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『●音が結んだ縁 』
君田 夢野ja0561)&亀山 淳紅ja2261)&アルジェjb3603)&川知真jb5501

 その日は珍しく、久遠ヶ原にも雪が降った。
 降り方はそれほどでもないかと思っていた君田 夢野だったが、周りの声を聞く限り、実はそうでもないらしい。
 気温に関しても、それなりに寒くはあるがそこまででもないと思っていたが、蓄熱式オイルヒーターに抱きつくような形で釘付けになっている親友・亀山 淳紅曰く、そうでもないらしい。
 少し感覚がずれている――なぜだろうと考えると、ふと思い当たる事があった。
(北海道の雪と寒さを知っているからか)
 つい先日、行ってきたばかりである。
 色々あって寒さどころでもなかったが、だがやはり、向こうの寒さは格別だった気がする。
(それでもまた、会いに行きたくなるもんだな)
「ゆめのん、今年は向こうで年越すん?」
 大した思惑もあったわけではないだろう。
 世間話のつもりで切り出した何気ない言葉に、夢野はパチンと指を鳴らした。
「そうか、年越しな。年越しを向こうで迎えるとか、普通にありか」
「……時折ゆめのん、自分より馬鹿になる時あるな」
 お互い様だと夢野の目が語っていたが、暖房ラブで背中を向けている淳紅は気づかない。
 そのうちに淳紅へ向けていた視線がいぶかしむようなものへと変化し、顎に手を当てながらも目が天井を向く。
「亀やんは年越し、どうするんだ」
「うちはいつも通りやなー。姉ちゃんがはりきりすぎるから、妹がなだめすかして、ゆっくり家で過ごすくらい?」
 とたんに指をパチンと鳴らす夢野。
「なら今年は、向こうで越してみないか?
 全員そろうかはわからんけど、知ったメンバーを集めて」
「あー……面白そうやけど、どないしよかなー……寒いしなー……」
「言い出しっぺだから、費用は俺が全部出すと言っても?」
 淳紅は愛しのヒーターから離れすっくと立ち上がると、とても真剣な眼差しを夢野に向けた。
 その手にはどこから取りだしたのか、ハンディカラオケが。
「それはマジにならざるをえんやね」
「そうか……とりあえず連絡入れておこうか。料理得意な人に料理を頼もう」
「はい! 自分も手伝う!」
 元気に現金な淳紅はちぎれんばかりに腕を振り上げると、夢野の目が座り、心底嫌そうな顔をしていた。
 伸びた腕はしおしおと枯れ果て小さなものとなりって、「飾り付けだけ、飾り付けだけやん!」と小声で抗議を繰り返す淳紅をガン無視し、各自に連絡をとる夢野であった。


 津崎家の民宿『海の家』の、民宿には似つかわしくない小洒落た感のあるバーでグラスを磨いていたアルジェが手を止めた。
「ほう……ゆめのんが幹事か。遠慮はいらんな」
 メールを確認するなりグラスを置き、カウンターにグラスを置いたまま身を屈めてストローを咥えている海に「行儀が悪いぞ」と、携帯を縦にして頭に打ち付ける。
「にゃっ!」
「全員来れるかわからんが、年越しをこっちで過ごすらしい。
 きっと海にも連絡が来ると思うが、小宴会場を確保したいようだ」
 カウンターから出たところで、海の携帯が光っていた。
 携帯を手に取った海だが、携帯を開くより前にアルジェの背に「どっか行くの?」と問いかける。
「ああ。普段使えない、使わない食材でも調達しに行く。
 蕎麦も調達をとあったが――まこりんとも相談しておくとするか」
 コートを取りに行きながらも、川知 真へとメールするのであった。


 メールがきているのは、わかる。
 そろそろこの、スマホとやらに少しは慣れてきたつもりの真だった。
 ただ複数同時に来ていると、開いては閉じて、またトップ画面から開き直してを繰り返し、たどたどしさはまだ健在である。
 全てを読み終え、今度は返信しようとするのだが、ここでもまだ操作がたどたどしい。
「えっと……君田さん、お誘いありがとうございます。どなたかと過ごす年越しって初めてですが、よろしくお願いします」
 送信メールの内容を口に出しながら入力、送信。
 続けてアルジェへの返信。
 だがほんの少しだけ手が止まり、口元に指を当てて考える仕草をしたかと思うと、文章を付け足した。
「アルジェさん……蕎麦は手打ちの物を私がご用意いたします。よろしければおせちをご一緒に作りませんか?」
 そして送信すると、最後に吾亦紅 澄音からのメールを読み直して口元の笑みを強め、受けて立ちますとだけ入力して送信すると、真の足取り軽く、出かける準備を始めるのだった。




 津崎家の台所に立つのは、そこの主ではなく、真にアルジェに理子――とおまけで淳紅の4人。
 おせちなどを作りましょうと意気込んできた真に、サポートを買って出たアルジェ。理子は料理を覚えるためと、食べてもらいたいなという思惑があっての事。
 淳紅は、強調するためにもう一度言うが、おまけ。せいぜい美的センスを生かしての飾りつけか、味見役か、応援くらい。
 海や澄音は早々に逃げ出していたし、夢野や修平の場合、自分をよく知っている分、託すしかない。
 普段は使わなそうな高級食材や、お値打ち物に真は目を丸くしていた。
「相当、高かったのではないのでしょうか?」
「大丈夫だ。すべてゆめのんにツケてきたから」
「ああ、そうなんですね」
 買い終わった後で「全ての費用は俺もちで」というメールを貰ったのだが、貰う前からすでにツケていたというあたり、しっかりちゃっかり。
 そんな高級食材を前にすると、料理が得意とは言えない理子が少し萎縮しているように見え、真はその手を優しく包み込んでもみほぐしてやると、笑顔を向けた。
「君田さんとご一緒に年越しができて、よかったですね。
 あまり緊張せず、ご自分の出来る範囲で頑張ってください」
「……はいっ」
「そんなら緊張をほぐすためにこの亀山 淳紅、一曲、歌い――」
「申し訳ありませんが調理中は音もまた大事ですので、亀山さんはお鍋のお湯を見てていただけますか?」
 ニッコリそう言われてしまっては「あ、はい」と素直に水の入った鍋の前に立って、ぷくぷくと増えていく気泡をじっと眺めるお仕事に就く淳紅だった。


「さー時間もあるし、雪『合戦』しようぜ。修」
「しよーぜっ!」
 ビシッと指をさして宣言してくる澄音と、マネをする海を前に、修平の口から大きな白い息が漏れる。
「外に来いっていうから何かと思えば……すみません、君田さん。辞退していいですから」
「いや、たまにはこういうのもいいさ」
(かめやんは外に出たくないから、手伝いをするとか言い出したんだろうな)
 寒い寒い寒いと、寒いしか喋っていなかった親友の顔を思い浮かべる夢野だが、淳紅が今、鍋の前でただじっと気泡を見張るだけというちょっと辛いお仕事を任されているとは、知る由もない。
 適当に足元の雪を手ですくって雪玉にしようとするのだが、グラニュー糖のような大きさの粒の雪はさらさらと手からこぼれ落ちる一方で、玉にならない。
「これでどうやって雪玉を作るんだ?」
「君田さん、危ない!」
 押されてよろけた夢野の横を、恐らく雪玉だと思う物が通過し、荒れ果てた古い木造の住宅の窓ガラスがあっさりと音を立てて崩れ落ちた。
 思いもよらぬ威力に戦慄を覚え、雪玉の飛んできた方向に目を向けると、水の入ったバケツにサラサラの雪を投入し、たっぷり水を含んだそれを踏み固め、シャベルで掘り起こすと「冷てー」など言いながらも、素手で握っている澄音と海の姿が。
 しかも完成品を別のバケツに入れて、溜めこんでいる。
「氷でも仕込んだのかと思ったが、北海道の人間、寒さに強すぎるだろ!?」
 全力でその場から逃げ出す夢野と修平。
「氷の周りを雪で固めても雪で緩和されちゃうし、質量的にはたいしたことないから、威力なんてたかが知れてますよ」
「そりゃあ質量ある方のが威力もあるけどな!」
 ましてや、この真冬日の気温では表面も少し凍っているという凶悪ぶり。バケツを用意できていない夢野も修平も逃げ回るだけで、ただ狩られるだけの兎である。
 この場合、合戦ではなく一方的な蹂躙と、人は呼ぶ。


 2時間ほど、経っただろうか。
 建物の陰に隠れても、屋根からの強襲。トラックの向こうにいたかと思えば、下を潜り抜けてきたりと、下手な天魔よりもはるかに高機動で、厄介な相手であった。
 しかも中学生の女の子にまさか反撃できるわけもなく、ただひたすらに逃げ回り続けていたという。
「厳しかったな……!」
 温泉の湯船に浸かり、タオルを目の上に置いたまま夢野は思わずその言葉を漏らしていた。
 仕方ない。
 光纏するわけにもいかず生身で受け続けたせいで、雪玉のくせに身体は痣だらけであった。
「どちらかが動けなくなるまで続ける2人ですからね……」
 横の修平も同じようなものである。
 ただ、苦難を乗り越えたおかげで、2人の親密度はずいぶん増したような気がしていた。
 近くにある川のせせらぎだけが、しばらく2人を包んでいたけれども、やがて淳紅がひょっこりと入ってくる。
「寒い中、御苦労さんやな」
「まさかもう、料理が完成したのか?」
「自分のおかげやで!」
 夢野だけでなく、修平までもが鼻で笑う。
「ゆめのんだけでなく、修ちゃんまでもやと……?!」
 愕然とする淳紅は修平を睨み付けるのだが、目にタオルを乗せている修平は視線を感じていても無視である。
「亀山さんの活躍もありましたよ。おもに和菓子の飾りつけでですが」
 いつに間にいたのか、女湯側から真が淳紅を擁護する。
 聞こえてくる声の様子から、真の他に海、澄音、理子の3人もいるのがわかったが、逆に言えば、アルジェだけがいない。
 きっと残った後片付けは自分がやるからと言って残ったに違いないと、修平は立ち上がり、湯船をかき分けて出入り口へと向かった。
「アルジェちゃんとこ、行くつもりやな」
 湯あみしている淳紅がズバリ言い当てるのだが、修平は一瞬止まっただけで、肯定も否定もせずにそのまま行ってしまった。何も返さない事が答えです、とでも言うかのように。
 ニマニマとしながら修平の代わりに夢野の横へと移動したところで、女湯から澄音の声が響く。
「亀山隊長に報告! 理子は1ミリたりとも大きくなってねーわ!」
 その直後、悲鳴のような理子の声と湯船で暴れる音がしばらく続いた。
「……やって。よかったな、ゆめのん」
「ナンノコトデゴザイマショウカ、ジュンコウクン」
 タオルで表情の大部分を隠しているが、わかりやすいほど動揺している夢野に、淳紅はひっそりほくそ笑むのであった。


「っと、アルジェ」
「む。もう上がってしまったか、修平」
 脱衣所から出てきたところでちょうど、アルジェと遭遇してしまう。
 ある種のタイミングの悪さに、修平は苦虫をかみつぶしたような顔をすると「どうした?」と、アルジェは修平の目を覗き込むように首を曲げる。
 何のために上がったのか――そんな思いはあったが何も言わず、首にかけてぶら下げていたタオルを両手で握り、目を閉じて小さな溜め息を吐くと「何でもないよ」とだけ返した。
 すると不意にタオルが引っ張られ、前屈みに。
 ……しばし、互いの息遣いが間近に聞こえていた。
 アルジェがタオルから手を離し、解放された修平を前に自分の唇を指でなぞる。
「頑張ったご褒美というヤツを、もらっておくぞ」
 それだけを伝えると、そそくさと逃げるように脱衣所へ入っていくアルジェであった。
 修平はというと、しばらくの間硬直していたが、やがて額を指で掻きながら廊下をゆっくり、ゆっくり歩き始める。


 脱衣所から出た夢野はすぐの壁に背を預けたことで、ここでも淳紅がピンとくる。
「理子ちゃん待ちやな」
「……まあ、そうだな」
 正直に答える夢野。だが淳紅はすぐ誰かにメールしていた。
 そして男湯に比べると広々とした女湯の脱衣所で、携帯に向けて「亀山隊長、サーイエッサー」と敬礼している澄音が振り返り、ボディクリームを手にしている真へと理子を押し出した。
「リンパマッサージ、まずは理子からお願いしゃっす!」
「よろしいですが……?」
 疲れた疲れたと騒ぎ立てる澄音のために真が申し出てくれたのだが、いきなりの方向転換。それに真も理子も戸惑いつつ、理子は「お願いします」と真の前へと進み出る。
 今この場で澄音だけが知っている、戸の向こうにいる夢野の存在。そして理子がこういう時、思わず声が出てしまうという事も。
 淳紅と澄音が笑い転げるのは、この後すぐであった。


「ゆめのん、理子。蟹が煮えるぞ」
 おせちもあるが鍋もねと、鍋を取り分けているアルジェが壁に向かって座っている2人に声をかけると、何とか立ち上がって席へ着くが、どちらもどこかが赤くて視線が彷徨っている。
 何とかこの場の空気を変えるため、リモコンを手に取って『歌合戦』から笑いが取れそうな『誰も笑ってはならぬシリーズ』にチャンネルを合わせるのだが、途端に淳紅が立ち上がってリモコンを奪い取って歌合戦に戻す。
「歌合戦一択やろ!」
「あれは別に見なくてもいいだろ」
 淳紅からリモコンを奪い返そうとするも手を叩き落され、物理型の意地か、淳紅の足をすくい上げて転ばせるとその背中に乗ってまで奪い取ろうとする。
 腕を懸命に伸ばし抵抗する淳紅。
「ゆめのん、音楽キャラやのに……!」
「ツッコむな!」
 中学生の前で、チャンネル争いを繰り広げる大学生達。大人になれ。
 結局、物理では勝てない淳紅は諦め、仕方ないとハンディカラオケを取り出す。
「なら自分らで歌うしかないやんな! かかってこい、澄ちゃん!」
「シャンナロー!」
 物理的にかかっていく澄音のタックルを腹に受け、簡単に押し倒されるもやしっ子。
 だが気づけば、ハンディカラオケがない。
「歌と言えば詩もありますよね。
 先ほど『下の句かるた』なるものを発見しましたので、どなたか詠みをしていただけませんか? こちらマイクにもなるようですので」
 厚みがある木札の『百人一首下の句かるた』を手にした本日のMVP・真のお願いを、断れはしなかった。
 だが言い出しただけあって、真は格段に強く、出だしが読まれた時点ですでに取っている。
 詠み手の淳紅が「まこっちゃん、容赦ないやなー……」と、少しだけ戦慄を覚えるのであった。


 真とアルジェが蕎麦の準備に向かった今こそがチャンスと言わんばかりに、淳紅と澄音が歌い続け、判定役に選ばれた理子は2人の前にずっと座りっぱなしだった。
 修平と海が隣り合って座っている所に、夢野も腰を下ろす。
「疲れたか?」
「あ、いえ。ちょっと海ちゃんと、楽しい年越しって初めてだよねって話を」
「ねー。いっつも年越しなんて親戚とか来るわけでもないし、家族だけでもそもそと終了するって感じだもんね」
 夢野は「そうなのか?」と目で修平に問いかけると、修平は頷く。
「ここら辺に住んでる人の親戚なんて、ほとんど遠くに行ってますからね。わざわざ戻ってくるのは、たとえ家族でも稀なんです。
 うちの兄ちゃんみたいに」
 そういえば年越しなのに、修平の兄の姿はない。
 田舎だからそういうものなのかと、少しだけ寂しさを感じ、来年から久遠ヶ原に来る理子には実家に戻るように勧めようと誓う。
「本当に、今日はありがとうございました」
「ましたー」
「いや、お礼はいいさ。俺も楽しめたしな」
 こんな関係がいつまでも続けばいいと、優しげな眼で修平、海、理子、澄音に願いを込めるのであった。
「お蕎麦ができました」
「ゆめのんのおかげで豪勢に、北海シマエビたっぷりエビ天ザルソバだ」
 1尾千円のエビがごっそりと盛られている、ザルソバを運んでくる真とアルジェ。
「これが一番おいしい食べ方です」
 蕎麦湯まで持ってくる真は、なかなか粋である。
 そして年越しがいよいよ間近という時、夢野はリモコンをいじってチャンネルを回し、とりあえず適当なタレントによるカウントダウンものに合わせる。
 10、9と続くと澄音が立ち上がった。
「8!」
 続いてハンディカラオケのマイクを渡された、海が。
「7!」
 次に理子。
「6」
 近いところにいた真へと。
「5」
 アルジェへと、渡される。
「4」
 当然のように、修平に渡す。
「3」
 淳紅に。
「2」
 そして最後、夢野へ向けられる。
「1」


『明けましておめでとうございます、本年もどうぞ宜しくお願いします』







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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja0561 / 君田 夢野 / 男 / 20 / 理子の婿  】
【 ja2261 / 亀山 淳紅 / 男 / 20?/ 夢野の親友 】
【 jb3603 / アルジェ  / 女 / 12?/ 修平の大事な】
【 jb5501 / 川知 真  / 女 / 18 / ほんわか天使】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
まずは発注ありがとうございました。勝手知ったるなんとやらなメンバ―で、かなり自由に書かせていただきました。
本編ではあまり描写できないNPCとの楽しい日常を、存分に堪能していただけたでしょうか? 
またご縁がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。
snowCパーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年01月23日

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