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『みらくるキールの★ばれんたいん大冒険だわん! 』
キール・スケルツォka1798

 バレンタイン当日。
 上機嫌なキール・スケルツォ(ka1798)の手には洒落た包装がなされた小箱があった。中身は上質なチョコレート。バレンタインだからと誰かから貰ったのではない、自らの依頼報酬で買ったのだ。自分用チョコではない。いつも世話になっている隻眼の男へ渡す物である。
「ふっ……彼奴の驚いた顔が目に浮かぶぜ!」
 早速キールはるんたったと尻尾をフリフリ目的地へと歩き出した。
 だがしかし時間は午後三時、オヤツの時間。丁度小腹が空く時刻。キールの視界にチョコが映る。
 脳内悪魔キールは言う。「一粒だけならバレねぇよ、喰え!」
 脳内天使キールは言う。「一粒だけならバレねぇよ、喰え!」
 なので彼は迷い無く包装を開けると、まるで宝石の様に輝くチョコを一つまみ……

 その時である!

 カッ、と光がキールを包んだ。チョコレートから溢れ出してキラキラ弾けるポップでファンシーな光がクルクル回ってまぁなんやかんやありまして。
 光が収まった頃、そこにいたのはボンでキュッでボンな犬耳犬尻尾のムチムチ美少女であった。脅威的胸囲なワガママボディ、色んな物がはちきれんばかりである。3秒前はオーバーミソジストマンだったのにね。
「わ、あ、なんだこれ!? こんな格好じゃ彼奴に今日中にチョコを渡せねぇぞ!」
 なんでも街に潜む雑魔を倒さない事には元に戻れないらしい――空から降ってきたTheご都合カンペがそう告げる。
「くっそー! 仕方ねぇ、なら徹底的にヤッてやらぁ!」
 ふんす、とワガママボディをむちんぷりんたゆんさせて息巻くキール。

 正義のケモミミヒロイン、ここに爆誕!

 そして尺が押しているのでと言わんばかりに雑魔達がわらわらっと現れてキールを取り囲んだ。
「ひゅー! ナウいチャンネーじゃねぇか、俺達と遊ばなーい?」
「げっへっへ、こいつぁ上玉だぜ」
「なぁ僕等にも君のチョコ(意味深)頂戴よ〜」
 まぁ総じてよくありそうなやられ役系というかモブ悪役というかそういうふいんきの雑魔達である。なんて不埒な雑魔達なんだー!
「うるせぇ、家に帰ってママからチョコでも貰ってろ! キールちゃんぱんち!」
 ぞぶん(鳩尾を的確に捉えた突き刺さるようなパンチ)
「ぎゃー!」
「キールちゃんぱんち!」
 バゴォ(顎を砕くと同時に脳を揺らす情け容赦なしのパンチ)
「ぐふっ」
「トドメのキールちゃんきーっく!」
 ぼむっ(股間を木っ端微塵にする超えげつない蹴り上げ)
「アッー!」

 哀れ雑魔達は爆発四散!

 因みにぱんちやらきっくやらしている時にとってもパンがチラしていた。何のパン……かって? クロワッサンに決まってんだろ当たり前だろイースト菌投げんぞ。
「よーし、これでアイツの所へ行ける!」
 犬耳と尻尾を嬉しそうにはたはたさせて、再びキールはるんたったと目的地へ一直線。

 だがしかし!

 ぬるぬるにょろにょろ。キールの行く手を触手型雑魔が阻む!
「薄くて高い本みたいに! 薄くて高い本みたいに! てけりり!」
 等という奇声を発しながら、触手型雑魔はいかがわしい汁をべとべとさせて襲い掛かってくる。
 ああ、このままではキールがえらいこっちゃのテンヤワンヤのあっはんうっふん!
 が、触手は謎のバリアーに阻まれた。キールが纏う、良い子の守護天使クラーリンの加護を受けたオーラである。やったね!
「隙あり! 良い子は真似しないでねぱーんち!」
 ぼぐしゃー。聖なる力で触手型雑魔は粉砕玉砕大喝采!
「これが女子力だ……!」
 キールちゃんマジ強靭無敵!
「さぁ、早くアイツのトコに行かねぇとな! うふふっ」
 もし男の時の姿で最後の部分の台詞を動作付きで喋ったら極刑モンである。それはさておきキールは尻尾をパタパタさせながら軽快に駆け出した。

 だがしかし!

「おうネーチャンどこいくんだい」
「俺たちとイイコトしねぇ?」
 ここへ来て再び不埒極まりないモブ悪漢雑魔達がわらわらと! それはもうわらわらと! 地の果てまで!
「もう! 俺には時間がねぇんだよ! 早くアイツにチョコを渡さないといけないのにっ……」
 絶対にやらねぇから、とチョコ箱を護るようにして、前方を鋭く睨んだキールはスカートと犬尻尾を翻して軽快に地を蹴った。
「全く次から次へと……乙女の恋路を邪魔する奴は、お天道様でも赦さねぇ!!」
 そして相手の横合いから後頭部目掛けて回転ジャンプキック!
「オトメティック延髄斬り!」
 どごぉ!
「マックスラブハート延髄斬り!」
 どごぉ!
「シャイニングハッピー延髄斬り!」
 どごぉ!
 主に延髄斬りで千切っては投げちぎってはなげちぎって鼻毛。
 それでも雑魔達は果てしない。
(これも、恋の試練……なんだな!)
 どかばきぐしゃぼき。ファンシーなエフェクトとポップな技名に反してえげつない喧嘩殺法が炸裂する。でも血とか折れた歯とかアレとかコレとか全部キラキラしてマイルドでメルヘンに描写されてますから! ますから!

 3分後。

 大地一面、雑魔達で死屍累々。生きている者は誰もいなかった――全ての真ん中で息を弾ませるキールを除いては。
「はぁっ……はぁ、――んんっ……」
 キールは妙に艶かしい吐息を零しながら、呼吸を整えて伸びをした。呼吸を整えて伸びをした。ここでまたパンがチラリ。柔らか食パンですが何か?
「サイテー、汗かいちまった」
 火照った身体に上気した頬、汗が浮かんで服がしっとりしている。何がとは言わないがそこはかとない。
「ううっ、お風呂入りたい……」
 説明しよう! 今のキールは身体だけでなく心までオトメティック仕様なのだ。「汗臭くってあの人に嫌われちゃったらどうしよう」と涙目で犬耳&尻尾をへにょらせているほどだ。これが女子力。
「あ! あんな所に都合よく川がある! 良し、さくっと水浴びでもすっか」
 水浴びに都合が良さそうな都合の良い川を見付けたキールは早速服をするする脱ぎ始め――まぁそんなこんなで水浴びしてそういう描写はフトンガフットンダーして健全戦士★キールちゃんは大好きな彼のもとへと更に急いだ。
 だって今日はバレンタイン! 大好きな彼と一緒に甘酸っぱい時を過ごしたいのが乙女というものである。中身30過ぎのおっさんだけどな。

 しかし更なる試練がキールの前に立ち塞がる!

 ずごごごごごご。
 凄まじい地鳴りと共に巨大な魔王的な雑魔が現れた。空は陰り大地は泣き風が唸るラスボス感。
「フハハハハ 世界を征服してやるぞぉぉぉぉ」
「そんな事、絶対にさせねぇ! 俺のハッピーバレンタインの為にも!」
 魔王の禍々しい声にキールは大きく声を張った。
「小生意気な、ならばまずお前から捻り潰してやろう!」
「待ってろや俺の白馬の王子様――すぐ行くからよぉ!!」
「さぁ来い正義のケモミミヒロインみらくるキールよ!」
「行くぜクソ魔王! うおおおおおおおおおおおお――」
 キールは拳を構えて全力で駆け出した。

 果たして恋する野良犬の運命は? 恋の行方は?
 キールの冒険はこれからだ!(ご愛読ありがとうございました!)



「――という夢を見たんだ」
 バレンタイン翌日、キールは死んだ目でそう告げたという。
 つまり全ては夢オチという訳でして。
 ちゃんちゃん。



『了』



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キール・スケルツォ(ka1798)
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ファナティックブラッド
2015年03月12日

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