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『群青色の夢 』
メリーjb3287

 新年が明けたばかりの元旦。
 きんと冷え切った空気を、メリーは胸いっぱいに吸い込んだ。
「いい天気なのです!」
 冬晴れの空はきりりと爽やかで、まさに年が明けた最初の一日に相応しいと言える。晴れ着姿のメリーは、浮き浮きとした足取りで通りを歩いていた。

 元旦の街は初詣に行く人や、元旦セールに出掛ける人たちで賑わっている。道行く人たちを眺めながら歩いていると、数十メートル先にやたらと目立つ人影があるのに気付いた。
「あれは……?」
 鳶色の髪に瑠璃の瞳。今日はいつもの群青の外套ではなく、黒の紋付き袴を身につけている。
 しかし隠し切れない武人としての空気が、周りの視線を集めるのだろう。思いもよらぬ騎士との出会いに、メリーは思わず駆け寄った。
「バルシークさん!」
 突然かけられた声に、大天使バルシークは驚いた表情になる。
「お前は……」
「こんなところで偶然なのです! 一体どうしたのです?」
「いやその、ゴライアスがだな……」
 聞けば新年だからと言う謎の理由で、人界に行くのを誘われたのだと言う。断ろうと思ったら、既に自分の衣装まで準備されていて、逃げ切れなかったのだとか。
 召した紋付き袴を見やりながら、大天使はため息を漏らす。
「全く……このような衣装、私が着てもな」
「そんなことないのです。その着物よく似合ってるとメリーは思うのです!」
「む……そうか……」
 振り袖姿の自分ともぴったりだと彼女は思ったが、そこは口に出さず小首を傾げ。
「でも、ゴライアスさんの姿が見えないのです……?」
「ああ、気が付いたらいなくなっていてな」
 要するに置き去りにされたということなのだろう。若干遠い目をしている大天使にメリーはひとしきり考えた後、切り出してみる。
「じゃあ、メリーと一緒にお出かけするのはどうなのです?」
「何?」
「ここで一人でいても、つまらないのです。お正月の楽しみ方をメリーが教えてあげるのです!」
 兄以外の男性が苦手な彼女にとって、普段ならば絶対に自分から誘うことなどしない。今も緊張しているのに変わりはないのだが、何故かバルシーク相手だとちょっとだけ積極的になれるから不思議だ。
 対する大天使は、突然の提案に面食らった様子で。
「しかし……お前も予定があるのではないか?」
「遠慮はいらないのです。あ……それとも、メリーとお出かけするのは嫌なのです……?」
「い、いや、そういうわけではない。ああ……そうだな。あいつもいつ戻るかわからないし、ここにいても目立つだけだしな。悪いが案内を頼めるか」
 その言葉を聞いたメリーの顔が、一気にぱぁっと明るくなる。
「任せてくださいなのです!」

 そんなわけで、騎士と少女は新年で賑わう街へと繰り出していった。
 最初に訪れたのは、この辺りでは有名な神社。年が明けたばかりのこの場所は、多くの初詣客で賑わっている。
「……凄い数の人だな」
 巨大な鳥居をくぐりながら、バルシークは物珍しそうに辺りを見回している。日本の習慣に縁が無い彼にとって、この場所にこれだけの人間が集まるのが不思議に見えるのだろう。
「新年と言えば、初詣なのです。みんなそのためにここへ来ているのですよ」
「ハツモウデ、とは何の儀式だ?」
「新しい一年の幸せを、神さまにお願いするのです!」
 言いながら、メリーはお財布から五円玉を取り出して差し出す。
「これを使ってくださいなのです。お賽銭なのです」
「オサイセン……?」
「メリーと同じようにしてくださいなのです」
 そう言ってメリーは手にした五円玉を賽銭箱へ投げる。バルシークも同じようにしたのを見届けると、今度は目前に下がっている綱と、その上に吊された大きな鈴を見上げて。
「これを鳴らして、神さまにメリー達が来たことを教えるのです」
 二人でがらがらと鈴を鳴らしたら、いよいよ拝礼の開始。二礼の後、ぱん、ぱん、と二回拍手してからメリーは手を合わせ。
「ここで、お祈りをしてくださいなのです」
 バルシークも見よう見まねで同じようにしてから、二人揃って祈りをささげる。
 再び一礼をして神前を後にすると、メリーは振り向いて。
「バルシークさんは何をお願いしたのです?」
「秘密だ」
「むぅ……そうなのですか」
 ちょっと不満げなメリーを見て、バルシークは笑みを漏らす。
「お前は何を願ったんだ?」
「自分は内緒なのに聞くなんてずるいのです……。でも特別に教えてあげるのです。お兄ちゃんや、お友だちや……バルシークさんが幸せでありますようにってお願いしたのです」
 そう言って少し恥ずかしそうに微笑むメリーに、大天使は一度瞬きをしてから。
「……考えることは皆同じだな」
「え?」
「いや、こちらの話だ」
 そう返してから、バルシークは改めて周囲を興味深そうに見渡す。
「それにしても、ここの建物は美しいな」
 年季の入った設備一つ一つが、その歴史を刻んでいる。古い建物が好きな彼にとって、好奇心を刺激する場所なのだろう。
「せっかくだから、見て回るのです?」
「ああ、そうしよう」
 二人はしばらくの間境内外を歩き、手入れの行き届いた社殿や鳥居、参道に並ぶ燈籠や狛犬を見て回る。
 鎮守の杜と呼ばれる森林にさしかかると、バルシークは瑠璃の瞳を細め。
「この地は遙か昔から人々に敬われ、大事にされてきたのだろうな。木々一つとってもそれがわかる」
 そう言ってしばらくの間枝々を見つめた後、ふいにメリーを振り向く。
「いい場所だ。案内に礼を言おう」
「バルシークさんならきっと気に入ると思ってたのです。連れてきてよかったのです!」
 喜んでもらえたことが、彼女にはとても嬉しかった。

 初詣が終わった後は、街でお買い物。
 メリーはとあるお店を指さすと、瞳をきらきらと輝かせる。
「あそこにはメリーが狙っている福袋があるのです。一緒に買いに行って欲しいのです!」
「フクブクロ……?」
 バルシークを引き連れやってきたのは、デパート内にあるお菓子コーナー。店内は甘い香りとともに、もの凄い人で溢れている。
「さ……先程よりも密集度が高いな……」
 目を白黒させる大天使に構わず、メリーはどんどんと前に進んでいく。
「早く行かないとなくなっちゃうのです!」
「おい、あんまり離れるとはぐれる……」
 
 あっさり見失った(真顔)。

「どこに行った……?」
 身長142センチのメリーをこの人混みで探すのは、至難の業である。バルシークはどうしたものかと思案したが、下手に動くより自分(193センチ)が目印になった方がいいだろうと判断し、その場に留まる。
 周囲の視線が痛い気もするが、見なかった事にした。
 数分後、息を切らせたメリーが戦利品を手に戻って来る。
「バルシークさんお待たせなのです!」
「無事に買えたのか?」
 メリーは大きく頷くと、手にした大きな紙袋を掲げる。
「お菓子作りのセットが入っているのです。お兄ちゃんやバルシークさんにも今度作ってあげるのです!」
「そ、そうか……それは……楽しみだな……」
 若干冷や汗を浮かべているように見えるのは、気のせいだと思いたい。
 その後は一緒にお雑煮を食べたり、メリーの兄自慢を聞かせたり。まるで父と娘のような二人が過ごす楽しい時間は、瞬く間に過ぎていく。
 そして訪れる、別れのとき。

「そろそろ、私は行かねばならない」
 そう切り出したバルシークは、どこか名残惜しげな色をその瞳に宿している。
「あ……もうそんな時間なのです?」
「ああ。付き合ってもらってすまなかったな。楽しいひとときだった」
 聞いたメリーはぶんぶんと首を振ると、にっこりと微笑んで。
「メリーもとっても楽しかったのです。こちらこそ、ありがとうなのです!」
 そう言ってから一旦黙り込み。意を決したように顔を上げると、大天使を見つめる。
「最後に、バルシークさんへ伝えたいことがあるのです」
「何だ?」
「メリーの……メリーの本名は、メリアス・ネクセデゥスと言うのです。覚えておいて欲しいのです」
 伝えた理由は、彼には愛称でなく本名で呼んでもらいたかったから。メリーの真剣な表情に気付いたのだろう。バルシークは静かに頷くと、瑠璃の瞳を細め。
「わかった。お前のことはこれからメリアスと呼ぼう」
 その声がとても穏やかであることに、メリーは何故か安堵する。同時に別れの寂しさが急にこみ上げてきたけれど、必死に我慢をして。
「じゃあ……ここでお別れなのです」
 気を抜くと涙が出そうなので、精一杯の元気な笑顔で送り出す。
「さようならなのです、バルシークさん!」
 直後、辺りが急に真っ白になっていく。
 きらきらとした光に包まれる中、メリーは唐突に理解した。
 ――ああ、これは夢だったのです。
 いつか実現できればいいと思っていた、小さくて、遠くて――幸せな、夢。
 だからいつかは終わるものだと、きっとどこかでわかっていたのだ。

 ふと、頭に大きな手が触れ、撫でられるのがわかる。
 ゆっくりと瞳を閉じた彼女の耳に、その言葉がはっきりと届いた。

「幸せにな、メリアス」





 朝。
 目を覚ましたメリーの瞳には、いつもの見慣れた天井が映った。
「夢……なのです……?」
 ぼんやりとした身体を起こして、辺りを見渡してみる。けれどやっぱり、部屋には自分一人しかいない。
 無意識に手で頭に触れてみる。誰かに撫でられた感覚が、残っている気がしたから。
「あれ……おかしいのです……」
 何だかとても心が温かくて、切ない。気が付けば、瞳から涙がこぼれ落ちていて。
 どうして自分が泣いているのかわからず戸惑っていると、ふと枕元にある群青色のリボンに目が留まる。手に取った瞬間、急に夢の記憶が蘇ってきて胸がいっぱいになってしまう。
 彼女の頬を、次から次へと涙が伝っていく。リボンを抱き締めながら、メリーはひとり言葉を漏らす。
「貴方の前では泣かなかったのです……だから今は、泣くのを許して欲しいのです……」
 バルシークの前では絶対に涙を見せないと決めていたし、ちゃんと笑顔で別れてきた。
 だから今だけはせめて、貴方の死を悼むのを許して欲しい。
 メリーは泣き続けながら、心に誓う。

(大丈夫なのです、バルシークさん)

 名を呼んでもらった。
 幸せにと言われた。

 たくさん泣いたら、ちゃんと前を向いてけるから。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/願】

【jb3287/メリー/女/13/幸せに】

参加NPC

【jz0328/バルシーク/男/48/幸せに】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております。
この度は発注ありがとうございました、大変お待たせして申し訳ありません!
まるで父娘のようなほのぼのデート、とっても楽しく書かせていただきました。
最後はちょっぴり切ない終わり方ですが、メリーちゃんが前を向いて歩いて行けますように。
snowCパーティノベル -
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年02月23日

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