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『お生姜つ・再 』
ティー・ハート(ic1019)&ジャミール・ライル(ic0451)


 太陽の光にきらきら輝く解けかけの雪。踏むたびに異なる音を鳴らすそれはまるで楽器のようだ、とティー・ハートは調子よく雪道を行く。
(今日は天気良い……。散歩日和……かな?)
 一息吐き、見上げた空は清々しい青。降り注ぐ日光に目を細めた。
(どう、して……冬の空は、高いんだろ……?)
 空へと昇っていく真っ白い吐息。このまま雲になるのか、と行く先を見守っていれば甲高い音と共に吹き抜けた北風に散らされてしまう。
「……さっむぃ」
 肩を震わせ上着の胸元を寄せ合わせ風に浚われたフードを深く被りなおした。
(訂正……。やっぱり散歩日和、じゃない……)
 太陽に騙された、今日も北風は絶好調でとても寒い。先ほどまでのちょっと楽しい気分も急速に萎んでいく。
 家に帰ろうかな、と返しかけた踵に見知った背中。
 友人のジャミール・ライルだ。寒そうに背を丸めて歩いている。どうやらティーに気付いていないらしい。ならば驚かしてやろうと手早く握った雪玉を大きく振りかぶった。
(よぉおく、狙って……)
 とりゃ、と心の中の掛け声とともに放った第一球は、狙いより少し上に逸れジャミールの首元に炸裂する。
「……っひぃ!」
 短い悲鳴。
「やったー、命ち……ぶっ」
 しかし喜びも束の間、ティーの顔を狙い撃つジャミールからの返球。

 アル=カマル生まれのジャミールにとってやはり天儀の冬は天敵だった。多分この先十年経っても互いに理解し合えることはないだろう。
「やややばい……」
 ガッタガタ鳴る歯のせいで震える声。思う存分厚着をしても、容赦なく足元から這い上がってくる底意地の悪い寒さ。こういう日は女の子とベッドで仲良く過ごすのが一番だというのに、今日に限って約束がない。
 通り抜ける北風に小さく呻いてぎゅっと自分を抱き締める。
「死ぬかも……。比喩とか冗談じゃなくってマジで……っ!!」
 寒さから気を紛らわせるために多くなる独り言。
 ……と、突然何かがジャミールの首に直撃し、首筋に滑り落ちた。

 雪だ!!

「……っひぃ!」
 めっちゃ冷たい!! 溜まらず上げた悲鳴。驚きでひっくり返った心臓は一瞬止まったに違いない。本当に死ぬ、いや今絶対一度死んだし……こんな悪戯したのは誰だ、と肩越しにみれば嬉しそうに拳を握る友人の姿が目に入る。
「……やったー、じゃねぇべ?」
 ジャミールは植木に積もった雪を掴み振り向きざま友人に投げつけた。雪玉は見事ティーの顔面へ。更に追撃、ともう一つ雪玉を握る。
 だが……。
「ごめんなさい……負けました……」
 鼻の頭を真っ赤にしたティーが、痛いとグスっと鼻を鳴らしながら早々に両手を挙げて降参した。
 ジャミールとしても二人で不毛な雪合戦を続けるつもりはない。それよりも、と唇の端をあげる。一緒に温かいものでも食べたほうが幸せだ。勿論ティーの奢りで。そうと決まれば話は早い。
「なーティーちん、耳貸して! 耳!」
 ティーに歩み寄ると挨拶代わりに兎耳に手を伸ばす。
「俺の耳は、懐炉じゃ、ないぞ」
「ケチ……」
 耳をフードにしまいこむティーに唇を突き出すジャミール。
「ライルのが厚着じゃ……あれ?」
 風に乗って聞こえてくる音楽にティーが耳を澄ました。
「お祭り?」
 ジャミールも耳に手を当てる。音楽は天儀のお祭りでよく聞くお囃子のようだ。
「「あ……お生姜つ!!」」
 二人が顔を見合わせた。ちょうど去年の今頃、これまた寒い日に出逢った天儀の不思議なお祭り。
 少し先に人だかりがみえる。人だかりの上には、二人の記憶にある朱色の鳥居がどんと構えていた。
 確信に頷きあう二人。
「ティーちん、ティーちん、今年もお生姜つしに行こー?」
 二人の中で『お生姜つ』とは神社でお願いをして生姜を使った料理を食べる祭りだった。
 お囃子とともに風に運ばれるそぉすや醤油の焼ける良い匂い。そういえばちょっとお腹がすいたかも、とティーは腹の辺りを摩る。
「願い事して、ついでに何か、食うかー」
 参道を行く人は去年に比べて少ない。正月も三が日を過ぎたために初詣の参拝客も減っているのだが、二人には与り知らぬこと。
「まずは参拝からな」
「ティーちんはそういうとこ真面目だよね」
 屋台に向かうジャミールを引っ張りティーは参道を進む。途中飴を売っているお姉さんに笑顔と愛想を振りまくジャミールに「そういうとこマメ、だな」とティーが返した。
 ガラン、ガランと鐘の音。流石に今年は小銭が宙を飛び交っていない。列の一番後ろに二人も並ぶ。
「お願い、どうするかな?」
 ごく自然にジャミールにお賽銭を渡しながら尋ねるティー。
「んー……特にねぇな……。  あ……!」
 ジャミールがいきなり列からはみ出すほどに身体を傾ける。
「な、に? どした?」
 驚くティーにジャミールが前を指さした。指の先には御神籤やお守り売り場に立つ巫女装束の女の子達。
 そういえば去年も巫女の事を可愛いなんて言っていたな、とティーは思い出す。
「天儀美人って、いうの? いいよねー」
「真ん中の子、笑顔が可愛い、な」
 ジャミールの耳打ちにティーがこそっと答えた。ティーだってお年頃の男の子だ。可愛い女の子が気にならないといえば嘘になる。
「ティーちんは、あーいう子が好みかー」
「ライルの好みは?」
「うん? 俺もよく笑う子好きよー。 まあ、女の子は皆柔らかくて可愛いけど」
 賽銭箱へ辿り着いたジャミールは、賽銭を手にはたと動きを止めた。
(あー……どうすっかなー)
 願い事が特にないのだ。とりあえず賽銭を投げ手を合わせ、隣のティーを盗み見る。
 何を願っているのかと思えば、ティーは先ほどの巫女を見ていた。その視線に気付いた巫女がティーへ柔らかい笑みを向ける。
 慌てて正面に向き直るティー。顔が赤い。代わりにジャミールが手を振って応えておいた。
 それから早く暖かくなりますように、と容赦なく吹く風にジャミールは割合本気で願う。
 ティーは両頬を手で押さえる。冷たい掌が気持ち良い。横を確認すればジャミールは願い事中だ。多分巫女さんに見惚れていたのは気付かれていない。
 良かったと安堵し合わせる手。
(願い事はー……)
 大それたことは浮かばない。
(とりあえず……ライルに雪合戦で勝てますように)
 今度はせめても互角に持ち込みたい、とそっと雪玉がぶつかった鼻を押さえる。
(あと……早くあったかくなりますように……)
 賽銭箱前はちょうど日陰でとてつもなく寒いのだ。こうして手を合わせていても身体がぶるぶると震えてきてしまう。
(それから……)
 ちらりとジャミールを見た。彼は何を願っているのだろうか。
(今年もほどほどに幸せでありますようにー)
 気が置けない友人と一緒に過ごせるのは楽しいし幸せだ。だから今年もこうして過ごせたらいいな、と思う。
 参道をぶらついているとジャミールがティーの顔を覗き込んでニィっと笑う。
「ティーちんも男だよねー」
「え? いや、見てた、のか……」
 焦るティーをよそに「あ、あれ食いてぇ」とたこ焼きの屋台を指差すジャミール。話を逸らしたわけではない。単にマイペースなだけだ。
「好きなもの、どうぞ」
 だがそれ以上あれこれつっこまれるのも恥ずかしいティーは、これ幸いとばかりに財布を取り出した。尤もジャミールは財布を持ち歩かないので、いつもティーが支払っているのだが。
「あ、ティーちんのも一口頂戴ー」
 ティーの手にあるじゃがバターを指差し、あーんと口を開けるジャミール。
「熱いから気をつけてな……」
 じゃがバターをジャミールの口元に。
(だいぶ慣れたな……)
 遠い目をするティー。去年はあれだけ抵抗があった「あーん」が今年は普通にできるようになってしまっている。
「去年はティーちんの貰ったんだよなー」
 今度はジャミールがティーに「あーん」と爪楊枝に刺したたこ焼きを差し出した。
「……イタダキマス」
 ぱくり、と一口。すぐにはふはふと外気を取り入れる。去年学んだのだ。中はとても熱いと。
 それにしても本当に自分は「あーん」に慣れてしまった。しかも男同士での!これは喜ぶべきことか、悲しむべきことか……微妙な気持ちである。
「だるま?」
 丸くて赤いごつい顔をした置物をティーは不思議そうに覗き込んだ。置物はことごとく白目を剥いている。どうして、と問う前に「ティーちん、ティーちん」とジャミールに呼ばれた。
「蛇だってっさ」
 ピューと音を立ててジャミールが笛を吹く。紙でできた蛇がしゅるしゅるっと首を伸ばした。たったそれだけなのになんだか面白い。
 ティーも興味の赴くままに屋台をひやかしてみたり、何か催しをやっていれば輪に加わってみたりもしたが、見た瞬間に笑えるものを探すのはジャミールのほうが上手い。
 豪快な肉の串焼きに齧り付いたジャミールが瞬きを繰り返す。
「どうした?」
「これ生姜じゃない。ニンニクだ……」
「ニンニク?」
 一口貰った肉は確かにニンニクの香りがした。
 解せぬ、と二人で顔を見合わせる。そういえば先ほどのじゃがバターも生姜ではなかった。風習は時の流れとともに変化していくものなのだろうか、ティーは串焼きを見つめる。真面目といわれる所以だ。
 日が沈みいよいよ本格的に冷え込んできた。
「寒いし、このあたりの飲み屋入る?」
 見つけた飲み屋の提灯。寒さのあまり真顔のジャミールが無言でコクコク頷く。二人駆け足気味に飲み屋に飛び込んだ。
 こあがりに上がり火鉢を囲んで手を温める。
 やってきた熱燗を一杯空けようやく一心地。
「そうだ、次はライルに勝つから……!」
 タン、と音を立て盃を卓に置くティー。白い肌が紅潮している。まだ徳利一本も空けていないというのに出来上がっているようだ。
「俺に? なんか勝負してたっけー?」
 相槌を打ちつつ空になった盃にジャミールは酒をついでやる。
「雪合戦! 今日は俺がすぐに負けたけど、次は勝つぞー」
 「おー」と勇ましくあげる手。
「お生姜つで、必勝祈願 してきたから!」
 ティーは酔っ払うと常より陽気に饒舌になる。
「あー、なるほど。あれ、願い事って言ったら叶わないって話だったじゃん」
「へ? そうだっけ? そっかー叶わないのかー。そっかー……言っちゃダメなのに言っちゃうとか俺ダメダメだー」
 あはは、と卓の下で足をばたつかせて笑い出した。
「まあ、お生姜つ、楽しかったからいいかー」
 お土産後であげるーとティーが生姜飴の袋を振る。
「めっちゃ生姜も食べたしなー」
 最後はニンニクだったけど、とジャミールが言えばティーがこれまた陽気な笑い声を響かせた。
「ライル、来年も生姜食べよう」
「じゃーさ、ティーちん、誘ってよ」
「誘う、誘う。生姜つ行こうぜーって」
 肴を運んできた給仕の「生姜を食べる?」と怪訝そうな顔にも気付かず、盛り上がる二人は「来年も生姜を食べる」と盃を交わす。
 そのうち酒の勢いも手伝って即興で演奏を始めるティー。おどけた明るい曲に客の誰かが歌詞をつけて歌い出した。
「じゃー、俺も踊っちゃうかなー」
 立ち上がったジャミールがストールを靡かせて回る。あちこちから飛ぶ拍手や声援。
 ティーがフルートで奏でるお囃子にジャミール以外の客も踊りだす。気付けば飲み屋は宴会場だ。
 賑やかに更けていく二度目の『お生姜つ』の夜であった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名       / 性別 / 外見年齢 / 職業】
【ic1019  / ティー・ハート   / 男  / 20    / 吟遊詩人】
【ic0451  / ジャミール・ライル / 男  / 24    / ジプシー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございます。桐崎です。

二年目の「お生姜つ」いかがだったでしょうか?
どうやら今年も誤解は解けなかったもようです。
寧ろ「和尚が二人で和尚がツー」とか飲み屋の客に吹き込まれていないか心配になります。

イメージ、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。

それでは失礼させて頂きます(礼)。
snowCパーティノベル -
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舵天照 -DTS-
2015年02月16日

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