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『ドキッ! 冬山の秘湯には危険が潜む!? 』
サクラ・エルフリードka2598

●下山途中に見付けしもの
 その日――クリムゾンウェストの人間である聖導士(クルセイダー)のサクラ・エルフリードは、雪山での鍛錬へと出かけていた。何もわざわざ寒い所へ出向いて鍛錬などせずとも……と思う者も少なくないだろうが、自らの身を厳しい環境に置いて鍛えるからこそ意味のあることもある訳で。
 また、サクラもハンターを名乗っている以上、いつ何時どのような環境で依頼を遂行しなければならないかも分からない。ゆえに雪山のような特殊な環境下で鍛錬を行うことは、いざという時のためにもなるのである。
 朝早くから雪山に入り真面目に鍛錬を行っていたサクラは、日が暮れる前にその日の鍛錬を終えて下山の途についていた。
「ふぅ、雪山鍛錬は流石に冷えますね……」
 ぽつりつぶやくサクラ。動いていると多少は寒さも薄れてはくるのだが、やはり雪山ともなればただ居るだけで身体の芯から冷えてきてしまう。しかも鍛錬で汗をかいた後なのだから、ある程度汗を拭ったとしても、それがまた冷えの原因ともなる。
(早く暖かい屋内に入って、温かい飲み物を飲みたいです)
 などと雪上を歩きながら思い、サクラは空に目を向けた。上空は厚めの濃い灰色の雲に覆われている。日暮れを間近に控えた今、いつ雪が降り出してきても何らおかしくはなかった。いや、雪ならまだましだ。もし吹雪いてしまったら――かなり大変なことになってしまう。
「あ」
 その時、まさに雪が降り出した。大粒の、見るからに積もって残りそうな雪が、密集するように降り出していた。
「……これはいけませんね。誤って、遭難する前に下りないと……って、あれっ?」
 前方180度ほどを見回したサクラの目に、妙な物が見えた。立ち上る煙である。色はついていない、白い煙だった。
「煙……?」
 何事かと思い、静かに慎重に煙の方へと近付いていくサクラ。誰かが焚き火をし、狼煙でも上げているのだろうか。だがそれにしては煙に色がない。
 煙が立ち上っているのは岩陰の向こう、1メートルほどの段差がある所からであった。さて、やってきたサクラが岩陰から下を覗き込むと――。
「え?」
 サクラは我が目を疑った。下に見えたのは、暖かな湯気を放っていた温泉であったからだ。
「……こんな所に温泉?」
 驚き戸惑いつつも、サクラは今朝入山した時のことを思い返してみた。確かその時には、このような温泉が湧いているとは気が付かなかった。まあ、どう鍛錬するかで頭がいっぱいだったから、うっかりと見落としてしまっていたのかもしれないが。
「もしやこれが、秘湯というものでしょうか?」
 入山前、麓の村では温泉があるだなんて話はこれっぽっちも耳にしなかった。これまで発見されていなかったのか、あるいは村の住人たちだけの間で伝えられている温泉だったのか。どっちにしろ、これは秘湯と呼んでしまっても差し支えはないものと思われる。
 サクラは雪上を回り込んで温泉の前まで下りていき、思案顔をした。鍛錬後、雪山を歩いて身体はすっかり冷えてしまっている。そして、目の前には暖かな湯気を立ち上らせる温泉がある。ここから導かれる結論はただ一つ。
「……入ってしまいましょうか」
 そうつぶやき、サクラはまずは荷物を雪の上へと置いた。

●それは罠
「……んっ……んんーっ……! く、はぁ…………」
 温泉に浸かって両手を頭上で組んでいたサクラは、背筋を大きく伸ばせてみせた。身体の疲れが解れていくような気がした。
「ん、いいお湯です……」
 装備を解き、静かに浸かった温泉は熱過ぎず、かつぬるくもない程よい暖かさであるように思えた。サクラ好みの温泉の熱さのようだと言い換えてもよいかもしれない。
「まさかここで温泉を見付けられるとは思わなかったです……ふぅ」
 全身をだらんとさせ、リラックスした様子のサクラ。温泉に入るために装備は解いてしまっているので、身体はとても軽かった。それでも万一のことがあってはいけないので、武器だけはすぐ手の届く場所へと置いている。
「……はぁ……気持ちいいですね……」
 サクラは静かに目を閉じ、しばしまどろんでいた――のだが。
(……あれ?)
 何故だろう、ふと身体が冷えてきた。寒さが強まり温泉がぬるくなってきたのかとも一瞬思ったが、何か違和感がある。そう、温泉に浸かっている部分と、浸かっていない部分の冷え方がどうも同じのような……?
 ハッとして、サクラは目を見開いた。するとどうだ、それまでそこにあったはずの温泉は影も形もなくなっていた。ただ、装備を解いてしまっていたサクラが、雪の中で座り込んでいるだけである。
「え!? い、今の温泉は……?」
 驚きの表情のまま、周囲をきょろきょろと見回すサクラ。
「ケケケ……イイ格好ダナ……ケケケケケ!」
 とそこに、人形をした異形の代物がニヤニヤとしながら姿を見せた――どうやら雑魔のようだ。姿形からして、分類としては妖魔の方だろうか。
 その雑魔が姿を現した途端、サクラには全てが理解出来た。つまり先程までの温泉は、この雑魔が作り出した幻影で……。
「……ぁ、く、まさかこんな奴の幻影に引っかかるなんてっ! 悪戯な雑魔は滅殺ですっ!!」
 怒り心頭のサクラはすぐさま武器を引っつかむと、目の前の雑魔に立ち向かっていった。
 さて……その様子をここで詳細に述べるべきなのかもしれないが、本当にほんのちょこっとだけその雑魔が可哀想になってしまう光景が繰り広げられてしまったので、今回はあえて触れないことにする。とりあえず、鍛錬の成果が遺憾なく発揮されたということと、怒りの力はとてつもないということだけを述べるに留めよう……。

●恥ずかしき顛末
「ああもう……装備が雪の中に埋もれているじゃないですかぁ……」
 雑魔との戦闘後、サクラは溜息を吐きながら雪の中へ埋もれてしまった装備を掘り起こしていた。これも全ては戦闘の影響である。
「はぁ、服も雪で濡れてます……どうしましょう、ここからの帰り」
 忘れてはならないが、幻影の温泉に入る前のサクラは下山中だった。つまりここからまた山を下りなければならない訳だ……濡れた服を身に付けて。
 現在地がどこだか分からないが、濡れた服を身に付けて雪山を下りなければならないというのは、かなり危険な行為であることは間違いない。と、途方に暮れかけたそんな時だ。
「ん、何か視線を……?」
 背中に視線を感じたサクラは、装備を掘り起こす手を止めて、くるりと振り返ってみた。少し離れた場所にあったのは――家。家の中、窓から覗き込む人の姿が見える。
 何とそこは麓の村。後に聞いた所によると、村の横で幻影にかかったサクラが雪の中に座り込む姿や、戦闘姿、装備を掘り出す姿などを、家の中から驚いて見ていたという。
「……ぇ、あ、まさかここは村の横……きゃぁぁぁぁぁっ!?」
 サクラの悲鳴が、雪の中へと吸い込まれていった……。

【了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 整理番号 / PC名
                       / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 ka2598 / サクラ・エルフリード
               / 女性 / 15歳 / 聖導士(クルセイダー)】

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2015年02月05日

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