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『落葉松姉妹の正月の過ごし方。 』
落葉松 鶲ka0588)&落葉松 日雀ka0521


 去年は色んなことがあったなと、落葉松 鶲はぼんやり考える。
 それまでいた世界――ここではリアルブルーと呼ばれている――から異世界クリムゾンウェストに突然やってきて、右も左もわからない状態であったが、それはある意味においては良いことであったかも知れない。
 何しろ、引きこもりがちだった妹の落葉松 日雀を、何とかして『ハンター』というものにして、曲がりなりにも外へ出るきっかけを作ったのだから。
 ……もっとも、日雀の方は必要最低限の外出以外は相変わらずの引きこもり生活なのだけれど。

 そんなクリムゾンウェストにも、リアルブルーと同様に正月はやってくる。
 鶲としては、たとえ異世界であってもいつも通りの正月を迎えること、それが目標だ。
 おせち料理にお雑煮を用意し、更に妹にはささやかながらもお年玉を与える。
 それはごく普通――いや、親は放任主義気味であったけれど――の家庭に育った鶲の考える、『当たり前のお正月』の姿なのだ。
 材料に関しては、リアルブルーと同様というわけにはなかなか行かないが、普段行っている商店街などに行けば現地の新鮮な食材も手に入るし、場合によってはサルヴァトーレ・ロッソから臨時の配給などもあるかも知れない。
 ただ、どちらにしても頭の痛いのは妹の日雀のことで――彼女はきっと、いつもと変わらない毎日を過ごすのだろう。そして正月もきっと、リアルブルーにいた当時と同じく寝正月で終わってしまうに違いない。
 何とか出来やしないかと考えはするけれど、とりあえず悩んでいても仕方がない。
 出来ることからする。鶲はそう思うと一つ、頷いた。


 一方、日雀はと言うと――
 自他共に認める重度の引きこもりの彼女は、きょうもゲームに読書にいそしんでいた。サルヴァトーレ・ロッソから持ち出してきた大量のコミックや、そこいらでもらってきたポテトチップスなどを抱え込んで、寝正月を決め込むつもりだ。
 元々引きこもりに季節の変化など関係がない。
 のんべんだらりと太平楽を決め込むのが、彼女のやり方とも言えた。
 ……とは言え、姉がてきぱきと動いている姿が目に入らないわけがない。
 楽しそうに鼻歌なんぞを歌いながら、くるくると動いておせち料理の準備をしている姉の姿は、いやでも目に入る。
 けれど、そんな風に動き回っている姉の姿を見るのは、日雀は好きだった。家事一般の得意な姉が楽しそうに作る食事のどれもはおいしいし、そんな姉が心を込めて料理を作っていると言うこと自体、とても大事なことなのだといえるだろう。
 クリムゾンウェストに来てしまった関係上、両親の代わりを果たすのは自分の役目だと思っているふしのある鶲。そんな姉を持ったことは、とても幸せなことなのだろうと思うけれど、時々その姉が重荷に思えてしまうのは若干仕方がない、のかも知れない。
 何しろ鶲としては、閉じこもりがちな日雀をもっと積極的に外に出そうとしているのだから。余計なお世話と思わないというと、それはやっぱり嘘になるのである。


「ま、とりあえずはおせちの準備をしないとね」
 鶲はそんなことを呟きながら、入手することの出来た材料をぐるりと見渡す。
 野菜や柑橘類はまあ良い。
 魚や肉も、それなりの物が手に入った。
 一番の問題は、鰹節や昆布などの出汁を取るための食材や、何よりも餅の材料であるもち米である。
 クリムゾンウェストでは米を主食とする地域はあまり多くないこともあって、うるち米の流通はそれなりにあるものの、もち米の流通量は圧倒的に少ない。
 それでも、サルヴァトーレ・ロッソなどにも探しに行ってみたところ、何とか思うような食材を入手することに成功した。量は少ないが、二人の正月というのならばこれでも結構な量になるだろう。
 鶲はまた鼻歌を歌いながら、さっそく大根に手を伸ばした。
「なますは外せないでしょ」
 綺麗にかつらむきをして行くのは難しいけれど面白い。
 正月料理を二人でつつくのが、今から楽しみになってきたようだ。


 ――そして順調に時間は過ぎ、元日の朝である。
「日雀、日雀〜! 新年明けたし、今日くらいはきちんとご挨拶しましょうよ!」
 鶲は何とか手に入れることの出来た振袖に身をつつみ、楽しそうに手を振っている。
「日雀の分の振袖もちゃんと用意してあるのよ。ほらっ」
 鶲の着ているのは鴇色の振袖だが、日雀のためにと用意したのは美しい翡翠色の振袖だ。
 日本人とはいえあまり外に出ないこともあって、日雀はどちらかといえば色白な方だ。その振袖はきっと彼女によく似合うのだろうが、あまり興味もないらしく、日雀はふぅんと言うばかり。と、そこで日雀は時計を見る。――午前六時、彼女にとっては早朝も早朝だ。
「ちょ、お姉ちゃん。いくらお正月だからって早いよ、せめて今日くらいは寝かせてよぉ」
 そう言ってまたも布団に潜り込もうとするが、妹の心姉知らずというか、ご丁寧に鶲は布団を剥いでくる。リアルブルーにいれば年末年始の特別番組などで時間をつぶせもしただろうが、このクリムゾンウェストではなかなかそう言うわけにも行かない。当たり前だが。
 そして布団の中からもぞもぞと、
「……あけましておめでとう」
 そう挨拶をしてくれる妹に、少しだけ鶲の心はほっとする。
「まったく、もう少し活動的にならないと、お年玉もあげられないんだからね?」
 そんなことを言えば、
「うんうん、でもあと一時間だけ〜」
 そう甘えてくる妹に、鶲はやはり少し甘いのだろう。わずかにため息をつくけれど、無事にこうやって新年の挨拶が出来るだけでもめっけものだと思ってしまう。
 何しろ、転移してきた直後は右も左もわからないので、曲がりなりにも正月を安心して過ごせるようになるなんて思ってもいなかったのだ。
「じゃあ、もう少ししたらまた起こしに来るから。初詣というわけにはいかないけど、ちゃんとお正月らしいおせちとかも用意してあるからね」
 鶲はそう言いながら、日雀の部屋をあとにする。
 翡翠色の振袖に、彼女は袖を通すだろうか。
 ほんの少しそんなことを考えてくすりと笑みを浮かべながら、新しい年の始まりを感じるのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka0588 / 落葉松 鶲 / 女 / 二十歳 / 闘狩人 】
【 ka0521 / 落葉松 日雀 / 女 / 十五歳 / 魔術師 】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびは発注有り難うございます。
納品、遅くなりまして申し訳ありませんでした。
しかしながら、良い姉妹仲の二人を書くことが出来て、とても楽しかったです。
お時間こそ頂きましたが、その分と言いますか、たくさんの想いは込めたつもりです。
どうか良い一年をお過ごしくださいませ。
二月ではありますが、そう祈って止みません。
snowCパーティノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年02月13日

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