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『乙女の全身バレンタイン 』
セレシュ・ウィーラー8538

●始まりは一通の手紙
「……ちょい待ってぇな」
 セレシュ・ウィーラー(8538)は思わず冷たい視線で突っ込んでいた。
 ここは某学園のある街の、とある商店街。
「ウチの酒が何か?」
 酒屋の店主が首をひねる。
「いや、ちゃうねん。つまみの方や」
 セレシュ、「つまみはやっぱり海産物かなぁ」とか思いつつ特設ワゴンに目を転じてこうなっていたのだ。無言でワゴンを指差す。
「おお、目が高いね。そこのつまみは全部バレンタイン仕様だよ」
 見ると、「裂きイカチョコ」とか「烏賊の姿焼きフライチョコ風味」とか「チーズ鱈チョコ味」とかそんなんばっかりが雑然と並んでいる。
「味はどないなん?」
「そりゃもう、塩スイーツみたいだって若い女の子にバカ受け」
 ホンマかなぁ、とか懐疑の視線を向けるセレシュだった。

「で、結局これかい」
 しばらくのち、学園の女子寮内。とある教師の部屋で。
「いや、若い女の子にバカ受けいうし……ロリセンセにもバカ受けするかなぁとか」
 セレシュがびくびくと小さくなりながら声の主――見た目の幼い女教師の機嫌をうかがっている。
「はぁ……」
 目の前に座っていた少女は脱力しながらため息をついていた。
 そう。
 セレシュは結局酒屋の主人の言うとおりに、「裂きイカチョコ」などを買い込んで目の前に並べていたのだ。
「セレシュは可愛いなぁ。そんな言葉を信じて。……本当に、若い女の子があんな酒屋に乾物を買いに来ると思ってるのか?」
 騙されたんだよ、とロリ先生。
「せやろ? 普通、若い女の子はあんな酒屋に入らんやろ?」
 セレシュ、ここで言葉を切ってロリ先生を見た。
 座布団に座っているのは、ゴスロリ服に包まれた、どう見ても若い女の子である。
 ここで、ぴく、とロリ先生の眉が不機嫌そうに動いた。
「つまりアレか? あんな酒場に行く見た目若い女の子は私しかおらん、よって、バカ受けなのは私で、私へのつまみもこれを買っておけばよい、と?」
 ごごご、と凄む相手にセレシュは酒を出した。
「わー、ちょい待ち。せっかくその店でいい酒あったんで、そこでつまみも買うのが人道ちゅうもんや。センセにも感謝のチョコ必要やし……」
 ぴた、と止まるロリ先生。
「ま、セレシュの言うことにも一理ある。何よりこうして付き合ってくれるのが嬉しいな」
 ほっとするセレシュ。買ってきた日本酒「乙女日和」を開けて酌をする。これで完全にロリ先生の機嫌は直った。「感謝のチョコが必要」との言葉に感激したようだ。
「返信したら間に合わん手紙出しといてよういうわ」
 ぴら、と紙を出すセレシュ。
「どうせバレンタイン暇だろう、ちょっと戻ってこい」
 と文面。
 その一文で酒とつまみがそろっているというのが、なんというかこの二人な感じである。
「せやけど、チョコ業界もあれやね〜」
 セレシュ、口調を改めて話題を変えた。足を崩して髪の毛に指を通して流す。するとその先が蛇の頭になった。きゅっと縛っていた襟元のリボンも緩めた。相当リラックスしているらしい。
「アレって何?」
「うちらと似たようなこと考えるなぁ、とかね」
 いつかのバレンタイン前の休日のことを思い出しながら、ちびりと乙女日和を飲むセレシュ。瞳が遠くを見つめる。


●回想のセレシュ
「セレシュ〜っ、ホワイトチョコ作るからマヨネーズとって〜」
「アホか〜い!」
 学生寮のキッチンでわいわいがやがや、天然なボケに突っ込みも。セレシュたち女子学生は手作りチョコに取り組んでいた。
「なあ。もしも愛情込めて作ったら、愛情は異物混入にはならんのか?」
「愛情は砂糖みたいなもんだから原材料の範囲内じゃない?」
 セレシュ以外にも、そんな会話をしつつチョコを湯煎したり中に交ぜるアーモンドを砕いていたり。他愛もない会話をしながら楽しんでいたのだが。
「あれ? 白くならない……。ホワイトチョコってマヨネーズを混ぜて作るんじゃないの?」
「あんた……ホントにやったんかい」
 セレシュがちょっと天然な女子学生の所業に呆れている。
「だって……白くするならマヨネーズかなって」
 言い訳する天然っ子。
「あーっ! こんなにマヨチョコ作ってる。一体どうすんのよ〜!」
 ほかの女子学生も気付いて慌てている。天然っ子は、「てへ」。
「まあ、食用油脂成分だからチョコに入れても原材料の範囲内……かも」
「一体だれが食べんのよ!」
「そりゃあ……義理チョコとしてもらった男子?」
 続々寄ってきた女子生徒たち。最後にはわははと爆笑する始末だったり。
「……義理チョコなんやな」
「あら。セレシュはマヨチョコを本命チョコにするわけね?」
 食べることになる誰かに同情したセレシュ。横から突っ込みが入った。
「んなわけあるかい」
「へええっ。本命チョコは別なのね〜。一体誰にあげるのかしら〜?」
「本命チョコは作らんて。……義理のマヨチョコも作らんけどな」
「でも……こんなにマヨチョコがあったらまともなチョコを作る分の材料がなくなっちゃう」
 乙女たちはようやく問題の本質に気付いた。
 すでに大半がマヨチョコと化しているのだ。
「ああ、それなら任せて」
 ここでぼそりと口をはさむ人物がいた。
「任せてって、アンタ……」
「錬金術学科にお任せだよ」
 目を丸めるセレシュを安心させる女子学生はビーカーを前に並べ試験管を持っていた。どうやら錬金術の実験をしていたらしい。
「ちょい待ち!」
 セレシュ、不審な動きをする女子学生を止めた。先に口で止めたにもかかわらずマヨチョコができてしまった悲劇を繰り返すわけにはいかない。疑わしきは口先だけで止めず確実に。
「何?」
「怪しい実験やないやろね?」
 ホットチョコがいっぱいの鍋に手を掛けたところでぎろりとねめつける。
「怪しくなんかない……ほら」
 錬金術系女子、そういって人形型のマジパンをホットチョコにつけた。
 するとみるみるチョコが浸透して……マジパンは人形型を保ったままチョコになっていた。
「ちょい。今の怪しいの、何?!」
「有機物をチョコに変えるホットチョコ。怪しくな……あっ!」
「なるほど〜。失敗したマヨチョコもこの中に入れたら全部普通のチョコになっちゃうんだね!」
 説明を横で聞いてた天然っ子が、どぼんどぼんとマヨチョコを鍋の中に入れた。
 その飛沫が、そばにた一人の女子生徒にかかった!
「あっ!」
 一同、声を失った。
 何と、飛沫を受けた女の子がびっくりした表情のまま全身チョコレートになっていたのだ!
「ちょい、えらく危険な代物やん!」
「そう? 流体時に浸透してチョコになるから、固まってしまえば大丈夫。ほら、胸を触っても平気でしょ?」
 一大事だ、と騒ぐセレシュをよそに錬金系女子は冷静なままチョコになった子の胸をさわさわ。
「いや、そない問題やなくてね……」
 必死に食い下がるセレシュ。こういう「やってもうた〜」は日ごろ自分がやっているので大変さはよくわかる。
 しかし、皆がセレシュのように達観していない!
「そんな危険なもの持ってちゃダメ〜!」
「みんな、押さえるわよっ!」
 ほかの女子が一斉に鍋を押さえにかかったのだ。
 たちまちどったんばったんとえらい騒ぎに。
 が、その突撃は裏目に出た。
 余計に飛沫は散って前のめりのポーズの全身チョコができたりスカートひらりんな全身チョコができたり……。
「みんな落ち着いて。この薬をかければ中和されて元に戻るから……ほら。マジパンで好きな形を作れば型に流し込むより精巧な細工のチョコができる……」
 冷静だったのは不可逆ではなかったから。ついでに、このホットチョコの利点もちゃんとあった。もっとも、多くの女子がチョコ化した後だったが。
「あんた、錬金やめて体術系に移った方がええんちゃう?」
 セレシュとしては四方からの取り押さえをかわし切った方に感心しているようで。

 しばらくのち。
「まったく、まさかチョコにされるとは……」
 チョコになった生徒は無事に元通りなってマジパンでチョコにする人形を作っていた。
「ん? リアルに『私を食べて〜』ができて良かったんちゃう?」
「そりゃホラーやわ、セレシュ」
 ぽん、と手の甲で突っ込まれる。
「あ、危ないなぁ」
「チョコはついてないから」
 セレシュが手をかわそうとしたのはもちろん、チョコの飛沫を恐れてだったり。戻ると分かっていても気分のいいものではない。
「でも、チョコになった人を食べたらどうなるのかしら?」
 すると天然っ子が素朴な疑問を呟きセレシュを見る。
「なんでうちの方を……」
「もちろん、石にして砕くのは得意だから〜」
「得意て……うちはちゃんと直してるやん。食べた分はそっちに聞くしかあらへん」
 ぐりん、と全員が錬金女子を見る。
「あら。……なくなったチョコは足せばいいのよ? 胸だったらおまけで盛ってあげていいし、ウエストならそのままかしらね?」
「な、なんやてーーーっ!」
 その言葉に全員が色めき立つ!
「……だったらいいよね。このマジパンみたいに」
「願望かいっ!」
 がくり、と皆が失望する。
 それはそれとして、好きな人形を作るのに夢中。手を動かしつつ会話も弾んだ。


●そして、乙女日和
「全然似てないじゃないか!」
 セレシュの昔話を聞いたロリ先生、いきり立った。
「いや、似てへん言われたらそうやけど、マヨチョコとか変なのばっかり……」
「いいかぁ、セレシュ!」
 たははと弁明するセレシュだったが、その言葉は力強く卓に叩きつけられた猪口と激しい口調に遮られた。
「問題は……等身大チョコ像の方だ!」
「はあ?」
 言い切ったロリ先生。上げた顔が赤い。
「……おい、酌は?」
「あ、はい……」
 ぎろり、と座った目で睨まれて慌てて酒を入れる。昔話をするうちに相当飲んでいたらしい。
「あの……何かあったん? たとえば、また男にふられ……」
「なんで知っとんじゃ、セレシュ―――っ!」
 胸ぐら掴まれた。
「い、いやその」
「とにかく飲め。先生のために飲め。振られたわけじゃないがいい男がフィギュアマニアだった悲しみのために、飲め!」
「あー……。だから全身チョコに方に食いついたんやね……」
「結局食ってもないし食われてもないわい! とにかく飲め」
 その後、今度はロリ先生が一方的にしゃべるしゃべる。恨み節では肴にならんと結局チーズ鱈チョコなどを食いまくる。
 でもって。
「ええかせれしゅ……おとこのみかけにゆめぇもったらだめ……むにゃ」
 大トラになって身振り手振り激しく話してた反動か、すっかり酔いつぶれて横になってしまったロリ先生。
「そりゃ、うちもセンセもそうやね」
 うわごとにこっそりそう返すセレシュ。
 ゴルゴーンの髪を気兼ねなくさらして会える存在に感謝しつつ、ちびりちびりと一人呑むのだった。
 のんびりと。
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瀬川潮 クリエイターズルームへ
東京怪談
2015年02月16日

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