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『ゆめのはじまり 』
星乃 みらいja6376)&星乃 滴ja4139


 歳の瀬、大晦日。
 テレビでは新年に向けての特番情報や歌謡賞のぶつ切りの放送、配られたチラシには新年初売り福袋の広告が載せられており、世間はすっかり新年ムードである。
 かくいう星乃家はというと、同じく新年に向けての準備で慌ただしい。
 ――部屋には、二人の少女がいた。
 ひとりは黒髪で長身の、星乃 みらい(ja6376)。
 ひとりは紺青色の髪を二つに結った、星乃 滴(ja4139)。
 二人は同姓、そうして同性。
 見た目、年の頃は十五前後。――そんな二人は、将来を誓った仲である。
 日付で言えば丁度ひとつき前。十一月に苗字を変え、共に暮らし始め、漸く今で一ヶ月。慣れないことも沢山あれば、驚くことも沢山ある。今まで互いに違った暮らしをしていた二人が共に過ごすというのはそういうことで、それはそれで新たな刺激となって中々楽しめている。
 引っ越したばかりであるので部屋は片付け切っていない。だが、それとは別に色々な意味で年越しは大掃除が必要だ。

 ――それは、拭うべき過去。


 みらいの部屋。
 段ボール箱が点在しており、中には忘れ難い、そして掛け替えのないものたちが入っている。

(きちんとしなくちゃね)

 みらいは手にした写真を見詰め、それから箱に仕舞った。その他の思い出の品々も同じだ、箱には自分にとっての”過去”が詰められていく。過去の清算は、みらいにとっても、滴にとっても大切なこと。
 過去を拭い去り、二人で歩んでいくことを誓った。つまり、すべてを棄てる覚悟がなければいけない。
 昔のものは沢山ある。幼馴染たちと撮った写真は過去の自分にとっての宝物で、けれどそれも、仕舞う。今は未だ出来ない。けれど、いつかは自分の手で棄てられるように、タンスの奥底に収めるのだ。
 思い出は山程ある。寂しがり屋のみらいにとって、誰かとの思い出は棄て難い宝物。過去に天城の苗字を棄て、母の苗字を得て、そうして今はそれさえ棄てた。新しいパートナー――”星乃”という姓を受け入れた。
 人見知り、それでいて不器用で意地っ張りなみらいを受け入れ、共に歩むことを決意してくれた滴。
 滴の為ならどんなことだって出来るだろう。彼女を好きになった以上、一途に彼女だけを思い続ける。他者に愚かだと言われても構わない。好きで、大切で、彼女がもしも自分を見てくれなくても良い、他の人を好きになっても構わない、ただ、笑って生きていてくれたらそれで良い。ただ、みらいは彼女の傍に居れたらそれで良いのだ。
 そうして滴は今、みらいの傍にいる。みらいと共に未来を歩むことを誓ってくれた。何よりも幸福で、何よりも得難いこと。
 タンスの戸を閉めて、みらいはじっと座ったまま黙り込む。
 いつかは、棄てるべきもの。
 今在るものを大切に抱き、今在る幸福を噛み締める。
 ――その為に、決して過去を忘れはしないように。
 拭うべきものであっても、忘れていいものではないのだ。
 過去があるからこそ、今がある。
 それはみらいにとっても、滴にとっても同じこと。
 互いの過去をよく知り、互いの傷を嘗め合える――癒し合うことが出来る、大切な存在。
 だからこそ、忘れてはならない。互いの絆の為に。


 滴の部屋。
 彼女にとっては長いこと引き籠り続けた、馴染み深い部屋だ。
 自室だからこその勝手の良さで、積まれた荷物を確りと整頓する。
 要不要で分別し、段ボール箱に詰めてゆく。
 必要なものを選ぶ作業は、存外に楽しい。そうして、少しばかり哀しい。

(沢山のことがありました)

 この部屋にあるものは、ひとつひとつが自分自身の過去なのだ。
 他の何とも変えられない、大切なもの。代わりのない、唯一のものたち。
 もう遠い昔のことのように思えるものから、まだ真新しい生傷のようなものまで、様々なものがある。
 昔いた恋人。亡くしたひと。
 ある時までいた恋人。失くしたひと。
 抱いた罪を忘れずに、背負ったまま生き続けようと決めていた。
 けれど、それももう終わる。
 忘れるわけでは決してない、けれど、もう良いのだ。
 背負い続け、抱き続け、痛みに凍え続ける必要は無くなった。
 過去を清算し、新たな道を――互いに誓い合った将来を約束として、真っ直ぐ前を向いて生きてゆく。
 目映い程の幸福に、滴は目頭が熱くなる覚えがした。泣きはしない。けれど、じんと沁みる、熱。
 思い起こせば、学園に入学してから色々なことがあった。
 入学して直ぐにみらいと知り合い、同じ部活に所属し、友として親しくなった。時に喧嘩もし、日々笑い合い、とても楽しかったことを覚えている。ずっとずっと世話になり続け、大切な親友へとなっていった彼女。
 それから起こった人間関係のもつれや、周囲を取り巻く環境の変化。みらいと滴を引き籠らせる切欠になった事件ではあったが、つい先日――十一月に、過去を棄てる決意をした。それと同時に、みらいと滴は将来を誓い、共に暮らすことになった。
 滴には、沢山の過去があった。両手でさえ収まり切らない程の過去。持ちきれない程の過去。それらを棄てる勇気は相当なものだ。二度と得られない大切な過去。けれど、滴は決めた。みらいと生きていく為に、振り返らない誓いを立てた。
 滴が過去に負った傷は深く重いが、みらいと共に過ごし、笑い合い、慈しみ合う内に徐々に癒えて来たとも言える。未だに響く痛みはあれど、それはもう枷ではない。

 ――滴の鳥籠の鍵は、みらいが外した。
 ――みらいの鳥籠の鍵は、滴が外した。

 互いに思い合い、慈しみ、結果的に救われたのだ。
 決して揺らがない将来の誓い。それ以上の幸福がある筈もない。
 繋いだ絆は、何よりも固く、そうして尊い。


 片付けを終えて、二人が共にこたつに入り。
 用意したのは、年越しそば。
「天ぷらは必須です」
 そばを前にきりりと表情を引き締め言うみらいに、思わず滴は吹き出して笑う。
 言った通り、そばにはえびの天ぷらが二尾ずつ。
 引っ越したばかりの家だ、まだ箸を出していない。今度一緒に買いに行こう、などと約束を交わしつつ、今日は割り箸を使ってそばを食べる。
 ぱきりと箸を割って、ふと思い出したようにみらいが言う。
「これからもよろしくお願いします。……ちゃんと言ってなかった気がするから」
 流れに身を任せ一緒に暮らすことになったものの、きちんと口にし伝えてはいなかった。
 言葉にすると気恥ずかしくも感じるそれを伝えると、みらいは僅かにはにかんだ。
 滴も同じく照れたように笑って、ひとつ頷く。
「いつもありがとう。これからもずっと、よろしくお願いします」
 ”ずっと”。かけられた言葉にかかる重みが、はっきりと判る。
 二人で生きていく。共に寄り添い、共に笑い、時には泣き、きっと喧嘩だってするだろう。それでも、だからこそ誓いを違えず歩んでいける――二人はそう思った。
「これからもいろいろあるでしょうけど、二人で頑張りましょうね」
「はい。……ふふ、何だか照れますね」
 みらいの差し出した小指に、滴も小指を絡める。
 指切りげんまん、昔ながらのおまじないだ。
 ――この道が違えることがないように、このまま、寄り道をしても、迷っても、必ず二人、共にあれるように。
 そうして、そばを食べ終え、二人で食器を洗い、少し話をした後は名残惜しいながらも寝る時間だった。
 並べられたひとつの布団。少し大きめで、少女二人で眠るには丁度良い。
 掛け布団を持ち上げ中に潜り込むと、冷えた布団は寒い。
 だから、みらいは滴に身を寄せ抱き締める。あたたかくて、やわらかい。
 一瞬驚いた滴も、そのぬくもりに惹かれてみらいに腕を回して抱き締める。
「あたたかい」
「これなら寒くありませんね」
 ぎゅうと抱き締めると、同じだけのやわらかな抱擁が帰ってくる。
 不思議な幸福感が満ちて、みらいと滴はくすくすと笑う。
「おやすみなさい。よい夢を見ましょうね」
 こうして抱き合いながら見る夢は、きっと、良いものだろう。
 あたたかくて、やわらかくて、そうして落ち着く匂いがする。
 心地好く溢れる充足感に目蓋を瞑ると、直ぐに二人は微睡みへと沈んでいった。

 ――確かな誓いと、やわらかなゆめ。

 あふれる幸福がこの先も続くよう、二人は願った。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6376 / 星乃 みらい / 女 / 15歳 / ダアト】
【ja4139 / 星乃 滴 / 女 / 15歳 / ダアト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 相沢です、今回はご依頼有難う御座いました。 また、納品の方大変遅れまして申し訳御座いません。今後はこの様なことが無いよう努めますので、また機会がありましたらどうぞ宜しくお願い致します。
 過去を清算し、二人で穏やかに過ごす日。お二人がこの先も幸せに過ごせるよう、全力で祈らせていただきます。可愛らしいお二人に万歳。素敵なパートナーの関係を書かせていただけて、とても嬉しかったです。
 それでは、ご依頼本当に有難う御座いました。今後ともどうぞ宜しくお願い致します!
snowCパーティノベル -
相沢 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年03月05日

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