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『●油断大敵。綺麗な花には棘がある 』
ファルス・ティレイラ3733
「ウチはね〜レンタル専門だけど一部の商品は個人向けに展示販売もしているの〜」
 本日、白魔女達が経営する小さなガラスの工房にアルバイトにやってきたティレイラ(3733)。
 店主でもあり、工房の長でもある魔女に連れられ、ショップブースにやってきたティレイラが感嘆の声をあげる。

 精巧に作られたガラスは、小さなてんとう虫から女性像、白鳥等もあった。
「うわぁ、綺麗ぃ。これとか食べられそう」
 ティレイラが手に取ったのは、思わず口に放り込みたくなるキャンディにそっくりなガラスであった。
「ふふっ。食べちゃダメよ〜♪」
 にんまりと笑う魔女。

 感嘆の声を上げ、あっちこっちを見て回っていたティレイラが、ふとガラスの花の前で足を止めた。
「これ凄い。ちゃんと香りがする」
 他にも花をモチーフにした製品はあったが、この花は香りまで本物そっくりにする。
「アロマオイルやドライハーブより柔らかくって……まるで本物の花みたい」
「これはね〜。本物の花なの〜」
 魔女が呪文を唱えると、ガラスの花が本物の花に変化した。

 100%完全なガラス化ではなく、ほんのちょこっとだけ”生”の部分を残す事により良い香りが漂うのだという。
 ティレイラに手伝って欲しいのは、このガラスの花の作成だと魔女が言った。
「ええっ?! 私には、まだ無理だよ」
 火系統の魔法は得意だが、それ以外の魔法はまだまだ練習中のティレイラである。
「大丈夫よ〜。その辺は〜」
 魔女はそう言うと、今度は仕事場であるティレイラを工房へと連れていった。

 ***

「じゃ、じゃ〜ん! 『誰でも簡単ガラス製造機』〜っ! いぇーい、拍手ぅ♪」
 と、大きなレバーがついた古惚けた機械を紹介する魔女。
 細かい説明は抜きにして、やってみせた方が早いだろうと魔女が機械のレバーを倒してスイッチを入れる。
 機械はガタガタと音を立て動き出すと、端についたラッパのようなノズルからシャボン玉のような膜でできたガラスの玉をぷわんと1つ膨らませた。
 膜の中に花を差し入れると、ガラス玉の色が変わって白くなり、そして段々と萎んで縮んでいった。
 縮んだガラス玉の膜が、ぴったりと花の形に張り付いた。──瞬間、花は、ガラスに変化していた。
「ね〜。簡単でしょ〜♪」

 魔女の店は、最近口コミサイトで『幸運を呼ぶガラス細工を売る店』だと急に人気が出てしまったのだという。
「漸く努力が評価されたっていうか〜。だから来るお客さんを無下に出来なくって〜」
 個人客にとって手頃なガラスの花は、作った傍から売れてしまうのだと言う魔女。
「そんな訳で〜レンタル用の花までない状態になってしまったの〜」

「明日納期の大量注文が入っているの〜。おかげで全員、缶詰で貫徹3日目で〜作っているガラスは〜良い匂いだけど自分が臭ぁ〜いっ」
 モノ(魔法具で作った)がモノ(魔法のガラス花)だけに人間のアルバイトを雇うわけにもいかず、ティレイラに来てもらったと魔女が言った。
「んで〜。ティレイラちゃんには、この花を2千本お願いしたいの〜」
「えっ2千本!?」
「大丈夫〜コレならばっちり初心者向けだから〜ね〜」
 そう言うと店主の魔女は、ティレイラと大量の花を残して別の作業をしに行ってしまった。

 ***

「こっちはガラスにするのに向かない……こっちはOK……」
 当初はおっかなびっくり作業をしていたティレイラだったが、段々作業に慣れてきて、
 今ではガラスにした時に綺麗に出来上がるか素材の花を選別する余裕も出てきていた。
「一息ついたら?」
 工房で働く魔女の一人が、ティレイラに紅茶とクッキーを持って来た。
「は〜い♪」

「う〜ん、美味しい♪」
 タップリ牛乳が入ったミルクティのカップを片手に嬉しそうにクッキーを頬張るティレイラ。
「ティレイラちゃん、頑張っているもんね」

「そういえば、この機械って花しかガラスに出来ないの?」と質問をするティレイラ。
「これ? なんでもガラスに出来るわよ」
 レバーを下まで長く引き下げることで大きなガラス玉も出すこともできると説明する魔女。
「私が知っている中でガラス化させた一番大きなものって象かしら?」
「へ〜、凄いですね」
「だから逆に小さ過ぎるものは、この機械じゃ作らないわね」

「ところで作業は順調?」と魔女が聞く。
「作る時間も早くなったよ」
「じゃあ、このまま作業をお願いしても大丈夫かな?」
「うん。任せておいて」
 ドンと胸を叩くティレイラ。
 休憩をしてリフレッシュしたらもうひと踏ん張りである。

 ***

「……1998。1999。2000! 全部出来た〜〜っ!!」
「お疲れ様〜っ♪」
 パチパチと手を叩く魔女達。
 ティレイラらが全ての花を完成させた時、既に月が高く上がっていた。

「こっちに夜食が用意してあるわよ〜」
 店主の魔女が、ワインを片手にティレイラを手招きする。
「飲んじゃって平気なんですか?」
「ん〜? 固い事いいっこなしよ〜景気づけよ〜♪」
 あははと笑う魔女の目が座っている。
 かかわらない方がいいだろうと少し離れたテーブルにサンドウィッチを貰いに行くティレイラ。

「ずっと同じ姿勢でいたから疲れちゃった」
 宴会で盛り上がる魔女達を横目にうーんと目一杯の背伸びをするティレイラの服の袖が機械のレバーに引っかかる。
 くん、とスイッチが入った。
「え? 何?」

 慌ててレバーを戻そうとするティレイラを足元からガラス玉が包み込むように膨らんでいく。
「わわっ?!」
 慌てて翼を生やし、羽ばたきで幕を割ろうとしたが間に合わずガラス玉に包まれてしまったティレイラ。
 じわじわと萎んでいくガラス玉の膜が、張り付けばガラスの像に変わってしまう。
「誰か助けて!」
 白い幕に包まれ、パニック状態になるティレイラ。
「あらら、大変〜」
 白いガラス玉から竜の翼や尻尾の形の突起が出ているのを見て面白がる店主の魔女。
「そういえばティレイラちゃんって竜族だったのよね〜。中のティレイラちゃんってどうなっているのかしら〜?」
 なんだかワクワクしてきちゃったと魔女の笑い声がする。

 周りのやり取りなどお構いなくガラス玉は、どんどん小さくなっていく。
 ティレイラの手足の先からひんやりとしたガラスの膜がぴったりとパックのように張り付いていった。
「大丈夫よ〜。ちゃんと戻してあげるから〜」
「いや〜っ! この酔っ払い(魔女)達ぅ!!」
 涙声で助けを求めるティレイラの顔に、膜が達した──


「これは〜……思ったよりずっといいわよね〜。
 泣き顔が似合う美少女ってそうそういないのもあるけど〜竜少女ってモチーフも斬新だわよね〜」
 店主の魔女の言葉に「そうだ、そうだ」という魔女達。
「ティレイラちゃん、聞こえる〜? 折角だから暫くお店で貴方を飾らせてね〜。バイト代弾むわよ〜♪」
 と店主の魔女は言った。
 ガラス化したティレイラに返事をするすべはない。
 ケケケと酔っぱらいの魔女が、笑った──。


<了>





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3733 / ファルス・ティレイラ / 女 / 15歳 / 配達屋さん(なんでも屋さん)】

PCシチュエーションノベル(シングル) -
有天 クリエイターズルームへ
東京怪談
2015年02月25日

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