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『ホットチョコレート二人分 』
亀山 淳紅ja2261)&RehniNamja5283


 季節は近づくバレンタイン。
 Rehni Namは、吹き付ける北風に乱される銀髪を抑え、小さく首を振った。
 肩に掛けたバッグには、お菓子作りの材料。それを持って向かう先は、亀山 淳紅……恋人の、自宅。
(お義姉様と義妹さんはお出かけ中とか……。き……、緊張しますね!)
 頬が赤いのは、きっと寒さのせいだけじゃない。
 交際を始めて二年ほど。
 指先が触れあうことさえ恥ずかしかった時期は緩やかに過ぎ、『ひと』としての成長過程を共に歩む、そんな時期。
 次のステップへ、と焦る気持ちが皆無ではないけれど、それよりは穏やかさの共有を――
 と、過ごしていたって。

 今日は彼の家で、二人きりで過ごす一日。

 ドキドキしないわけがない。
(何かあるわけではないですが…… あっても良いかな、なんて)
 思ってみたり。
 お年頃だもの。

 チャイムを鳴らすと、ややあって同じように緊張の面持ちの青年が姿を見せた。
「こんにちは、今日はよろしくお願いしますですよ、ジュンちゃん♪」
「ようこそ、何もないところですが」
 それでも、顔を合わせて声を出せば、普段通りの二人。
 暖かで、優しい空気が周囲に満ちる。




「レフニー、今年のバレンタインは…… また、力作やな?」
「ふっふっふ。プレッツェルから自家製ですからね!」
 亀山家のオーブンを借りて、こんがり焼きあがる細身のプレッツェル。
「去年のも手が込んでたけど」
 焼き上がりを網へ移動させながら、ラズベリージャムを閉じ込めた恋味チョコスティックを思い出して、淳紅が呟く。
「今年は、こうしてジュンちゃんと一緒に作ることができて楽しいのです。チョコレートの準備はできました」
「早!? えー。去年、自分らが逆チョコ作った時は、もっと時間がかかったで!?」
「包丁一閃、迷いなき刃は最短距離を真っ直ぐに進むのみなのです」
 その手際の良さは、料理を得意分野と称するだけのことはある。
 湯煎を用意する傍らでチョコレートを包丁一閃で溶けやすい細やかさに刻み終え、最適な温度で最小の手数でテンパリング。
 美しい光沢でもって、ボウルはチョコレートを湛えている。
「さすがやなぁ……。ほんで、これをチョコレートにディップしていけばええんかな」
「はい。たくさんありますから、楽しみながらやりましょうね」
 向かい合い、プレッツェルを片手にレフニーがニッコリ笑った。


 市販品ではお馴染みのスタイルも、一本一本手作りとなれば手間暇や味わいも違ってくる。
「最初のものは固まってきましたね。はい、ジュンちゃん。あーん」
「おっ、ほんま? いただきまー」
 口どけの良いチョコレート、バターの風味が香ばしいプレッツェル。出来たてならではの味わいに、淳紅は幸せそうに眼を細めた。
「わー! めっちゃ美味いで!」
 レフニーの指先に軽く唇が触れる、体を離してからぺろりとチョコレートを舐めとる淳紅の笑顔は至って無邪気だ。
(ジュンちゃんったら……!)
 対するレフニーは、心臓がバクバクだというのに。
 サラリとした黒髪の質感や、伏せた睫毛に魅入ってしまったというのに。
(もー。こうなったら)
 ちょっとだけ、意地悪心。
 無邪気な彼にも、わかりやすく。

「プレッツェル側からも、食べてみて下さい?」

「れ、」
 れふにー。これは。
 チョコレート側を咥えて、レフニーがそっと目を閉じる。
(い、いや、自分は構わへんけど だ、だれが見てるわけでもないけど)
 わかりやすく、淳紅にも効いた。
 心臓はバクバク、頭はグルグル。
 なんとなく流れでレフニーの肩を両手で支えたまでは良いものの、え、行くの、行っちゃうの

「ゲームしなくても、キスくらいさらっとしてみせますよ」
「!!」

 ヒョイと菓子をつまんで、チョコの付いた恋人の唇へ自身のそれを重ねる。甘さを確認するように。
「って、わー!! レフニー!!!?」
「ジュンちゃん、それは反則……反則なのです……」
 顔を真っ赤にして、グラァと倒れかけた恋人を、淳紅が手を伸ばして慌てて抱き留める。
(かなわないなー)
 自分ばっかり、押しているのかな? 好きな気持ちが大きいのかな?
 そんなことを、考えないでもない。
 愛されてる、大切にされているとはわかっているけれど。
 照れ屋な彼は、古風なところも相まって、そこも素敵なんだけれど!! ちょっと奥手な時もあるから。
 そんな彼の、時折見せる不意打ちアグレッシヴの威力は絶大。
「もうちょっと…… 味見、してみます?」
「え」
 そこで真っ赤になっちゃうところも、威力は絶大。
「大好きですよ、ジュンちゃん」
 何度だっていつだって、伝えたくてたまらなくなるんだから。




 グラスに入れ、セロファン袋でラッピング。リボンはストライプ柄の、シックなワインレッド。
 あれだけたくさん作っても、包装してしまえば出来上がりは限られた数量となった。
 大切な人へ贈る、とびきりバレンタインチョコレート。
「ジュンちゃん、お疲れ様でしたー。二人で作るのも楽しいですねぇ」
「はー、すっかり腕が痛なったわ。レフニー、毎年ひとりでこんなに作っとるん?」
「私は、趣味も兼ねていますしね」
 後片付けを終えて、二人は硬くなった体をそれぞれにほぐしながら完成品の前で溜息を。
 達成感が、じわじわと込み上げる。
(毎年……)
 こうやって、手間暇かけて、愛情を込めたものを、作って贈ってくれているんだ。
 淳紅は、改めて感じ入る。
「それじゃ、一息いれよか」
「はい。あっ、飲み物とおやつは私が持って行きますよー♪ バレンタインチョコの合間に、用意していたのです」
「ほんまに手際がえぇね!? わかった、楽しみにしとる」
 跳ねる前髪を優しく撫でて、淳紅はリビングへと。
 レフニーは照れ笑いを返し、それからミルクパンを取り出した。


「お待たせです、ホットチョコレートとビスケットですよー」
 プレッツェルの残り生地を薄く焼き上げたものと、チョコレートと牛乳でドリンクを。アクセントにブランデーを少し、垂らして。
 暖かなカップを両手で受け取り、淳紅の表情が自然と緩む。
「なーんか、ええなぁ。ほこほこ、あったまる」
「甘いものは、疲れた心を癒す特効薬ですからね」
「……自分、そんな風に見えた?」
「私はいつでも、ジュンちゃんに寄り添っていますよ」
 ぽすん。隣に腰を下ろし、レフニーは淳紅の肩へ頭を預ける。
 歌を、そして撃退士としての戦いと、全力で向き合う淳紅を、こうして隣で見守りつづけている。時には共に戦い、支え。
(物好きな子、やんな)
「ジュンちゃん?」
「どうして」
「え」
「どうして、そうやって自分の傍に居てくれるん? 割と、どうしようもない奴やろ」
 淳紅だって、もちろんレフニーを大切に思っている。好意を寄せている。
 それでも、それ以上に、彼女に『許されている』という気持ちが強くて。
 そこへ甘えてしまっている気がして。
「ジュンちゃんが、ジュンちゃんだからですよ」
 ほら。今もまた、こうやって。
(こういう時……、なんて言えばいいんやろ)
 胸の奥に湧く、むず痒い感情。どんな表情をしたらいいのかもわからない。
「カップ、落とさんようにな」
「え、……ジュンちゃん、」
 ホットチョコレートの入ったマグカップを持つ、彼女ごとギュウと抱きしめる。
 カップが微かに揺れる、レフニーは中身を零さないよう一生懸命震えを抑える。
「レフニーが、居てくれてよかった」
 目元。頬。優しいキスが落とされる。チョコレートよりも、甘く、温かく。
(やばい、心臓の音がやばい)
 衝動で手を伸ばした、ものの。
 普段はどちらかといえば受動的な淳紅で、勢い余って飛び出したものの収拾の付け方が――
(あ)
 心臓――…… 重なる、レフニーの音も。早い。
「ごめん。ちょっと、いじわるした」
「〜〜〜〜〜〜〜ッ」
 そっと体を離せば、いつかのラズベリーより真っ赤な頬で恋人は淳紅を見上げてくる。
 黒い双眸は潤んでいた。
 からかうつもりではなかったし、困らせるつもりでもなかったのだけど。
(バレンタインが、こんなで……)
 たくさんたくさん、もらってしまっているような。
 ――ホワイトデーには、何を贈ったらいいんだろう?


 きっとこの先も、二人のバレンタインはやってきて。
 こうして、ドキドキを重ねていくのだろうか。
 ホットチョコレートみたいな、温かくて甘い時間を、過ごしていけるだろうか。
 願いが叶うなら、どうか――最期の時を迎える、その日まで。




【ホットチョコレート二人分 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2261/亀山 淳紅/ 男 /20歳/ ダアト】
【ja5283/Rehni Nam/ 女 /17歳/ アストラルヴァンガード】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
恋人同士の、まったり幸せバレンタイン、お届けいたします。
お任せの言葉のままに、糖度は高めに……
お楽しみいただけましたら幸いです。
MVパーティノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年03月04日

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