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『家族のかたち 』
ウルシュテッド(ib5445)&ニノン(ia9578)


 街から少し離れた平原に雪を巻き上げ龍が降り立つ。その背より降りたウルシュテッドとニノンは腰の高さほどある雪を掻き分け街道へと出た。
 ジルベリアはこの時期、どこもかしこも雪に閉ざされ国が白一色に染まる。この街道もニノン曰く、街へと到る比較的大きな道らしいが雪に覆われ平原との区別がつかない。
「雪が降ってなくて何よりじゃ。さて街はどうなっていることかのう……」
 ニノンは雪の照り返しに眩しそうに目を眇め、十年振りとなる故郷を見やる。
「よもやこのような形で帰ってくるとはのう」
 想像もしておらなんだ、とウルシュテッドに向ける悪戯を思いついた子供のような表情。
「俺の家族も似たような事を言っていたよ」
 その視線を受けてウルシュテッドは溜息を吐く。彼の脳裏に浮かぶのは、この街へ来る前に寄ったウルシュテッドの故郷での出来事……。
「予想以上の大騒ぎだったな……」
 ウルシュテッドとニノンは子供達と共に新年を迎えた後、それぞれの家族に夫婦となったことを伝えるために互いの故郷であるジルベリアへと旅立った。
 最初に向かったのはウルシュテッドの実家、シュスト家。新年を迎えての親族会に二人は顔を出した。
 兄や家族に何度問われても「結婚はしない」と頑なだった末っ子の方針転換に皆静まり返る。そして次の瞬間歓声と共に二人は取り囲まれた。
 皆、ウルシュテッドの伴侶となったニノンに興味津々といった様子である。
 ニノンへの視線は概ね好意的だ。だが中には「シュストの嫁として相応しいか」などと値踏みする視線もあることにウルシュテッドは気付いていた。
 しかし「甘いものはお好き?」から始まった一族の女達の質問攻めにそのような事気にする余裕は無くなってしまう。
 女達は此処の農園で取れた果実のタルトはいかがだとか、葡萄酒はどうとか、あれこれニノンに勧めながら「どこで知り合ったの?」「プロポーズはどちらから?」と他の者が付け入る隙がない勢いで二人に迫る。その勢いたるや思わずウルシュテッドがシュスト家当主の兄と顔を見合わせ苦笑いを零したほどだ。
 時折兄が「長旅で疲れているだろうし、あまり無理をさせてやるな」とやんわり割って入ってはくれるがそれで静かになるのは一瞬、結局二人を囲む輪は直ぐに賑やかさを取り戻す。
 盛り上がる一同に抜け出すタイミングが掴めない。そのような時「そろそろ二人を解放してはくれないか。新婚の弟が嫁と二人の時間を過ごせないと拗ねたら困るからね」と兄からの助け舟。二人はありがたくその船に乗り込み、優雅な礼と共にその場を辞すことができたのだ。
「まあ、随分気に入られたようで一安心だけどさ……」
「わしもそなたの親族や故郷の人々が気に入ったぞ」
 料理も美味しかったしのう、とニノンが腹を摩ってみせるとウルシュテッドが笑う。
 ニノンには密かに気掛かりがあった。果たして自分は彼の妻として一族や領民に歓迎されるか否か……。
 ウルシュテッドのシュスト家は爵位を持つ貴族で、ニノンのサジュマン家は平民だ。しかも商いに失敗し落ちぶれた……。
 自身が後ろ指をさされるのは「だからどうした」で済む。しかし自分のせいで領地や親族内での夫の立場が悪くなるのは本意ではない。
 だから今回の訪問で、分け隔てる様子というか遠慮の無いシュスト家の人々に安堵したのだ。質問攻めは中々に大変であったが。遠巻きにこそこそされるよりずっと良い。
 かといってその気掛かりが無くなったかといえばそうでもない。やはりまだ心の中には残っている。
「それは嬉しいな」
 応えるウルシュテッドも直接聞いたわけではないが結婚前からニノンが身分差を気にしている事を感じてはいた。
 当然だがウルシュテッド自身、身分など気にならないし兄を始めとする家族もそうであろう。厳しい土地に暮らすシュストの民はその身を飾るものよりも、その中身を見る傾向にある。
 それに帰り際渡された子供達への土産の多さだって「また来い」と言っているようなものだ。その土産も何を持たせたら喜んでくれるかと、ニノンを質問攻めにしていた女達が心を込めて選んでくれたのである。彼女にとってこのシュストの地が素敵な思い出になるように、また来たいと思ってくれるように。
 確かにウルシュテッドとニノンが育ってきた環境は違う。それに今回初対面だ。気にするな、と言ったところでいきなりその通りにはできないだろう。
 こういうことには実感が伴う必要がある。そしてその実感は言葉ではなくこれからの積み重ねによって生まれてくるものだろう。
「今度は収穫祭の時にでも行ってみるかい? 沢山屋台が並ぶし、街全体が祭り会場のようになる」
「武芸の大会もあると聞いた。盛り上がりそうじゃのう。楽しみじゃ」
 そのための橋渡しも自身の役目である。
 尤も仲良くなったらなったでニノンという強力な味方を得た女性陣の破壊力が増すような気がしなくもないのだが……。
 ウルシュテッドは気付かれないようそっと額を押さえた。

 辿り着いた故郷、通りに立ちニノンは周囲を見渡す。冬の貴重な晴れ間だというのに人通りが少ない。
 建物と建物の間に物悲しくこだまする子供達の遊ぶ声。
 古びた建物、鎧戸を締めたままの店、おざなりな雪かき、ニノンの記憶にあるよりも街は活気を失っている。繁栄する帝都近辺と比べこの土地は時の流れから取り残されてしまったかのようだ。
 商いが失敗し一族が離散した後、既に屋敷や土地は人手に渡り、この街に残っているものといえば祖母が眠る墓くらい。その墓もきっと……。
「この様子ではさぞ荒れているじゃろう……な」
 無意識にウルシュテッドに寄り添う。そっと握られる手。その温かさにニノンは顔を上げた。
「折角の男手じゃ。墓掃除を手伝ってもらおうかのう」
「もちろん喜んでやらせてもらうとするよ」
 ニノンの祖母が眠る墓地へ向かう途中、とある三叉路でウルシュテッドは足を止める。
 三角州に立つ建物、通りから数段上がった先にある扉に嵌められたステンドグラス……。
(ここは……)
 振り返る、此処からでは見えないがこの道を真っ直ぐ行ったところに古くて大きな屋敷があったはずだ。あの時はもっと雪が深かったが……。
(そうだ、俺はこの街を訪れたことがある)
 成人したかしないかの頃、軍役で。
「どうかしたのか?」
「此処が君の暮らしていた街なのか、と……」
 思わぬところで交差した自分とニノンの時間。この街に着いてずっと感じていた既視感の正体に納得した。
 北の外れにある共同墓地も雪に埋もれている。だがニノンの祖母の墓は直ぐにみつけることができた。
 何故なら墓までの道が綺麗に雪かきされていたからだ。しかも墓石が苔生したり罅割れている様子もない。
「どういうことじゃ……?」
「ニノンちゃん?」
 顔を見合わせる二人に背後からの声。
「なんと……」
 振り向いたニノンが目を丸くする。声の主は古い知己のギルモア夫人だった。
 墓は昔サジュマン家に世話になった恩返しにと、ギルモア夫人が掃除など手入れをしてくれていたらしい。
 挨拶を交わし互いに近況を報告した後「おばあ様と積もる話もあるでしょう」と去ろうとする夫人をニノンが呼び止めた。厚かましいお願いだとは思うのだが、と前置きをして。
「なかなか帰れぬのでおばば様の事よろしく頼むのじゃ」
 と頭を下げる。「勿論ですよ」と笑顔で承知してくれたギルモア夫人を見送り、改めて墓を前に立つ二人。
 目を閉じ静かに祈りを奉げる。ニノンの脳裏に当時が蘇った。それは決して楽しい記憶ではない……だが。
「おばば様、わしの夫じゃ」
 ニノンはウルシュテッド腕を引く。
「……男前じゃろう?」
 心持顎を上げ反らす胸。紹介されたウルシュテッドは実際目の前にニノンの祖母がいるかのように丁寧に頭を下げ名乗りを上げる。
「おばば様、俺もそう呼ばせて貰おうかな……」
 空けた間はおばば様の返事の分。
「ニノンは俺や子供達と真っ直ぐ向き合い愛してくれる。感謝してもしきれない」
 一度互いに視線を合わせてからウルシュテッドは祖母へと顔を向ける。
「毎日賑やかで充実してますよ……」
 祖母の手を取るように墓石に触れる手。
「だから、大丈夫」
「そうじゃ、心配は無用」
 ニノンもウルシュテッドの手に自身の手を重ねた。
「あの頃おばば様が居てくれたように今は家族が居る」
 此処での記憶はお世辞にも楽しいものとはいえない。泣き止まぬ子を抱え空腹を慰めた日、皸だらけの手……だが今ならば言える。祖母達と暮らしたあの形もまた自分にとって「家族」だった、と。
 あの広いばかりの古い家はきっと自分の帰る場所であったのだ。そう思えるのは……。
「そなた達のお陰じゃな……」
 ウルシュテッドを見つめる双眸が優しく細められた。
「そういえば子供も四人居るのじゃ」
 子供達は皆とても可愛くて良い子じゃぞ、と子等のことも話す。
(不思議なものじゃ)
 そっと目を伏せるニノン。
 自分達が家族になってからさほど時間は過ぎていない。だというのに話しているともう何年も一緒に暮らしているように思えるのだ。そうまるで昔からの家族のように。
 きっと毎日飽きることのない賑やかさや忙しさ、その密度が自分にそう思わせてくれるのだろう。
(あの突然の求婚からこんな場所に着地するとは……のう)
 あの時の自分に教えたらどれほど驚くことか。
(おばば様、これからは夫の、子等のいる場所がわしの帰る家じゃ……)
 この季節には珍しい穏やかな風がニノンの頬を撫で通り過ぎていく。風の行く先を辿るように空を見た。
 目に沁みるほどの青空だ。

 二人は平原に待たせている龍の元へと戻る。次に向かうのはジルベリアの帝都ジェレゾ。
 ジェレゾにはニノンの両親とウルシュテッドの実母の墓があり、家督を長女に譲ったウルシュテッドの実父が暮らしている。
 ニノンの両親は出稼ぎにきた帝都にて、流行病に倒れ祖母と前後して帰らぬ人となったらしい。当然ながら遺体を故郷に運ぶことはできず帝都に埋葬された。
 ウルシュテッドの実父は生前妻が生きがいとしていた喫茶店を継いだ次兄夫婦とその店で暮らしている。
「どのような店であろうか」
「そう大きくは無いがとても居心地の良い店だよ。窓から入る日差しが昼寝に良さそうな」
「客が昼寝ばかりしておったら商売上がったりではないか」
「昼寝料を取ればいいさ」
「ならば枕もつけてもらいたいところじゃな」
 冗談交じりの会話の中、心に浮かんで溶けていく懐かしさにウルシュテッドは空を見上げた。
 自分をこの世に送り出してくれた両親……。
 それはシュストの皆に感じるのとはまた別な……。胸の辺りがきゅと締め付けられるような。
「父さん泣くだろうな……。母さんに会わせたかったってさ」
 空を仰いだまま立ち止まっていた。
「テッド」
 何時の間にやらニノンが正面に回っている。
「そなたも良い嫁を貰ったと泣いてよいぞ」
 腰に手を当てた格好で下から少し得意気な表情で覗き込まれた。
「……ああ」
 頷きウルシュテッドは彼女の華奢な身体を自分の腕の中に閉じ込める。
「俺の嫁は最高だよ……」
 言い終えると同時に重ねた唇。軽く触れるような口付け。
「……っ」
 少し遅れて赤く染まるニノンの頬。握った手が小刻みに震えている。「わ、わ」と唇が戦慄いた。
「わ、 我が夫は素直じゃの」
「それが取り得でね。素直ついでに言わせてもらうと頬が赤い」
 むにっと軽くニノンの頬を指で挟む。むっと唇がへの字に曲がる。
「照れてなどおらん!」
 腕からするりと抜け、雪を蹴散らしずんずん先を行くニノン。
 ウルシュテッドはニノンの背を見つめる。ニノンの周りに一緒に歩く子等の姿が一瞬重なった。
(俺とニノンと子等と……)
 家族を心の中で抱き締める。
 それから慌ててニノンを追いかけた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名     / 性別 / 年齢   / 職業】
【ib5445  / ウルシュテッド / 男  / 32歳   / シノビ】
【ia9578  / ニノン     / 女  / 20代後半 / 巫女】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は発注頂きありがとうございました。桐崎です。

結婚報告ツアージルベリア編いかがでしたでしょうか?
シュスト家の女性陣に関してかなり捏造してしまったのですが大丈夫でしょうか?。
ウルシュテッドさんの家族、ニノンさんの家族、そしてお二人とお子さん達で作り上げていく家族、それぞれのありかたがふんわりと出ていれば良いな、と思っております。

イメージ、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。

それでは失礼させて頂きます(礼)。
snowCパーティノベル -
桐崎ふみお クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年01月19日

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