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『■タイトル:【MV】ときめきクッキング♪ 』
浪風 白露ka1025)&鬼塚 雷蔵ka3963

 浪風 白露(ka1025)は一応客として、開店前の小料理屋「鬼塚」の店のカウンターの隅に座って、店長である鬼塚 雷蔵(ka3963)の作ったお通しを突付いていた。
「相変わらずいい味だね」
 まるで悪態をつくかのように、白露は素っ気なく褒める。素直には美味しいと言えない。
「そりゃどうも」
 気分を害した様子もなく、言葉のままを受け取り笑う雷蔵。
「白露は料理はしないのか?」
「できたらしょっちゅうここになんか来ないだろ」
「なるほど」
 白露は無愛想に答えて、滑る里芋を箸で刺し、口元へ運ぶ。
 彼女の姉は料理が上手い。兄は工作が得意だ。しかし、自分には何の取り柄もない。劣等感と引け目を感じてはいたが、料理や工作など、一朝一夕で上達するものではないだろう。持って生まれた才能もある。
「まったく、嫌になるな」
 何を、とは言わずに白露は小さく呟く。
 そんな彼女を妹のように感じていた雷蔵は、つっけんどんながらもどこか放って置けない白露に、こう声を掛けた。
「俺が料理、教えてやろうか?」
「はぁ?」
 白露は驚いて目を見張る。
「私に料理なんかできるわけ……」
「俺だって最初からこんな料理作れたわけじゃない。やってみて楽しさを感じたんだ。まぁ、試しにちょっと一緒にやってみないか?」
 一緒に、と言われて、白露の心は揺れる。雷蔵に対する淡い意識が、喜びと恥ずかしさを呼び起こす。
「……ま、まぁ、やってみるだけ、な」

 そうして雷蔵は、何故かフリフリエプロンを用意して白露に渡し、自分も身に付けた。ガタイが良いのに、妙に似合っていておかしい。
 雷蔵の身体の大きさに合っているエプロンは白露には大きすぎたが、まるで雷蔵に包み込まれているかのような安心感を覚えた。頬が少し赤らむ。雷蔵に気付かれないように白露は少し俯いた。
「まず、これ作ってみるか。今食べてたやつだ」
「里芋の煮っころがし?」
「そうだ。まず、里芋は剥けるか?」
「芋くらい剥けるに決まってるだろ!」
 バカにされたように感じて、白露は早速里芋と包丁を手に取る。リンゴのように剥いていこうとしたが、毛羽立った皮が邪魔をして、その上中からヌルヌルしたデンプン質が出てきて、思うように剥くことができない。
「危ないぞ。それじゃあ怪我をするだろう」
「じゃあピーラー持って来な」
「小料理屋にピーラーなんてない」
 ちぇ、と白露は里芋を置く。すると、雷蔵が二人羽織のように白露の後ろから手を回し、包丁と新しい里芋を取った。
「見てろ」
 ドキドキしながら白露は目の前の手さばきを見る。
「まずは上を切り落とす。それから下を切る。里芋をまな板に立てて、側面を縦に切っていく。六面にするのがいわゆる『六方剥き』だが、別に気にしなくていい」
 ヌメヌメした部分をうまく避けながら皮を剥いていく雷蔵の腕前に、白露は感心する。さすが、一人で小料理屋を営んでいるだけのことはあるのだ。
「どうだ? これならできそうだろう」
 ふ、と背後から雷蔵が消える気配がした。また隣に立つ。今さらながら、白露はドキドキが増す。
 家族以外の異性と触れ合ったことのない白露は、雷蔵の一挙一動が気になった。店長とお客、という関係に過ぎないのに、何故か白露は雷蔵を異性として意識し始めている。
「やってみろよ」
 雷蔵の言葉にハッとして、白露は先程見た手順で里芋を切っていく。思ったより簡単に皮が剥けたが、大きく削ぎ過ぎて、実が小さくなってしまった。
「まぁ、初めはこんなもんだ。良くできた方だろう」
 長身の雷蔵は、ポンポンと白露の頭を撫でる。彼女のことをまるで妹のように思っている雷蔵は、こんなことも簡単にできてしまうのだ。白露は嬉しいような淋しいような気持ちで、鼻の奥がツンとした。
「じゃ、あと十個程剥いてみよう」
「まだ?!」
 ブツブツ言いながら、白露は思ったより器用に里芋を剥いていった。だいぶ形も整ってきたし、最後のいくつかは文句なしに上手にできた。
「じゃあ、ぬめりを洗い流すために、いったん茹でる」
「味付けは?」
「ぬめり取りの後だ」
「面倒だな」
 白露は思ったより料理というものは手がかかっているのだと実感する。すると雷蔵は言った。
「料理は愛情って言うだろう」
 思わず白露はドキリとする。愛情。料理は愛情。雷蔵の愛情は料理。
「手間をかける価値があるから、うまくなれるんだよ」
 それでは、今手間を割いてくれている自分には、愛情を持ってくれているのだろうか?
 聞いてみたい衝動に駆られながらも、白露は何も言い出せなかった。
「よし、じゃあ味付けだ。本来なら俺の感覚で調味料を入れるんだが、今回はちゃんとはかってやろう」
 そう言って彼は計量スプーンを出した。
「まぁ、砂糖、酒、醤油が1:1:1と覚えていれば大丈夫だ。だし汁はうちの秘伝のやつを使う。普通は粉末のだしでいいぞ」
 そう言って小鍋にだし汁を入れる雷蔵。
「よし、さっきの剥いた里芋を入れてくれ」
 ざるにあげておいた里芋を、白露が小鍋に移そうとする。もたもたしている間にステンレス製のざるは熱を帯び──
「熱っ!」
 里芋はこぼれずに済んだが、白露が思わずざるを放り投げた。菜箸で里芋を並べていた雷蔵は、とっさに白露の手を掴み、流水に当てる。
「そのままじっとしてろ」
 冷たい水で軽いやけどを冷やしながら、雷蔵もずっと白露の手を握っている。
 白露は身体が熱くなって、やけどの痛みなどなくなる程だった。
 雷蔵が自分の手を握っている、雷蔵が自分の手を……。
 俯いて動かない白露を見て、雷蔵はハッとした。
「す、すまんっ!」
 慌てて白露の手を離し、雷蔵は弱火に掛けたままの里芋の様子を見に行った。
「水くらい、自分で流せるよな。すまなかった」
「別に、謝らなくていいよ」
 白露もいつになくおしとやかに答える。本当はずっと握っていて欲しかった、なんて口が裂けても言えない。嬉しかったなんて、死んでも言えない。
「もういいか?」
「バカ、十分くらいは冷やさないと駄目だ」
「身体まで冷えるだろ。これくらい大丈夫だ」
 さっきまで火照っていた身体は、指先から冷めていきそうだった。それがもったいなくて、蛇口を捻って水を止める。
「本当か? 女の子が傷作るなよ。俺の不注意だ。すまなかった」
「大丈夫だって。たかだか指のやけどだし、軽いもんだろ」
 それより、と白露は雷蔵の隣に行く。
「いつまで煮込んでるんだ?」
「この煮汁がほとんどなくなるまでだ」
「根気がいるんだな」
「普段は他の事と並行しながらだから、そんなに気にならないがな」
 そうか、一つの料理だけに集中している暇はないのだ。自分はこの一品を作るだけでも、すったもんだしているのに。やはり姉は尊敬に値する。そして雷蔵も。
「ほら、できあがりだ」
「うわぁ、つやつやだね」
 照りが良く、美味しそうにできあがった里芋の煮っころがしを、雷蔵は器用に小鉢に入れていく。
「食べてみろよ」
 言われて白露は箸を刺して口に運ぶ。少し行儀が悪いな、と思いながら。
「……うまっ」
「そうだろう? これは白露が作ったんだぞ?」
 隣で雷蔵も白露の小鉢から一つ、里芋を箸で掴んで食べる。間接……したところはどこもないが、白露はまたドキッとする。無防備な雷蔵に。
「うん、いつもより美味いな」
「私は皮剥いただけで、味付けは全部雷蔵だろ?」
 白露は素直になれずにそう言う。
「言っただろ? 料理は愛情だって。白露が頑張って剥いた里芋だから、美味しくなったんだな」
「な……っ!」
 そういうことをしゃあしゃあと言えてしまうのは、雷蔵がまだ白露の事を『妹』としてしか見ていないからだろうか? それとも、裏の意味があるのだろうか?
「雷蔵、割り箸あるか?」
 突然白露が訊く。ある、と答えた雷蔵は、早速割り箸を出してくれた。
「これなら里芋も掴める」
「なるほど。白露は塗りの箸では掴めなかったんだな」
 クスクスと笑う雷蔵に、「文句あるのか?!」と白露は突っかかる。それもまた、楽しいひとときだった。
「よし、そろそろ店開けるか。白露の作った料理、最初のお客さんのお通しにするからな」
「ええっ?!」
「形のいいやつは置いといた。味はピカイチだから大丈夫だ」
 自分で味付けしといて……と思いつつ、白露は嬉しいようなこそばゆいような、妙な気持ちだった。
 自分と雷蔵の共同料理が、お客さんの口に入る。味はいつも通りだから、誰も気付きはしないだろうが、白露は誇りを持って食べてもらいたかった。
 エプロンを外し、またカウンターの隅に腰掛ける。最初に来るのは、馴染みの会社員だろうか? それとも常連の老人だろうか?
 最初の客を見届けるまで、白露は「鬼塚」にいることにした。お客が来るまでは、準備をする雷蔵を眺めている。
 また雷蔵に料理を教えてもらおうかな、と思う反面、自分で勉強して雷蔵を驚かせたい気持ちも芽生え始めていた。「鬼塚」の店長にではなく、「男」雷蔵に──。



【登場人物一覧】
ka1025/浪風 白露/女性/16歳/人間(リアルブルー)・疾影士(ストライダー)
ka3963/鬼塚 雷蔵/男性/20歳/人間(リアルブルー)・猟撃士(イェーガー)



【ライター通信】
浪風 白露さま。
鬼塚 雷蔵さま。

この度はご依頼ありがとうございます。
桜井直樹です。
甘々ではありませんが……お気に召していただけましたら幸いです。
このたびは素敵なご参加、ありがとうございました。
ご縁がありましたら、またよろしくお願いします。
いつまでも仲良しで♪
MVパーティノベル -
桜井直樹 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年03月19日

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