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『Crazy×Crazy 』
レトラック・ルトゥーチjb0553)&篠原天jb8007

 共に暮らす友人達は何所へやら。屋敷の庭隅、置かれたテーブル。
 今日も今日とて姿を見せぬ客の為に豪勢に飾り立てた机で一人、気狂い帽子屋――レトラック・ルトゥーチ(jb0553)は茶会を催す。彼だけの為に設けられたとっておきのティータイム、一人きりでも決して不足不満は無い。
 機嫌良く鼻歌交じりに膝に抱えた大きな兎のぬいぐるみを撫でながら、蒸らしたポットから香る茶葉の匂いに舌鼓を打つ。この歳恰好にして兎は相棒、時には諸手に抱えて眠る夜さえある。
 茶会は賑やかでなくても構わない。静謐で、それでいて朗らかで、紅茶さえ旨ければ文句なんて生まれっこない。人がいる茶会というのも良いものだが、招待状に応える者は何故だかいない。そんなわけで、今日も今日とてレトラックは一人で茶を啜る。――ああ、邪悪なるどす黒い件の液体とは大違い!
 上機嫌で茶会を楽しんでいたレトラックだったが、不意に庭の隅、茂みが動いた。
 迷い猫か何かか、と然して気にも留めずに視線だけ滑らせていたレトラックだったが、草木を掻き分け現れた姿には思わず硬直する。
「……幻覚が見える」
 呟きと共に頭痛がした。しかし、闖入者はそうそう現実逃避もさせてはくれない。
 茶会に飛び込む勢いのまま机の上に土足で乗り上げると、和服に身を包んだ闖入者――篠原天(jb8007)は真顔でレトラックを見下ろした。
「よ」
「お前! 紅茶が零れっ――ぎゃあっ!」
 挨拶なのか何なのか、片手を上げて我関さずといった様子で佇む天を尻目に、レトラックは慌ててテーブルの茶器を避難させる。
 しかしながら時既に遅し、カップは机が揺れた拍子に転がり中を満たしていた紅茶をぶち撒け、机の上はびしょびしょだ。すっかり濡れてしまった机上には、茶色く染まった書き掛けのない招待状。元より誰に出す宛てもないものではあったが、こうなってしまえば肩を落とすしかない。
 濡れそぼった招待状を摘み上げ溜息を吐きつつ、レトラックは天をジト目で見上げる。
「帰れ」
「通りすがりだよ」
「嫌だ。帰れ」
「今日の紅茶は何だ?」
「おい」
 言葉が通じないわけではあるまいに、会話は互いに一方通行。
 騒ぐレトラックにもどこ吹く風、天はテーブルから降りると勝手知ったる様子で椅子に腰掛ける。それを見たレトラックは更に慌てて声を荒げる。
「帰れと言っているだろう!」
 その言葉に漸くと目線を合わせた天は、目を細めて薄く笑う。
「客人を拒むような真似をする気か?」
「う」
 そう、彼は気狂い帽子屋、そして茶会は来客を拒まない。
 幾ら主催者が渋れど持て成しは必要で、『客』を追い出すようなことはあってはならないのだ。
 どこで知ったかどこで調べたか、よくよくレトラックのことを理解している天は、その習性とも呼べる性格を逆手にとって堂々と椅子に座る。
「……変質者に出すには勿体無いくらいの良い茶葉だ」
 汚れたテーブルを粗方清め、整えたところで改めてレトラックはポットからカップに紅茶を注ぐ。注がれると同時に香り立つ芳香はほろ甘く、臭みを感じさせない優雅な風味だ。いつだって帽子屋の寄越す茶会は最上級、珍しくも訪れた客には相応の持て成しをするのが礼儀である。
 寄越されたカップに口付け一口含めば、天は目許を僅かに弛ませる。旨い、そう呟いた言葉に帽子屋が誇らしげに笑んだことには気付いただろうか。
 茶会の主たるレトラックには矜恃がある。最高の紅茶を。最高の場を。最高の持て成しを。訪れた客がそれを良しとすれば万々歳、それが彼にとっての至福のひとつであるのだ。
(紅茶好きに悪い奴はいない)
 帽子屋にとって、闖入者である天の唯一の良い所はそこだ。紅茶を共に楽しめる位の知恵がある。大が付く程嫌いだと公言して憚らないレトラックだが、何だかんだといって、彼を嫌いではない。そこには『俺に酷いことをしないなら』という注釈も付くのだが。
「茶菓子の一つも持たずに突然訪れるなんてお里が知れるぞ」
 しかしながら口をついて出るのは悪態だ。それに対し気にした様子もなく、天は飄々とした表情のまま言う。
「茶菓子? それなら持ってる」
「何だと」
 言うなり机の上に置かれたのは、小さなボックス。恐らく洋菓子の類だろう、天が開けるとそれは正解だった。
「……変な物は入っていないだろうな」
「疑うのか」
「我が身を省みろ」
 警戒心たっぷりのレトラックを笑い飛ばした天は、手をつけようとしない相手の肩口を攫み固定すると、ショートケーキのワンカットを手に取った。
「歯は食い縛らなくて良いぞ」
「は?」
 クエスチョンマークを浮かべたレトラックも何のその。
 言うが早いか天は手にしたケーキを帽子屋の口許に無理矢理捻じ込んだ。
「っ!?」
 顔に飛び散る生クリームに、口内に入り込むやわらかなスポンジ、いちご、装飾諸々。目を白黒させるレトラックを気にすることなく、天は最後までケーキを押し込んでいく。乱暴にも程があるえげつない行為をしつつ、その眼はさも面白いものを見るかのように笑っている。
「日本のお家芸だよ、本当はパイを顔面にぶつけてやるもんなんだがな」
「何、お前っ、……こんなっ……げほ!」
 レトラックの顔面は生クリームでぐちゃぐちゃだ。服の襟までこぼれ落ちた白に頭痛を覚えつつ彼が喉に詰まったそれを呑み込むべく紅茶に手を伸ばした矢先、天はといえば涼しい顔で汚れた手をレトラックの服で拭っている。
「良い生地使ってるな、これ」
「お! ま! えええええええ!」
 正に好き放題。遠慮の一切なしの天の行動に眩暈さえ覚えつつ、レトラックは半ば諦めの境地に突入する。下手に反応すれば更に面白がって何かしてくるに違いない。
 そう考えた彼が口を噤んで目を逸らすものの、天がその思惑に気付かないわけがない。
 視界の端で動く天にちらとレトラックが視線を向けると――彼のカップを奪って紅茶をぐいと飲み干す姿。
「あああああ!」
「旨いな」
「それは良かったがこれは良くない!」
 全くもって対処のしようがない。レトラックの完敗である。
 けれどその支離滅裂さ加減もイカれ帽子屋の茶会に相応しいと言えばそれまでで、何だかんだでこの賑やかさも悪くないと思う節もあった。
 天はと言えば、実に満足している。常日頃から延々と紅茶を啜り、奇人変人のような言動を見せる不思議な生き物。天の興味をそそったのがレトラックの運の尽きであり、天にとっての幸運でもある。
 天にしてみればレトラックは観察対象であり、ペットの内の一匹であり、虐め弄ぶことで彼なりの好意を示している――筈である。
 レトラックにとっては災難だが、それだけではないのも事実。共に紅茶を楽しみ、一人きりの侘しい茶会を脱する良い機会でもあるのだ。

 ――それから暫し。

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ帽子屋に尽きないちょっかいを掛け続けた天だったが、気付けばポットは空になっていた。何だかんだで注いでは空け、注いでは空けを繰り返していたからだ。
「さて、そろそろ行くかな」
 茶会の終わりを告げる天はいつだって唐突だ。
 唐突に現れ、好き勝手弄び、唐突に去っていく男。
 それを面倒だと思う反面、面白いと思う自身がいることに、レトラックは気付いている。
 交わす会話はいつだって他愛無く、脈絡もなく、だからこそ、愉しい。
 表向きは厭な相手だ。けれど、過ごした時間は偽りなく楽しかった。
「次は……言ってから、来いよ」
 素直な言葉と共に泳がせた視線。
 天はそれを追うことはせず、軽く鼻で笑うと椅子から立ち上がった。
 無言の肯定なのか、否定なのかは判らない。
 気乗りしない様子だった帽子屋が、迎え入れる”約束”にも似た台詞を吐いた。
 それが可笑しくて、興味深くて、天はまた茶会に乱入しようと決めた。
 来た時とは違い静かに去っていく闖入者の背を眺めながら、レトラックははてと首を傾げる。
(そういえば名前すら知らない気もしたが)
 名も知らぬ闖入者。不躾な客。けれど、紅茶を共に味わうことの出来る者。
(呼ぶことも無いから、構わないのさ。――今は未だ)
 帽子のつばを正し、レトラックは目を伏せひとり笑った。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb0553 / レトラック・ルトゥーチ / 男 / 42歳 / アストラルヴァンガード】
【jb8007 / 篠原天 / 男 / 37歳 / 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 相沢です、今回はご依頼有難う御座いました。 また、納品の方大変遅れまして申し訳御座いません。今後はこの様なことが無いよう努めますので、また機会がありましたらどうぞ宜しくお願い致します。
 イメージは気狂いティータイム、愉快なひとときを派手に面白可笑しく。書きながらお二人の関係とやり取りで思わず笑ってしまいました。いつかお互いが名前を知れる日、楽しみにしています。
 それでは、ご依頼本当に有難う御座いました。今後ともどうぞ宜しくお願い致します!
snowCパーティノベル -
相沢 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年03月04日

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