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『★Trick but Treat★ 』
百目鬼 揺籠jb8361)&小野友真ja6901)&紀里谷 ルナjb6798


 賑やかな街の片隅。
 時間を切り取り、止まったような空間。
 帽子屋『TRICK★STAR』は、ずっと前からそこに在るかのように、或いはつい昨日、フラリと現れたかのように、そこに佇んでいる。
 行き交う人々に見えているのかいないのか、
 アンティークショップを思わせる店構え、大きなショーウィンドウには個性豊かな帽子が飾られている。
「うーん。今日はモデル、なかなか捕まらないなぁ……。とりあえず一休みしよっと」
 ドアベルを鳴らし、唇を尖らせた少年がズカズカと入ってきた。
 カウンターテーブルへ小脇に抱えていたスケッチブックを置いて、乱雑な店内をクルリと見渡す。
「クッキーとチョコのボトルが、確かコッチ……。あ。ブラウニーは切らしちゃってた」
 街をぷらぷらしたついでに、買ってくればよかったな。
 また後で、出かけようか? どうせヒマだし。
 むう、と唸ってボトルを開けて。甘い香りにニッコリしていると――

「……これ、商売する気あんですかぃ」

 カラン。
 ドアベルが鳴った。
「え。今までお客さんこなかったのに」
 少年が、赤い瞳を真ん丸に開いて振り返る。
 陽光を背に、金の瞳がそれを見下ろした。渋い紺地の着流し姿、右手には算盤を手にした青年が、半ばあきれた表情で入り口に立っていた。
「嗚呼。成程、帽子屋でしたか。良い雰囲気の店やと思いましたが、店長は何してんだか。商品を腐らしてるようなもんだ」
 身を乗り出し、それから下駄を鳴らして青年は店内へと踏み込んだ。西洋骨董品店かと思いきや、品揃えは帽子ばかり。
 品は悪くない、寧ろ上等だ。それだけに、どうしてこんな陳列なのか。勿体無い。青年はブツクサとダメ出しポイントを羅列してゆく。
「僕だけど」
「はィ?」
「店長、僕だけど」
「……御冗談を」
「冗談でも良いけどさ。僕は店長の紀里谷、帽子屋『TRICK★STAR』へようこそ」
 個性的なデザインの帽子を脱いで胸元に、紀里谷 ルナは恭しくポーズをとってお辞儀する。
「これはまた……」
 青年が呆気にとられていると、

「なーんか素敵な隠れ家的ショップはっけーん! って、揺籠さんや。え、常連さん?」

 人懐こい笑顔が飛び込んでくる。
「珍しいですね、小野サン。こんな場所で遭遇とは」
「僕の店を『こんな場所』呼ばわりしないでくれる?」
「こんな? こん…… ……何か散らかってる感あるな」
 顔見知りである百目鬼 揺籠の姿に驚いた小野友真だったが、言われてみればと店内の様子に気づく。


 賑やかな街の片隅。
 喧騒から切り離されたような一角。
 時が止まったその店に冬の冷たい風が吹きこんで、カチリと秒針を動かした。


「あー、もー! とりあえず寒いから、入っちゃってよ。ドア、閉めて!!」




「え、掃除するの?」
「とりあえず、兎に角、清掃ありきでしょう。埃の貯まる場所にゃ銭は貯まりませんよ」
「手届かないしめんどくさい、遊びに行きたいよー」
「ハタキとー モップとー ルナくん、ここんの借りるでー。あ、ハンディモップはルナくんに、な!」
「……えー」
「小野サン、ハタキは俺が引き受けますよ、届かないでしょう最上段?」
「……ぐぎぎぎ」
 雑談もそこそこに、揺籠と友真の二人が店内の掃除を始める。
 手渡されたカラフルなハンディモップを使うでもなく、ルナは彼らの姿をボンヤリ眺める。
(何が起きてるの?)
 今まで誰も、この店に気づかなかったのに。
 来たと思ったら、急に。こんな。賑やかに。
「まあ…… 可愛い女子大生が頑張ってくれるって言うなら歓迎するよ。あとでモデルやってね、友真ちゃん」
「じょしだ……!?」
 ルナの口から飛び出した言葉に、友真がギギギと首を捻って振り返った。
 初対面は学園の文化祭の時だったけれど、たしかその時も勘違いをしていたような。
「ああ、言われてみれば、モデル並みの身長ですかねぇ」
「171せんち、ですし!!!」
「早く身長伸びると良いですね」
「僕はスレンダー高身長女子も素敵だと思うよ」
 にこやかな揺籠の腹へ、友真が高速パンチを繰り出すも、妖の青年はどこ吹く風と言った顔。
 ルナの言葉は、どこまで本気で冗談かわかりにくい。
「畜生、見ろこの力こb、……うん」
 友真は上着の袖をまくってスラリとした腕を見せ、何事もなかったかのように戻す。
 身長もだけど、筋力も大事やんなって思った冬のこと。
 とりあえず、男子でありヒーローであることは、随時訂正ツッコミしていきたく。
「揺籠ちゃんは、街で女装してるの見たことあるけどね」
 さらりとしたルナの発言に、揺籠が咽こんだ。


 棚ひとつ、ハタキ掛けを終えた揺籠が手を止めた。まじまじと、商品を、その並びを睨む。
「……商品は洒落てんのばっかですよね。これなんか、もっと目立つとこ置いて良さそうじゃないです?」
「あっ、その帽子はね、僕もお気に入りのひとつだよ。センスや仕入れルートには自信あるんだから」
「どれどれー? あ、ほんまや。揺籠さん、似合うんやないです? 和装にもハマリそう……」
 向かい側から興味津々で友真が顔を出す。
「言われてみると、こう…… なんかこう、惜しいやんな。何があかんのやろ。棚配置……?」
「置いとけば売れる、ってんでもないですしねェ。そうだ、ショーウィンドウの商品だって」
「よし。効率的な店にしよう」

 商人気質の、揺籠と友真のハートに火が点いた瞬間だった。

「もう……。勝手にやってよ、雇うから」
 止めるのも疲れるし、やる気があるならやってもらえばいいか。
 呆れて、ルナはカウンターへと座って足を投げ出しクッキーを齧る。
「ノルマ制ね。がんばってー」
「って、店長が率先してサボってどうするんですかィ。子供だからって容赦しませんよ」
 ズビシ、揺籠が容赦なきデコピンを。
「うぐ、店長に手をあげて許されると思ってるの? 減給するよ!」
「うぐ」
 減給の一言に、揺籠も怯む。
 そもそも、少年の姿は七百の年月を生きる揺籠にしてみれば孫のようなもので、憎み切れないところがある。
「力仕事は、俺と見事な力こぶの小野サンとでやります。その代わり、商品知識の伝授はお願いしますよ、店長。なんたって、アンタの店だ。乗り掛かった舟を泥舟にする心算はありやせん、やるからには徹底的n」
「話ながいよ、揺籠ちゃん」
「な!!?」
 バッサリ切られてショックを受ける揺籠をよそに、友真は更なる秘境へ。
「ん……っと、奥が見づら……」
 雑然の極み、店内最奥にはメイン商品以外の小物が詰め込まれている。それだって取り出して埃を払えば店内装飾品となるだろう。
「ちょい灯りくださーい!」
「灯りー? ちょっと待って」
 後ろへ手を伸ばす友真へ、ルナはカウンターからヒョイと降りて光纏・大人の姿になると同時にトワイライトで頭上を照らしてやる。
「さんきゅ ……えっ、誰…… は、初めまして……?」
「どういたしましてー」
 声も、姿も、ルナの面影はある、が、姿かたちは20歳そこらといった。
「え? ルナ、さん? え? なんで」
「それで見える? だいじょうぶ?」
「アッハイ」
 ふわりと微笑みでかわされて、疑問を逸らされたことにも気づかぬまま、動揺しきりで友真は頷いた。
 棚向こうで何が繰り広げられているのか揺籠からは見えず、小首を捻る程度に。


 掃除を終え、並べるアイテムも揃ったところで。
「売れ線と、店長推しのラインナップは目につくところで……低めの棚で、バーンて展開するのがええよな。あっ、店長の絵を飾るスペースがあっても良いと思うん!」
 友真は店内レイアウトを練っている。
 ルナの絵が趣味レベルじゃ収まらないことを知っているから、店の雰囲気を活かす為にも『居場所』を作りたいな、なんて。
「それなら友真ちゃん。棚より、テーブル使う?」
「え。テーブル。それは何処に」
「その下……」
「…………テーブルや」
 どちゃっと、道具置き場になっていて、あまりに自然な光景だったのでスルーしてました。
「こういうのん、倉庫辺りにしまうもんやないんですか!」
「すぐ使うし、取りに行くのめんどうじゃない?」
「若いやつが、何を無精してんですか。んー、木箱に詰め込んじまえば、装飾品っぽく誤魔化せますかね。ちょうどテーブルの下にでも置けば」
「木箱なんて、どこにあるのさ」
「ソレっぽけりゃいいんですよ。仕入れの時の段ボールは残ってますかィ? 塗料で幾らでも作れます」
 揺籠に言われ、少し考え込み、ルナはカウンターの向こうへ姿を消した。


 

 掃除、棚レイアウトの変更、商品の再陳列。
 レトロなストーブだけが暖房器具の店内で、揺籠と友真は額に汗をかいている。涼やかなのは、口を動かすばかりのルナだけだ。
 果たしてそれも、最終局面。
「ポイントは『日常の掃除は最小限』。日焼け対策に、窓側通路はあえてスペース作ってみたんやけど」
 通りからショーウィンドウを覗けば、通路側のものと重なり合って、カラフルな帽子がダンスをしているように見える。
 店内から見ると壁側に絵を飾るスペースをとっていて、小さなギャラリー空間になっていた。
「ああ、こいつは良い具合ですね。で、店長の絵ってェのは、最近はどんなのを?」
「……揺籠ちゃんには見せたくない、覗かないでよ」
「どういう!!? どうせ、飾るんでしょう?」
「飾ると覗くは、違うよ!」
 友真を盾に、ルナが揺籠の手から逃れようと。
「やーい、揺籠さん子供いじめるんは良くないですぅーー♪」
「いじめちゃいませんよ。か・わ・い・が・り、小野サンにもしてあげましょーか?」
 デコピンの構えを向けて、揺籠が不敵な笑みを浮かべた。
「さァて、店内もボチボチ片付いたところでしょうか。飲み物でも買ってきますよ。店長、その間に絵は飾っててくださいね。覗きじゃなけりゃあ、良いんでしょう?」
 意地の悪い表情はそのままに、揺籠は表通りへと出ていった。


(うん、なかなかの店構えだ)
 外から眺め、揺籠は口の端を上げる。
 今まで、きっと何度も素通りしてしまっていた店が、息を吹き返したように思える。
(ったく、ルナさんだって、やりゃあできるでしょうに)
 三人だったから、思い切り店へ手を入れることができたのか。
「商いは続けてこそですしね。続けていくには、地盤作りが肝要でさァ」
 店内では控えていた煙管をふかし、青年は下駄を鳴らした。




「揺籠さん、おかえりー! 待ってましたー!」
「ただいま…… ……え? 店、長…… え?」
「おかえり、揺籠ちゃん」
 ビニール袋を下げた揺籠の帰還を待っていたのは、『大人』姿のルナ。
 何が起きてこうなった。
 動揺を隠せない揺籠だが、まあ生きてりゃ色々あるもので。
 彼が『紀里谷 ルナ』に変わりがないなら、それは、それで。

 レトロなストーブの上で、ヤカンがシュンシュンと音を立てている。
「小野サンは、コーラですよね。俺は大人の炭酸。ルナさんはココアってことだったんで、インスタントで淹れて砂糖なり調整した方がいいんじゃないかと」
「ありがと、揺籠ちゃん。はい、カップ」
「……。作れと?」
「めちゃ甘ココア砂糖増し。飲み物の用意するって言ったの揺籠ちゃんだよね」
「こッのクソガキ……」
 大人の姿になっても、中身変わらず。
 
 コーラにビールにホットココア、それぞれのドリンクがカウンターに用意され、新装気分の店内で三人はグラスをカップをそれぞれの手に。
「あー疲れた」
「店長、ほとんど労働してないでしょうに。まぁこれからが本番ですけどねぇ」
「お疲れ様ーー!! それじゃあ、『TRICK★STAR』の新たな出発を祝して!」

「「かんぱーい!」」


 ストックしていたお菓子も、今日は出してもいいかな?
 店の片隅、古ぼけた時計が、カチコチと動き始めていた。
 それは、きっと楽しい日々の到来を告げる音。
 窓の外は、冷たい冬風。
 街の風に身を縮こまらせたなら、帽子屋『TRICK★STAR』へいらっしゃいませ。
 貴方にお似合いの帽子、貴方を暖める空間が、お待ちしていますよ。



【★Trick but Treat★ 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb8361/百目鬼 揺籠/ 男 /25歳/ 店員?】
【ja6901/ 小野友真 / 男 /19歳/ 店員?】
【jb6798/紀里谷 ルナ/ 男 / 6歳/ 店長!】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
ある日の冬の帽子屋さん。動き出す時間のお話、お届けいたします。
『お菓子くれても悪戯するぞ』、お仕事頑張ったり言葉をぶつけあったりの。
お楽しみいただけましたら幸いです。
snowCパーティノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年02月16日

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