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『“TSUCHINOKO” 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&エアルドフリスka1856)&ダリオ・パステリka2363


●冒険は突然に…
 その日、彼は書物を読んでいた。露天商から興味本位で買ったリアルブルー由来のものである。
 その日、彼はいつも通りの、それでいて少し退屈さが窺える朝を迎えていた。
 そしてその日、彼は一つの新しい言葉を覚えるに至った。

 “ツチノコ”

「これダ!!」
 目を輝かせて立ち上がった彼――アルヴィン=オールドリッチは荷造りを始め、ものの数十分後には家を飛び出していた。


●旅は道連れ、強制的に。
 その日、彼はアジトなる場所にいた。正確には、愛犬の相手をし終えて今から朝飯を食らおうというところだった。
「おお、リッチー」
 この場所で初めて出会った友人の姿が見え、ダリオ・パステリは小麦色の腕を上げた。同時に、友人が背負っている荷物に視線を移し、「ははあ、またか」という顔になった。
「パッティー! ツチノコ探しに行くデショ!」
 行かないか、でもなく、連れて行って、でもなく、「行くデショ」という辺りに、アルヴィンらしさがある。
 慣れてはいるものの、ぐっと詰まったダリオはまだ冷静だった。
「……ツチノコとやらは、その、何だ?」
「ンート、ツチノコっていう、ブルーで有名な珍しい生き物なんダッテ!」
「それはまた面妖な。リッチーはそれを見つけてどうするつもりか?」
「アノね、エットね、見つけタラ楽しいヨネ! 大発見ダヨー!! ガッポリダヨー!」
 どこぞの悪徳商人かと言わんばかりに捲し立てるアルヴィンは、既にツチノコを見つけて喜ぶ未来が見えているかのようだった。
 普通の人間ならばこんな言葉には乗らないのだが、ダリオは違った。
 良くも悪くも、アルヴィンと付き合いのある人間である。
「ふむ……それならば、それがしも付き合おう。他ならぬリッチーの頼みとあらば仕方あるまい」
 本当は世紀の大発見をして報奨金を貰いたいだけではあるが、とりあえず見え見えな本心を気休め程度に隠し、ダリオもツチノコ探しを手伝うこととなった。
 そして、悪魔は囁く。
「……時に、リッチー。それがし達だけでも十分であろうが、ここは一人、頭脳派を連れてゆくのが良かろう」
「頭脳派? ……、イイネ!」
 旅の道連れは多く、楽しめる方が良い。
 一致団結して、二人はとある場所へ駆け足で向かった。

 ◆

 その日、彼はとある薬屋にいた。一階が酒場になっている宿の一部屋に構えた、様々な薬草の匂いが立ち込める安息の仕事場だ。
「お大事に」
 冬場は何かと来客が多い。したがって彼の仕事量も増えるわけで、まだ昼前だというのに何度目か解らない言葉を患者に投げ、彼は息を吐いた。
 静かすぎる。
 そう思ったのが運の尽き、彼――エアルドフリスの柳眉にびしっと大きな皺が寄った。
 狭苦しい階段の向こうから聞こえてくる、聞き覚えのある声と二つの足音。
「忙しすぎて、幻聴が、」
「ルールーッ!!」
「……チッ」
 思わず舌打ちしたくなるほど、底抜けに明るい声のアルヴィンと、やや狭そうに階段を上がってくるダリオの姿が見えた瞬間、エアルドフリスはある種の諦念を胸に抱くほどだった。
「エアルド殿、調子はいかがか?」
「見ての通り、営業中だ」
「マアマア、ルールーもツチノコ探しに行くヨネ?」
「……俺は『営業中だ』と言ったんだが?」
 冷淡に言い放ち、ドアを閉めようとしたエアルドフリスだが、ぬっと間に差し込まれたダリオの腕が邪魔をする。思いっきり閉めて彼に怪我をさせるのは、後々治療を行うであろう立場からして面倒くさい。
「実は、リッチーとこれからツチノコなるお宝を探しにゆくのだが、エアルド殿もいかがかと思ってな」
「それでそんな荷物を……というか、ツチノコ、というのは何だ?」
「それがしも分からん! リッチーも分からん! もしかすると薬草や蛇の類かもしれぬ故、その分野に明るいエアルド殿の助けが必要やもしれぬ」
「薬草ねぇ……聞いたことがないが」
「ソレより、ルールー! 準備できたカラ、行こうヨー!」
「はっ!? あんた、いつの間に……こら、勝手に触るな!」
「パッティーと話し込んで、ドアが開いてたヨ。ルールーったら、おっちょこちょいダナー☆」
「……あ゛?」
 青筋の浮くエアルドフリスだが、自身の失態は隠せない。
 ダリオの話につられるうちに、ドアを閉め忘れていたようだ。大きく開いたドアから入ったアルヴィンが、勝手に荷物をまとめてしまったらしい。
「はぁ……」
 今日一番の重い溜息をついたエアルドフリスである。
「……悪いが、一日空ける。留守を頼む」
 どんよりとした主の言葉に、薬屋の助手も苦笑するしかなかった。


●そこのけ、大きな子供が通る
 かくして三名の男達は、ツチノコなる生物を見つけるべく街に繰り出した。
 当たり前だが、アルヴィンが情報を仕入れたのはリアルブルー由来の書物なので、街の人々に聞いたところで有力な情報を得られるわけでもない。
 加えて、アルヴィンはツチノコの詳しい記述をまともに覚えていなかった。
「――ということは、ツチノコとかいうものは蛇に似ているということか?」
「ソレでね、高さがコノくらいで、イビキをかくんダッテ」
「なるほど、それならむしろ物怪の類という方が良かろうが、はて……」
「ますます分からん……」
 そもそも説明を求めたのが間違いだったとエアルドフリスは頭を抱えた。そんな彼の姿を見て、アルヴィンは妙にニヤニヤしている。
「何だ?」
「興味出てきたのカナ?」
「やかましい。だいたい、あんたは好奇心だけであれこれ首を突っ込み過ぎだ」
「ルールーほどじゃないヨー」
「どういう意味だ。俺が興味の赴くまま突撃すると言いたいのか、ええ?」
 怒りんぼさんダネー☆と笑うアルヴィンと対照的に、割りと本気で怒っているエアルドフリスを眺めるのは楽しい、とダリオはいつも思う。
 そしてこの場のまとめ役に立候補するほど、彼は愚かではない。
 イライラするエアルドフリスを尻目に、アルヴィンは這い蹲るようにして縁の下を眺めたり、ちょっとした集積物をかき分けたりと大忙しだ。ダリオも側溝や廃材の下などをじっと見つめている。
「そんなところを探してもツチノコとやらはいないだろうさ」
 どう見ても蛇を探す場所には適していない。それを知っているエアルドフリスは、思わず口を開いた。
 顔を上げた二人の興味津々の視線が痛い。
「……ツチノコが蛇に似ているとすると、だ。蛇ってのは、皮膚で敵の足音を感じ取るから、人間が多い場所には寄り付きにくいはずだ。ゆえに、街は捜索場所としてはおすすめしないね」
「ほう……」
「ジャア、郊外にある森とかカナ?」
「探す価値はあると思うね。この街のように地表で温度差がある場所より、森等の温度差が少なく、湿度も適度にある場所の方が住みやすいだろう。餌にも困らないだろうし」
 流れるように呟いて、エアルドフリスはハッとして二人から顔を背けた。
 こう、少し興味があると口を出したくなるのは癖なのだ。
「ふむ、ふむ! では、エアルド殿の言うとおり、森へ出発しようではないか!」
 ぶん、とダリオの振り上げる虫取り網が風を切る。
 かくして三人は、郊外の森へと出発したのだった。
 
 ◆

「サテサテ、ツチノコ捕獲ダヨー!!」
 ここまでくればツチノコだっているに違いない、と意気込んだアルヴィンの声が森に木霊する。
 木漏れ日が降り注ぐ静かな森だ。これなら蛇の移動する音も聞き取れるはずだ。
「ところで、ツチノコを捕まえてどうするつもりだ?」
 エアルドフリスの素朴な疑問に、ダリオは首を傾げた。
「それがしは報奨き……リッチーが言うように、見つかれば大発見という体だが……」
「ということは、用途は未定なのか? それなら、薬になるか実験してみたいところだね」
 何故か。
 エアルドフリスは語り出す。
 蛇は食用、薬用として使用される習慣があり、薬屋を営むエアルドフリスにとっては馴染みあるものだ。薬用としては酒に漬けたり、燻製にしたりする。
「効能としては、滋養強壮、血圧調整、精神安定……まあ、疲れやすかったり、イライラしやすい人には効果が期待できるものだな」
「ソレって、ルールーにもってこいダネ!」
「ああ、酒じゃなけりゃ今すぐ飲みたいね……!」
 握り締めたハリセンを振り上げるエアルドフリスから笑って逃げられるアルヴィンはすごい、とダリオはつくづく感心する。
 そんな時だ。
 彼の耳に、草むらを這う音が届いたのは。
「ぬ! そこかーっ!!」
 裂帛の気合と共に虫取り網を振り下ろしたダリオである。
「蛇取りなら、それがしにお任せあれー!」
「でっ」
 バサバサと音を立てて虫と――網の方向にいたエアルドフリスの頭が引っかかった。どう狙ったら地面の獲物を逃して仲間に誤射できるのか。
「わーい、ルールー確保ダヨー!」
 この状況下で喜んだのはアルヴィンただ一人である。 
「おお、エアルド殿、すまぬ」
「……すまなさそうに聞こえないのは、俺の心が病んでいるからかね、ダリオ」
「はは、まあ、怪我がなくて良かったではないか。それがしも安心した!」
「……」
 もはや突っ込む気すら無いエアルドフリスは、代わりにハリセンでアルヴィンの頭を叩いておいた。


●おうちにかえろう
 日が暮れて。
「ツチノコいないネー。ルールーを怖がってるのカナ?」
 ちらっと寄越したアルヴィンの視線を疲れきった溜息で流して、エアルドフリスはいつの間にか額に浮いた汗を腕で拭った。
「やれやれ……アルヴィンの話と現状を総合するに、やはり噂や伝説の生き物の可能性が高そうだな」
「いやしかし、ここまで来ればツチノコでなくとも巨大蛇の一匹や二匹、是非捕まえて帰りたいところぞ」
「いや、俺はもう帰りたいよ……」
 今日だけで数日分くらいは疲れたエアルドフリスである。
 結局、何時間と森の中を探し歩いたものの、小さな蛇は何匹かいたが、ツチノコとおぼしき生物は見つかるはずもなく、足に疲れが溜まろうかという頃になって、三人はツチノコの捜索を断念することになった。
 こういうのを骨折り損の草臥れ儲けというのだろう。
「思えば営業妨害をされた挙句、いるかどうか解らないツチノコ探しを手伝わされて……」
 エアルドフリスの吐く息は、既に呪いに近い。
「しかし、今日は楽しい冒険であったな、リッチー」
「そうダネー、僕も楽しかったヨ!」
 喜ぶ友の顔が見られたのは、唯一の儲けといったところか。
「さて、良い頃合いであろうし、美味い飯と酒でもいかがか?」
「ああ、メシくらいは良いかな」
「賛成ダヨー!」
 それがしのおすすめの店に案内して進ぜよう、と先頭を行くダリオにも、髪を掻きながら後に続くエアルドフリスにも、意気揚々と鼻歌交じりに歩くアルヴィンにも、あちこちに草むらの葉が残っている。
 気づけば夕暮れも半ば、街へ続く道に真っ赤に燃える大きな太陽が落ちていく。
 遊び疲れた大きな子供が三人、並んでお家に帰る。
 楽しかったね、また行こうね。そんな言葉を交わしながら。

 END. 
 

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2378  / アルヴィン = オールドリッチ / 男 / 26 / エルフ / 聖導士(クルセイダー)】
【ka1856 / エアルドフリス / 男 / 26 / 人間(クリムゾンウェスト) / 魔術師(マギステル)】
【ka2363 / ダリオ・パステリ / 男 / 28 / 人間(クリムゾンウェスト) / 闘狩人(エンフォーサー)】
MVパーティノベル -
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2015年02月26日

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