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『ゲレンデの貴公子ども 』
月居 愁也ja6837)&加倉 一臣ja5823)&夜来野 遥久ja6843)&小野友真ja6901


 視界を遮る物のない、一面の銀世界だった。
「ほっかいどー……」
「でっかいどー……」
 見慣れない光景に、小野友真、そしてジュリアン・白川は連携して芸のないコメントを漏らした。
 ここは夜久野 遥久の実家のグループ企業が経営しているリゾート施設である。
 遥久にとっては然程珍しいことでもないが、例の如く格安料金での豪華リゾートご案内というわけで、二泊三日の北海道旅行となったのだ。
「ここってゲレンデも近くて、すっげー便利なんだよな! あ、スキーでもスノボでもお好きな方で! 後の温泉も食事もバッチリ!」
 月居 愁也はうきうきしつつ、色々と世話を焼いている。
「ここのゲレンデは滑りやすくて良いよな。友真はスキーとスノボどっちにする?」
 道産子・加倉 一臣が余裕の笑みを向けた。冬の遠足もスキーというぐらいで、冬スポーツはどれも得意であり、また好きである。
「どうしよっかなあ……うん、スケボーは経験あるし。初体験スノボいきまっす!」
「よーし、ばっちり仕込んでやるぜ!」
 意味ありげな笑いを浮かべる愁也に、友真が負けじと顎を突き出した。
「ヒーローはスポーツ万能ですし! 愁也さん、俺は初心者やけど天才やし、負けてもはずかしないんやで?」
「その言葉、後で後悔すんなよ?」
 憎まれ口を叩きながらも、愁也は友真がボードを選ぶのを一緒に手伝う。

「私はスキーで。ミスターもスキーで大丈夫でしょうか?」
 遥久が尋ねると、白川が頷いた。
「多分何とかなるとは思う。……だが滑るスキーは、高校の修学旅行以来だろうか」
 高校。修学旅行。
 意外な人物が発する意外な単語に、一臣の肩が震えた。
「ちょ、あの、ジュリー……じゃなくて顧問、高校で修学旅行とか行ったんですか……というか、高校生の時代があったんですか!!」
「言わなかったかね? 私は高校の途中までは一般人だよ」
「いずれそのお話も詳しく伺いたいですね」
 遥久はにこやかに言いながら、慣れた様子でレンタルの道具を揃えて行く。
 一臣はそれを見て、ボードのコーナーを見て、また遥久の方を見る。
「……そうだな、俺もスノボで」
「加倉君、その間は何だろうか」
 白川が何か言いたげに尋ねたが、一臣は爽やかな笑みを返した。
「あっちは保護者が必要そうですからね。 ではまた後ほど!」
「ご安心ください。不慣れでしたら個別レッスンも承りますので」
 肩にかかる遥久の手が、白川には妙に重々しく感じられた。


 着替えを済ませて外に出ると、ゴーグルなしではまともに目が開けられない程に明るく日差しが照り映えていた。
 長身にぴったりと添う紫を基調としたウェアの遥久と、『とてもスキーが上手な人』っぽい白いウェアの白川が並んで立つ。
「良いお天気になって良かったですね」
「皆の日頃の行いが良いのだろうね」
 そんな会話の背後で、愁也が目を潤ませていた。
(遥久超かっこいい……!!!)
 流石のオトコマエ。儀礼服でも浴衣でもスキーウェアでも文句なくカッコいい!
 それでなくても、ゲレンデ・マジックという現象がある。どういう訳かウェアを纏いゴーグルを嵌めると、男女問わずほとんどの人物は数割増素敵に見えるのだ。
 という訳で、愁也の熱い眼差しはいつものこととしても、遥久はやたらに目立っていた。だが当人はそんなことには全く頓着しない。
「そう言えばミスター、滑らないスキーというのはどういう意味ですか?」
 先程の会話について遥久が尋ねた。
「ああ……綺麗な表現ならクロスカントリー、かね。あれは、うむ、かなり……」
 心なしか白川の表情が暗い。何かとても辛いことがあったのかもしれない。
「ではあちらでも大丈夫ですね。早速行きましょうか」
 遥久がにっこり笑って指さす看板には『上級者コース』と書かれていた。
「お手柔らかに頼むよ。到底現地の人には敵わないからね」
「ご謙遜を。ああ、でも転んだ時には介抱して差し上げますよ。ええ、勿論ですとも」
 寧ろ転んでみませんかと言わんばかりの遥久の輝く笑顔に、白川は決して転ぶまいと心に誓うのだった。

 一臣は全てを達観したような、慈愛の眼差しでそんな二人を見守る。
「……ジュリー、生きてまた会おうな」
「つきっきりの介抱とか、寧ろ俺が替わりたい」
 あながち冗談とも思えない愁也の表情だが、こちらもスキー・スノボは上級者、今日は思い切り楽しむつもりだ。
「じゃ、俺達も行こうか……って何やってんの、友真」
「……なぁどう履くのこれ」
 雪の上にボードを置き、友真が能面のような顔で訴えて来た。
「しょうがねえなあ……」
 面倒そうな口調とは裏腹に、丁寧に基本からレクチャーを始める。
「……という訳だ。いけそうか?」
「大丈夫、大丈夫。大丈夫と思えば大丈夫やし」
 生まれたての小鹿の様にぶるぶる震えながら、友真が立った。
 一臣は一生懸命な友真の顔に小さく笑いつつも、優しく声をかける。
「スケボーができるんなら、直ぐに慣れるさ。ゆっくり滑っていこう。ほら、こんな感じだ」
 軽く縁に力を掛け、膝を柔らかく曲げると、一臣のボードは空を切る様にして滑りだす。
「うわ……!」
 飛ぶ鳥のように、海を泳ぐ魚のように。光を受けたボードが綺麗な軌跡を描いて行く。
「さっすが!」
 愁也がニヤリと笑う。だがこっちだって負けてはいられない。
「友真、行けそうか?」
「行く! 俺、絶対きれーに滑って見せるで!!」
 頬を叩いて気合を入れ、友真は一臣の真似をして足に力を入れる。

 ぐん!
 不意に体が前に放り出されるような感覚。
 景色が後に飛び去り、愁也の声が背後から聞こえる。
「いいぞ友真! その調子だ!」
 自分の身体が、風を切っていく感覚。友真はぞくぞくする様な感覚に、思わず笑い出す。
 ……その顔は直ぐにそのまま固定された。
 まずい、止まり方を聞いていない。
「うわあああああ止まらへんどうすんのこれえええええええ!!!!」
 先天的に運動神経がいいだけに、自然と体が対応しているのだ。つまり、スピードを出す方に。
「おい友真!」
 駆け出そうとする一臣の肩に、軽く触れる手があった。
「?」
「加倉、生きろ」
 遥久の労わりの『神の兵士』が心に沁みてなんだか痛い。
「俺が身体張って止めるんですね、まあいつものことですよね」
 一臣は覚悟を決めると両手を広げた。
「滑落防止、任せろ!!」
「一臣さぁああん!!」
 真正面から突っ込む友真を、『急所外し』でどうにかダメージを減殺して受け止めるも、諸共に雪の中に突っ込む羽目に。
 一臣は半身を起し、直ぐに友真の肩を掴む。
「大丈夫か、どこか捻ってないか?」
「……ありがと、助かった」
 照れ笑いで見上げる友真の頭に、こつんと拳が当たった。
「まずは止まり方を覚えないとな」
「はぁ〜い」
 追いついてきた愁也が綺麗にターンし、雪を跳ねあげて止まる。
「大丈夫か〜? あ、加倉さんが」
「ハハハハハ」
「愁也さん、今の! しゃーって来て、ずあーってなるの! 教えて!!」
 友真は顔を輝かせて飛び起きた。

 暫く基本をきちんと教わった後は、友真も直ぐにスノボの楽しさに夢中になった。
「ひょおーっ!! すっげ楽しい!!」
 所々にあるジャンプ台を勢いよく飛び出すと、空が随分近くに思える。
「なんかもうちょっと頑張ったら、回転できそう!!」
「よし、言ったな? じゃあ、あっち行くぞ」
 一臣と愁也は友真が慣れるのを待ちかねていたように、ハーフパイプの方へと引っ張っていく。
「え、これって……」
 テレビで見たことあるやつ。友真にはそれ位の認識しかなかった。間近で見ると高い上に、円筒の傾斜は恐ろしい程だ。
「行くぞー!」
 愁也が歓声を上げて滑りだす。
 ボードが自分の足の一部分の様になり、思うままに力を伝える。
「ひょーっ!!」
 縁で宙に飛びだし、上空で姿勢を変えるとまた滑り降りる。
「すごいすごい!! あんなん、一臣さんも出来るん?」
 拍手しながら尋ねる友真に、一臣が勿論だと拳を突き出す。
「よく見てろよ?」
 愁也の滑りが燕なら、一臣のそれは猛禽だった。
 重く、鋭いターンが決まる度に、友真は手を握り締める。
「どうだ?」
 滑り終えた一臣に、友真が飛び跳ねるように近付いて行く。
「かっこいい! 俺もやる! やりたい!!」
 友真もすっかりスノボの魅力に取りつかれたようだ。


 慣れた頃に、遥久と白川が戻って来た。
「流石北海道は雪質が良いね。こんなにサラサラの雪は初めてだよ」
 白川も満足そうだ。
「そんなに違いますか」
「ああもう、転んだら全身雪まみれになるよ」
 ゴーグルをつけたままで歩く二人の会話が『日本語』であることに、数人がすれ違いざまに振り返っていた。
 そこに愁也が滑りながら近付き、見事なターンでピタリと止まる。
「遥久! スキーはどうだった?」
「思ったよりは鈍っていなかったな。そっちはどうだ?」
「友真が結構上手くなったな。最後、皆で上から滑らねえ?」

 それぞれコースを別れ、また遭遇しながら、それぞれが滑走を楽しむ。
 何だかんだで白川も遥久にペースを合わせてもらって、順調にシュプールを描いているようだ。
「ああ……やっぱり遥久は世界一のオトコマエだよな……」
 しなやかに全身を使い、小気味よく雪を巻き上げる遥久の姿を、愁也がうっとりと眺める。
「愁也さん、ぼーっとしてたら置いてくでー!」
 すっかり慣れた友真が片足でボードを立てて、からかう。
「先に行くなら行っていいぜ。でも熊が出たら自分で対処しろよな」
「熊……でるん!?」
「出てもおかしくないんじゃね?」
 その言葉を残し、愁也は隙ありとばかりにボードを滑らせた。
「あ、待って! ご一緒しますし!!」
「慌てなくていいさ、ゆっくり行こう。景色だってしっかり見ないとな」
 一臣は友真が疲れないよう、ペースを考えつつ降りて行くのだった。


 翌日も日中は雪山を存分に楽しみ、その夜はささやかな宴会となる。
 どちらにせよコーラしか飲めない友真はともかく、滑る前日は流石に全員飲酒を控えていたのだ。
「というわけでー! 先生今回は有難うございましたーっ!」
 愁也が白川にグラスを合わせる。
「いやこちらこそ。いつも本当にお世話になって申し訳ないね」
「お楽しみいただけたのなら良かったです」
 遥久が鷹揚に微笑む。
「センセ、何かスキー姿が新鮮でした! あ、どうぞ、ぐぐーっと!」
 友真は甲斐甲斐しく動きまわりながら、白川にグラスを勧めた。
「いやいや、流石に夜来野君は見事なものだ。ついて行くのがやっとだったよ」
「私もスキーぐらいはミスターと渡り合えそうですね」
 遥久が意味ありげに笑う。
 一緒に滑っていてわかったのだ。白川の言っていた『クロスカントリーもどき』の意味は、つまり『雪中行軍』だった。
 確かにスキー自体の技術は遥久の方が数段上だ。だが白川の滑りは下半身の使い方が根本的に違った。恐らく白川は滑りながら戦闘をこなすだろう。昔の久遠ヶ原の制度のお陰なのか、他の理由なのかは判らないが。
「けれど、まだまだ鍛錬が必要なようです」
「君は努力家だからね」
 遥久の笑みが穏やかな物になる。他人は彼を才能にあふれているという。彼の華麗な才が、その裏の努力によって支えられているのだと。その部分を評価されることは実は意外に少ない。

「では一つ、今年の目標などを互いに上げてみましょうか。私は『迷わぬ意志を培う』ことを目指そうと思います。全てに動じずというのはなかなか難しいですがね」
 遥久の提案に、愁也が暫く唸る。
「今年の目標かあ……料理の腕をちょっとだけ上げる、かな?」
 何もかもやって貰うのではなく、今度は親友に料理でも喜んでもらいたい。低いように見えるハードルだが、内心は切実だ。
 だが。
「ここでそういう目標を出すのか、お前は」
 当の本人にはダメ出しされてしまった。
「え? ああ、撃退士としてって話? ん〜……特殊抵抗を上げる……かな」
 そこか? という一同の視線を受けて、愁也は一生懸命主張する。
「いや切実に! 阿修羅って大変なんだよ!!」
 いつまでも親友のサポート頼みではなく、自分自身の力を高めたいのだ。勿論、親友がいやいや助けてくれている訳ではないと知っている。だが、対等の存在でありたいという気持ちは常に愁也の中にある。
「そういう意味じゃ近接戦の模索、かなー」
 一臣が愁也を横目に呟いた。射手としての技量は当然としても、敵に近付かれたときに何もできないのは余りに悔しい。そこでふと、白川と目が合った。一人前の射手として、何を磨くべきか。いずれゆっくり話し合いたいと思う。
 だが真面目な顔で口にしたのは、全く別のことだった。
「あと部活がんばりたいです」
「うっ」
 白川がむせた。一臣が口にした部活、実は顧問は白川なのだ。
「センセ、大丈夫……? あ、俺は今年、大学部を満喫するー!」
 友真が元気良くコーラのコップを掲げた。
「あと、今年も幸せである事、かな。心身共に強くありたいと思うん」
 乗り越えなければならないことは山のようにある。いつかスノボで飛ぶように、華麗に乗り越えて行けたら……。
「あとは、今回北海道楽しかったんで、次は俺と先生で大阪案内とか? とか?」
「お、友真それ、絶対実現しろよー!」
 かなりできあがりつつある愁也が、力一杯友真の背中を叩いた。


 出立までの時間を過ごしたのは、硝子工芸体験のできる工房だった。
 それぞれが好きな色のロックグラスを作ってお土産にするのだ。
 教えてもらいながらガラスに好きな色を挿し、息を吹き込むところんとした厚手のグラスが出来上がる。
「こんなもんかな?」
 一臣はクリアにシアンのマーブルが美しいグラスを。
「結構上手く行ったと思うん!」
 友真は大好きなおひさまの色、薄黄色から橙にグラデーションの気泡入りのグラスを。
「色がちょこっと違うだけで、イメージが結構変わるもんだな」
 愁也は彼の髪の色であり、強い意志の色である赤と橙が炎のように揺れるグラスを。
 遥久は深い深い瑠璃色のグラスを掌に包むようにして、暫し眺める。
「どうしたね?」
 白川が声をかけると、ガラスを透かしてどこか遠くを見ている様だった視線は、直ぐにいつもの不敵な光を取り戻した。
「いえ。これで良い酒が飲みたいと思っていました」
 ふと見ると、白川の手にしているグラスには透明に幾筋かの白。それは宙を舞う天使の羽根のようにも見えた。
 遥久の視線に気づき、白川が笑う。
「少し地味すぎたかな。でも好きな酒が無色なので、色を入れたくなくてね」
 何色にも染まる白、そして拒絶の白。
 遥久は黙って頷いた。


 手に入れた物、失った物。
 振り返ればそれぞれが心から愛おしい。

 願わくば、失う物の少ない一年であるようにと。
 年の初めにそう祈りを籠めて。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6837 / 月居 愁也 / 男 / 24 / 阿修羅】
【ja5823 / 加倉 一臣 / 男 / 28 / インフィルトレイター】
【ja6843 / 夜来野 遥久 / 男 / 27 / アストラルヴァンガード】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 19 / インフィルトレイター】

同行NPC
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 30 / インフィルトレイター、技能教官】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、イケメンだらけの(?)北海道旅行のお届けです。
楽しい思い出となっておりましたら幸いです。
NPCもお誘いいただき、大変楽しい時間を過ごすことができました。有難うございます。
今年も皆様にとって実り多い一年となりますよう。
この度のご依頼、誠に有難うございました。
snowCパーティノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年02月10日

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