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『月夜のアンサンブル 』
エイルズレトラ マステリオja2224)&亀山 淳紅ja2261

 始まり始まり大ステージ。
 流れる歌声と巡る嘘、二色の彩りが錯綜する。

 ――彼は謡い彼は騙す。

 そうして駒は躍り出す。



 中天に座す満月、皓々と光を放つそれは天然のシャンデリア。
 ――まるで場はステージ舞台のようだった。戦場だというのに賑やか且つ華やか。蔓延るディアボロの群れの声も、今の彼らにとっては歓声のようなものだ。
 とある奇術士ととある歌謡いの他愛無い日常。
 戦場だ。勿論緊張は絶えない。けれどそれは脅え竦むものではなく、心身共に昂揚し、攻撃を避けるステップをも軽やかにさせる魔法めいた意識。
 サーカスのショウの目玉、綱渡りにも良く似ている。一本の細い細い道の上を爪先立ちに行く、あくまで喜劇的に、あくまで観客を湧かせる為に、あくまで役を演じるキャストとして。
 片や奇術士、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)。彼はあくまで演者、まるで手品師の扱うそれのようにトランプを自由自在に切り、場の状況の見定めに入る。
 片や歌謡い、亀山 淳紅(ja2261)。場を揺らす歌声はどこまでも慈愛に満ちた柔いアルトボイス、張り詰めた空気を和らげると同時に二人の士気を上げた。
 エイルズレトラと淳紅の前に対峙するのは、不恰好な人型のディアボロだ。所謂グールというやつで、これでは拍手も喝采も出来そうにない。
 しかし、二人はこんな時でも『ステージ』としての気を抜かない。
 黒いタキシードに腕を通したエイルズレトラは、背から伸びたマントを翻して踊る。すっぽり被ったシルクハットを押さえつつ、軽やかにステッキを振ればアウルで生み出されたトランプが宙を舞った。
「いきますよ。――まずは小手調べ、序曲からどうぞ」
 ひらひらとエイルズレトラの周囲を舞うトランプの一枚一枚が、彼の言葉と共に急に意思を持ったように鋭さを孕む。アウルによって作り上げられたそれは、研ぎ澄まされたナイフのように妖しい煌めきを帯び、鈍いグールの肉を容易く切り裂いた。
 上がる呻き声も、今の彼にとっては小気味良いバックミュージックの一つ。
 次々と襲い来るグールの攻撃を躱し、いなし、息切れすることもない。手慣れた体さばきで迫り来る刃を、棍棒を避け、マントを宙に躍らせる。その間にも絶え間なく精製されるトランプがグールたちを斬り付け、肉片を飛び散らせた。
 その背後でグールの群れを相手取るは、歌謡い淳紅。ツートンカラーのヘッドセットに手を当てて、蔓延る敵の数に怯むことなく向かい合う。常と変わらず周囲で泳ぐ小さな鯨に目を遣れば唇に笑みを結び、淳紅はアウルを練り上げる。
「キャストに御触りは厳禁、マナーは守ってや?」
 冗談めかして言った台詞と共に踊る五線譜は脚に収束し、ばねのように収縮したアウルは大きく淳紅の体躯を跳ねさせた。中空に打ち上げられた彼は愛嬌たっぷりのウインクひとつ、同時にバックヤードには管弦楽団の幻影が浮かぶ。
「――”Cantata”」
 落ちた静寂はワンフレーズ。次の瞬間淳紅が高らかに歌い出せば、指をくわえて見上げる鈍間なグールたちの元に彩り鮮やかな”音”の雨が降り注ぐ。
 淳紅を中心に広がる多重奏。クラシカルなメロディに重ねて響く力強くも優しい歌声に、グールたちの朽ちゆく悲鳴が融ける。それはさながらレクイエムで、再び屍となったディアボロたちの亡骸は音の雨にさらされ白い砂へと還っていく。
 もうひとりの演者エイルズレトラはと言えば、淳紅の魔法の届かない範囲にいつの間にか滑り込み、華麗なタップダンスで残るグールを弄んでいる。
 淳紅は、ある種の信頼を彼においていた。
(――エイルズ君なら避けれる。)
 知っていた。信じているのではない、知っていた。それが事実なのだ。
 だから、淳紅は範囲に構わず魔法を撃つ、歌を謡う、敵をなぎ倒す。歌声を轟かせ、敵を沈め、舞台をひたすらに魅せる。
 それはエイルズレトラにとっても同じだ。淳紅を信頼しているからこそ、自由に動く。
 どちらも互いの戦い方を知り得なければ出来ないことだが、彼らは互いに知っていた。幾度となく同じ戦場に立ち、死線を潜り抜けて来た戦友なのだ。重ねた戦いの中で身に染み付いた呼吸の合わせ方はいつだって変わらず、こうして同じステージに立つ今、遺憾なく力を発揮出来る。
「さあさ、次の曲。――演目違いのアンサンブル、奇術と声楽のコンチェルト。チケットは完売御免!」
 淳紅の芝居がかった口上も御愛嬌。まるでステージの上、両腕を広げて歌を奏でれば、誘われたように残りのグールが詰め寄って来る。
 それをいなすのはエイルズレトラだ。
 片腕を広げ、一礼。シルクハットのつば越しに目を上げれば、口許には挑戦的な笑みひとつ。グールが跳びかからんとした瞬間、広げられた腕の袖口から大量のカードが滑り落ちる!
「愚者の皆様。本日は御来場、どうも有難う御座いました」
 慇懃無礼に礼ひとつ。
 波のように流れ落ちたカードはグールたちを纏めて縛り上げ、その身を軋ませ絞め潰す。抵抗する間もなく動きを止めるディアボロは、二人に傷ひとつつけることなく砂へと還っていった。
 グールを一掃して――けれど、二人は緊張を解かない。
 殺気が満ちる、色濃い気配。迎えに出る必要もない。重い足音と共に、先程までの敵とは比べ物にならない程の力を持った存在が、闇から姿を現した。
 ――人狼。半獣半人、鋭い眼差しに大きな口、伸びた牙はてらてらと輝いている。グールたちより一回りも二回りも大きく、口元からこぼれる涎は狂犬病のそれを思わせる。
「最後の観客さんですね」
「月も綺麗やからねぇ」
 見た瞬間に、先程までの雑魚とは桁違いの強さだということは判る。
 けれど二人はどこまでも平静、落ち着いていた。
 奇術師と歌謡い、彼らは演者。舞台の上で、ペースは乱さない。
 人狼が咆哮を上げる。それと合わせ、エイルズレトラが奔る。
「ドレスコードは守って頂かなくちゃいけませんねえ」
 翻したマントが夜風を切ってなびく。人狼の足許を狙ってトランプを舞わせると、獣は唸りながら跳び、エイルズレトラの肩口狙って牙を剥く。
 ――が。
 寸での所で牙は肩に埋まらない。咄嗟に翳したステッキ――否、仕込んだ妖刀が獣を阻む。
「やんちゃですねえ」
 ポーカーフェイスを努めつつ、牙と刃で火花散る様を間近で見たエイルズレトラはがら空きの人狼の腹を蹴り飛ばす。飛び退く姿を追いはせず、体勢を立て直すと淳紅に目配せをした。
 人狼の攻撃がいやに重い。咄嗟に庇わなければ骨の一つや二つは持っていかれていたかも知れないし、庇った今でさえ手には痺れが残っている。
 後方に下がった淳紅がアウルで生み出された音波を放つと、人狼はそれを真正面から喰らう。弾けたアウルがその体毛を焦げ付かせ、ただそれだけだった。
 どうやら相当に装甲が堅いらしい。並大抵の攻撃では歯が立たないのだろう。焦げ付いた箇所を人狼が舌で嘗めると、その傷はあっさりと癒えた。自己リカバリー能力をも持ち得ているとくれば、対処を急がねば拙い。
 エイルズレトラが踏み出し、頭を擡げる人狼の首を狙ってトランプを繰り出す。吹き荒ぶアウルの風の中、真っ直ぐ向かったカードはその首筋を滑り体毛に沈み皮膚を破り――けれど、致命傷には至らない。
「厄介ですね」
 手応えはある。けれど、仕留め切れない。それ故、攻撃の際にこちら側に隙が生じてしまう。
 人狼が裂傷に怯むことなく大口を広げ牙を剥き、力任せに噛みつく。エイルズレトラのステップによって避けられ獣は宙を噛んだが、素早さも伴ったデカブツだ。いつがぶりとやられるかも判らない。
 ――一瞬だ。一瞬で決めなければ、恐らく長期戦になり、二人共軽くない傷を負うだろう。
 敵が容易く傷を癒すのであれば、治癒さえ追いつかない大技で沈めれば良い。演者は二人いるのだ。攻撃の際に生じる隙はカバーし、補えばいい。
 庇うように立つエイルズレトラの背面で、全てを察したのか淳紅はアウルを集中させ、研ぎ澄ませた意識を保って真っ直ぐ人狼を見詰めた。
 待ち切れないとばかりに人狼が爪を振り上げ、再度飛び掛かって来る。その瞬間出来た隙を、逃す奇術士ではない。
「チェックメイト、ですね」
 跳び来る人狼を迎え入れるよう両腕を下ろし、エイルズレトラは言った。
 チェック。言葉にしたと同時に流れ落ちるカードが波となって憐れな人狼へと押し寄せる。夥しい量のカードが辺り一体に散らばり、そうして目当ての獲物を見付けると生き物のように収束した。絡み、纏わり付き、カードが軋みながら人狼をあっという間に縛り上げる。
 広がるカードの海。それを眼下に、淳紅はエイルズレトラの肩を蹴り、脚に纏わせた五線譜の力を借りて跳躍した。
 中空でカード塗れの人狼を見下ろす淳紅は息を吸う。
「――……」
 一拍の休符の後、降り頻るのは、雨だ。音の雨。強く、時に優しく、様々な音を孕み、響かせながら打ち付ける雨。その旋律が降り止んだ頃、人狼は既に事切れ、膝を折って倒れ伏していた。
「最後の曲は”Lullaby”――御静聴おおきに」
 これにて終幕。亡骸に子守唄を。屍に永久の眠りを。

 ――光で円を形作った図形楽譜は宙で静止し謡う淳紅を取り巻き、その姿はまるでもう一つ、月が空に座しているようだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2224 / エイルズレトラ マステリオ / 男 / 12歳 /  陰陽師】
【ja2261 / 亀山 淳紅 / 男 / 20歳 / ダアト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 相沢です、今回はご依頼有難う御座いました。 また、納品の方大変遅れまして申し訳御座いません。今後はこの様なことが無いよう努めますので、また機会がありましたらどうぞ宜しくお願い致します。
 本文についてですが、歌謡いと奇術”士”のオンステージということで、とても自由に派手に書かせていただきました。発注文から、依頼中でもこんな風に振る舞っているのかな? 等想像出来、とても楽しかったです!
 それでは、ご依頼本当に有難う御座いました。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
snowCパーティノベル -
相沢 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年02月23日

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