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『乙女たちのハイキング 』
セレシュ・ウィーラー8538


 ――ばさっ、ばさっ。
 早春の青空に黄金の翼が広がる。
 ここはどこかの幻想的な異世界、人里離れた山岳地帯。
 緑豊かな森を眼下にそびえる、岩肌の露出した絶壁で。
 ばさっ、と黄金の翼を持つ娘が踊り場状になっている場所に降り立った。
「センセ、こっちや」
 振り返り手を挙げる姿は、セレシュ・ウィーラー(8538)。きらりと眼鏡が陽光を跳ねる。
 ――ばささっ、ばささっ。
 セレシュの見上げた空に、今度は黒い翼。
「ほーう。やや岩肌の色が違っておるな。これは期待できそうか」
 某学園教師の通称ロリ先生が、はばたくコウモリ傘を片手に浮かんでいる。反対の手にはクマのぬいぐるみを抱えていたり。
「しっかし、そんなんでよう空飛べるなぁ」
「よっ、と。……こちらはセレシュと違って自前の翼はないからな。自在には飛べないが重宝する」
 感心したようにコウモリ傘を見るセレシュ。傘のコウモリの方は文句を言われたのが分かったようで、不満そうに睨み返してくる。
 そう。コウモり傘といってもほぼ傘ではなく、柄のついた巨大なコウモリである。これが、いまロリ先生がしたように普通に閉じると通常の傘のようにたためてしまうのだ。不思議なものである。
「ま、ええか。それよりここなら鉱脈が露出しとるし、ええ鉱石素材が採取できそうや」
 セレシュ、さっそくノミと金槌を取り出す。
「待て。そんなちっこいのでやってたら時間が足らんぞ。鉱物の他に薬草、茸類も探すのだろう?」
「せやかて、帰りのことを考えるとでかい道具なんか持って来れへんて。ぬいぐるみとか無駄なもんなんか持って歩いとったら……」
 ダメ出しされ、逆にロリ先生の無駄装備に突っ込む。
「ならばここは私に任せておくのだな」
 批判の視線にまったく気付かないロリ先生だが、そのクマのぬいぐるみで何かしようとしている。
 まずは、ぬいぐるみの口をあんぐりと開ける。
 すると長い鉄の棒が出てきた。
 そのまま口を両手でつかんで、ぐいっと裏返した。
「な、なんや、それ」
「これか? クマのぬいぐるみ『クマ衛門』の真の姿だ」
 指差すセレシュ。先ほどまでのクマのぬいぐるみはぐるっと裏返って鉄球となり、最初に出た柄と鎖でつながっていた。モーニングスターである。
 そしておもむろに振りかぶって鉱脈らしきところにいきなりぶち込んだ!
「粉砕!」
 ごしゃ、と大質量の鉄球がめり込む。
 鉄球がこぼれ落ちた後には、ひび割れとその隙間からさまざまな色の光沢が見えた。
「よし。やれ、セレシュ」
「よ、よっしゃ!」
 こうしてセレシュ、ノミと金槌を使って各種鉱石をごっそりと手に入れることに成功する。



「なあ、センセ?」
 今度はセレシュ、森の中にいた。魔具の素材となる薬草や茸を探すつもりだ。
「どうした?」
「センセは授業で使う素材集めについてきたんやなかった?」
「それがどうした?」
「いやセンセ、さっきの崖で何も採取しとらんやん」
「セレシュがたくさん採ったろう。私はその残りでいい」
 この言葉を聞いてセレシュ、「ついてきたのは気晴らしか憂さ晴らしついでなんかもなぁ」とか思ったり。
「どうかしたか?」
 瞬間、鋭く聞いてくるロリ先生。もちろんセレシュの内心を聞かれたわけではないが慌ててしまう。
「あわわ……ええと、センセのそのぬいぐるみ、質量保存の法則とかどうなってん?」
 かろうじて別の話題を振った。
「馬鹿か、お前は。ああいうのを見てこれを物理法則に依るものとでも思っているのか?」
「せ、せやね」
 物理法則無視というのが魔具らしいといえば魔具らしい。
「……ふむ、しかし」
 ここでロリ先生、セレシュをまじまじと見た。
「ど、どないしたん?」
「皮鎧、というのもおしゃれなものだな」
 先生が感心したように、セレシュは茶色いベストに茶色いスカート、そして茶色のブーツなどに身を包んでいた。腰には黄金の剣を帯びている。分厚い野暮ったいものではなく、腰を絞ってスカート部は脚の可動域を邪魔しないようにフレア仕様。女性の華やかさを強調したデザインになっている。
「そういうセンセは……」
 セレシュ、ロリ先生の装備を改めて見た。
 子供っぽいエプロンドレスの上から鉄製の胸当てをつけ、両前腕部の甲、肩当て、そして膝と脛を守る防具を着けているだけだ。
「セレシュ。お前今、『胸当ての胸、えらく盛ってるな』とか思ったろう?」
「お、思ってへん思ってへん!」
 視線を失礼と感じたかいきなりセレシュの胸ぐらをつかんで締め上げるロリ先生。一応、実際にぺったんこな胸にとっても豊かなふくらみのある胸当てを付けているのだから仕方ない。
「ん?」
 この時セレシュ、ちらと下を見た。
 ロリ先生をちょうど見下ろす形だ。
 当然、胸当ての隙間も見えてしまう。
「もしかしてセンセ……何か胸に詰めモンしてる?」
「くっ……み、見たなぁ?」
 ばばっと下がり胸当ての上部分を手で隠すロリ先生。別に詰め物で膨らんでいるわけではないが、バレてうれしいものでもない。こうしないと安定しないのだというのは、内緒だ。
「いや、別にそない慌てんでも」
「うるさい、セレシュ。乙女の秘密を見たからには生かして帰さ〜ん!」
 そう言いつつクマのぬいぐるみ、クマ衛門の背中部分のボッケから左手を入れた。とたんにちゃきん、とクマが腕を広げ爪がキランと光る。
「いやちょっと、それってそういう使い方もできるんかい」
「爪のキレ味、とくと味わえ〜い!」
 振りかぶるクマ衛門を振りかぶり突っ込んでくる!
「ちょい、こないなことせんと薬草採り……」
 セレシュがそこまで言った時だった。
「はっ……」
 ロリ先生、止まった。
 突っ込む最中、背後からうねうねと動く蔦に絡まれそうになったのだ。
 もっとも、突っ込みが鋭かったので絡まれることはなかった。
 その代り不幸にも、するりと幼女体型の体を抜けた蔦には、一枚のひらひらなキャミソールが引っかかっていた。胸の部分はぺたんこで、真ん中に小さな赤いリボンのある膝上丈の幼女用肌着である。
「胸の詰めモンて、それかい……」
「見ぃたぁ、なぁッ!」
 ロリ先生、振り返ってクマ衛門を一閃。ぶちっと切断される蔦。ひらひらと無情に舞うキャミソール。
 それが合図だった!



 ――ざざざっ!
「な、何や、囲まれとるやないか!」
 セレシュも背後から蔦に襲われた。
 胴に巻き付かれたが引っ張られる前に黄金の剣を抜きぶった斬る。
「くそっ!」
 ロリ先生の方はもっとひどい。四方八方から蔦に襲われていた。細かくクマ衛門を振るっていたが、またも胴体に絡まれそうになる。強引に身をひねりクマの手を一閃するが……。
「ああっ! センセの乙女の秘密がっ!」
 セレシュの悲鳴の通り、ついに胸当てそのものがポロリした。反対の胸の詰め物もキャミソールだったようで、無情にもひらひらりん。
「埒が明かん! セレシュ、頼んだ」
 叫んだロリ先生はクマ衛門をモーニングスター形態に。ぶんぶん振り回しては……。
「な、なるほどっ」
 襲ってきた蔦を絡まれる前に全部からめ取ってしまった。よしきた、と近寄ってまとめて斬り捨てるセレシュ。二人の位置関係もこれで安定した。
「これ、おそらくアルラウネやね」
「ならばセレシュ、本体を探せ」
「あ……」
 言葉と同時に発見した。
 見ると、木々の向こうに蔦を纏った少女がいた。ひょい、と戻ってきた蔦から乙女の秘密……もといキャミソールを手に取り頭から着た。にまり、と満足そうな笑み。
「……もっと」
 とは声を出していないが、恍惚とした表情で動いた唇は明らかにそう言っていた。そしてぺろりと赤い舌が姿を現し唇を舐める。
「オシャレの次は食い気か!」
 怒るロリ先生。
「……オシャレはたまたまやろ」
 軽口はそこまで。
 改めて一斉に蔦が襲ってきた。圧倒的な大質量だ。
 二人は武器をかざすが、これはいくらなんでも避けられないぞッ!
 どっ、ぱーんと蔦の津波になすすべもなく飲み込まれる二人。
 ――カッ……。
 いや、押しつぶされた蔦の下から光が輝いたぞ?
 ――どっ、ぱ〜ん。
「防御結界張るならもうちょい早くしろ」
「仕方ないやん」
 結界生成の勢いで強引に蔦をどけた。
 かくしてまたも距離を置いたままにらみ合うことに。
「……もう一枚のキャミを楽しそうにきゃいきゃい眺めとるけど、誘ってるんやろなぁ」
「油断するな、奴のばらまいた花粉が来てるぞ。おそらく毒が仕込まれていると見る」
 先生はクマ衛門の前掛けを外してマスク代わりに自らの口を覆った。
「うちに毒は利かんねん」
「しかしこれは困ったな。近付けば結界ごと取り込まれそうだし、この位置では私もセレシュも攻撃手段がない……」
 絶体絶命というか、打つ手なしである。
 が、セレシュはまったく困ってない。
「しょうがないなぁ、とっておきの奥の手や」
 セレシュ、必殺の気合に瞳を輝かせ小さな顎を上げ敵を見た。



 そして、眼鏡を外すッ!
 ――ぴし……。
「……いつものか」
 どこがとっておきの奥の手か、という感じの声がロリ先生から漏れた。
「しょうがないやん。一番手っ取り早いんやし」
 眼鏡を外し、髪先が蛇の頭に変化した姿のセレシュが応じた。
 そう。
 眼鏡型魔具で抑えていた、ゴルゴーンの石化の視線をアルラウネ本体の少女に向けたのだ。
 アルラウネ、お洒落にも敏感な年頃だったのが運の尽き、すっぴんセレシュに興味を惹かれてもろに石化の視線を浴び、薄いキャミソール一枚を羽織る可愛い石像と化していた。
「しかし、こんなのがいるとはな」
 近寄り調べるロリ先生。ぴら、とキャミソールの裾を捲るがもちろん石化しているので動かない。それでもその行為を見てこらこらと止めるセレシュ。
「ま、普通のアルラウネだな」
「そーいえば、アルラウネって何かの素材に使えたかいな?」
 ええと、と人差し指を唇に添え上目使いするセレシュ。
「少なくとも毒系の何かには役に立つだろ……どれ、セレシュの石化を解除して今度は私がこいつを人形にして、と」
「えげつないなぁ。そんなポーズにして」
「こういうポーズもいいな。もちろんこういうのも……」
 心行くまで、いつものように被害者で遊ぶ二人。学園の犠牲者が見たら「またか……」とあきれるだろう。
 それはそれとして、たっぷり遊んでようやく気が済んだらしい。
「素材は髪の毛の一部でいいだろ。ほれ、セレシュ。もう一度石化を頼む」
「了解や」
「そのうちアルラウネの魔力も消えて石も自然に粉々になるだろ」
 というわけで、素材採取終了。
 アルラウネの石像を残し、帰っていく二人だった。

 そんなわけで、もしも森の中でキャミソール一枚姿で色っぽくしなだれる少女の石像を見たら注意が必要だ。
 哀れと思って石化解除しようものなら、それまでに受けた恥ずかしいポーズの恨みを込めぎったんぎったんにされるかもしれないから。
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瀬川潮 クリエイターズルームへ
東京怪談
2015年03月11日

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