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『風の旅人 〜薬師の助手〜 』
ユリアン・クレティエka1664

 海辺の平地と島々を無いほうする都市、リゼリオ。
 海に囲まれたこの地を知る者の多くには、冒険都市という冠の方が馴染み深いかもしれない。
 ハンターズソサエティ本部があり、日々多くの覚醒者らが新たな冒険へと旅立っている、活気溢れる都市。

 これは、そんな冒険都市での何気ない春の日の物語――

 ***

 お日様が中天をほんの少し傾き始めた頃の商店街は穏やかで温かいと思う。

「おや、お兄ちゃん、お遣いかい?」
「うん、いつものね」
 靴の底を修理してもらいつつ親仁と世間話に興じていた老爺に、ユリアン(ka1664)は軽く会釈して応えた。
 小さな商店街の店主らも客達も、今ではすっかりご近所さんだ。
 午前の活気が一段落ついて夕方再び賑わうまでの数刻は、混雑を避けて訪れた年配者らの時間。店主らも心得たもので古馴染みの彼らが買い物を楽しめるようゆったり応対するから、昼下がりの商店街は緩やかで優しい空気に包まれている。
 ユリアンはそんな街の日常が大切で愛おしい。

「えっと‥‥このくらいなら先でもいいか」
 夕食に使う野菜類を求めに、青果店の前で立ち止まった。
 根菜を中心にいくつか。多少重くはあるけれど、そんなに邪魔にはならないだろう――と思ったのだが、紙袋の中にいくつかリンゴが混ざっている。
 首を傾げたユリアンに果店の店主が豪快な笑顔を浮かべて返シタ。
「うちのバアさんが世話になってるからな、オマケだオマケ」
「おまけ? 親父さんありがとっ」
 そんな遣り取りに気付いて、奥から店主の母親が顔を出した。
「先生、来てたのかい?」
「おばあちゃんもどうも」
 俺は助手だよ、とやんわり訂正しつつ、ユリアンは手招きする店主の母親に近づいた。何だか具合が悪そうだ。老婆は彼に切々と訴えた。
「咳が出て困るんだよ。診ておくれでないかねぇ」
「おばあちゃんごめんね。俺、助手だし見立てはできないよ。咳が出るの? ならちゃんと先生に診て貰わなきゃ」
 老婆は年寄りならではの頑固さで、行きたくないと訴える。
「先生の所は階段があるだろ? 歩くのも難儀なのに階段はねぇ」
「うーん‥‥じゃぁ階段上がるの手伝うから、おばあちゃんが来る日教えて」
 老婆と通院の約束を取り付けて、ユリアンが奥から出てきたのを認めて、青果店の店主がすまないなと頭を掻いた。
「本当は俺が付き添わんといかんのだが店が、な。すまん。先生によろしくな」
「気にしないで。先生にも伝えておく」

 貰った林檎を齧りつつ、ユリアンは宿屋の角を曲がって路地に入った。
 狭い路地を抜け、宿屋の裏に回る。そこには狭い入り口があって傾斜の高い階段が二階へと続いていた。
「女将さん、こんにちは」
 軽快な足音を立てて階段を上り、ドアを開けると薬草の匂いが鼻腔を刺激した。
 狭い間取りの壁一面に作り付けられた棚には、薬草や薬瓶、雑貨類がぎっしりと収められている。宿屋の二階に設えられた其処は、薬局だ。
 顔馴染みの女将さんが振り返って尋ねた。
「いらっしゃい、お遣いかしらね?」
「うん。パイプの葉と、包帯と‥‥あと、何時ものください」
 はいはいと手際よく女店主は棚から必要なものを出してカウンターへと並べてゆく。確認したユリアンが頷いたのを認めて、彼女はそれらを油紙に包む。
 受け取って、ユリアンは何気なく呟いた。
「この店も‥‥階段上るの大変そうだな」
「やだ、ユリアンあんたその歳で息切れするの?」
 笑う女将へ適当に返して、ユリアンは青果店の老婆に想いを馳せた。

 ***

 風が、呼んでいる。
 そろそろお前は旅立つ時期だと。

「‥‥少し間隔短くないか?」

 風の声に耳を澄ませ、風の誘いに導かれて行く。
 他の地へと心が急かされるのは、目となれ耳となれと囁かれた風の声を受け入れたがゆえのさだめ。

「‥‥何時でも、ずっと、でもないもんな‥‥」

 ユリアンも、あの人も――漂泊する者、だから。
 何時でも居られる訳でなく、ずっと居続けられる訳でも、ないと悟っていた。だが、それでいい。

「‥‥俺を選んだのは、俺の性分を見抜いたからだろう?」

 風精霊との契約。
 全ては互いに受け入れた、結果だ。

「‥‥で、何処行こうか」

 辺境、と風が答えたような気がした。
 師匠に暇を貰わなければ。おそらくは一週間くらいの旅になるだろう。
 ――だが。

「とりあえず、あのおばあちゃんが来た後で、かな」

 薬師の弟子は、紙袋を抱えなおすと師匠の許へ戻って行った。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka1664 / ユリアン / 男 / 16 / 風の旅人 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 時と場所を越えて‥‥ユリアンさんは初めまして。周利 芽乃香でございます。
 お年寄り達が穏やかに過ごす居心地の良い商店街を想像しましたら、何故か急な階段が沸いて出まして、こんなお話になりました。
 何気ない段差もお年寄りには大変。おばあちゃんのお手伝いを約束されるユリアンさん、優しい方だなと思います。

 初めてFNBの世界を綴らせていただきました。ちょっとどきどき。
 何か不手際等ございましたら、遠慮なくリテイク掛けてやってくださいまし。この度はご発注ありがとうございましたv
MVパーティノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年03月12日

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