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『絆と掬ぶ 』
マクシミオ・アレクサンダーja2145)&ロドルフォ・リウッツィjb5648

 華やかな彩りが街から消え去り、流れていたクリスマスソングはどこへやら、あっという間に年末の物寂しい雰囲気へと世間は移り変わっていた。浮かれ切った赤と緑のコントラストはきれいに消え去り、恰幅の良い白髭の爺の姿だってない。
 テレビはと言えばもうすっかり新年を迎える気満々で、コマーシャルは新年特番だの、鹿威しが小気味良い音を起てるばかり。特に興味のそそられるものもなく、毎年目新しいものもない。独特の静けさを孕むこの季節が彼はあまり好きではなかった。
 彼、――マクシミオ・アレクサンダー(ja2145)。
 哀愁漂う街並みに憂いを馳せながら、マクシミオはテレビの電源を落とす。といっても、特にやるべきことがあるわけでもない。起きないやる気と相俟って下る気分は底知らずで、沈む理由ははっきりと判っていた。――胸中渦巻く悩み事。詮無い話で、解決策も早々には見付からない話。
 欠伸をひとつ。持て余す思考と時間をどうしたものかと思いを巡らせたところで、ノックの音がした。
「誰だよ――、……って」
「よ、マクシ。暇してたって顔してるな」
 開いたドアの向こうで爽やかに笑っているのは、それなりに付き合いの長い悪友、ロドルフォ・リウッツィ(jb5648)。
 着込んだ防寒具は外の寒さを予感させ、入り込んできた外気にマクシミオは思わず身震いする。気付かなかったが、外は夕暮れ時。陽は沈み、星が空に瞬き始める頃合いだ。
 ここのところ落ち込んだように見えるマクシミオを、ロドルフォは彼なりに心配していた。
 何が理由で気落ちしているのかは知らずとも、前へ進む為の手助けをしたいと思う。遣り方は色々。けれど一先ずは、気分を上げる為にもうまいものでも食べに行こう――それがロドルフォの考え。彼の見本となった人間、イタリア人の老夫婦も恐らくはそうするだろう。
 マクシミオとて、友の気遣いが判らぬ男ではない。労わりの空気は肌で感じる。
「暇って訳じゃねェよ」
「嘘吐け。大丈夫大丈夫、少しだけだから、少しだけ」
「厭何がだよ」
 こんな、要領を攫ませない強引なやり取りも嫌いじゃあない。
 良いから早く支度しろよ、と朗らかに笑う色男にマクシミオは思わず破顔する。
「家に篭ってたって勿体無いだろ。飯のついでに外に出てみないか」
 ロドルフォの誘いに、マクシミオは人を警戒する獣のように目を細め――暫くの間を挟み、それから渋々といった様子で頷いた。
 家に篭り切りで何か得られるものがあるかと言えばかさを増す悩みくらい。
 特に忙しいわけでも、外に出たくない理由があるわけでもない。
 かくてマクシミオはロドルフォの急かす声を半ば聞き流しつつ、ゆっくりと出掛け支度を始めた。



 男二人でワイングラスを交わし、薄切りのプロシュットを肴に風味を楽しむ。
 それはささやかな忘年会、といったていだった。
 近場で見付けた、ロドルフォのお気に入りのイタリアン。パーテーションで区切られた席は広くはないが、狭くもなくて居心地が良い。店内で流れるBGMは気取らず、店員も過干渉をせずに客のプライベート・ラインを護ってくれる。
「良い店だな」
「だろ? 美味いし、何よりワインの種類も豊富なんだ」
 レギュラーメニューとは分けて用意されている、ワインの御品書き。
 それを手に、慣れた様子で店員を呼んだロドルフォはひとつ新しく注文してグラスを空けた。
 プロシュットに続いて、新鮮なトマトとモッツァレラチーズを合わせたカプレーゼ、鮮やかな赤が綺麗な牛ヒレ肉を並べたカルパッチョ、白ワインのかおりが食欲をそそる魚介豊富なアクアパッツア……等、様々な料理がテーブルの上に並べられていく。
 前菜のとろけるような肉の甘さを舌で味わいつつ、ロドルフォは届けられた白ワインを注いだグラスをマクシミオの許に置いた。ボトルは手許にキープ、いつでも注ぎ足す準備は万端だ。
「俺のとっておきの酒だ。呑み易さと旨さは保障するぜ?」
「へェ」
 グラスに注がれたワインは僅かな波をたてて、二人の相貌を映し出す。
 その名は、ラクリマ・クリスティ。――キリストの涙を口にした彼がどうか泣けますようにと、ロドルフォが願いを込めたのは、当人には秘密。
 マクシミオがくいとグラスを傾けると、予想以上に甘口、そして非常に呑み易い。また一口、また一口、と飲んでいく内に、あっという間にグラスは空になった。
 空になれば満たし、空になれば満たし。繰り返すこと数回、ボトルの中身はどれ程かさが減っただろうか。
 ――気付けば、マクシミオはすっかり酔いが回っていた。
 彼の溜め込んで口に出せない性格は承知の上。ロドルフォが計ったものだ。正気では溜め込んでしまうなら、その枷を外してやればいい。
 天使とハーフの違いはあれど、仲の良い親友同士。互いに深い悩みも打ち明ける間柄であるからこそ、ロドルフォは肩の力を抜いて欲しいと思った。
 マクシミオはと言えば、軽い気持ちだった。旨いというから、飲んだだけ。心を許す友の誘いに、警戒心を解いていたこともある。だから、容易く酔った。いささか照明の暗い店内の空気も、マクシミオの酔いを加速させた。
「……でよォ。俺は、困ってるんだって。別にどうこうしたい訳じゃねェ。唯、在り方とか、関係の持ち方とか、今まで負って来たモンとかそう言うのへのケリの付け方とか……」
 喋り出したマクシミオは声音こそ平坦だったが、目は完全に据わっていた。
 そも、ノンストップ。せきを切ったかのように語り出す言葉は止め処を知らない。
 次第に声に涙が滲み始めたのは気の所為ではあるまい。よくよくロドルフォがマクシミオを見ると、目は潤んで決壊寸前。泣き出すのは時間の問題だろう。
 彼にとっての実父であり、長らく兄と慕ってきた天使との関係に悩むマクシミオ。その父をロドルフォはよく知っており、だからこそこうして愚痴を聴ける間柄でもある。
 マクシミオにとって過去は傷に塗れていた。
 幼少から生家を離れ貴族の家を盥回しにされ、赤毛という理由で理不尽な虐めを受けたり、その他何かにつけて誰かしらから傷を与えられた記憶には事欠かない。その傷たちは未だ生々しくマクシミオの心に残っており、今一歩という瞬間に踏み出すことを躊躇わせる要因となっている。
 元凶とも言える実父を彼が恨むまいと思っていることを、ロドルフォは知っている。そして結局恨んでしまうことを否定出来ない自身を責め、嫌悪していることだって判っている。そういう男なのだ、マクシミオは。
「どうしようも無くネガネガしいな」
「悪ィかよ……」
 ばっさりと言い切るロドルフォにたじろいだマクシミオだったが、その表情はやや不貞腐れている。どんな言葉が向けられるのかと恐れ、脅え、けれどほんの少し期待している。それはロドルフォを信用しているからこそ向けられる眼差しだと判っているから、金髪の天使はふっと笑った。
 懐疑的で、猜疑的で、その癖心を寄せた者を否定することも出来ない優しい男。
 こうして本音を打ち明けることが信頼の何よりの証拠。弱さと強さを内包するその姿を彼が放って置けないのは、結局のところマクシミオが彼を友として強く認めているからなのだろう。
「それもお前なんだ。よく考えて、よく悩んで、後悔しないようにすりゃあ良い」
 ぽん、と頭を撫でると、マクシミオは暫し目を丸くして黙り込んでいたが、ぼろりと一粒涙をこぼして嗚咽を洩らした。
 ――認めて貰うこと。許して貰うこと。委ねて貰うこと。見守られること。
 対等な立場。それでいて、欲しかった情を与える友。それがどんなに優しくて、どんなにあたたかいかはこの身で改めて判った。
 ロドルフォが懐から取り出したハンカチで乱雑に顔を拭ってやると、マクシミオは表情を崩して不器用に笑った。



 泣き出した26歳独身男性(198cm)は、ぐすぐす鼻を鳴らしながら尚もワインを飲む。
 涙を流したそばからキリストの涙を呑むなんて、と思わず笑いそうになるロドルフォだが、そこは耐える。
 何せ、友人が酔いに任せてとはいえ泣いているのだ。慰めてどうにかなる問題ではないのは重々承知しているからこそ、話を聴くことが重要であるようにも思えた。
「お前」
「ん?」
 泣き顔が歳不相応に幼く見えて、ロドルフォは伸ばした手で赤毛を撫でる。
 赤毛が理由で虐められた過去を持つマクシミオには口に出して言うことはしないけれど、ロドルフォはそれをきれいな赤だな、と思う。
「俺の事シュトラッサーにしてくれよォ」
「阿呆」
 冗談だと判っているからこそ、髪を撫でる手は拳骨に変わった。ごつん。頭蓋を揺らすツッコミに、マクシミオは表情を崩して気を抜いた笑みを浮かべる。
「痛ェ」
「馬鹿な事言ってないで、そろそろ出るぞ」
「ロドー、冷てェ事言うなよ」
 ぐすとさらに鼻をすすってロドルフォに伸し掛かる姿は、さながら大型犬。
 酔っ払いが預ける体躯は体格差から若干重いが、懐かれていること自体は悪くない。
 宥めるように再び頭を撫でてやりつつ、ロドルフォは隊長――友の父を、一発殴っておこうと心に決めた。

 外に出ると、すっかり夜は更けていた。
 アルコールで火照る身体には丁度良い夜風が肌をくすぐり、二人は並んで空を見る。
 いつだって変わらぬ空を、いつだって変わらぬ友と、一緒に。

 互いの傍らに在り続ける不変の絆を携えて、帰路へと着いた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2145 / マクシミオ・アレクサンダー / 男 / 26歳 /  アストラルヴァンガード】
【jb5648 / ロドルフォ・リウッツィ / 男 / 20歳 / ルインズブレイド】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 今回はどうも有難う御座いました、相沢です。
 変わらないもの。揺らがないもの。互いを想い合う心は一本の線に繋がりますね。相手を労わる優しさ、心配りの前に種族は関係ありません。
 それでは、ご依頼有難う御座いました。機会がありましたら、またどうぞ宜しくお願いします!
snowCパーティノベル -
相沢 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年02月02日

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