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『チョコの試食はドキドキにゃ☆ 』
猫宮・千佳(ib0045)


「それではチョコレート・ハウスのお二方、こちらが会場になります。着替えはこちらで」
 ジルべリア紳士はそう言って石畳の街の広場を紹介し、路地裏の小さな扉に案内するのです。
「うにに……いい機会だし、チョコの事をしっかり皆に知ってもらうにゃ♪」
 猫宮・千佳(ib0045)はエプロンドレスや猫耳頭巾を揺らめかせながら周りを見て大きな瞳を見開きます。
「そうだね。頑張って人を呼んで、チョコの試食をしてもらわないとね」
 隣のコクリ・コクル(iz0150)も大きく瞳を見開いて見まわします。
「市場が引いた後ですからね。もうしばらくすればのんびりする人が多くなってきます」
 二人の背後に立つジルべリア紳士はそっと二人に囁きます。
「ジルべリアのこの街ではまだあまりチョコレートが根付いていません。頑張りましょう」
「うんっ。分かったよ☆」
「みんなに食べてもらうよう、頑張るにゃ♪」
「ささ。ではこちらでまずは着替えを」
 紳士は元気よく振り向いた二人を扉の中へと引き入れるのでした。



「じゃ、着替えるにゃ♪」
 部屋の中で早速薄いカーテンを閉めて隠れる二人。「コクリちゃん万歳するにゃ」、「んしょ、と。じゃ千佳さんも足上げて」とか声が聞こえます。カーテンには向かい合う少女二人の影。にゅふふあははとつんつんしたりぬがしたりする様子が映るのです。
 そして猫耳の影が屈んで何かを取り上げたところで……。
「にゃっ!」
「どうしたの、千佳さん?」
 千佳、下着みたいな物を掲げています。が、ひらひらしてませんね。どうしたことでしょう。
「これを着るのにゃ? ……チョコの胸当てみたいにゃ」
「あーっ! こっちはチョコの腰当てっ」
 そして改めて衣装の用意されていた籠をのぞき込むのです。
「……『チョコ製ビキニアーマー』」
 取扱説明書を発見したコクリが読んで愕然としています。
「にゅ? 『ビキニトップは肩当など通して紐で縛ってください』?」
「『パンツは前部左右と股下部分にある穴に紐を通して、お尻の上で紐を結んでください』だって」
 読んでその意味を理解して顔を見合わせる二人。どうしよう、と目と目で相談しています。
 その時でした。
「コクリさん、千佳さん、まだですか? 結構人が多くなってきましたよ〜」
 扉がどんどんと叩かれ先の紳士に急かされるのです。
「うにゅ、ちょっと寒いけど……コクリちゃんとならなんともないにゃ!」
「そ、そうだね。後ろを向かなければいいんだし。紐はこの紙に糊がついてるから、ここで先をとがらせてチョコの服の穴に通すんだって」
「にゅ! ……胸の部分が膨らんでて装甲みたいにゃ」
 カーテンに映る影は、装着前のぺったんこ状態と比べて人並みにふくらみができていました。
「ま、まあビキニアーマーだから……」
 敗北感を覚えたのか二人してへにょりと頭を垂れていたり。
「お二人さん、まだですか〜?」
「あわわ……早くしないと」
「下は結構面倒にゃね……」
 急かす声に慌てつつもチョコ装甲のぱんつを装着してきゅっと紐を結び、前腕部装甲とすね当てを着けて外に出る二人です。



「お待たせしました。天儀は神楽の都で大人気、チョコレート・ハウスのチョコレート販売です!」
 千佳とコクリが売り場の横についたところで紳士が声を張りました。道行く人は立ち止まり、二人を凝視します。
「そ……その、空輸を邪魔したアヤカシを退治して南の国から運びました」
「みんなにも食べてほしいにゃ☆」
 コクリがチョコビキニアーマーを着たままチョコの剣を構え、隣で同じくチョコビキニアーマー姿の千佳がチョコの杖を振りかざします。その雄姿に、おお〜とどよめきが広がりました。
「へええっ。どんな味なの?」
 早速、新しいものに敏感そうな若者が寄ってきます。
「まろやかで甘いにゃ♪」
「え〜、そういってもなぁ。金額も結構値が張るようだし……」
「まずは、一つ試食してみるにゃ♪」
 若者、千佳の差し出した籠からひとかけら手にして不審そうに口に放ってみます。
 すると……。
「お、こりゃなんというか不思議な味だね」
 すっきりしたような顔つきで購入を決意する若者。この様子を見てさらに人が集まります。
「そこのお兄ちゃん、お姉ちゃん、気になるなら少し食べて見るにゃ♪ きっと気に入るにゃよー♪」
 これに気を良くした千佳、手を振ってさらに呼び掛けます。
「ちょっと、お二人さん」
 ここでマネージャー役の紳士がコクリを呼び止めます。
「あ、はい。何?」
「わきを上げてください。そして髪の毛も失礼します」
 素直に従うコクリ。シュッとわきの下に何かを吹き掛けられてびくっとします。
「そのチョコアーマー、溶けにくい半面香りがほとんどないんです。ちょうどいま、特注のチョコレート香水が届きましたので、これで香りも振りまいてください」
「あっ……な、なるほど、チョコの魅力を……あん、冷たい」
 反対のわきの下な首筋に吹き掛けられて身を縮めるコクリです。
「すいません。我慢してください……寒いですかね? そちらの方も手を打っておきます」
「う、うん。我慢できるけどよろしくね」
「はい、今度は千佳さんです」
「にゅ! 冷たいにゃ!」
 こうして動くたびにチョコの香りも振りまくことができるようになりました。
「おうい、試食したいんだけど〜」
「あ、はぁい。ただいま!」
 再び、行列ができるまで集まった客に試食してもらう二人です。ビキニアーマーなだけに後ろから見ると無防備ですがまあ、後ろ向きの対応はしないので恥ずかしくはないようです。前でおへそは見せてますが。
「わ、いいにおい」
「まあ、美味しい」
 腕を伸ばして、髪の毛を振って。
 千佳やコクリが動くたびにチョコが香り、試食してみて口の中にも甘さが広がり。老若男女問わず、みな満足そうです。
「可愛い格好だけど、寒くない?」
 中には心配をしてくれる女性もいます。
「うにに、お姉さんありがとにゃ♪」
「少し寒かったけど、みんながたくさん集まってくれたから温かいんだよ☆」
 お姉さん、まさか千佳とコクリから健気な笑顔が返ってくるとは思ってなかったようです。さらにこれを聞いた周りの人も、自分たちが彼女たちの助けになっていると意気に感じたようです。
「ようし、おじさんも買っちゃうぞ」
「おばちゃんに任せときな。隣近所の分も買ったげるよ!」
 おかげでさらに人気上昇です。



 こうなると、背の低い二人は人だかりに埋もれて遠くからまったく見えなくなります。
「おおい、一体何の騒ぎだ?」
「ちょっと、俺たちにも教えてくれよ」
 後ろからそんな声が。
 それもそのはず。
 千佳とコクリが忙しそうに試食や販売に動けば動くほど、チョコの香水が香っているのです。見た目が可愛いですし、いいにおいもします。購入した後も、ちょっとその場から離れにくいですよね。
「こりゃいけない。お二人さん、ちょっと寒いけどお立ち台に立って。……甘酒も用意しましたので、これで体の芯から先に温まっておいてください」
 ジルべリア紳士、湯気の立つ甘酒を二人に差し出しました。
「仕方ないにゃ。コクリちゃん、もうひと頑張りなのにゃ♪」
「うんっ。後ろの人にも何をしてるか見てもらうよっ」
 くいっと甘酒を一気飲みして、売り場横に用意したミニステージに上がるのです。
 そこには先客の吟遊詩人がいました。
「ああ、飛び入りかい? ちょうどいい。今日は君たちが主役みたいだし、手伝ってあげるよ」
 そういうと詩人は心弾むような曲を奏でるのです。
「おいでおいで、美味しいチョコの試食はこっち」
「チョコレート・ハウスのチョコはこっちにゃ♪ 甘くておいしいチョコをどうぞにゃ♪」
 ひらひら踊って移動し、笑顔を振りまきながらステージ袖に集まった人たちに試食チョコを配ります。
 これが奏功しました。
 試食と売り場を分けたことで混乱は解消し、一時止まっていた売り上げもみるみる伸びていきます。
「鳥のアヤカシ退治して〜♪」
「アヤカシ雲もやっつけ運んだにゃ〜♪」
 歌って踊るコクリと千佳。その頬が上気してるのは、甘酒にちょっとだけアルコール分が入っていたから。ジルべリアですもの、お酒で暖を取るのは不思議ではありませんよね。
 足を上げてステップ踏んで。
 白い脇の下を見せて踊り、流れる髪からチョコが香り……。
「あっ!」
 やがて観客たちから小さな悲鳴が。
「にゅ、何か視線がおかしくないかにゃ? あたし達の服に何か……うみみ!?」
 そして悲劇が!
 ずりっ……。
「あんっ!」
「うにゃっ!」
 コクリの悲鳴は、くるっと回転した直後でした。
 千佳も、猫のように身を屈めた後に飛び上がった直後です。
 服がずり落ちてるかもと思った瞬間、胸部や腰のチョコ装甲を縛っていた紐が緩んで……いえ、紐は緩んでいません。紐を通した穴が、体温の熱でとろけて崩壊してしまったのです!
 回転した勢いで、ぽーんとかわいらしい丸みを帯びた胸当てと腰当て、そして肩当てなどが飛んでいきました。直接肌に当たっていた部分はすでに溶けていたようで、チョコの糸を引いています。
 無情にも、上と前に飛んでしまったチョコ衣装。
 舞台の二人は……。

 二人の白い肌に、溶けたチョコの色が眩しく残っています。
 もちろん、ぺったんこな胸と腰に。
 しかも紙のようなクロッチがまたに残っているではありませんか。どうやら紐通しに使った後の糊の紙のようです。
 が、それもずり落ちそう!
「お嬢ちゃん、この上着で隠して」
「ほら、早くこのマントを羽織って」
 どどど、と人々がステージに上がって千佳とコクリのピンチを救います。
「いやあ、この街の人は温かいからねぇ」
 吟遊詩人はこの出来事に感心しつつ、ぽろんと人情味のある音を響かせるのでした。

 後の話ですが、この街でチョコレート・ハウスのチョコはとても人気が出ました。
 うたい文句の「はらはらドキドキ甘い味」は、この時にちなんだそうです。
 パッケージには、踊る二人の少女のシルエット。
 くるっと回る少女とにゃにゃんと伸び上る少女の影が誰なのかは、もちろん秘密です。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ib0045/猫宮・千佳/女/15/魔術師
iz0150/コクリ・コクル/女/11/志士

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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猫宮・千佳 様

 いつもお世話様になっております。
 チョコ衣装で試食な依頼、ありがとうございます。ジルべリアが舞台ですし、どストレートにビキニアーマーをお二人に着ていただきました。見栄えを考慮して胸の部分は厚くして、とか思ってたら「質量が増えるから遠心力が掛かるとあっという間に吹っ飛ぶかも」なんて悪魔の発想が。
 美談で切り抜けましたので後味はまろやかではないかと思います。

 では、どうぞお召し上がりください♪
MVパーティノベル -
瀬川潮 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年02月23日

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