイムリミットか。
 勝ち誇っていた男の身体が、魔法が解けるように突然しぼみ始め、逆に源太郎の身体が巨大化し始めた。
 源太郎に能力が、戻ったのであった。

 口に着いた血を手の甲で拭い、立ち上がった源太郎。
「第2ラウンド開始だな」
 好き勝手にされた仲間の分も纏めてカリは返してやると、指を鳴らし凄みのある笑みを浮かべる源太郎。
「けっ、身体のサイズは五分だ。負けるかよ」

 喧嘩でも殺し合いでも最終的にものをいうのは、当人の気合である。
 第二次世界大戦を幼少ながらも体験し、現在進行形でバグアと戦う源太郎である。
 根性の入り方は、そこらの小僧に負けるつもりはなかった。

 突進してきた男を正面からがっちりと両手で受け止める源太郎。
 ふん! と鼻で息を出しながら男の腰を抱え込み、そのまま後方へと投げ飛ばす。
 したたかに頭を打ちつけ脳震盪を起こしてふらつく男の脇腹と鳩尾に源太郎の拳が続けて突き刺さる。
「ぐああああっ!」
 身体を追って胃液を吐き出す男。
「痛かろう。苦しかろう。
 だが貴様に殺された者達は、もっと痛かったし苦しかったはずだぞ。
 その身を以って、反省するがいい!」
 源太郎の拳が、男の顎に炸裂した。
 男はビルの壁に叩きつけられ、気を失った。


 ***


 気絶した男を拘束した護送車が走り去っていく横で、
「やれやれ、酷い目に合った」
 サイエンティストから処置を受けている源太郎。
 能力者であれば小さな傷や怪我は、覚醒による体細胞の活性化によって直るが、
 それ以上には専門家の手当てが必要だった。

「気をつけたつもりだったんだがな」
 壁に開いたいくつもの大穴をUPCの調査官が、数えていくのを見ながら溜息を吐く源太郎。
「犯人が壁を壊した分もカウントされるのか」
「まあ、支払い能力がありそうな人じゃありませんでしたからね」

 基本的に能力者の戦闘に伴う費用は、UPCが全額負担してくれている。
 だが周囲に注意を怠り一般への被害を拡大させたり、
 犯人に対する行き過ぎた暴行などに対し、
 代行拒否や損害請求が傭兵達には課せられている。

「貴方の場合、どうしても巨人と化すると死角となる部分が大きくなりますからね。
 一瞬注意を怠っただけで他の能力者よりも一般への被害は、ある程度大きくなるのはしょうがないでしょう」

 顔馴染みなった調査官から被害額の見積もりを聞いてがっくりする源太郎。
「人を踏まなかった分だけ良しとするべきか……」
 今回の事件で自らの覚醒能力が非常に危険である事に改めて認識した源太郎は、
 覚醒は正しきことに使用する事を改めて心に誓うのであった。






<了>



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【gb6063 / 小野坂源太郎 / 男 / 外見年齢:73歳 / 能力者】
snowCパーティノベル -
有天 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2015年01月15日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.