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『金の満月、銀の猫 』
真野 縁ja3294

 クリスマスが近い、12月のある日。
 真野 縁はこたつで毛糸と格闘していた。
「うに……やっとできた……かな?」
 彼女が手にしているのは鉛丹色をした手編みのマフラー。暖かそうな色をしたそれは、所々よれよれなっているものの、ちゃんと形になっている。
「後はこれを付けたら完成なんだね!」
 マフラーの端に、金の満月と銀猫を模したチャームを取り付ける。仕上がったマフラーを眺め、縁は満足そうにうなずく。
 大好きな相手のことを想い、ひと目ずつ編み込んでいった。何度も何度も間違えてはやり直したせいで、たくさん時間がかかってしまったけれど。その分気持ちも、めいっぱい詰まっているはずだ。
「ミスターに渡したいんだよ……」
 今頃どこかを飛び回っているであろう悪魔に、想いを馳せる。
 大好きで、とても大切な相手。
「でもやっぱり無理かな……」
 どこにいるのかさえ、わからないのだ。縁は出来上がったばかりのマフラーをぎゅっと抱き締め。
 渡せたら、喜んでくれるだろうか。あのいつもの微笑みをみせてくれるのだろうか。
 そう考えるだけで幸せになれると同時に、ほんの少し切ない気持ちにもなる。
 マフラーを抱き締めたまま、彼と共にした時間を一つ一つ思い出してみる。
 そうしているうちにうとうとし始め、いつの間にか彼女はまどろんでいた。



 気が付くと、縁は見知らぬ場所に立っていた。
「ここは……?」
 きょろきょろと辺りを見渡すと、どこからかクリスマスソングが聞こえてくる。
 煉瓦色の石畳が続く通りには、イルミネーションで彩られた街路樹が立ち並び。歩いているだけでも楽しい気分になれそうで、縁は浮き足だった足取りで歩みを進める。
 緩やかに昇っていく道の先。
 誰かが立っているのに気付いた彼女は、一瞬立ち止まってしまう。

「あれは――」

 そう口にするより早く、駆け出していた。
 もしかして。
 もしかして。
 向かう先で、道化師姿をした少年が微笑んでいる。
「みすたあああああ!」
 全力ダッシュで駆け寄り、思いっきりハグをする。
「会いたかったんだよ……!」
 相手の存在を確かめるように、縁はしばらくそのままじっとしていた。やがて、腕の中でもごもごとした声が聞こえてくる。
「……ない…で…ゆ……せんか」
「わっごめんなんだよ!」
 ぎゅうぎゅうしすぎたことに気付いた縁は、慌てて身体を離す。
 ようやく喋れるようになったクラウンは、縁に向き直るといつもの通りの微笑を咲かせ。
「久しぶりですね、エニシ」
「うにうに、会えて嬉しいんだよミスター! 元気だった?」
「ええ。あなたも変わりないようですね」
 こうやって会話を交わすだけで、胸がいっぱいになってしまう。話したいことが多すぎて、縁は何から切り出したらいいのかわからず軽くしどろもどろ。
 そんな彼女を見て、クラウンはおかしそうに瞳を細めながら。
「大丈夫ですよ。私はそんなにすぐに消えたりはしません」
「本当? じゃあしばらく一緒にいられるのかなー……?」
「ええ。今宵は人の子の世界で言う『クリスマス』とやらなのでしょう?」
 不安そうな瞳に向け、くすりと口元をほころばせる。
「共に楽しもうじゃありませんか」
 その瞬間、縁の顔がぱあっと明るくなる。
「うん、一緒に楽しもうなんだよー! 縁が色んなところに案内してあげるんだね!」

 二人はイルミネーションに彩られた街並みを、のんびりと歩き回っていた。
 中華料理店の前でほかほかと湯気が出ているのを見かけ、クラウンは立ち止まる。
「おやこれは何ですか」
「肉まんっていうんだよー! 寒い日にはぴったりなんだね!」
 縁はそう言って肉まんを一つ購入すると、半分にわけっこする。
「はい、ミスター!」
 受け取ったクラウンはすぐには食べず、縁が頬張るのをじっと見つめている。
「やっぱり冬はこれなんだね! ……うや? ミスターは食べないのかな?」
「いえ。熱そうだなと思いまして」
 猫舌故に、冷めるのを待っていると言うわけである。クラウンの手元から温かな湯気が、夜空にゆっくりと昇ってゆく。
「――それに」
 猫のような瞳が一度瞬いて縁を捉える。
「あなたが、あまりに美味しそうに食べているものですから」
 そう言って微笑まれたら、もう何も言えない。
 縁が顔を赤くしながら食べる横で、クラウンはちらつき始めた雪にゆっくりと瞳を細めていた。
 お腹を満たした後は、古い駅を使用した今話題の3Dマッピングを鑑賞。
 真っ暗な建物に映し出される立体映像に、二人は釘付け。駅の表面に次々に現れる蝶や魚がまるで生きているかのように舞い踊る。
「ふおお、綺麗なんだね…光の洪水なんだよー……」
「ええ、そうですね」
 じっと見ていると、いつの間にか光の結晶に包まれてしまった錯覚を覚える。夢見心地の浮遊感と、幻想的な極彩色と。
 ゆらゆらと揺れ動く華やかな映像に、しばらくの間魅入るのだった。
 
 楽しい時間は、瞬く間に過ぎていくもの。
 宵も深まってきたころ、二人は移動遊園地のベンチに座って話をしていた。
「ね、ミスターはどんな所を見て回ってるのかな?」
「そうですね、今は古い遺跡を巡っています。なかなか興味深いことが多いですよ」
「うにうに、そうなんだね! ミスターが幸せなら縁も嬉しいんだよ!」
 悪魔である彼は、きっと自分とはまた違った楽しみ方をしているのだろう。縁はそんなことをぽわぽわと考えながら、ふと思い出したようにバッグからあるものを取り出す。
「忘れるところだったんだね!」
 手にしているのは一生懸命編み上げた、鉛丹色のマフラー。クラウンの首に巻いてあげると、冷たくなった彼の頬を手で温めながら。
「にひ、クリスマスプレゼントなんだよー!」
 対するクラウンは、マフラーの端に取り付けられた満月と銀猫のチャームをじっと見つめている。
「私の故郷に、クリスマスというものはありませんが――」
 そう言って縁の方を振り向くと、夜を映したような瞳を緩やかに細める。
「こういうのも悪くありませんね。礼を言いましょう」
「うに! 喜んでもらえたなら嬉しいんだよー!」
 マフラーを巻いたクラウンはベンチから立ち上がると、数歩先へと進む。そしてくるりと振り返ると、口端に弧を深く刻み。
「ふふ……私からはこれを差し上げます」
 大きく袖を振った瞬間、光の中でフラワーシャワーが舞い上がる。
「ふわわ、綺麗なんだよー……!」
 降ってくる花びらは、よく見ると一枚一枚が雪の結晶を纏っている。光を浴びてきらきらと輝くさまがとても綺麗で、縁は思わず見とれてしまう。
「では、行きましょうか」
「うやや!?」
 いつの間にか青年姿へと変身していたクラウンは、縁を抱え上げるとそのまま飛翔する。
「少し飛ばしますよ」
 慌てて縁がしがみつくと、クラウンは空へ向かって一気に上昇を始める。冷たい大気が頬をかすめ、分厚い雪雲を勢いよく抜けた瞬間。縁の瞳には、大きくて丸い月が映り込んだ。
「今夜は満月だったんだねー……!」
 雲に遮られていたせいで、気付かなかった。充ち満ちた月光が二人を淡く照らしている。
 穏やかに輝く月に瞳を細めながら、縁は呟く。
「ミスター……月が綺麗なんだね」
 溢れそうなほどの、大好きな想い。
 ただ、ただ、彼の幸せを願う翡翠色の瞳から、つい涙がこぼれ落ちそうになる。
「ええ、美しいですね」
 クラウンはそう言っていつものように優美な微笑を浮かべると、しばらくの間満月を見つめ。
 やがて月夜に溶かし込むような響きで、告げた。

「あなたに聖夜の祝福を、エニシ」



 目覚めると、そこはいつもの日常。
「朝……なんだねー…?」
 縁はぼんやりとしつつ、身体を起こす。どうやら昨夜はいつの間にかコタツで寝入ってしまったようだ。ふと、辺りを見渡し。
「うやや……?」
 昨日編み上げたばかりのマフラーがなくなっている。確かにあったはずなのに、どこを探してみても見あたらない。
 仕方がないので、とりあえず顔を洗いに洗面所へ向かう。鏡を見た彼女は髪に何かがくっついているのに気付き、手に取ってみる。
「これ……」
 淡くきらめく、一夜の夢。
 それは満月色をした、花びらだった。

 
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/贈り物】

【ja3294/真野 縁/女/12/マフラー】

参加NPC

【jz0145/マッド・ザ・クラウン/男/5/月夜の夢】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、久生です。
この度は発注ありがとうざいました!そしてお待たせして申し訳ありませんでした…!
とってもかわいらしい内容で、私もほっこりさせていただきました。
楽しんでいただければ幸いです。
snowCパーティノベル -
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年01月16日

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