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『雪の一夜の過ごし方 』
トライフ・A・アルヴァインka0657)&エジヴァ・カラウィンka0260)&シャトンka3198

●寒色

 煙草の甘い香り程度じゃ紛れない寒気と痛みが、感じる冷気を更に色濃いものにする。
 ――ツキン
(……くそっ)
 こういう時は耐えてもどうにもならない。一番の薬は暖を取ることだ……暖炉の火ではなく、人の肌が与えてくれる熱で。
「行くか」
 空を仰いだトライフ・A・アルヴァイン(ka0657)は家路を急ぐのを辞めた。帰るのではなく、通うのに慣れた道へと足を向ける。
「今日は何に……」
 行きがけの花屋も今は生花の扱いが減っていた。造花という手もあるにはあるが、それでは形が残ってしまう。
 贈るなら消え物が一番だ。今宵の宿に限った話ではなく、自分が求める関係を思えば。
 薦められたのはレースのような花弁を持った甘い香りの白い花。彼女の髪の柔らかさを思いだしてすぐにそれと決める。束にするほど多くなくていい。ただほんの一晩部屋を賑やかす程度でいいのだ。
 リボンを添えた花と共に抱えるのは喉を潤す葡萄酒と、それに合わせたつまむもの。なるべく近い酒場で包んでもらえば、いつもの体の完成だ。
 まだ温かい肴だけれど、トライフの求める温もりには程遠い。足早に、目指す家へと向かっていく。

 コンコン。
 微睡みを遮る硬質な音に、ぴくりと体を震わせる。家主が帰ってきたのかと思ったが、エジヴァ・カラウィン(ka0260)ならノックなどしないはずだ。ならば誰が来たのかと、いまだ寝ぼけた頭でシャトン(ka3198)は考える。
(客を呼ぶなんて聞いてねぇし)
 今、エジヴァは買い物に出ている。
 そもそも、麗しの女将に会うなら店で会えばいいはずだ。大抵の客は店で笑い酒を勧める彼女に心身ともに骨抜きになって、それで満足しているはずだ。
 独占欲を大きく肥やした者になるとこの家を見つけだし押しかけようとする者もゼロではない。しかしそれは自分が追い払ってやればいい。のんびりとした時間をこうして邪魔されるのも気に食わないから、相手に容赦しないのがシャトンの流儀だ。
(あの人らなら、まあ)
 直接ここに来ても招き入れることがある。同僚でもある彼らに対しても分け隔てなく仕事をする彼女だし、自分にとっても同僚で、場合によっては上司でもあるからさほど積極的に排除するつもりはないけれど。
 本当は二人の時間を邪魔されたくはない。家に居る時くらいエジヴァを独占していたいのだが、彼女が招き入れるなら止める気もない。
(……放っておこう)
 目当ての彼女は居ないのだ、ノック程度の男なら、不在とわかれば帰るだろうと欠伸をひとつ。もう一度寝なおそうとシャツ一枚の体をベッドに沈ませて。
 コンコン。
(懲りねぇ奴だな)
 同じ音。
「エジヴァさん、僕だけど」
「……ちっ」
 そのまま諦めて帰ればいいのに。舌打ちと共に身を起こす。
(面倒なのが来やがった)
 自分がシャツ一枚で薄着なのも理由の一つだが、何よりエジヴァの為に暖めた部屋だ。外気が入ると折角暖めた空気が冷えてしまうから、ドアの近くに寄り、隙間から声だけを届かせる。
「帰れ」
 いつもより低い声が出たが、これくらいで丁度いいだろう。

(留守か、それじゃ待つしかない)
 ピリピリとしたシャトンの声でエジヴァの不在を把握する。家主が居ないのだから、中で待つようなことはしない。
 気温でどうにかなる問題でもないし、シャトンの縄張りを無理に荒らすつもりもないからだ。
 この扉の向こうは自分の縄張りではない。ただ時折寝床を借りるだけなのだから。
 ――ツキン
 小さく頬を歪めた後、強引に思考を巡らせる。
 紛らわせることができないなら、それ以上に他の事を考えるしかない。手っ取り早いのは……話をすることだろう。
(興味はないがね)
 エジヴァにも頼まれているから男性として扱っている相手、シャトン。トライフの好みにはちらともかからない風貌と体型だからこそ、気楽に繕わずにいられるというものだ。

●魅力

 いつもより遅い時間になってしまったからこそ、家路を急ぐ。
(待っていると思いますもの)
 養い子と呼ぶには大きくて、本当ならばそれほど世話を必要としない子のはずなのだけれど。
 可愛がっている分世話をしたいし、シャトンもそれを喜んでくれているのが分かるから、エジヴァは買い揃えた品を抱えて愛し子の待つ家へと戻る。
「他のトコに行けばいいだろ」
「客に向かってそれはないだろ、エジヴァさんに接客は教わってないのか?」
「俺は用心棒だから必要ないんですー、ばっかじゃないの」
「ばっ……お前そんなんでよくやってられるな」
「あんたは客ってわけでもないだろ。他ではちゃんとやってるっつの」
「今は客だろうが」
「はぁ、やってることは殆どストーカーじゃん」
 聞こえてくる二人分の声に口元が綻ぶ。内容は決して行儀のよいものではないけれど、遠慮のないやり取りは聞いているだけで好ましいと思う。
 トライフは自分達が望んだとおりにシャトンを男性扱いしてくれている。自分と話す時と比べて空気が違うのもそのためだろう。
 シャトンはもっと自由なままでいい。あの子自身が、自分で世界を狭くしないのならばいいと思う。
(それにしても……)
 無意識に止めていた足を前に進める。
「お前こっちが黙っていれば」
「いらっしゃいトライフくん、長く待たせてしまいました?」
「エジヴァさん、おかえり」
 微笑みを浮かべたエジヴァの声がトライフの言葉に重なる。すぐにシャトンが戸をあけて嬉しそうに目を細めた。
 エジヴァが現れた事でそれまでの会話はすぐになかったことになっている。二人にとってエジヴァの存在が重要であって、それまでのやり取りはただの時間つぶしで言葉遊びだ。
「ただいま帰りましたわ」
 エジヴァも分かっているから触れることはしない。擦りつくように寄ってきたシャトンの頬を撫でながら、トライフを家へと招き入れた。

「まずは温かいものですわね? なにがお好きでしょうか」
「エジヴァさん、量は少しだけどこれも」
 いつもの店だよと包みを差し出すトライフの口調は既に切り替わっている。その手に触れながら受け取って、視線を合わせ微笑みを零す。
「ありがとうございます。ではこの料理に合うように作りましょう。シャトンは何がいいですか?」
「ん〜、俺はエジヴァさんが作ってくれるなら何でも〜」
 俺は、の言葉に合わせてちらりとトライフに視線を向ける。自分の方が親しいのだと見せつけるように。
「……知ってるか、『何でもいい』はマンネリのはじまりだって」
 エジヴァに聞こえない様、キッチンに消えてから返された言葉。
「何かしら、決めるとっかかりを返すことが男の価値をあげるってものだ」
 お前には早かったなとやり返されて、シャトンは悟られない様、小さく息をのんだ。

「簡単なものばかりですけれど……」
 マリネした野菜とチーズは彩りよく、クラッカーに乗せて食べやすく。
 温かいホワイトシチューには堅めのパンを添えて。
 トライフの持ち込んだチキンレッグは焼き色を付けなおしあたためて、食べやすいようにカット済。
 冷たい物を先に、温かいものを後にテーブルに並べるエジヴァを二人がこぞって手伝っていく。
「シャトンはこちらのお皿ですわ」
 温かいものは食器も温めて出すのが普通だけれど、シャトンの皿は冷たいままで盛り付けている。なるべく早く、食べやすい温度になる様にとの配慮でもある。元々食べる量も少ないから、スープ皿に薄く張ればすぐに湯気も収まった。
「短時間でこれだけ出せるのは腕がいいってことだよ、胸を張っていいと思う」
「腕によりをかけた甲斐がありますわ」
 言葉に合わせて腕を絡め、トライフにその身を寄せるエジヴァ。
「家の前で待たせた上、料理も待たせることになってしまいましたけれど」
 視線をあげて赤の瞳を覗き込む。更につめられた距離はそのままに、空いた手でシャトンを示した。
「さほど待ってはいないから大丈夫、話し相手も居たから」
 そんなつもりはなかったとシャトンの表情が告げているけれど。
「ならシャトンにはご褒美をあげなくてはいけませんわね」
 ふわりと笑顔が、視線が向けられ嬉しくなる。絡んだ腕も解かれていて、何が良いかと問われて。
 何がいいだろう、自分が嬉しいものってなんだろう?
 首を傾げる合間もエジヴァが頬を撫でてくれる。柔らかい手。料理だってしているのに、柔らかく美しく保たれているエジヴァの手に触れられるのは気持ちがいい。
「あ〜俺、膝枕がいいな?」
 寝る前にお願いとねだってみれば、わかりましたわと抱きしめられた。

●感触

「お湯を……」
 先にどうぞと示すエジヴァにいいやと首をふる。
「一人ではつまらないだろう、エジヴァさん?」
「あら」
 指名するように、燻らせたいつもの煙草を持ったまま手で示す。熱を帯びた視線が伴うけれど、エジヴァは微笑みを返すままだ。
 シャトンは口を挟むことはしない。けれど視線で意思を語っている。
「……二人で先に使いなよ」
 僕はまだ吸いはじめで待てるから。そうしてトライフが終わりの線を引くまでがいつものやり取りだ。
「濡れた髪もいいものだろう? 滴る様も、拭いとる仕草も楽しめる」

「目を瞑ってくださいな、頭からかけますわ」
「ん〜……」
「はい、よくできました」
「……エジヴァさんには、あんな安物似合わないよ」
「なんのことですの?」
「花」
「贈り物に罪はありませんわ。それにあの花は、蝶のようにも見えますもの」

(追い出す……は無理だな)
 転がり込む度思うけれど、それが成された試しはない。
 ソファーに深く腰掛ける濡れ髪の蝶は、膝に頭を乗せて微睡む番猫の毛並みを撫でる。
 パチパチと、暖炉の火がはぜる音、家の壁を叩く風の音、積もった雪が滑り落ちる音。
 不定期なリズムが合わさり完成された場へと戻る。浴びていたはずの湯はすぐに冷えてしまったから、今はただ無性に熱が欲しい。なりふりなど構っていられない。
「おかえりなさい?」
 シャトンとは反対側に腰かけて、エジヴァの髪に触れる。ふわふわの髪は水を含み重みが増す。銀糸というより銀細工のようにも見えるのに、触れるとやはり柔らかい。
「拭くの、手伝おうか」
 乾かすための手伝いなら何だって。言いながらも余分に持ってきていた乾いたタオルを手にエジヴァの身体を引き寄せる。
「お願いしようかしら……でも、くすぐったりしないでくださいね?」
 膝のシャトンを撫でながらトライフの肩に凭れかかれば、ふわりと乾いたタオルが降ってきた。
「お任せを」
 髪を梳くように指を通して、長い耳の後ろから、うなじへと走らせる。今は胸の前にあるエジヴァの頭から一すくい髪を拾って、小さな音を立てて口付ける。
 銀の髪には自分にはない熱がある。肩に触れる温もりと同じ、人の熱。
「ん〜」
 トライフが触れているのはエジヴァのはず。なのにシャトンの声が応えるように聞こえてくる。
「……?」
 エジヴァの手元を覗き込めば、自分がエジヴァに触れる仕草と同じように、エジヴァがシャトンに触れていて。
(ふうん)
 ならばと、耳を擽る様になぞる。擽らないでと言われはしたが、約束はしていないし、守るつもりもなかった。
「「ぁっ」」
 二人の声が重なる。
「……も、寝ねぇの?」
 擽られて意識が浮上したらしい。膝もいいけどベッドがいいと甘えた声のシャトンが二人の裾を引っ張った。

「平和に三人寝ましょうか」
 優しく響くエジヴァに誘われ潜りこむベッドは、三人揃って寝転んでも余裕のある大きさ。
「エジヴァさんの隣が……でも眠……」
 早々に潜りこんだシャトンの頬に意図せず触れたトライフの手はひやりと冷たい。湯上りで眠気のあるシャトンにとっては丁度良い温度だったようで、シャトンはそのまま身を丸くする。
 指先の熱さに、新たに背中を覆う温もりに。トライフは寒さに強張っていた体がほぐれる感覚に酔う。
「では……トライフくん、窒息しないでね?」
 トライフの背に身を寄せたエジヴァがくすくすと笑った。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0657/トライフ・A・アルヴァイン/ 男/23歳/機導師/野良猫】
【ka0260/エジヴァ・カラウィン/女/22歳/聖導士/女主人】
【ka3198/シャトン/女/16歳/霊闘士/家猫】
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2015年02月03日

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