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『雪織りの絆 』
砂原・ジェンティアン・竜胆jb7192)&和紗・S・ルフトハイトjb6970

 年が明け、新年。冬はいよいよ本番といったところだろうか。
 木の葉を揺らす風は昨年よりいっそう寒々しく、服を着込んでいてもなお冷気を感じる。
「流石に寒いですね」
 いつの間にか、窓の外では雪が降っていた。
 はらはらと舞い散る白を眺めながら、樒 和紗(jb6970)は傍らで紅茶を啜るはとこ――砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)に言った。
「そうだね」
 竜胆は、懐かしむ眼差しで空を見た。
 不思議そうに目を向けた和紗は、小さく竜胆を呼ぶ。
「竜胆兄?」
「ちょっと、思い出してさ。僕らが初めて出逢った日も、雪の日だったから」
 その声に滲む優しい音が、和紗の胸を擽る。
 雪の日。
 あれからどれ位経っただろう。
 その日から積み重ねてきた互いの絆は、果たしてどれ程になっただろう。



 和紗の祖母と竜胆の祖父は兄妹関係にあった。
 つまり、二人ははとこというわけだ。
 彼女と彼が初めて出逢ったのは、和紗の家――大阪の屋敷。
 雪がはらはらと降る庭を見ながら廊下を歩いていた竜胆は、部屋から聴こえる小さなくしゃみで和紗に気が付いた。
 幼い和紗は病弱で、外を出歩くことが出来ないでいた。
 布団の中で臥せる和紗は弱弱しく、竜胆の目にはひどく儚げに見えた。
 くしゃみに続いて、その子は小さな咳をした。発作で苦しみ、息を切らしているのにも関わらず声を押し殺して耐える幼子。子どもには辛いだろうに、それを見せまいと必死になって口許を押さえていた。
 和紗はそういう子だった。いつだって声を殺して、いつだって我慢して、いつだって誰かに頼ることはせず、そうして過ごしてきていた。
 竜胆は、子ども心に思った。
「もっと甘えたらいいのに」
 思った言葉は口に出た。その発言に驚き、そして戸惑いを覘かせた和紗の顔を、彼は今でも覚えている。
 和紗は判らなかったのだ。甘えるという行為が。男子として育てられる中で、弱音を吐くことは許されないと思っていた。病弱だからこそ、その辛さを表に出さないようつとめた。静かに雪が降るような日は、声を響かせないよう、尚更。
 だから和紗は強くあろうとした。身体はその気持ちについて来れずにいたけれど、心だけは強く、そして凛々しくあろうとした。
 はじめは同情で接していた。身体が弱くて、可哀想な子。弱音を押し殺すことしか知らない、憐れな子。
 けれど竜胆はいつの間にか、和紗のその健気さと、素直さに心を奪われていた。
 そうして彼は暇さえあれば和紗の部屋に足を運んで、時には介抱し、時には話相手となった。
 彼女の知らない小学校のこと。同い年の子が集まって授業を受ける『学校』を、和紗は知らなかった。
 雪遊びのこと。空から落ちて白く降り積もる雪が冷たい氷の結晶だということを、和紗は知らなかった。
 おいしい食べ物のこと。好きなもの嫌いなもの、食べたことがあるものないもの、雪の結晶のような形をした金平糖の話。甘いものが苦手な竜胆はあまり好きではないと言ったけれど、和紗は興味を示したようだった。

 ――色んなことを話した。

 ある時は学校の教科書を持ち込んで、和紗に見せた。彼女が知りたいと言った事柄に対しては竜胆も一緒になって辞書や資料で調べて、学んで、二人だけのノートを作った。
 雪がこんもりと積もった日には、大人に内緒で雪うさぎを作って、和紗に見せにいった。生真面目な彼女は室温で溶け始めたそれを見て困った顔をして、竜胆は慌てて外にうさぎを還しにいったものだ。
 色とりどりの金平糖を貰った日にも勿論和紗のもとを訪れた。ちいさくて可愛らしい金平糖を指先で転がして、まるでおはじきのようだと二人でほほ笑んだ。甘い一粒を食べた和紗は、その砂糖菓子の甘さに目を丸くして驚いていた。
 竜胆がスケッチブックを部屋に持ち込んで、一緒になって絵を描いたこともある。子どもでありながら非常に優れた絵心の持ち主であった和紗は、部屋の中ばかりでは中々見れない外の世界を色鮮やかに描き、竜胆を驚かせた。
 逆に、彼が歌をうたい、和紗をとても驚かせたことだってある。大人たちに気付かれないようひそめた声量ではあったものの、優しく、そしてやわらかな歌声は和紗の心を揺らした。悪夢に魘される和紗を救い出したのは、竜胆の声であった。

 次第に和紗は、そんな竜胆の優しさに触れ、ゆっくりと、けれど確実に心を開いていった。
 発作の苦しさを声を殺して耐えていたのに、気付いてくれたこと。甘えれば良いと笑って優しく接し続けてくれたこと。幼い和紗の誰よりも傍にいて、冬のあたたかさを教えてくれたこと。
 和紗にとって竜胆は、表立っては絶対に言わないけれど、誰よりも信頼している存在になった。
「女の子だと知った時は驚いたよね」
 冗談めかして笑いながら言う竜胆に、和紗はじっと見詰めて返す。
「女で悪かったですか?」
 勿論、性別がどちらだとしても彼は変わらないと、判っていた。
 幼い頃、竜胆は和紗が男の子だと思っていた。それもその筈、彼女は中学入学時まで男として育てられていた為だ。
 女だと判っても、竜胆にとって和紗が大切なはとこであることは変わらない。
 中々他者に心を許さない彼にとって、彼女は特別な存在だった。
 久遠ヶ原にやって来たほんとうの理由は、そこにある。
 ――和紗を護りたい。
 それが、竜胆の想い。誰にも言わない、真の願い。
 まるで恋人の誓いめいた想いであれ、竜胆は和紗に対して恋愛感情を抱いているわけではない。今後もきっと無いけれど、彼女を託せる存在が現れるまでは、傍にいて護ろうと心に決めている。
 竜胆にとって彼女は雪のように儚く、そうして清廉な存在。
 目に入れても痛くない程に可愛い、大切なはとこ。
「俺の顔に何かついてますか?」
「ううん。和紗が元気になって良かったなって」
「大分昔の話じゃないですか」
 懐かしむ過去を二人で共有しているという事実に、ほのかに胸の奥があたたまる。
 それはずっと変わらない。和紗にとっても、これまで過ごした日々と、これからの未来は宝物だ。
 幼い頃の言葉通り優しくあり続けた竜胆には感謝でいっぱいで、想いは言葉にし尽くせない。それを口にすれば調子に乗る彼だから、和紗は心の内にその想いを留めるのだ。
「竜胆兄は心配症なんです。……まあ、それもらしいとは思いますけどね」
 ふ、と和紗の表情が弛む。竜胆は、その瞬間がとても好きだった。
 いつでも彼女がそんな穏やかな顔をしていればいいとさえ思う。
 たとえ今はそれが叶わぬ世界でも、いつかそれが叶う日が来れば良い。
 ――竜胆の長く伸ばした金髪は、願掛けだ。
 和紗を護る誓いを篭めたおまじない。彼女が聴いたら笑うかも知れない。竜胆にとっては、そんな想像も悪くない。
 いつか彼女が手を取る存在が現れるまで、彼はその傍に在り続ける。
 それが静かな誓いであり、願いでもある。
 和紗を取り巻くすべてが穏やかであるように、竜胆は祈る。
 そうして彼女は、兄と慕う彼の優しさに心を委ね、宝石のように目映い日々を過ごすのだ。



 互いに固い絆で結ばれている、二人。
 やわらかなぬくもりが繋ぐ彼女と過ごす久遠ヶ原の冬は、優しい。
「今年も宜しく」
「こちらこそ宜しくお願いします」
 交わし合う挨拶は、これからもきっと変わらない。
 たとえ世界が巡り何が変わろうとも、二人の絆は揺らがない。
 あの時と変わらずちらつく雪の花が、そう予感させた。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb7192 / 砂原・ジェンティアン・竜胆 / 男 / 21歳 /  アストラルヴァンガード】
【jb6970 / 樒 和紗 / 女 / 17歳 / インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 今回はどうも有難う御座いました、相沢です。
 雪が織り成す思い出のかけら。紡ぎ合う大切な繋がり。
 アドリブOKとのことでしたので、ちょこちょこと入れさせていただきました。お気に召していただければ幸いです!
 冬を過ごす二人のあたたかな関係性。書きながらほっこりとした気分になりました。
 それでは、ご依頼有難う御座いました。機会がありましたら、またどうぞ宜しくお願いします!
snowCパーティノベル -
相沢 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年01月29日

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