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『雪見鍋 〜縁を確かめて寒さに備える一日〜 』
嘉瑞(ic1167)&林 于示(ic1168)&虎星(ic1227)&斯波・火懿李(ic1228)

●軍師、戦場に立つ

 夕食が鍋になると言う話を聞いて、一番最初に行動したのは斯波・火懿李(ic1228)だった。
(大食いも、大酒飲みも多いですから)
 人数分の鍋を作るという話だけれど、すぐに足らなくなるに違いない。鍋の具材も酒も、追加を要求されてもすぐに対応できるように整えておかねばならないだろう。
 ちらと広間に居る同胞達の数を数え、後からやってくるだろう者達の顔を思い浮かべる。仕事でこの場に居ない者も居る為全員揃うとまではいかないだろう。しかし全体の様子は容易に想像できる。
 火懿李の視界の隅では、既に同胞の一人が酒瓶をあけていた。漂う酒の香りに気付いた者達がすぐにそちらに引き寄せられていく。皆、酒の気配に敏感なのだ。
 敵は同胞達の腹具合。迎え撃つは鍋部隊、酒で囲い込んで、肴も添えて。補給物資の仕上げには麺も必要だろう‥‥よし、読めた。
「手配、よろしく頼むな?」
 気づいた主が火懿李に声をかける。その手には既に杯があった。
「軍師の手並みをお見せいたしましょう」
 同胞たちの戦闘能力を把握するのと同じように、各員の食の好み、酒の嗜好はしっかり脳裏に刻み込んである。
(私が居るからには、誰にも物足りないなどと言わせません)
 誰かにいいところを見せるため等ではない、これは自分のの記憶と知略を駆使した自分との戦いだ。火懿李の脳内では、静かな戦いの幕が上がっていた。
「今夜は皆で鍋にするぞ、宴会だ!」
 彼の決意の後方で、既に宴会は始まっている。

●人に酒、猫に木天蓼、酔っぱらい

「はーい♪ もー様飲んでるー?」
 酒の香りにつれられて、スキップで広間にやってきた虎星(ic1227)も同胞に差し出された杯をくぴくぴと重ねていた。
 主の近くに陣取って、共に楽し気に杯を傾ける。
 特に虎星、初っぱなからペースが早い。
「あはははは、おーいしー♪」
 笑顔が絶えないのは同胞達が居るからで、その場に自分が居るだけで楽しい気分が高まるからだ。血を分けてはいなくても、主への忠誠心で繋がっている。冬はちょっぴり寒いけど、屋敷にいれば誰かしら居るからあたたかい。
「林様もー、斯波様も飲んでるー?」
 自分が飲んでいる酒瓶を軽く振る。まだ残っているのを確認したので、周りにもお裾分けだと近い席の同胞たちから順に擦りよっていく。
「‥‥うむ」
「足らなかったら注ぐから言ってねー?」
 そんであたしにも注いでねー、とにこにこ笑顔。その虎星の顔がどんどんと赤みが増しているせいで、林 于示(ic1168)はそちらの方が気になって仕方がない。
(しゃんと歩けているし大丈夫‥‥か?)
 どう声をかければいいのかがわからず、かといって過保護なのも出過ぎた真似になってしまうだろうかと迷うせいで言葉にはならない。しかし夏の時のように溺れてからでは遅いような、だが虎星もこれでいて成人しているし‥‥等と考えはめぐるのだが。やはり無難に是非を応えるだけとなってしまった。
「十分頂いていますよ」
 火懿李の方はと言えば、意識が別のところに向けられているようす。虎星の終始楽しげな様子はいつもの事なので心配はいらないし、ここは屋敷で海ではないというのも理由だ。于示も居るから、もし虎星が酔い潰れても部屋まで運ぶだろうし問題はないというのが実際のところなのだが。
(本番はこの後ですからね)
 甘辛く味つけた肉と共に炒めた野菜、皮に肉や野菜の餡を包んで焼いたもの、黒酢をきかせた揚げ野菜等、料理も出揃い始めているが、鍋はまだだ。
 皆が火傷等もしない様、美味しく楽しくいきわたるようにしなければという気概にあふれた火懿李は、酒が不足しないようにと周囲の確認もしながら鍋の到着を待っていた。
 今も空き瓶を脇に避けたり、新たな瓶を同胞たちの方に寄せたりと世話を焼くのに忙しい、鍋が揃ったらどうなるか、それは想像に難くない。
「赤いが‥‥大丈夫か‥‥?」
 変わらずに杯を重ねていく虎星、その数が自身の重ねる数を越えたことに気づき、心配が勝った于示が尋ねる。
「大丈夫、楽しいから大丈夫だよー?」
 同じ言葉を繰り返している時点で酔っぱらい、確定だ。

●猫はお鍋に舌を巻く

 届けられた鍋からはほかほかと湯気が立ち上っている。それは美味しさを象徴しているようであり、食べたら温まるという示唆でもある。
「‥‥熱い」
 しかし于示や虎星のような猫科の神威人にしてみれば困った事でもあった。
 猫科の弱点、すなわち猫舌。
 灼けるような度数の酒を飲むことはあっても、実際の熱と話は別である。
「お鍋、まだ食べれないねー林様ー」
 手の中にある椀、それを覗き込みながら冷めるのを待つ于示。虎星もそれに倣ったようにじっと椀の中を眺めていた。
「出来立てですからね、最初のうちは仕方ありません」
 もうひとつお椀を出しておきますねと火懿李が取り分ける。食べ終わってから新しいものをとり、また食べられる温度に冷めるのを待つの繰り返しではままならない。鍋のスープも二種類あるから、椀がふたつ、交互に食べるには丁度よいだろう。
 ちなみに氷を使って冷やすという手段も可能だったのだが、それは邪道だと火懿李が断固として譲らなかった。

「そっかー林ちゃんと虎星ちゃんは熱いの苦手かー。あれ、でも辛いのは平気なんだ?」
「苦手なの?」
 虎星が首を傾げる
「んー慣れてないからかな、驚いちゃってさー」
 それでも辛味は抑えてもらってたみたいなんだけど、と言う客人の手が虎星の耳に伸ばされる。
「辛いの平気とか凄いよね、偉い偉い−」
「あははは、ありがとー?」
 頭を撫でるのではなく、耳をもふもふ。互いに酔っ払いなので何でも楽しい空気になる。くすぐったい様な感覚が虎星の楽しい気分を更に演出してくれているようで、彼女の笑顔は更に深くなった。
「林ちゃんも鬣触っていーい?」
 虎星の耳を堪能した彼は、今度は于示の鬣に目をつけたようだった。
「‥‥む‥‥」
 断る理由も特にないので、頷いた于示。待ってましたとばかりに鬣に手が伸びてきた。実際は髪と髭なのだが。ライオンの神威人だからだろうか、その質感は柔らかいものだ。だからよけいにもふもふをこよなく愛する客人の目に留まったのだろう。
 客人は、洛春邸のもふもふ網羅作戦を着実に遂行していた。

●鍋のエンディングストーリー

 尻尾騒ぎで皆の視線がそちらにばかり集められている中、嘉瑞(ic1167)も離れた方の席につく。飲むかどうかは迷ったけれど、せっかくなので少しだけ、嗜む程度に飲むことにする。
「‥‥酒に呑まれるとは情けないね‥‥」
 騒ぎの中心に向けて、呆れたような視線を投げかける、それを肴に飲むほど趣味が悪くはないつもりだが、その片方に幼馴染が関わっているせいか、どうしても視線が向かってしまう。
 自分もそれほど酒に強くはない、そういうところも彼と一緒だ。
(あんな酔い方は‥‥いいや、あんなに酔うほど飲むことはないけどね)
 それは生来の気質も関係しているけれど、今の嘉瑞はそれとは別の理由で酒の量を控えていた。
 彼と同じように酔えれば、賑やかな中にもっと溶け込めるのかもしれないけれど。それは叶わないからただ、こうして眺める。同じ場所でこうして過ごすだけでも楽しい気分は分かち合える。
「おや?」
 主の声に視線を向ければ、その視線と目があった。ぱちりと瞬きをしているから、自分がここに来ているという事に驚いたのかもしれない。
(あまり大勢で騒がしいのは好かない、そういう風に見せていたかな)
 誤解なのだが、その方が都合がよかったので訂正もしないでいた。
「皆、嘉瑞が来たぞ!」
 ふわふわと笑う主が皆の気をひく。そのまま同胞たちの視線が自分に集まっていく。
「参りましたね」
 つい皮肉を言ってしまうが、別に悪い気はしない。
「嘉瑞ー、椎茸、しいたけ食べようー!」
 幼馴染が駆け寄ってくる。さっきまで尻尾にかじりつかれていたはずなのだが、特にダメージを受けている様子はなかった。まあ怪我をしたとしても自分で治せるだろうからと深く考えないことにする。
「きみ、昔からそんなに好きだったっけ、茸」
「しいたけ、美味しいだろ?」
 幼馴染だからだろう、酔っていても崩れない口調が、自分を相手にするときだけ昔のものに近くなる。ついつい、自分も彼に甘えて言葉を過ぎてしまう傾向があるのは自覚しているけれど。
「嫌い‥‥じゃあないけど?」
 火懿李がよそってくれた椀の鍋にも手を付ける。茸も多く用いられた中にある椎茸を探し出す。
「‥‥まあ、悪くないね」
 素直に、この場所の空気が楽しいと言わない代わりに。
「嘉瑞」
 二人のやり取りを見ていた主に名を呼ばれる。視線を合わせれば、どこか気恥ずかしそうな様子の主が映った。
「‥‥そんなに飲んでない‥‥筈だぞ?」
 片付け等に気を回すものが多いおかげで、誰がどれほど飲んだかは一見わからない。彼女も言うほどは飲んでいないのだろう。それは勿論わかった上で。
「殿の事、とはだれも言っておりませんよ?」
 くすりと笑う。これ位の皮肉も許容してくれる主だからこそ、この場所は心地いい。

 鍋がひとごこちつくと、火懿李の手元もやっと落ち着いてきた。
「お疲れ様だな」
「ありがとうございます、殿」
 すかさず労いの酌をしてくれた主にも返杯。改めて乾杯し飲み干す。
(充実感とはこういったことを言うのでしょうね)
 まだ宴会そのものが終わった訳ではないのだが、火懿李の胸には達成感があった。料理の支度はになってくれた同胞たちの技術によるところが大きいけれど、材料の不足は特に言われなかった。酒の種類や量も、次を急かされるようなことにはならなかったと思う。
(もちろん最後まで気は抜けませんが)
 自分の為に時間をとってもいい頃合いだろう。鍋奉行をしながらも料理をつまんではいたから完全に自分を後回しにしていたわけではないが。やはり落ち着いて食べるのと、片手間に食べるのでは違うものなのだ。
 残り物には福があるという説もあるが、火懿李はじっくりと煮込んで味を染み込ませた具材を好んでいた。その味に至るまでに様々な下拵えや、具材同士の相性とバランス、それらの過程を全て凝縮した味わいはまた格別なのだ‥‥きめ細かく組み上げた戦術、その通りに進められた作戦の先にある勝利と同じくらいに。
「殿は鍋の〆に麺でよろしいですか?」
 勿論それを独り占めするようなことはしない。火懿李が求めているものの一番は達成感であって、成果、この場合で言うところの鍋の具はあくまでも結果の副産物なのだ。
「うん、楽しみだ!」
「なになに、どうしたのー?」
 笑顔の主の様子に、虎星の跳ねるような声が続く。結果的に同胞達の視線が火懿李の目の前の鍋に集まった。
「鍋の最後といったらこれでしょう?」
 凝縮した味を最大限に楽しむ手段として、これは欠かしてはならないと思うのは鍋奉行の性だろうか。
「‥‥つけ麺、という手も‥‥」
「それなら確かに熱さも避けられそうだなー」
 于示の提案に猫科の同胞達が頷く。麺は冷たく、スープだけ温めなおす形にしても楽しめそうだ。
「俺は辛くない方のでよろしくね」
 こちらは客人の声。彼には白湯の方で煮込んだ麺を出すことにしようと火懿李は脳裏に刻む。
「椎茸まだ残ってますかあー? 人参でもいいですけどー」
「それどういう意味かな」
 終始椎茸を主張していた彼には嘉瑞の指摘が飛んだ。嘉瑞が神威人であることを隠しておきたい事は知っているので、それを知っている者達は揃って聞こえないふりをしておいた。
「雑炊の方は、こちらの鍋でやりましょうか」
「手伝います‥‥そろそろ離しませんか」
 料理の支度を手伝ってくれていた同胞達が別の鍋に取り掛かろうと足を向ける。ふわふわの尻尾が自慢の同胞には、まだ抱き付いたままの者がいるようだ。
「やだ、まだもふもふするーぅ」
 多分、彼女は厨房まで引き摺られることになるのだろう。

●同胞達

「ねーねー林様、雪だよ、雪!」
 外を指さし声をあげる虎星。雪がちらちらと、広間から見える洛春邸の庭に積もろうとしていた。いつの間に降り始めていたのだろう。
「赤み‥‥減ったな」
 白が広がっていこうとしている外の景色を見た後に、虎星の顔を見る。酔いがさめたのかどうかはわからないが、彼女の頬の赤みは落ち着いてきていた。これなら倒れることもないだろうと一息ついて、改めて降る雪へと視線を戻す。
「‥‥此処は、賑やかで温かいから‥‥離れるのが、寂しくなりますよね」
 ぽつりとこぼれた嘉瑞の言葉。丁度傍に居た者達には聞こえていたようだった。
「同胞達‥‥いるから、な」
「皆が皆ずっとずっと一緒♪ エヘヘ♪」
 虎星が于示の言葉をさらに盛り上げようと彼の周りをぐるぐると回る。
「嘉瑞だって私達の仲間、同胞だろう」
「そうそう、殿の言う通りですよ!」
 主に賛同する幼馴染はいつもの口調に戻っている。流石に今は椎茸を言わないんだな、と、内心では皆が思っているのだろう。誰も口にはしないけれど。
「離れではなく、母屋で過ごせばいいと申し上げていますのに」
 今からでもどうですかと本腰を入れて持ちかける火懿李には小さく笑って誤魔化した。
「独り言ですよ。聞かない振りしといてください」
 わざとらしくそう言ってから。
「なんて、冗談ですよ」
 もう一度、笑った。

 年の瀬に降る雪が、温かな人達のつながりを抱える洛春邸を、優しく包み込んでいく。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ic1167 / 嘉瑞 / 男 / 21歳 / 武僧 / 線の向こう側】
【ic1168 / 林 于示 / 男 / 48歳 / 泰拳士 / 静かなる護衛】
【ic1227 / 虎星 / 女 / 13歳 / サムライ / ムードメイカー】
【ic1228 / 斯波・火懿李 / 男 / 30歳 / 砲術士 / 鍋軍師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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夏に引き続きご縁をいただきまして、今回も楽しく書かせていただきました。
計11名、合わせでのご発注ということもあり、出来る限りの趣向を凝らしてみましたが、皆様のご希望に添えていれば幸いです。

発注内容や口調、イメージとの相違などありましたら、お手数をおかけいたしますがリテイクをお願いいたします。
ご発注ありがとうございました!
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舵天照 -DTS-
2015年01月23日

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