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『ひと焼き行こうぜ!! 』
矢野 古代jb1679)&矢野 胡桃ja2617)&卯左見 栢jb2408)&シグリッド=リンドベリjb5318)&シエル・ウェストjb6351)&華桜りりかjb6883)&ゼロ=シュバイツァーjb7501)&Unknownjb7615


 進級試験。
 それは様々な学生たちが挑み、そして散って行った久遠ヶ原学園の伝統行事である。
 多くの学生は、その為に寝食を惜しんで一夜漬けに励む。

 だがしかし、腹が減っては戦が出来ぬという言葉があるのを知っているだろうか。
 それは古来より数多の武将達により連綿と伝えられてきた、最も重要な戦陣訓のひとつだ。
 空腹を堪え忍ぶ事により根性が養われ、いざという時に思ってもみなかった力が発揮される、或いは逆境にも心が折れる事なく立ち向かう事が出来る――
 などという説もあるが、それは充分な兵糧を確保出来なかった結果、根性論に縋るしかなかった負け犬の言い草だ。

 戦も試験も、理屈は同じ。
 充分な栄養と休息をとって、万全な体勢を以て臨む事が、勝利への最短距離なのである。
 苦労して辿り着く事に、意味などない。
 要領良く、スマートに、さくっと終わらせた者が勝つ。
 メシ抜きの一夜漬けよりも、がっつり食って運を天に任せるべし。

 試験勉強?
 なにそれおいしいの?

 というわけで。


『焼肉行こうぜ!!』


「え? なぁに? 焼きマシュマロ食べ放題? いくー!」
「モモ、モモや。父さん今、何て言ったかな。怒らないから言ってごらん?」
「焼きマシュマロ食べ放題」
 愛娘、矢野 胡桃(ja2617)の反応に、矢野 古代(jb1679)は諦めにも似た表情を浮かべる。
 うん、そう言うんじゃないかって、予想はしてたけどね。
「モモ、それに華桜さんも。焼肉は、マシュマロを、焼く所では、ない。わかるね?」
「ましゅまろでなければ、チョコを焼くところなの、です?」
 胡桃と華桜りりか(jb6883)は互いに顔を見合わせて、にっこり。
 その腕には既に、大量のマシュマロとチョコの袋が抱えられていた。
 誰が何と言おうと、スイーツは譲れない。
 お肉のねじ込みは断固拒否。
 拒否出来るかどうかは……うん、この面子を見る限り、怪しい感じではあるけれど。

 集まったのは矢野親子に、りりか、卯左見 栢(jb2408)、シグリッド=リンドベリ(jb5318)、シエル・ウェスト(jb6351)、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)、Unknown(jb7615)の計八人。
 場所はゼロが所有していたという旅館『鴉』内のBBQスペースだ。
 本日は貸切の食べ放題、一般客の目もないし、何があっても驚かれる心配はない。
 そう、例え牛が一頭丸ごと生きたまま担ぎ込まれたとしても。
「活きの良さは保証するのだ、さあ存分に喰らうが良いぞ」
 んもぉ〜〜〜!
「あんのうんさん、それ違うのです、お肉用の牛さんではないのですよ…!」
 シグリッドの言う通り、Unknownが頭上に抱え上げて来たのは、立派なおっぱいを持ったホルスタイン。
「残念だが乳牛の肉は食用には向かないな、アンノウンさん」
「いや、そうでもないんやこれが」
 古代の言葉にゼロが首を振る。
「最近じゃ肉の処理方法によっちゃ、高級和牛よりも美味い肉が出来るらしいで? 確かドライエイジングとか言うたか」
 簡単に言えば、肉を乾燥状態で熟成させる技術の事だ。
「それをやるには油の少ない赤身肉、つまりホルスタインが最適なんやて」
 流石は試験なんて超余裕のエリートと豪語するだけあって、博識である。
「しかしアレやな、熟成にも最低二週間はかかるらしいし、今ここでシメても当分は食えへんで?」
「と言うかな、それは何処から持って来たんだ」
 心配になる古代さん。
 今回は食べ放題という事で、お財布的には安心だが――きっとそれは別料金。
「心配ない、我輩コモモに丸焼き食べさせる為に、頑張って狩ってきたのだ」
 ダイジョウブ、鎖とか付いてなかったし、広い野っ原に放置されてたやつだから、きっと野良だ。
「それ違う、野良牛違うな?」
 それは放牧と言ってだね、つまりその牛は他人様の所有物であるわけで。
「その野っ原は、周囲に柵を巡らせてはいなかったかな」
「ふむ、言われてみれば侵入する際に何か抵抗を感じた気もするが」
 つまり、柵をぶち壊して入ったわけですね。
 修理代、いくらかかるかな。
「返してこよう、うん」
 一緒に謝ってあげるから、ね?

「では、始めますよ……」
 普段着のセーターとGパンに紙エプロンを装備した、焼き肉奉行シエルが厳かに点火。
 網が充分に焼けたところで、まずは牛タンを乗せる。
 焼肉と言ったらタン塩、何はなくてもタン塩。
 まず最初に焼くのは好物だから――という事もあるが、これは焼き肉奉行としてセオリーに則った由緒正しき作法なのである。
「牛タンは塩で食べるものです。つまり、甘辛いタレを付けて食べる他の肉よりも、網を汚す事が少ないのですね」
 あと、焦げにくいというのもあるし。
「まだ赤いです。もう少し焼かないと……」
 早々と伸びて来る手を制しつつ、シエルは焼き具合を確かめる。
 生焼けの牛タンは危険。
 いくら撃退士でも、食中毒を起こしかねない――いや、多分Unknownなら大丈夫だろうけれど。
「Unknownさん、コンロごと食べるのは最後にしてください」
「最後ならええんかい!」
 ツッコミを入れるゼロを華麗にスルーして、シエルはレモンをスタンバイ。
「レモンかける人ー。レモンかける人居ませんかー?」
 え、いないの?
 ではこのタン塩は全て焼き肉奉行の取り分という事でよろしいか。
 よろしですね、では――
 レモンをかけて、いただきます……と思ったら。
「おや?」
 ない。自分の皿に取り分けておいたタン塩が、皿ごと消えている。
「Unknownさん……」
 こんな食べ方する人、他にいませんよね。
 でも大丈夫、こんな事もあろうかと、ゼロさんが大量に用意してくれたから。
「アンノがえげつない量を食う事はお見通しや」
「え? あと100人前ずつぐらいは欲しいのだが」
 それは無理だな?

 肉、肉、肉の領域から少し離れた所には、草食系が野菜の山を作っていた。
「焼き肉…! 焼いた野菜美味しいのです…!」
 シグリッドは、きのこ、葱、にんじん、キャベツ、玉ねぎ、ピーマンなどなど、ひたすら野菜を焼きまくる。
「トマトも焼くと美味しいのですよー」
 焼肉とは一体何だったのか。
「え、でも野菜はお肉の三倍は食べないと、バランス良くないのですよ?」
 お肉だけだと食物繊維が足りなくて、お通じが……あ、これは今言うの拙かったかな。
 でも大事な事だから!
 その脇では、こんがり焼けたマシュマロが甘い匂いを立たせている。
「お肉? 知らない子ですね」
 焼肉とは甘い物を焼く事である。
 生チョコも炙って少し溶かして、焼いたマシュマロと一緒にビスケットに挟んで。
「胡桃さん…どうぞ、なの。ふふ…美味しいの、ですよ?」
 二人で仲良く、幸せそうにぱくぱくもぐもぐ。
 その様子を少し離れた所から舐める様に観察する、うさぎさん。
「いやあ、女の子がいるってイイネ〜」
 特に若い子は、腰から足のラインがタマンナイね〜。
 うさぎさん、まだ若いのに醸し出す空気はすっかりオヤジである。
 ほのぼのしていると見せかけて、視線がなんかエロいし。
 それをチラチラ気にする古代お父さん、大事な娘がセクハラの餌食になりはしないかと、気が気ではないご様子。
 でも大丈夫、心配ないよー、見てるだけだよー。
 この情熱は肉と人参に向けるから。
「え、んと、卯佐見さんはにんじんがお好きなの、です?」
 この機会に少しお近付きになれると嬉しいな、と思いつつ、りりかは頑張って声をかけてみる。
「可愛い女の子も大好物だよ!」
 お嬢さん可愛いね、お歳は? スリーサイズとか、好みのタイプは?
「うさぎさん、それせくはら…! ほら、にんじんが焼けたのですよー?」
「にんじんうめえええ」
 ちょっと慌てたシグリッドの声に、うさぎさんのスイッチは色気から食い気にシフトした模様。
 ばりもしゃばきぃ!
 え、その音はもしかして生焼けだった?
「かんけーねえぇぇぇ」
 寧ろナマが良い! にんじんも! 女の子の脚も!
 耳、にしか見えない横髪をぴこぴこ動かしばがら、うさぎさんはひたすら食う、と言うか囓る。
 だって囓ってないと前歯が伸びすぎちゃうんだよ、嘘だけど。
 にんじんの合間にデザートの肉を食べ、またにんじんへ。
「あまり火に近付くと、耳が燃えますよ? あ、ほら、タレが跳ねて……」
 シエルが心配そうに声をかけるが、聞こえているのかいないのか。
 そこへ、そっと差し出される新たなにんじん。
 うさぎさんは条件反射で齧り付く、が。
「ぶふぉぁっ!?」
 それはオレンジと緑に塗られた円錐形のポリ袋に入ったポン菓子、その名も「にんじん」だった。
「誰だー!?」
 これにんじんだけど、にんじん違うし!
「こんなイタズラする人は、ゼロさんしかいないのです」
 こくり、シグリッドが頷く。
 あ、自分が標的にされなくて良かったなんて、思ってないのですよ?
 それよりも、次に警戒すべきは――
「矢野さん、華桜さん…捩じ込まれないように、少し食べておいたほうが良いのです」
 こくり、真顔で頷いて、こんがり焼けたサツマイモをそっと差し出してみる。
 ほら、これも一応は甘い物だし?
「あ、お肉も少しは食べるの…ですよ?」
 りりかは確かに、多少は食べている様だ。
 スイーツの合間に、余り重たくなさそうな赤身あたりを少しだけ。
 出来れば鶏のササミくらいのあっさり系だと嬉しいかも?
「そう言えば、焼肉はどうして牛さんばかりなの、です?」
 豚肉はたまに見かけるけれど、鶏肉は殆ど見ない。
 鶏で焼肉と言うと、焼き鳥になってしまうから……?
「でも、お肉ばかりたくさんは食べれないの、です」
 チョコは別腹だけど。
 そして何故か、周囲の視線が肉にチョコを付ける事を期待している様に見える、気が。
「肉チョコするんです?」
 シエルが期待の眼差しを向けている。
 これは肉巻きチョコとか、ピーマンの肉詰めチョコフォンデュとかに挑戦する流れ?
 ふるふる、シグリッドが首を振った。
「肉にチョコは無いと思います…! 矢野おとーさん、止めてくださ…っ」
 はっ!
「にんじんやさつまいもにチョコならそこそこいけるのでは…!」
 ない? いや、アリかも!
 カボチャとかも合いそうじゃないですかー。
 後は、そう、とうもろこし。
「とうもろこしのチョコって、確かありましたよね…!」
 焼きとうもろこしにチョコを付けて……え、違う?

「へーかもりんりんも、焼肉は肉を食うもんやで?」
 お菓子ばっかり食べてる子には、お肉をねじ込みねじ込みねじ込み!
「いや、食べない、肉はいらぬ!」
 胡桃陛下は、りりかよりも更に厳格な甘食主義者だった。
「でも焼きマシュマロと焼きチョコは食べられるんでしょう?」
 成長期の女子が蛋白質を摂らずに甘い物、つまり炭水化物ばかり摂っていると、どうなるか知ってる?
 プルプルお肌に必要なコラーゲンが足りなくなってシワシワガサガサに、骨と筋肉が弱ってヨロヨロガタガタに、その上に脂肪がドン!
 まあ、おっぱいは脂肪の塊ですからね、胸を大きくするには甘い物も良いのかもしれません。
 でも、それ以上に他の場所に脂肪が付くな……?
「それでもええんか?」
 ゼロさん、相変わらずの悪い顔に、ちょっぴり本気の心配が見え隠れ。
「でも、だって、モモはスイパラが良いって言ったもん!」
 スイパラ、それはスイーツパラダイス。
 甘いものを食べつつ、魔法中年りりかる☆コシローが見たかったんだもん。
 でも肉食系の男子が多いから、広い心で譲ってあげたんだよ?
 だから、ね?
「右腕。ここはお互いに、譲り合うべきだと思う、わ」
 焼肉のテリトリーは侵さない。
 だから、焼肉もスイーツのテリトリーを侵してはならない。
 歩み寄りなど必要ないし、理解も不要。
 話せばわかるなんて、ただの幻想。
 不可侵と不干渉こそが平和共存への近道なのだ。
「そういう事、だから。モモはりりかさんと一緒に甘いもの食べるの」
 我ら仲良し甘いもの同盟☆
 あ、シグリッドさんも混ざりたい?
 スイーツ派なら男子でも構わないのよ?
「と言うことで、シグリッドさん、マシュマロ! マシュマロ!」
 焼きチョコバナナとか、焼きチョコパインとか、焼きチョコリンゴとか!
 バウムクーヘンだって作れるよ!
 ドリンクは焼きマシュマロ入りのココアで、デザートには串焼きフルーツも良いかな!
 だがしかし、ゼロは容赦なかった。
「デザートはご飯を食べてからに決まってるでしょ」
 さあ、ねじ込んじゃおうねー。
 因みにご飯を食べずにひたすらお肉を食べているシエルさんはセーフです。

「ゼロおにーさん、無理やりはよくないのです…!」
 シグリッドがそれを止めようとする。
 だが、人の心配をしている場合ではなかったのだ。
 その背後に忍び寄る黒い影――
「シグリッド、ほーら」
 お肉をお食べ? たんとお食べ?
 ちゃんと食べないと、大きくなれませんよ?
「あ、あんのうんさん、ぼくはちゃんと食べてるのですよ…!?」
「バランスが問題なのだ」
 バランス、それは肉の部位的な意味である。
 カルビにロース、バラ、モモ、スネ、リブロース、時々サドンデスなソースを添えて、ねじ込む。
「お肉ばっかりじゃないですか…!」
 寧ろその方がバランス悪いよ、野菜も食べさせてよ!
「お母さんはスキキライ許しません!」
「言ってない、言ってないのです…!」
 厳しくするのも、ひとえに子供を想う親心ゆえ。
 ヤサシイネ!!
「なんやシグ坊、嬉しそうやな!」
「これが喜んでる顔に見えるのですかー!」
「見えるやろ、なあ?」
「寧ろそれ以外の何に見えるのだ」
 それともまだ、オモテナシが足りないのだろうか。
「ほぉら、たんとお食べ? 大きくなあれー」
 大きくて逞しい男になるには、やっぱ肉でしょ。
「コモモには丸焼きアゲルヨ」
 牛の丸焼きは残念ながら手に入らなかったけど。
 でもその代わり、ほーら、ここに大きなウサギ肉が。
「焼くか」
 とてもとても悪い顔で、ニヤリと笑うゼロ。
「卯佐見さんは、うさぎさんではないの、ですよ?」
 本物のうさぎも、食べ物ではないのです――少なくとも、この国では。
「うさぎさんはうさぎさんですけど、うさぎじゃないのですよ…!」
 わけわからん。
 でも焼いちゃダメです、それだけは確かです。
 勿論ナマでもイケマセン。
 うさぎの肉って、淡泊で癖がなくて、美味しいらしいけど……ね。
「人を食い物扱いするあんのんはー、つるぷに尻尾で結んで吊しちゃおうかねー?」
 あぁ…弄りてえ、不意討ちであんのんのしっぽ弄りてえ。
 でも無理、きっと無理。
 触ったらたぶん酷いことになるよね。
 どんな酷い事になるのかは、絵にも描けないと言うか想像を絶すると言うか。
 で、実際どんな事になるんですか?
 今度教えて下さいねー。

 楽しげにはしゃぐ若い子達をのんびり眺めながら、古代はマイペースに箸を運んでいた。
 ゼロなどは流し素麺の如く肉を流し込んでいるが、とてもあんな真似は出来そうもない。
 酒もちょっと控えめに。
「俺ももう少し若い時分には、焼肉なんていくらでも食えたもんだがな」
 今はもう若くない、などと言えば娘が泣きそうだが、実際にそうなのだから仕方がない。
 昨日の疲れが明日どころか三日くらい後を引くお年頃。
 呑んだ後には胃腸薬としじみの味噌汁が欠かせない。
 食べ過ぎた翌日には一日中胃が重い、それがアラサー……いや、四捨五入でアラフォーか――の、現実なのだ。
 だから自然と、口は肉を噛む為ではなく、喋る為に動かす事が多くなる。
「ゼロはあんまり詰め込みすぎないようにな。アンノウンさんも、ほら……シグリッドさんは確かに細いし、成長期なんだからもっと食べると良いとは思うが」
 その、ホルスタインを平気で丸呑みしようとする人、いや悪魔の基準で詰め込むのは流石にどうかと思うよ。
「それにシエルさんや、焼肉はチーズを焼く所ではないな?」
「チーズ、ですか。そう言えば忘れていましたね」
 え、あれ、もしかしてヤビヘビだった?
「ありがとうございます、では早速……」
 世の中には「カチョカバロ」という焼く事によって格段に美味しくなるチーズもあるらしいが、普通のチーズでもきっと問題ない。
 焼いたカマンベールにオリーブオイルをかけて、焼きトマトと一緒にクラッカーに乗せてみたり。
 あ、これヤバイ美味すぎる。
 カリカリに焼いたベーコンで巻いても良さそうだ。
 藪蛇が怪我の功名になった、かもしれない?
「ところでモモや、モモさんや」
「なーに、父さん?」
 ゼロの真似をして父さんにお肉をねじ込むのはやめてくれないかな。
 しかも、そんな最上級の笑顔で。
「はい、あーん?」
 しかし容赦なく目の前に突き出される、大きな肉の塊。
「いや、モモ、それはちょっと」
「……なに。モモのあーんが食べられないっていうの?」
「せめて、その半分の大きさにしてくれると、父さん嬉しいな、うん」
 と言うか。
 これは何の罰ゲームですか。
(俺は何かモモに怒られる様な事をしたのだろうか)
 思い当たるフシは、ない事もない、気がしないでもない、ような。
「なに、父さん。何かモモに隠し事でも……?」
「いいえ、ありません」
 多分。
「よろしい。じゃあ、はい、あーん?」
「あーん……」
 うん、美味しい。美味しいよ。
 世界の中心で愛を叫べる位に可愛い愛しいマイドーターが焼いてくれたお肉は、最高に美味しいです。
 美味しすぎて胸が熱くなるね!
 多分それは、世間一般に胸焼けって言う。

 こうして、焼肉という名の戦いは続く。
 だが果てしなく未来永劫に続くかと思われた修羅の道にも、やがて終わりが訪れた。
 主に「もう焼く物がねぇよ!」という理由で。

「では最後に、焼肉の締めとして神聖なる朴葉味噌焼きを奉納させて頂きます」
 それはシエルの拘り。
 鍋の締めに人それぞれの拘りがある様に、焼肉の締めにもそれぞれに流派があるのだ。
 まずは朴葉に味噌を塗り、肉とその他の好みを具材を盛る。
 それを網に乗せて、後は焼くだけ。
「曲がる……曲がりますよ……!」
 この瞬間が、朴葉味噌焼きの醍醐味ですよね!
 何でも乗せて美味しくいただけるから、最後に食材が残って処理に困る、なんて事もない。

 全てを綺麗に腹の中に収めたら、後は使ったものを片付けて――
「アンノウンさん、その片付け方は違うな……?」
 使った皿や、網にコンロ、その他諸々全てを呑み込もうとしたUnknownを古代が止める。
 うん、これ以上店の損害を増やしたら、きっと破産する。
 そうでなくても次から出入り禁止を喰らいそうなのに。
 え、大丈夫?
 ゼロさんが何とかしてくれるの?
 だったら食べても良――くないですね、はい。
「我輩、腹が一杯になったら眠くなったのだ」
 Unknownは大きな欠伸をすると、阻霊符を発動して額にぺたり。
 そして、ゼロの背中にぐで〜んと寄りかかった。
 重い。クソ重い。
 元々重いけど、今日は多分腹の中に牛一頭分は入ってるね?
 で、どうするの、これ担いで帰れって言うの?
「そう言えばアンノウンさん、巨大な弁当箱を持って来てたな」
 あと、でっかい水筒も。
 古代が手を伸ばしたそれは、弁当箱と言うより衣装ケースと言った方が良いサイズだ。
 真っ黒で、中は見えない。
「アンノさん、何を持って来たの、です?」
「それとも、持って帰るつもりだったとか?」
 りりかとうさぎさんが顔を見合わせる。
「父さん、開けてみよう」
「良いのか、勝手に開けて……」
 可愛い娘の頼みとあらば、実行するに吝かではない、けれど。
 他人のものを勝手に見てはいけない、という以前に――これ、危険な香りがしませんか?

 良いの?
 開けるよ?
 開けちゃうよ?


 その後、学園で彼等の姿を見た者はいない。
 と言いたいところだが。

 その後も彼等は全員、何事もなかった様に日々を過ごしている、かに見える。
 だがその彼等が、焼肉に出かける前の彼等と同一の存在であるかどうかは――

 神のみぞ、知る?



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1679/矢野 古代/胸焼け上等】
【ja2617/矢野 胡桃/マシュマロ、時々mgmg】
【jb2408/卯左見 栢/にんじん】
【jb5318/シグリッド=リンドベリ/野菜おいしいです】
【jb6351/シエル・ウェスト/焼肉奉行】
【jb6883/華桜りりか/チョコ以外に何があると】
【jb7501/ゼロ=シュバイツァー/肉は流し込むもの】
【jb7615/Unknown/丸呑み系】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 お世話になっております、STANZAです。
 この度はご依頼ありがとうございました。

 わざわざお問い合わせ頂いたにも関わらず、納品が遅れました事をお詫び申し上げます。
 申し訳ございませんでした。

 遅れた分、少しでも楽しんで頂けるものに仕上がっていると良いのですが……。
snowCパーティノベル -
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エリュシオン
2015年01月22日

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