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『あなたとの時間 』
ヘスティア・V・D(ib0161)&リューリャ・ドラッケン(ia8037)

 ふと、リューリャが目を開けると、視界を一面の赤が支配する。
 艶やかな、燃えるような炎の色。己の腕を枕にしている妻の髪。
 見事なその髪に触れるが、ヘスティアが起きる様子はない。
「……おい。ヘス、起きろ。出かけるんだろ?」
「んー……」
 うっすらと目を開ける腕の中の天女。
 目が覚めるような白い肌。柔らかそうな双丘。
 気だるそうな吐息。匂い立つ色香。
 ――美しい女だな、と思う。
「……腰痛ぇ」
 紅は差していないはずなのに、不思議と紅いヘスティアの唇。
 それはとても魅惑的なのに……そこから漏れる身も蓋もない発言に、リューリャは苦笑する。
「人の精気を吸い尽くす勢いだったからな。誰だってそうなる」
「んー? りゅーにぃだって満更でもなかっただろ?」
「殆ど寝ないで付き合わされる身にもなれ」
「……嫌ならそう言ってくれて良かったんだぜ?」
 ニィ、と笑う彼女の甘い声。リューリャはその全てを奪うように唇を塞ぐ。
 漏れるため息。ヘスティアは潤んだ目で夫を見上げる。
「……んー。もう一戦するか?」
「いや。俺の腕を枕にするのはそろそろ終わりにしよう。今日はデートなんだろ?」
「そーだけど……着替えるの面倒臭え。りゅーにぃ、着替えさせてくれよ」
「……言ったな? 後悔しないな?」
「え……?」
 甘えて首に腕を回してくるヘスティアに、にーーっこりとイイ笑みを返すリューリャ。
 その微笑に妙な迫力があって……彼女は笑顔のまま固まった。


「……なあ。ちょっとこれ可愛すぎないか?」
「着替えさせろって言ったのはヘスだろうに」
「そうだけどさー……」
 もじもじとしながら、リューリャの腕に手を絡めるヘスティア。
 淡い紫色のシフォン地のワンピースは、彼女が動くたびにひらひらと揺れる。
 それは、彼女の赤い髪に映えてとても似合っていたけれど、こういう服は普段着ないので何だか落ち着かない。
 彼に着替えを任せたら、普段選ばないような愛らしい服を選んで来て……この状況がある。
 まあ、りゅーにぃが喜ぶなら時々着てやってもいいかなー……なんて思いながら、並んで歩みを進める。
「さあ、まずは服を見に行こう。新しいのが出たって聞いたぜ」
「その前に下着屋寄っていいか?」
「下着?」
「ああ。サイズが合わなくなってきちまってさー……」
 首を傾げる彼に、はふうとため息をつくヘスティア。
 今、彼女のお腹には新しい命が宿っている。当然、その子の父親は隣を歩いている男性であるのだが……そんな事情から、ヘスティアの体型は刻一刻と変化を続けている状況だった。
 店のドアを開けるといらっしゃいませ、と頭を下げる店員。
 それをあしらいつつ、ヘスティアは店全体を眺め、商品を見定める。
 足が向いたのは、黒系の下着が置かれた場所。
 ――黒の下着はいい。自分の白い肌色にも合うし、何より『勝負下着』と呼ばれるものが多いので、デザインが可愛かったり、過激だったり……とにかく、自分の好みに合うものが多いので、自然と選ぶことが多くなる。
 自分の夫はいい意味でも悪い意味でも目が肥えている。
 誘惑しようと思ったら、普通のじゃダメなのだ。
 ちょっと際どいくらいが丁度いい。
「ヘス」
「ん?」
 ちょいちょい、とリューリャに手招きされて何事かと歩み寄る彼女。
 彼の手には、純白の総レースの下着が握られていて、ヘスティアはニヤリと笑いながら肘で夫を小突く。
「……りゅーにぃも好きだなぁ」
「まあな。否定はしない」
 純白の総レースは、清楚に見えて実はとんでもない破壊力を秘めている。
 モノによっては黒より扇情的に見えるものもあったりするので、着こなすのもそれなりに難しいのだが……。
 まあ、この男が見たいと言うのなら、それに乗ってやるのもいい。
 彼女はリューリャの手にした下着を奪い取ると、同じデザインの下着をもう一つ手にする。
「2つ買うのか?」
「ああ。同居人の分だよ。……お揃いの方が何かと楽しめるだろ? なあ? ダ、ン、ナ、サ、マ」
 リューリャの唇を、つんつんとつつきながら、ヘスティアは甘い声で囁く。
 ――あ。これは今晩も寝かせて貰えない流れかもしれない。
 まあ、今日は丸1日付き合うつもりで来た。
 そうなることもある程度は予想出来ていたし、吝かではないが。
 ただ、彼女は今、一人の身体ではないから……無理はさせないようにしなくては。
 リューリャがそんな事を考えている間、ヘスティアは更にいくつか下着を選んで、会計を済ませる。
「りゅーにぃ。どうした?」
「いや、なんでもない。今度こそ服を見に行くんでいいんだよな?」
「ああ。この先のこと考えると、ワンピースとかの方がいいのかなあ」
「そうだな。ゆったりとしたチュニックも良いかもしれないな」
「……俺、そう言うユルイ格好あんま好きじゃねえんだけどなぁ」
「暫くの間だ。我慢するしかないだろ。それに……ヘスはそういう格好も似合うし、可愛いもんだぞ」
「ちょっ。馬鹿。急に何言ってんだよ」
 真顔で褒められて慌てる彼女。
 リューリャはいつもそうだ。冗談が通じない……いや、違う。
 いつも、何事に対しても『本気』なだけだ。
 自分がしたいと思ったことはするし、欲しいと思ったものは手に入れる……枠に捕らわれない男。
 ――最初は、兄のような、純粋に憧れの感情だった。
 それがいつの間にか変化して、彼の存在自身を渇望するようになった。
 ……リューリャは決して自分一人だけのものになることはない。
 それは分かっていた。けれど、それでもいいと思った。
 自分に嘘はつきたくなかったし。
 その結果が、今この状況な訳で……人生、どう転ぶか分からないものである。
 彼女の手を引くリューリャが突然足を止めたので、そこでヘスティアの思考も中断された。
「りゅーにぃ。服屋はもうちょっと先じゃね?」
「ここ……試験で来たよな」
「試験?」
「ほら。騎士学校時代のだよ」
「あー……」
 見下ろすリューリャに、遠い目をする彼女。
 ヘスティアも思い出す。
 ……そう、あの日。騎士学校の試験で、二人はこの街にやってきていた。


 その思い出は、決して良いものではなかった。
 騎士学校の全学年合同演習。
 街の中にある、指定された目標を探し出して持って来ると言う、簡単な演習なはずだった。
 が、その日は運悪く視界を遮るほどの強い雨が降っていて……。
 その上、合同班として組まされたのは、親の七光りで騎士学校に入り、やりたい放題やらかしている悪名高い先輩達だった。
 彼らは、同じ班になった後輩であるリューリャとヘスティアにも偉そうだった。
「俺達、酒場で待ってるからお前ら目標見つけて来いよ」
「こんな雨の中探し物なんてやってられるかよ。さっさと行ってきな」
「あんまり待たせんなよ? 逆らったらパパに言いつけるぞ?」
 ギャハハハハハ! と下品な笑いを浮かべる先輩達。
 ――ただ、目標を探して来いと言われただけなら、二人はそこまで怒らなかっただろう。
 注文を取りに来た酒場の看板娘に絡み、悪質な悪戯を仕掛け始めたところで……ヘスティアは完全にキレた。
「……りゅーにぃ。あいつらヤッちまっていいか?」
「いいんじゃないか? ただ、殺すなよ?」
「あー。自信ねえ。俺、ああいう奴ら大っ嫌いなんだわ」
「そうか。俺もだ」
 そう答えるリューリャも剣呑な目をしている。
 二人はニヤリと笑い合うと、先輩達の襟首を掴んで外に叩き出し――。
 その後はもう、凄惨としか言いようのない事態だったので結果だけ言うが、抵抗も出来ないくらいにボッコボコにした挙句、生ゴミ入りのバケツに叩き込んだのである。
 かろうじて息のある状態で見つかった先輩達は別の班の生徒達に保護され、リューリャとヘスティアは事態を知った教官に呼び出されたが、二人だけで問題なく目標を見つけ出し演習をクリアしたこと、また酒場の看板娘が『自分を守るためにやったこと』と証言した為、お咎めなしで済んだ。
 その後、先輩達を見なくなったので、処分されたのかもしれない。
「正直ちーっとやり過ぎたかなとは思ってんだ」
「まあ、騎士道精神の欠片もなかった奴らが騎士になるよりは良かったんじゃないのか」
「それもそうだなー」
 淡々と言うリューリャにくすくすと笑うヘスティア。
 思い出話をしながら歩き続けているうちに街並みが変わり、二人はもう一つの『思い出の場所』に来たことに気が付いた。
「ここで、捕まえたんだよな〜。名無しのごんべぇ。覚えてるか?」
「ああ。そうだったな」
 首を傾げるヘスティアに頷くリューリャ。
 ――忘れるはずがない。
 リューリャが『リューリャ』になる前。
 彼はここでヘスティアと出会い、壮絶な追いかけっこを繰り広げた。
 彼女が自分を見つけて、捕らえなければ、きっと自分はここにはいなかった。
 捕まった時も、騎士学校の生徒としてこの街に来た時も……ヘスティアとこういう事になるとは思わなかったけれど。
 ――思えば自分は、あの時既に。
 この赤毛の天女に捕まっていたのかもしれない――。
「……何だよ? じっと見たりして。俺の顔に何かついてるか?」
「いや、そろそろ服を見て帰った方がいいと思ってね。ずっと外にいては身体が冷えるだろう」
「ああ、そうだな。アイツらも家で待ってるしなー」
「折角だ。お土産を買って帰ろうか、奥さん」
「そうだな。何か美味しいもの買おうぜ、旦那様」
 差し出されたリューリャの手に、己の手を重ねるヘスティア。
 初めて逢ってから、色々あったけれど。
 今までもこれからも、変わらない。
 この先も、この『大切なひとたち』と病める時も健やかなる時も、共に生きて行く。
 言葉にしない誓い。それは、二人の初めてを知る街だけが知っている。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ib0161/ヘスティア・V・D/女/21/騎士
ia8037/リューリャ・ドラッケン/男/22/騎士

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

甘めに……というご指定でしたが、甘くなっているかどうか激しく不安です。お楽しみ戴けましたら幸いです。
話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
MVパーティノベル -
猫又ものと クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年03月11日

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