▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『夢から覚めても 』
フィオナ・アルマイヤーja9370

1.
 彼を想う。
 いつだって出会えるのは一方的で、いつ会えるのか、次に会えるのかもわからない。
 そんな不安定な恋だけど、一途に想う。
 どうか、また会えますように‥‥。

 これは、夢だ。
 フィオナ・アルマイヤーはそう確信した。
 見覚えのあるいつものフィオナの部屋。机の上には今日出先で買ってきたバレンタインの本命チョコレート。
 違うのは‥‥目の前にいる彼の姿。開かれた窓の外には天馬に引かれた大きな白い馬車。
 そうして、彼は笑う。
「お迎えに上がりました、フィオナ様」
 ‥‥覚えている。私と彼が初めて会ったあの夜だ。
 何度も夢に出てくるこのシーン。初めて会ったはずなのに、彼は私を知っていた。
 ひどく動揺する私を彼は優しく夜空のデートにエスコートしてくれた。
 星空の花畑でティータイム。ちょっとマニアックなオールドコンピューターやのクラシックの話をしても、嫌な顔せずに聞いてくれた。
 彼の話もとても興味深いものばかりで、あっという間に時間が過ぎてしまった。
 彼はこの後、こういうのだ。
「フィオナ様、そろそろお時間でございます」
 そうして、私を連れて星空の鑑賞会を開いた。
 澄み渡る冬の夜空に瞬く星を、彼は丁寧に教えてくれた。細い指で辿る星座は魔法のように動きだした。
 おおいぬ座に追いかけられるオリオン座、足にじゃれついてきたのはこいぬ座。
「あれは‥‥なんという星ですか?」
 私が指差したある星。その星座の名を口にしようとして彼の声はいつも消えていく。
「はい、あれは『カペラ』。そして、それを結んでできる星座の名は‥‥」


2.
 あぁ、夢が覚める。夢の終わりはいつも同じだ。
 その星座の名はあれから調べた。何回も繰り返し読むうちに覚えてしまった。
 カペラ。ぎょしゃ座α星。ぎょしゃ座の中で最も明るい恒星、全天21の1等星の1つ。
 夜空に浮かぶその星座を見るたびに、彼を思いだしては彼を想う。
 今夜はあの夜と同じ冬の星座の並ぶ夜。
 あなたは‥‥今どこにいるのですか?

 切ない夢の名残を感じながら、フィオナは目を覚ました。うっすらと頬に当たる冬の風が、フィオナを現実に戻す。
 バレンタインのチョコレートを用意したら、また来てくれるような気がしていたのに‥‥。
「やっぱり‥‥夢‥‥」
「どんな夢をご覧になったのですか?」
 フィオナが顔を上げると、夢にまで見た顔がそこにあった。
 開け放たれた窓の外には、天馬に引かれた馬車。燕尾服に身を包み、いつもの優しげな笑顔でフィオナを見つめる。
「あ、あなたの夢を‥‥見てました」
「わたくしの夢を?」
 フィオナの言葉に彼は少し驚いたように、フィオナを見つめた。ハッと我に返ったフィオナは、焦ったように言葉を続ける。
「今日はバレンタインだったので、初めて会った日の夢を‥‥」
 まさか、いつも夢に見ているなんてことは口が裂けても言えない。
 まさかまさか、今日は出会いの日の夢だったけれど、いつもは初めてのチューだったり、お姫様のような扱いに心ときめいてたりとか、告白された時のことを何度も思い出してニヤニヤしてたりとか‥‥そんなことは絶対に言えない。言えないのだ!
 顔を真っ赤にしながらしどろもどろに言い訳するフィオナに、彼は優しく微笑んで深々と礼をした。
「光栄です。フィオナ様。それでは、ご一緒に夜空に参りませんか? いつかのバレンタインのようにご一緒していただければ、光栄です」
「‥‥デートのお誘いですか?」
「はい、ぜひお願いしたく」
 差し出された手に、フィオナは自らの手を重ねる。温かな手。夢とは違うその温もりが、フィオナは安心した。
 あなたはここにいる。
 彼の手を取った瞬間、フィオナの服はあっという間に青いドレスに身を包まれる。ところどころに白い花をあしらった、上品だが女性らしく可愛らしいドレスだ。
「本日のお召し物は、わたくしがフィオナ様にお似合いになるであろうものをチョイスさせていただきました」
 よくよく見れば、彼の服もいつの間にか青い燕尾服に変わっている。
「お揃い‥‥」
「はい、フィオナ様の隣に相応しくありたいので」
 にっこりと笑う彼に、フィオナも微笑んだ。


3.
 天馬は2人を乗せた馬車を引き、夜空を駆け抜ける。
「どこに行くんですか?」
「はい、大変見晴らしの良い場所でティータイムなどにいたしましょう」
 前に連れて行ってもらったのは、星空の花畑だった。またあの場所だろうか?
 前も後ろも暗い夜空の中、前回と同じ道を走っているのかすらもわからない。どこに行くのかという疑問はあるけれど、不安はない。彼が案内してくれる場所なら大丈夫。
「ご安心ください。きっとフィオナ様にも気に入っていただける場所でございます」
 柔らかく笑う彼に、フィオナは「はい」と頷いた。
 馬車は夜空を駆け続け、いつの間にか小高い丘の上で止まった。
「本日はバレンタインということで、ガトーショコラやオペラなどのチョコレートケーキのほか、体の温かくなるジンジャーアップルティーなどをご用意いたしました」
 チョコレートの香りと紅茶の香り。手早く広げたティーセットにフィオナは彼にエスコートされるまま座る。
「‥‥フィオナ様」
 彼がなにやらすました口調でフィオナに訊ねる。
「はい?」
「こちらの席は、空いておりますでしょうか?」
 見れば、フィオナの隣にもう1つ椅子が用意されている。
 『座ってもいいか?』と彼は訊いているのだ。
「座ってください。素直に隣に座りたいって言ってくれればいいのに‥‥」
「レディに確認を取るのは、紳士たるもの礼儀です」
 不可思議な言い訳にフィオナが思わず吹き出すと、彼もふっと微笑んだ。
 温かな紅茶と美味しいケーキ、そして他愛もないおしゃべり。会えなかった時間の分、色んな話が弾んだ。
「あの、ところでここに何かあるんですか? さっき気に入る場所だって‥‥」
 話がひと段落して、フィオナがふとそう訊ねた。花が咲き乱れるような場所でもなく、かといって何かほかに目立つものがあるわけでも‥‥。
 彼は「あぁ」と頷いた。
「そろそろ目も慣れた頃合い。どうぞ、ご覧ください」
 彼はフィオナの手を取ってテーブルの反対側、馬車の向こう側へと招いた。

 そこには、星の川が流れていた。


4.
「天の川でございます。夏の代名詞になっておりますが、冬にもご覧になることができます。織姫と彦星のお話もある有名な川でございます」
 地上からではここまで美しく見ることができない。息をのむような煌めく星の川。宝石が流れているといっても言い過ぎではない。
「すごく綺麗‥‥!」
「喜んで頂けて何よりです」
 喜ぶフィオナに目を細めて彼は笑う。
 ‥‥少しの間、天の川に目を奪われ沈黙が2人の間を流れた。
 ムードはばっちり。渡すなら今しかない。
 フィオナはこそっと持ってきたバレンタインのチョコレートを、勇気を振り絞り彼の前に差し出した。
「あの‥‥あなたのために用意しておいたんです。貰っていただけると嬉しい‥‥です」
 フィオナの手から、彼はそれを受け取った。少しだけ、手が震えていた。
「わ、わたくしに? あ、ありがとうございます。とても‥‥とても嬉しゅうございます」
 いつもと違う高ぶった声で、彼はチョコレートをじっと見つめる。
「気に入りませんでしたか?」
 気になったフィオナがそう訊くと、彼は「いえ」と強く否定した。
「わたくしのためだけのプレゼントを貰うというのは初めての経験で‥‥なんと申しましょうか。とても‥‥嬉しいものですね」
 恥ずかしそうな、子供みたいな笑顔でフィオナから貰ったチョコレートを大事そうに見つめている。
 なんだか初めて素顔を見た気がした。
 フィオナは彼と真正面に向き合った。そして彼の手にそっと手を添えるとにっこりと笑う。
「私があなたに贈るものは全てあなただけのものです」
 フィオナの言葉に、彼は驚いた後で微笑んだ。
「では、いただいてもよろしいでしょうか?」
「はい」
 てっきりチョコレートのことだと思った。だから、フィオナは頷いた。
 けれど‥‥。
「!」
 奪われたのは唇で、一瞬フィオナは何が起こったのかよくわからなかった。
「わたくしが一番欲しいのは、フィオナ様の心でございます。‥‥いただけますか?」
 彼の手が頬に触れ、吐息が、体温が、全てが近くに感じられる。
 答えを言葉にするかわりに、フィオナは彼の唇に口づける。
 言葉で表すよりも、私の気持ちが伝わるように‥‥。

 彼を想う。
 言葉はキスに勝てなくて、想いはいつだって夢よりも広がる。
 何度でも口づけをかわそう。
 あなたの不安が無くなるまで。
 私が夢から目覚めても、あなたに会えない時間を淋しいと思わなくなるまで‥‥。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 ja9370 / フィオナ・アルマイヤー / 女 / 23 / 阿修羅


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 フィオナ・アルマイヤー 様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼いただきましてありがとうございます。
 バレンタインデート、少しでもお楽しみいただければ幸いです。 
MVパーティノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年03月02日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.