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『銀の旋風 紫苑の刃 3 』
水嶋・琴美8036

戦いの様子を観戦していた亜麻色の髪の青年は、やれやれと肩を竦め、思い切り脱力して身体に椅子を沈めた。
全くもってなんというか、水嶋と同意見だ、と胸の内でぼやく。

「仲間内でなにやってんだ?同士討ちなんて、無駄以外何物でもないじゃねーの」

頭が痛くなる、とぼやきながら、青年はデスクの隅に置いておいた通信機を手にし、スイッチをオンにした。
ヴィンッと鈍い音がし、ディスプレイに光がともり、サウンドオンリーが表示される。

『どうかしたか?』
「やっかいなことになりました。バカがバカやって、同士討ち。お蔭で特殊部隊が突入です」

通信機から聞こえてくる男の声に青年はゆったりと足を組みながら、どうします、と指示を仰いだ。

受付窓口に踏み込んだ瞬間、琴美は異様な光景に思わず息を飲んだ。
両手をテープで縛り上げられた上に目隠しをされた人質となった行員たちだけで、敵である襲撃犯の姿はなく、ガランと静まり返っていた。
と同時に、シャッターが破られ、漆黒の特殊スーツに防弾・防刃ベストで身を固め、武装した男たち―警察の特殊部隊が突入した。

「警察の」
「ここは我々に任せてもらう」

緊張の極限状態に置かれていた行員たちは順番に特殊部隊の手によって、解放され、外へと連れ出されていく。
脱出した数人の行員たちは、ようやく解放された安心感から泣き出したり、叫び出して、自らに降りかかった恐怖を露わにする。
その間にも襲撃を警戒し、周辺を固めていた隊員たちだったが、姿かたちもあらわさない。

「おかしい……まだ襲撃犯グループは残っているはずなのに、なぜ仕掛けて来ない?」
「ああ、上のフロアに少なくとも20人以上……地下に5〜6人はいるはずだ」
「申し訳ありませんが、隊長に通信をつなげて頂けませんか?」

あれだけの武装をし、琴美と戦闘を繰り広げた精鋭までいたというのに、この静けさは一体なんだ、と首をかしげ、顔を見合わせる二人の隊員に琴美はにこやかな微笑みを浮かべて、右手を差し出した。
彼ら・特殊部隊が突入してくる前後から感じた違和感。
そして、得体のしれない誰かが見られている気配を感じとっていた琴美は、本部を通して情報部につなぎを取ろうとしたのだが、それはすぐには叶わなかった。

突如、乱暴に開け放たれた大金庫の扉。同時に無表情にサブマシンガンを構えた5〜6人の男―襲撃犯たちが琴美たちに向かって、乱射する。
前触れのない攻撃に、目隠しと両手の拘束を解かれた行員たちはたちまちパニックを起こし、助けをこう叫びを上げながら、我先にとシャッターへ殺到する。
襲撃犯たちは一ミリの迷いもなく、逃げる行員たちに向かって銃を容赦なく向けた。
だが、一瞬早く、彼らとの間に飛び込んだ琴美は右手に構えたナイフで銃弾を叩き落とすと、左手で銃を構え、迷うことなくトリガーを2回、3回と立て続けに引く。
続けざまに放たれた重力弾が大きく空気を歪ませ、襲撃犯たちを中心に半径2メートル圏に超重力のドームを作り上げる。
黒い線が見えるほどの圧力に襲撃犯たちは銃を手にしたまま、べしゃりと床に叩き付けられるように潰され、しばらくあがいた後、動かなくなる。
先ほどと変わらぬ、呆気なさに琴美は一瞬、顔をしかめるも、振り向いた次の瞬間には打消し、機敏に指示を出す。

「今のは地下に立てこもっていた襲撃犯たちでしょう。残りは上にいるなら、悠長にしている時間はありませんわ。人質になっていた方々をすぐに避難させてください」
「了解した。しかし、一体何なんだ?連中、何が目的なんだ?」
「大金庫のロック解除はともかく、メインコンピュータへアクセスを許可しろ、なんて意味があるのかよ。人質をほったらかしにしたかと思えば、いきなり乱射してきやがるし」
「目的が分からんというのが気持ち悪いな」

琴美の指示を受け、機敏に動き出し、残っていた人質たちを外へと急ぎ脱出させる隊員たち。その彼らを警護しながら、吐き捨てるようにぼやきだす残りの隊員たち。
胸に渦巻くのは、何とも言えない不気味さと不快感、そして得体のしれない恐怖。
口には決して出さないが、その不安は波紋のように、あっという間に広がっていく。
それを感じ取った琴美は小さく肩を竦め、別の隊員から受け取った通信機に小さな―親指ほどの大きさのアタッチメントマシンを装着させ、特務機動課へとつなげた。

「水嶋隊員?御無事でしたか!」
「ご心配をかけましたわ。それで、さっそくで申し訳ないのですが、情報部につなげて頂けます?頼みたいことがありますの」

数秒の雑音の後、一気にクリアになった通信から聞こえたのは、良く知った同僚の安堵した声。
わずかに罪悪感を覚えるが、すぐさま意識を切り替え、依頼する。
一瞬の空白。
なんとも言い難いものが流れるも、通信の相手もプロだ。即座に意識を切り替え、了解しましたと情報部へとつないでくれた。

「あら、水嶋ぁ〜どったの?あんた、今、銀行襲撃犯グループと大乱闘なんでしょ」

通信機から聞こえてきたのは楽しそうな、場違いなまでに明るい女の声―情報部を取り仕切る管理官だ。
上役とは思えない軽さに、少しだけ脱力しそうになるも、信用できる相手で、琴美は苦笑いして、口を開いた。

「大乱闘、というわけでもないですわよ?少々、おかしい相手なのでやりにくいですが……それよりも、お願いがありますの」
「お願いぃぃぃ?あんたがそんなこと言うなんて、面倒な予感がするんだけどぉ」

もう、いやになっちゃう、とぶつくさ文句を言いながら、がたがた動き出す音が通信機から聞こえてくる。
なんだかんだ言いながらも、彼女もプロねと感心しつつも、今の状況と覚えた違和感を整理しながら、応答を待つ。

「で、どんなお願いなわけ?」
「大したことではないですわ。この辺り一帯で不審な動きをしている者たちがいないか、早急に調べて頂けません?どこかにいるはずなんですけれど」

通信機の向こうで、穏やかだが、有無を言わさぬ琴美に管理官は大きく息を吐き出すと、通信をインカムに切り替えて、専用PCに向き合うと、キーボートを慣れた手つきでタッチする。
ディスプレイに映し出された銀行周辺―半径3キロ圏内の地図。
軽やかなタイプ音が響くと同時に複数の点が表示され、消えていく。そのたびにタイプ音が速くなり、やがて表示された点が3つに絞られたところで、管理官は手を止め、にやりと笑みを浮かべて、琴美につないだ。

「ビンゴ、よ、水嶋。警察とあんた以外に外部と通信しているやつがいたわ。巧妙に周波数と回線を変えていたみたいだけど、この私の前では無意味ね」
「それで、どちらにいらっしゃるのかしら?」

絶対的な自信たっぷりに高笑いしそうな管理官を制し、琴美は話を促す。
信頼できる人物なのだが、時と場合を考えず、己の力を誇示して笑い出すのが悪い癖だ。
そんなことをしている間に、敵に逃げられてしまえば元も子もない。
珍しく焦る琴美の声で我に返ったのか、管理官は悪い、と謝罪を口にし、目標を告げた。

「一つは今、あんたがいるとこの真下―地下警備室よ。少なくとも2人以上はいるわ」
「ありがとうございます。助かりましたわ」
「お礼なら、この事件を解決しなさいな。アンタなら楽勝でしょ?」

軽く仰いますわね、と心の中でつぶやきながら、通信機を警戒している特殊部隊隊員に渡すと、地下へと駆けだす。
潜入前に確認した内部の地図によれば、地下へ向かう階段は1つ―受付窓口フロアから丸見えの通路すぐ横にしかない。
後は6機あるエレベーターのみだが、襲撃犯グループに占拠された現在は全て停止している上に特殊部隊が警戒している。更に付け加えるなら、襲撃された直後、全ての警備員たちを外に追い出したのだ。
下手に警備員を装って、階段を上がってこようものなら、即座に疑われる。
状況は有利。だが、急がなくては、と琴美は長い階段を駆け下りていった。

「脱出ルートFを使う。外と合流して逃げるぞ」

慌ただしく警備室から出ると、青年は警護役の武装した部下3人を従え、慌ただしく階段とは反対方向に廊下を駆けだす。
外からの援護を得た結果、今から5分間のみ業務用エレベーターを稼働させ、追っ手が来る前に飛び乗ることが出来た。
あとは完全に人目がない裏口に仲間たちが乗りつけてくれ、ここからおさらば、と言う寸法だ。
残った部下―いや、実験体たちは遠隔で始末すればお終い。
あとは採取したデータを使って、完全な強化人間を生み出すだけだ。

「全く一時はどうなることかと思ったぜ。けど、あの水嶋琴美を出し抜けたのは、ぎょうこ……」

エレベーターが止まると同時に、部下を従えて、青年が笑いながら開くドアの前に立った瞬間、その表情が驚愕へと変わる。

「お待ちしておりましたわ。こちらの方たちからもお聞きしましたけれど、一つだけ忘れてしまったことがあったんですの」

教えてくださいます、とにこやかにほほ笑む琴美の背後で山積みされた仲間たちの姿。
その中に見慣れた人物の姿がないことに、安堵しながらも、青年はジワリと汗を額ににじませ、後ずさる。
代わって一歩前に出る部下たち。
だが、琴美は彼らを一瞥し、その腹部に拳を叩き込み、一瞬にして地に這わせた。

「予想はしていたが、マジでこえーな」
「教えてくだされば、手荒な真似は致しませんわ。背後にいる『企業』はどこなのか、を」
「っ……この短時間でそこまで掴んでんのかよ」

嫣然とした微笑みでしれっとのたまう琴美を前に、青年は停止したエレベーターの壁に背を預け、そのまま床にへたり込む。
集積したデータを念のため送信しておいて正解だった、と思いつつも、白旗を上げ、降伏するしか道はなかった。

「お察しの通り、俺たちはある企業―製薬会社で組織された実験部隊。今回は開発されたばっかの人体強化薬のデモンストレーション兼テータ収集」
「そうですか……では、詳しくは本部でお聞きしますわ」

はぁ?と怪訝な表情を浮かべる青年の首筋に、素早く琴美は手刀を叩き込んだ。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
東京怪談
2015年03月16日

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