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『うちの子が一番! 』
ファウストjb8866)&矢野 胡桃ja2617)&矢野 古代jb1679)&インレjb3056)&イーファjb8014)&百目鬼 揺籠jb8361)&秋野=桜蓮・紫苑jb8416



 とあるSNSのコミュニティに、親馬鹿どもが夜な夜な集まって娘や孫の自慢を語り合う、その名も『保護者会』というグループがあった。
 メンバーは互いに正体を明かさず、名乗りはハンドルのみ。
 自身のプロフィールは勿論、娘の名も伏せ、写真も載せないのが決まりだ。

 そして今夜も、それぞれの端末の前に皆が集まるチャットの時間。


 月の黒兎:
  今宵も皆が顔を揃えた様だ。定例の保護者茶会を始めるとしようか。
 ケセパラ:
  黒兎さん、いつも皆さんの取り纏め、ご苦労さまです。
 どうも@30代はまだ若い!!:
  こんばんは、今夜も娘を肴に美味い酒が呑めそうだ。
 月の黒兎:
  出来ることなら娘の酌で呑むのが一番だが、子供はもう寝る時間だしのう。
 若紫:
  今宵も良い夜だ。
 月の黒兎:
  それにあまり酒が進むと、身体に障ると心配するでな。小言は良いが泣かれるのは困る。
 百合子:
  こんばんは。
 どうも@30代はまだ若い!!:
  しかし、その小言が聞きたくもあるというね。ああ心配されてるなーっていう安心感?
 若紫:
  俺も酒を用意している。娘からの贈り物だ。
 ケセパラ:
  そのうち思春期に入ったら、心配どころか口もきいてくれなくなるという話は、よく聞きますよね。
 どうも@30代はまだ若い!!:
  ないな。うちの娘に限ってそれはない。
 月の黒兎:
  わしの所も絶対に有り得んな。
 ケセパラ:
  お二人とも大した自信ですね。
 若紫:
  羨ましい。
 百合子:
  私はお酒よりもお茶がいいわ。二人で一緒に楽しめるもの。
  クリスマスにケーキをプレゼントした時の、あの嬉しそうな顔を思い出すと、こちらまで幸せな気分になるの。


 恐らく年齢も性別も、職業や生活環境も、それぞれに全く異なるのだろう事は、文章を見れば何となくわかる。
 まるで音声で会話するかの如く素早く滑らかに発言する者達は、端末の扱いにも慣れた比較的若い層だろう。
 反応が遅かったり、短文だったり、皆が忘れた頃に漸く話題に乗って来たり、そもそも乗る事を諦めてひたすらマイペースに自慢話を続けたりする者は、恐らくご高齢の方だ。


 月の黒兎:
  可愛さ自慢なら、わしも負けてはおらぬぞ。
 どうも@30代はまだ若い!!:
  当然うちが一番だな。うちの娘が可愛さで負ける事など有り得ん。いや、あってはならんのだ。
 月の黒兎:
  ならば勝負するか、と言いたいところだが、ネット上に写真を晒すのも憚れるしのう。


 それなら直接会えば良いではないか。
 オフ会はナウい。

 というわけで。



 矢野 古代(jb1679)の端末に、一通のメールが届いた。

 タイトル:保護者会オフのお知らせ
 本文:飲み会を兼ねたオフ会の開催が決定しました。
    自慢の娘の同伴推奨。写真や動画でも可。

「同伴推奨、か」
 さて、どうするか。
 百聞は一見にしかずと言うし、実物を見れば全員が納得する文句なしの可愛さである事に疑いを挟む余地はない。
 だが娘的にはどうなのか。
 皆の前で堂々と褒めちぎられ褒め倒されるのは、恥ずか死ねるレベルの公開処刑にも等しいのではないか。
「うん、やっぱり写真参加にしておこう」
 そうと決めたらベストショットを探さねばと、古代はアルバムを引っ繰り返す。
 しかし、そもそも「これぞという一枚」など選べる筈がないのだ。
 だって全部がベストなんだから!
「そうだよ、アルバムごと持って行けば良いんじゃないか、何故それに気付かなかったんだ」
 あ、そうなると動画も欲しいよね。
 HDD丸ごと持って行けば良いかな。
 ところが。
「父さんどこ行くの? なに、その大荷物? モモを置いて一人で旅行とか、ありえないよね?」
 見付かってしまった。
 当の本人、矢野 胡桃(ja2617)に見付かってしまった。
「いや、モモ、これは旅行とか、そういう事ではなくてだな?」
「そういう事じゃないなら、何?」
「いや、その」
「言えないの? モモに言えないような所に行くの?」
「違うんだ、決してやましい事をしようとか、そういう事じゃないんだ」
 勿論、綺麗なお姉さんに会いに行くわけでもない。
「だったら、モモも一緒で良いよね?」
 まさか嫌とは言わないよね、言わせないけど!
「モモも一緒行く。行くったら行く。連れてってくれなきゃ、泣いてmgmgするもん」
 もうしてるけど!
「連れてって連れてって連れてって連れてけ!」
 mgmg。
「わかった。けどモモ、モモが自分で行きたいって言ったんだからね?」
 後でやっぱり来なければ良かったとか言っても知らないよ?


 そんなわけで大荷物を置いて、代わりに実物の手を引いて来た古代さん。
 指定された居酒屋二階の座敷席に上がってみると、そこには――
「こんばんは、お待ちしておりました」
 上がり口で三つ指付いてお出迎えしてくれたのは、インレ(jb3056)自慢の孫娘、イーファ(jb8014)だ。
 イーファは少し緊張した面持ちで、それでも頑張って微笑んでみる。
 その様子を見て、インレは早速「どうだ、わしのイーファは可愛いであろう」と鼻息も荒く鼻高々。
「皆さん、もうお集まりです……どうぞ、こちらに」
 言われて座敷に上がった途端、古代の目が大きく見開かれた。
「あ、どうも@30代はまだ若い!! で……え、あれ、ダルドフ……!?」
 座敷の真ん中に、いやでも目立つ巨熊がどーんと座っている。
 その巨熊、オーレン・ダルドフ(jz0264)の膝にちまっと乗っかっているのは、子熊……いや、子鬼の秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)だ。
「あら、くまさん」
 胡桃がぺこりと頭を下げる。
 他にも見覚えのある顔が、あちらこちらに見えた。
 そう言えば聞いていなかったけれど、これは一体どんな集まりなのだろうか。
「おれもよくわんねぇんですけどねぃ」
 膝の上で、紫苑がダルドフの顔を見上げる。
 お父さんが一緒に来いって言うから来てみたら、何だか知った顔がいっぱいで。
 なのにお父さんは皆に会うなんて一言も言わなくて。
「ファウのじいちゃや、どーめきの兄さんと会うなら、さいしょからそう言やいいのに」
 でも、お父さんも驚いた顔をしているのは何故だろう?
 と言うか、殆ど全員が驚いた顔をしている。
「あれ、ネット世界は広いんじゃなかったのか……!?」
 古代が首を傾げるが、どうやらリアルと同じく広い様で狭く、狭い様で広いものらしい。
「そう言えばダルドフ、貴様は確か電話も使えぬ機械音痴ではなかったのか」
 そう訊ねたのはファウスト(jb8866)だ。
「お父さんは電話くらい使えまさ、きかいオンチはどーめきの兄さんの方ですぜ」
「失礼ですね紫苑サン、俺だってスマホくらい使えまさ」
 にししと笑う紫苑の頭を百目鬼 揺籠(jb8361)が軽く小突く。
「某には工場長やら事務員やらが、暇を見ては色々と教えてくれてのぅ」
 ダルドフは大きめのタブレット端末を取り出して、自慢げに操作して見せた。
 呼び出された画面には『保護者会』の文字がある。
「こももの姉さん、これ……なに会、ですかねぃ?」
「ほごしゃかい、ね」
 その字がまだ読めない紫苑に、胡桃が声に出して読んでやった。
「学校のPTAみたいなものかしら、ね?」
「あの、インレ様が仰るには……皆様で集まって、子供や孫の自慢を語り合う会、という事の様です」
「あ、ありがとう、ごぜぇやす」
 そう言えば、紫苑はインレとは初対面に近い。
 クリスマスパーティでちらりと見た覚えはあるが、話をするのは初めてだった。
「えっと、はじめまして。おれ、しおんって言いまさ」
「私は胡桃よ。矢野胡桃、よろしくね?」
「あ、はい、お二人ともよろしくお願いします」
 イーファはまだ緊張が解けない様子で深々とお辞儀をする。
「私はイーファと申します。インレ様には、いつも本当の孫の様に良くして頂いて……」
「あ、インレのじいちゃん、の」
 紫苑とインレは、共に世界征服を目指す秘密結社(?)の仲間だった。
 こくりと頷いたインレは、一人分ずつ可愛くラッピングされたお菓子の袋を二人に手渡す。
「あの、よろしければ……召し上がって下さい」
 中身はクッキーやフィナンシェなどの焼き菓子、勿論インレの手作りだ。
「お口に合えばよろしいのですが……」
 大人達にも同じものを配れば、インレは「わしのイーファは気が利くのぅ」と鼻の下を伸ばしてご満悦だ。
「これ、もらって良いんですかぃ!?」
「ありがとう、遠慮なく頂く、わ」
 甘いお菓子に目がない二人は、早速それを口に運ぶ。
 そして子供同伴の保護者オフ会は、和やかな雰囲気のもとに開始されたのだった。

 子供組は額を寄せ集めてタブレットの画面を覗き込む。
「それで、その保護者会とやらは、どんな事を話してるのかしら?」
「ログ見てみやしょうぜ、ログ!」
 紫苑が慣れた手つきで画面を操作すると、出るわ出るわ、ベタ褒め発言の数々が。
 匿名だからという事もあるのだろう、恥も外聞もない親馬鹿全壊(誤字にあらず)の熱いトークバトルが繰り広げられている。
「お父さんのハンドル、どれですかねぃ?」
「くまさんは、これじゃないかしら」
 胡桃が『若紫』のハンドルを指差した。
 紫の字が入っているし、それに短く区切られた文面からは不慣れな様子が見てとれる。
 口調は普段と違うが、ネットではよくある事だ。
「わかむらさき、と読むのかしら」
「若紫?」
 ファウストがそれに反応した。
「それは確か、源氏物語で幼少時の紫の上を呼ぶ時に使われる名ではなかったか?」
 紫の上と言えば、光源氏が自分好みに育てた理想の嫁。
「貴様まさか、それを狙っているのではあるまいな」
「その様な、ある筈がなかろう!」
 これは、あれだ。指南役達が勝手に……!
「まあ、良かろう」
 一応は嫁もいることだし、そういう事にしておいてやろうか。
「して、ファウの字よ。ぬしは何という名で参加しておったのだ?」
「わ、我輩は、その」
 ファウストは今、猛烈に後悔していた。
 メンバーがリアルの知り合いだと知っていれば、こんな恥ずかしくも安直なハンドルなど付けなかったものを……!
 しかし後悔先に立たず、後の祭りは踊るしかない。
「……ケセパラ、だ」
 自分の召喚獣から適当に付けたのだと小声で語るその頬は、珍しくほんのり赤く染まっていた。
「ファウのじいちゃ、かわいいでさ!」
 無邪気に褒める紫苑、だがそこは褒める所じゃない。
 そして書き込みを音読するのもやめてくれませんか、お嬢さんがた。
「こももの姉さん、これ読んでくだせ!」
「ケセパラの書き込みね、良いわ。……あら、ずいぶん大人しい印象ね」
 ですます調の丁寧語は、まるで女性の様にも感じられた。
 その柔らかな調子で綴られる孫愛溢れる書き込みは、要約すれば「うちの孫は可愛い」の一言に尽きるだろう。
 と言うか参加者全員「うちの子は可愛い」としか言っていないのではなかろうか。
 例え最初の話題が時事問題であろうと天気の話だろうと、最終的に行き着く先は全て同じである。
 その傾向はオフ会でも全く変わらなかった。
「それはそうであろう」
 その為に集まったのだからとインレが笑う。
 ただし、自分の子が可愛いのは勿論だが、余所の子も可愛い。
 誰が一番かなどと争ったりはしない――理性が働いてさえいれば。
「インレ様のハンドルは、これですね」
 イーファが『月の黒兎』の書き込みを指差した。
 スマホの扱いも完璧なナウい爺さまは、反応と打ち込みの速度なら誰にも負けないのだ。
「だって、インレ様は私の敬愛するヒーローですから。とても強くて優しくて、気を遣って頂いて……」
 新しい友人達にも慣れて来たらしいいイーファは、彼が如何に素晴らしいかを、それはそれは嬉しそうに語る。
 かつて野犬に襲われた時に颯爽と現れ、助けてくれた命の恩人である――というのは、若干事実とは異なる部分がある様だが、本人がそう感じているなら、それを事実として認める事に何の問題があろうか。
「私もいつか、インレ様の様に信念を持った格好いい人になりたいのです」
「ヒーローなら、お父さんだってまけやせんぜ!」
 そして始まる保護者自慢。
 何と言うか、まさに「この親にしてこの子あり」という、ね。
「おれのお父さんも、じいちゃも、めっさ強いしかっこいいですぜ!」
 それを聞いて、揺籠が「俺は?」とでも言いたげな目を向ける。
 だが紫苑は完全にスルーした!
「でも、おれより弱い(ふんすっ」
 正確には紫苑「には」弱い、ですけどね。
「とーぜんでさ、しおんちゃんのかわいさは、さいきょーですからねい」
「うむ、某の娘は世界一ぞ!」
 もっしゃもっしゃ、ダルドフは顎髭で娘の頬を撫でる。
「そうだな、紫苑は……可愛いというだけではない」
 ファウストは酒をちびちびと呑みながら、孫的存在に対する萌えを控えめにボソボソと語った。
「我輩の顔を見て怖がらぬ子供など、滅多にいるものではないからな」
 ましてや無邪気に笑いかけてくれるのだ、これが萌えずにいられようか。
「彼女には是非、幸せになって貰いたいものだが……」
 ちらり、意味ありげな視線を揺籠に投げる。
「百目鬼、貴様はどうなのだ」
「どうって……」
 目を付けられてしまった。
 それを避ける為に、今日は隅っこでひとり静かに杯を傾けていたのに。
(本音なんて、本人を目の前にして言う事でも、言える事でもねぇでしょうよ)
 だから必然的に、答えはツンデレになる。
「まあ、可愛い時もありますがね、大抵は憎ったらしいクソg」
 あ、拙い、保護者二名の背後に黒いオーラが!
「いや、その、今のはあれです、言葉の綾ってェもんで――」
 だからその偃月刀とフェアリーテイルは引っ込めて下さいってば!
 と、そこに当の紫苑の声が聞こえた。
「兄さんのハンドルは、これですねぃ……百合子ちゃん」
 消去法で言ったらそれしかない。
 本人は涼しい顔をしているが、まさかのネカマだった。
 いや、それよりも衝撃的なのは、彼が曲がりなりにも文明の利器を使いこなしているという事実だろうか。
「だから紫苑サン、人を生きた化石みたいに言うのはやめなせぇよ」
 因みに使い方は同期にこっそり習ったらしい。
 そして書き込みの内容はと言えば。
「え、ちょ、それ読むんですかぃ!?」
「花の様に可愛いく、優しくて、けれど儚くはない。大木の様に芯が強くて、しっかりと大地に根を張った子……そう書いてあるわ、ね」
 あわあわと首と手を振る揺籠を華麗にスルーして、胡桃が容赦なく読み上げる。
 他には手袋を貰った事や、一緒に写真を撮った事、服を選んで貰った事――
「手袋なら、わしもイーファから貰ったぞ」
 インレが左手に嵌めた指ぬき手袋を自慢げに見せた。
「しかも手編みだ。どうだ、羨ましかろう?」
 それにしても、まさか紫苑の関係者が三人も関わっているとは思わなかった。
 彼等とは、普段から子供の可愛さや苦労話、心配事などを相談し合う仲。
 その彼等が惜しみなく愛と称賛を捧げる相手が、インレ自身も普段から可愛がっている子供だったとは。
「確かに紫苑は可愛いのぅ、わしのイーファはもっと可愛いが」
 インレさん、酒には強いが呑む酒の度数も強い。
 いや、彼ばかりではなく、皆もそろそろ酔いが回って来た様だ。

「わしのイーファは、それはそれは編み物が上手でのぅ。この前はこうして……」
 少々おぼつかない足取りでイーファの元へ歩み寄り、背中から抱きすくめる。
「ほれ、わしの左手とイーファの右手でな、一緒に編み物をしたのだ。のうイーファ、あれは楽しかったのぅ」
 ゆらゆらと身体を左右に揺らしながら、インレは小さな子供にする様に、娘の頬に自分の頬をすり寄せる。
 因みにイーファは高校生、だが恐らくインレはそうと認識していない……恐らく素面の時でさえ。
 普段から無意識に幼子扱いし、酔えば更に駄々可愛がり、そしてスキンシップ過多になる。
 だが溺愛ぶりなら矢野親子も負けてはいなかった。
「編み物なら、うちの娘も得意だな」
 クリスマスに手編みのセーターをプレゼントしてくれる程度には得意だ。
 その代わり、料理の腕は何と言うかアレだったのだが。
「えーやっぱな、うちの娘はな、こう、料理下手だったんだけどドンドン上達して行ってなー、なあモモ?」
「え、あの」
「それってやっぱり、俺の為であるわけで」
 泣かせるじゃないか、父に美味しいものを食べさせたい一心で腕を磨くなんて。
 え、彼氏の為だろうって?
「そんなものは認めません」
 そして始まる盛大な娘自慢。
 あんな事や、こんな事、記憶の底に封印したい様な恥ずかしい出来事の数々。
 聞いているうちに、胡桃の顔がどんどん赤くなる。
「や、あの、とうさ、はずか。あの」
 俯いて真っ赤な顔を隠しながら必死に服の袖をくいくい引っ張るが、古代パパの娘自慢は止まらない。
「って事で、やっぱり一番かわいいのはウチの子だよな」
「いやいや、わしのイーファなぞわしを慕ってわざわざ学園まで追って来たのだぞ? しかも北欧からだ。どうだ、可愛かろう?」
「だが、何と言っても一番は某の紫苑よ。可愛いばかりではのぅて破壊力も抜群だからのぅ」
「いいや、うちのモモだ」
「イーファに決まっておろう」
「紫苑の他に誰がおると言うのだ」
「だからモモがいるって」
「イーファだ」
 三人とも完全に理性が飛んでいる。
「よかろう、ならば拳で決着を付けるまで!」
 酔った勢いで『どの子が一番可愛いか決定戦(物理)』が始まってしまった。
 まあ、要するにただのヨッパライの喧嘩だ。
「おう、上等だコラ、インフィルトレイターの正確な拳を喰らえ(しゅっしゅっ」
「若造が、構えがまるでなっておらぬわ!」
 ダルドフが拳を握り、古代がスパーリングを始め、インレは拳法の構えを取る。
 そしてまさかの――
「…紫苑が一番可愛い」
 ボソリと呟いたファウストが、大鎌ウォフ・マナフを手に参戦!
 え? 喧嘩は素手でやれ?
 だって非力なダアトだもの、武器くらい持っても良いじゃない!

「あーあー、じいちゃまで……何やってンですかねぃ」
 これだから大人は、と醒めた目で見守る紫苑は揺籠の膝の上。
「歳食うと皆こうなっちまうんですかねぇ」
 その揺籠は他人事の様に、ついでに自分の年齢も棚に上げて傍観の構えだ。
 実はそこで暴れているうちの半数は、揺籠よりも年下なのだが。
「んな大人気ねぇことで……」
 しかし、その一言が拙かった。
「百の字ぃ!」
「キサマァ!」
 ダルドフとインレが手を組んだ!
「大人げない大人、上等だ」
「…許さぬ」
 更には古代が、遂にはファウストまで!
 娘や孫を持たぬ者には理解出来ない何かがある、らしい。
 触れてはならない何かが。
「い、いけません、インレ様……っ、喧嘩はいけません……っ」
 怪我でもしたら大変と、イーファが涙目でインレの服を掴む。
 だが、ヒートアップしたヨッパライは、その程度では止まらない。
「こんなに可愛いわしのイーファにも! 何時か恋人が出来てしまうのだぞ!」
 そんな事が許されて良い筈がないと滂沱の涙、鎮まる気配は微塵もなかった。
 ここはひとつ、紫苑先生の出番でしょうか。
「ったく、しゃーなしですねぃ」
 ごーるでんはんまー四連撃、いっきまーす!
 キン! コン! カン! コン!
 股間を狙って容赦なく叩き込まれる連続頭突き、これはもう痛いなんてものじゃない。
 それだけに効果は抜群、酔いもいっぺんに冷めるよ!
「ぼーりょくはダメなんですぜ? よい子のみんなはマネしちゃいけやせん!(どやっ」
 謎のカメラ目線で勝利のポーズを決める紫苑。
 可愛くて強い、それは絶対的な正義だった。


 そして大人げない大人達は反省……しなかった。
 酔いが醒めた途端に頭を抱えた約一名を除いて、全く反省していなかった。
「我らより娘を奪う資格ありしは己より強き者のみ。闇討ちにてその力量を試すべし」
 かくして、ここに『うちの子達に恋人が出来るなんてお父さん(お爺ちゃん)絶対許さないぞ同盟』が秘かに組まれる事になったのである。
 メンバーは、あの四人。
 そう、四人だ。
 反省はしても同盟にはしっかり参加するのだ――彼、ファウストも。

「何でしょうね、俺は関係ねぇ筈なんですが……何で悪寒が」
 揺籠が感じたそれは、きっと気のせい――

 ――だと思いたい、けれど。

 鍛えておいた方が良い、かも?




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
保護者組
【jb8866/ファウスト】
【jb1679/矢野 古代】
【jb3056/インレ】
【jb8361/百目鬼 揺籠】
【jz0264/オーレン・ダルドフ】

自慢の娘達
【ja2617/矢野 胡桃】
【jb8014/イーファ】
【jb8416/秋野=桜蓮・紫苑】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
一部、鍛えればどうにかなる……というレベルではない気もします、が(
そこは気合いで頑張って下さい!
snowCパーティノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年02月16日

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