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『初日の出。目覚める気持ち 』
猫野・宮子ja0024)&ALjb4583

「はっつひっのでっ♪ はっつひっのでっ♪」
 猫野・宮子(ja0024)が、浮かれた声を上げながら、夜の道を歩いていく。
 いつも以上に上機嫌なのは、新年が明けたばかりなのと、たっぷりと仮眠を取ったとはいえ夜をふかしているせいもあるのだろう。
「ALくん、間に合うかな?」
「はい。この時間であれば十分間に合うはずですよ」
 振り向き、後ろをついてくるAL(jb4583)に問う。ALは、穏やかな声で答えた。
 念のためにと、スマートフォンで時間を確認する。実際のところ、目的の場所で初日の出を迎えるには、まだ十分の余裕があった。
 ……正直を言えば、早すぎる。
 冬の季候を考えれば、もう少し旅館で時間を過ごしてから移動を開始すべきである。
 だが、暗い、慣れぬ道で予測どおりの時間にたどり着けるかという不安と。
 それ以上に、楽しいイベントを前にこれ以上じっとしているのに耐えられないという想いが、二人を予定よりも速く旅館から連れ出していた。
 ……とはいえ、観光地にある旅館、から、海へと向かう道がそれほど複雑なわけもなく。
「あ、着いた、ね……」
 目的の海岸へは、あっさりと到達してしまう。……予測どおり、日の出の予定時刻よりは大分早い時間に。
「……同じ海でも、夏と冬じゃ、やっぱり全然違う、ね」
 白い息を吐きながら宮子がいうと、ALも頷く。
 二人が今訪れているのは、夏にも来た海。そして夏にも来た旅館だった。
 海水浴を楽しむ客で賑わい、夏の日差しに輝いていた海は、今は、暗闇の中おぼろげに白い砂浜が浮かび上がり、ただ静かに波の音を奏でるだけだ。
 時間を持て余し、それでもしばらくは夏の思い出で話は盛り上がった。
 あんなことをした、こんなハプニングがあった。
 思い出せば赤面するような場面もあったけど、そんな赤い顔すら良く見えないような暗闇。
 しゃべる間中、二人の表情から笑顔が消えることはなかったけど。
 そんな思い出話が尽きてなお、水平線の向こうは未だ何か変化を見せる兆しはない。
「ん、ちょっと早く来すぎちゃったかな? 旅館でもう少し待ってればよかったね」
 そうして。
 ようやく認めざるをえないその事実を、宮子がとうとう口にする。
「ああ、いえ、でもほら、間に合わなかったり、あのまま旅館に居て、うっかり朝まで眠ってしまうよりましですしっ!」
 ALが慌ててフォローするその言葉に、「う、うん」と、宮子はまだやや焦りを含んだ声で頷くものの。
 冬の海。遊ぶことなど勿論適わなければ、景色もロクに変化しない。
 おまけに話す内容も尽きたとくれば。
 気を紛らわすものがない。
 ……となると。
「流石にこの時期は寒いんだよ。厚着はしてきたんだけど」
 端的に結論を言おう。
 滅茶苦茶寒い。
 十分に厚着をしてきたつもりでも、海から風が吹いてくるその度に、体の熱がさらわれていく。
 身体を縮めて震わせる宮子は、いつも以上に小さくて、本当に寒そうで。
 ――……夏の思い出話をしながら、ALはずっと考えていた。
 そう言えば、季節ごとにこうして二人で過ごすことが増えてきたのだなあ、と。
 いつしか、こうして二人で過ごすことが当たり前になるのだろうか。なったのだろうか。
 ……ずっとこのままで、いられるだろうか。

 ずっと、このまま……――?
 仲のいい、先輩と、後輩と、して……――?

 浮かんだ思考を。
 その意味を。
 このときはっきりとALは理解していたわけではなかった。
 ただ、体は勝手に、動いていた。
「……こうしていれば、少しは?」
 気付けばALは、宮子のことを背後から、その小さな身体をすっぽり覆うように抱きしめて。
 そしてごく自然に、耳元に囁いていた。
「……わっ、あ、ALくん!?」
 宮子が驚いた声を上げて、ビクリと身体を緊張させる。反射的に、己を抱きしめる腕に手を添えると、抱きしめる力が、ほんの少しだけ強くなる。
 ――……お嫌ですか?
 咄嗟に引き剥がしに来た手を拒否するそれは、無言の問いかけ。
 何故か。自分でも分からないまま宮子はそっと手を下ろし、体の力を抜いた。
 暗闇。
 聞こえるのはただ波の音と、互いの吐息。心臓の音。
 夜明け前の一番昏い景色の中、相手の体温がやけにはっきりと感じられる。
 何も考えられなくて。
 それも気にならなくて。
 そのまま、どれほどそうしていたのだろう。
 ゆっくりと海の端から、光が零れるように広がっていく。
「「あ……――」」
 抱きしめた体勢のままの二人の声が重なる。
 海にゆらゆらとその身を映しながら登っていく太陽。
 さざなみ立つ海面は、光を黄金のようにきらきらと反射して。
 紺色の空が茜に焼けながら、ゆっくりと澄み渡っていく。
 年の初め、初めて登る朝日。
「綺麗、だね……」
「綺麗、ですね……」
 呆然と呟いて、朝焼けの空が終わるころ。
 ずっと抱き合った体勢のままでいることを、二人はようやっと自覚した。
 明るくなった空の下。二人、改めて顔を合わせる。
 朝焼けの頃はもう過ぎて。真っ赤な顔は、そのせいには出来ない。
「――……す」
「初日の出、綺麗だったねー!」
 謝ろうとするALの声を遮るように、宮子が声を上げた。
「それと……ええと、温めてくれて、あ、ありがとうね」
 そのまま、ALの声が戻る前に続けられた言葉に、ALは謝罪の言葉を嚥下する。
(ああ……そうか。この気持ちは)
 胸を締め付けるような切なさと、宮子の笑顔の温かさ。
 心地よさと、苦しさが同居するこの気持ちの正体は。
(恋心、なんですね)
 今。漸く静かにALは、自分の気持ちを認めつつあった。
 正直なところ、初めての感情で、まだ確信は持てないのだけど。
「――宮子様」
「ん?」
「今年の抱負は……僕は、もう少し自分に正直になろうと思います」
「え? 何。どういうこと?」
「それは……ふふ、秘密です」
 良く分かっていない感じの宮子の問い返しに、ALは穏やかな笑みで……しかし、赤みの引きかけた頬を再び紅潮させながら濁す。
 そうして二人。やはり、何故か分からないまま、自然に手を繋いで、旅館への道を引き返していくのだった。



 暗いときに簡単にたどれた道だ。帰り道も、なんなくして旅館にたどり着く。
 時間はまだ早朝。朝ごはんは、もう少し後にしても大丈夫そうだが……。
「一回、温泉であったまろっか? 流石に……やっぱり、体の中がまだ、冷えてるかな?」
 抱き合って暖めあってたとはいえ一度は芯まで冷え切った身体だ。ALもまだ体に寒気が残っているのを実感する。
「そうですね。では、お風呂の後に一緒にご飯にしましょう」
 そう言ってお互い頷きあって、そうして、部屋の向こうに宮子は引っ込んでいく。
 ……夏に、何が失敗だったのか。宮子はきちんと理解して、旅館には今度こそ「女子一名、男子一名です」と伝えてある。
 それで旅館がへんに気を回すことはなく、今度こそ、ふすまで仕切られたそれぞれに布団が用意されていた。
 簡単に、湯浴みの準備をして。やっぱり、ほんのり眠気があるせいの上機嫌で、宮子は鼻歌交じりに朝もまだ開いている温泉へと足を運ぶ。
 思えばALと二人で出かけるたび、割と良く何らかのトラブルが生じている気がするのだけど……今回のイベントは、何事もなく終われるだろうか。
(いやまあ……いきなり抱きしめられたことが、驚きといえば驚きだけど……)
 そんなことをぼんやりと考えながら、軽く身体をすすぎ、湯船へと向かう。
 あれ、先客が居るのか。なーんかALくんに良く似た桃色の髪……。
「ってあれ!? ALくん!?」
「え、ええ!? 宮子様!?」
 宮子の声に驚き振り向く人物は間違いなくALだった。
 何故? 間違えた? いや、自分は間違いなく暖簾を確認して入り口をくぐったし、脱衣場には誰もいる気配はなかった。ということは……。
「え、こ、混浴だったの!?」
「此処は混浴……なのですか?!」
 二人同時にその結論に達し、声をあげ。ALは慌てて、再び背中を向ける。
「はあ……結局また、ハプニングになっちゃうね」
 困ったような声で。でもどこか楽しそうに、宮子がくすりと笑う。
 驚きながらも、怒ったりないてたりはしていない様子が、背中越しにALに伝わって。
 ALはぐっと、先ほど決意した抱負を思い出して、話しかける。
「その……宮子様が……御一緒しても宜しければ……」
「え?」
「このまま、二人で一緒に入りませんか……? あ、ああ勿論、タオルなどで隠していただいて」
 それは、いままでこうしたハプニングの際にALが見せてきたものとは違う、少し、強気な声。
 驚きながら……それを受け入れつつある自分にも、宮子は驚いていた。
 そして。
「うん……せっかくだから、そうしよっか」
 そう答えて、宮子もゆっくりと、湯船に身体を沈めていく。
「ALくん……今年も一年、よろしくね」
「はい。よろしく……お願いいたします」
 ひそやかに交わす声。
 体が温まると共に、深夜から寒い海に出かけていた疲労が、ゆっくりと滲み出してくる。
 朝ごはんを食べたら、一眠りしよう。
 それから……。
 それから、何をしようか。
 ……何でもいい。ゆっくり、二人で考えれば。
 時間はまだ、たっぷりある。二人で過ごす時間は、きっと、これからも――

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0024 / 猫野・宮子 / 女 / 14 / 鬼道忍軍】
【jb4583 / AL / 女 / 13 / ダアト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございます。
ALくんが感じられているように、お二方の季節ノベルを書かせて頂くのもだんだん恒例になってきた……
というのは、流石に出すぎた言い分だとは思いますが。
かかせていただく度に、少しずつ進展していくお二方に、こちらも幸せな気持ちにさせていただいています。
毎度ありがとうございます。不服はいつでも、気軽にお申し付けくださいませ。
snowCパーティノベル -
凪池 シリル クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年01月28日

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