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『BLOODY〜甘キ殺意〜 』
ロロ・R・ロベリアka3858)&ディードリヒ・D・ディエルマンka3850


●戦争の朝
「よし、これで準備はできたぜ……」
 台所で怪しげな音を立てていたロロ・R・ロベリア(ka3858)は口角を歪めた。
 これで“あのクソ変態”もあの世行きだぜ――と、固まりきっていないドロドロの何かを折れ目だらけの箱に詰める。蓋をした箱を皺くちゃの紙で巻いて、よれよれのリボンを緩く巻きつける。
「完璧じゃんか、俺」
 意味もなく自画自賛するが、それもこれも、全てはあの変態野郎をこの世から消し去るためだ。
「待ってろよ、今殺しに行ってやる……!」
 箱を今にも握りつぶしそうになりながら、ロロは家を飛び出した。

 ◆

 白雪姫は、りんごを一口食べて、若いまま一度は絶命した。
 王子が現れて彼女は生き返ったが、現実ではそんなことはありえない。
 だが、綺麗なまま殺すことはいくらでもできる。
「ああ、ロロ様……」
 恍惚の表情を浮かべ、オーブンの前でそわそわしているディードリヒ・D・ディエルマン(ka3850)は、殺意さえ覚えるほど愛する女性の顔を瞼の裏に見ていた。
 彼女の全てが愛おしい。彼女が自分に向ける罵詈雑言、悪態、敵愾心、憎悪、その刃すら愛さずにはいられないのだ。
 ゆえに、彼は彼女を“保存”したい。
 ゆえに、彼は彼女を殺そうとする。愛の完成形は死であると考えるタイプの人間には、至極当たり前の発想だ。
「できましたね」
 オーブンから取り出したガトーショコラは、実に美味しそうに見える。ただし、一口食べれば白雪姫のごとく、一瞬で命を落とすのだが。
「さぁ、ロロ様に会いに行きましょうか」
 可愛らしくラッピングした箱に過剰な愛を注いだ殺人兵器を入れ、ディードリヒは静かに住処を後にした。


●命がけのチョコレート戦争
 傍目にはばったり出くわした男女にしか見えないだろうが、既に二人は殺気に満ちていた。
 先に駆け出したのはロロだ。
「はっぴぃばれんたいんしねやああああああああああ!!」
 絶叫に近い声を上げたロロがディードリヒに向かって、あの箱を次々と全力で投げつけたのだ。中身は例のドロドロチョコレート、しかも一口で殺せる劇薬入りだ。
「今日も情熱的でいらっしゃいますね、ロロ様。その可憐な唇から漏れる声は、なんと甘美なことでしょうか」
「うるせええええ、このド変態め!!」
「あぁ、ロロ様の罵倒……!」
「こ、の……!」
 手持ちのチョコレート(毒)は既に尽きた――というより、投げた端からディードリヒが受け止めてしまい、壊れ物に触るような手つきで懐に収めている。実に気持ち悪い。
 ロロは道端に積み上げられた木箱を抱え、ディードリヒに向かって放り投げるが、彼は微笑を浮かべたまま、それらは躱していく。
 あっという間に戦争状態へ変わったその一角は、恐怖をなした住民がそっと家から成り行きを見守るほどだ。家や道路は破壊していないが、積み上がった荷物や飾られた植木鉢等が次々とディードリヒの周りで粉砕していく。
「ロロ様。あまり重いものを持ち上げると、その美しい細腕を痛めてしまいます」
「余計なお世話だ、この変態キモ野郎っ!」
 ロロの放った大きな樽を避け、ディードリヒは肩で息をするロロに目を細めた。憎しみだけで動いている彼女の姿は、彼にとって女神に等しい神々しさを放っている。
 そのまま、殺してしまいたいほどに。
「そうだ、私もロロ様にプレゼントがあるのです」
「『も』じゃねぇ!! 誰がお前なんかに……!」
 全て言い終える前に、ディードリヒはロロに綺麗に包装された箱を投げる。顰め面のロロがそれを叩き落とさなかったのは、予想外にそれが可愛いものだったからだろう。
「な、んだ、これ」
「何かは、出会い頭にロロ様がご自分で仰った通りです」
「……」
 つまり何か、チョコレートということか。
 僅かに反応したロロの、本当に微妙な表情の変化をディードリヒは逃さなかった。ぱっと花が咲いたように破顔し、今にも見を捩りそうになる。
「愛おしいロロ様を想い、不眠不休でお作りしました。そう……まさに今のロロ様の表情を見たいがためです。震える唇、見つめる瞳、その全て……!」
「殺すぞ、この変態野郎!」
「ふふふ……その燃える瞳、なんと美しいことでしょう。何時迄も見つめていたいほどです」
 本気で背筋が凍る思いがしたロロである。完全に悦んでいるディードリヒは彼女にとって気持ち悪い害悪でしかないのだが、何も言っても一事が万事、この調子なのだ。
 加えて、ロロは穏やかな人間ではない。むしろディードリヒに関して言えば瞬間湯沸器に等しいレベルで激昂できる。
 ロロが――否、人類が理解できる思考や言動ではないディードリヒに、ロロのイライラは最高潮に達しようとしていた。
「そろそろてめぇを本格的に殺す時がきたみたいだな。今すぐそのふざけた顔面を殴り飛ばしてやる!」
 サッと武器を構えたロロが睨むディードリヒは、相変わらず穏やかな笑みを浮かべたままだ。これではどちらが悪者か分かったものではない。
 全力の一撃を叩き込んでやる――そうロロが意気込み、走りだそうとした時だ。ずい、と彼女の目の前にディードリヒが掌を突き出した。勢いを削がれたロロがつんのめってよろける。
「てめぇ、何しやがる!」
「申し訳ございません。ですが、折角ロロ様から頂いた愛の結晶が溶ける前に帰らなくてはなりません」
「はぁ? 逃がすわけねぇだろっ!」
「名残は尽きませんが、ロロ様……私はいつでもロロ様のお傍におりますから」
 怒髪天を衝く表情になったロロが武器を振り回す。それらを軽やかにくぐりながら、ディードリヒは終始笑みを浮かべたまま、ロロに背を向け、スキップをせんばかりに歩き出した。
「この……っ!」
 どれだけ攻撃しても当たることはない。それが余計に憎らしい。
 唇を噛み締めながら、ロロは地獄から響くような声で叫んだ。
「死ね!! いつかぜってぇぶっ殺してやるー!!」
 その言葉が、またディードリヒを悦ばせてしまうにも関わらず。


●甘イ殺意ノ果テ
 乱暴にドアを開けたロロは、手にしたディードリヒからのプレゼントを机に放り投げた。椅子にドカッと座り、足を組んで眉間を寄せる。
「あの変態野郎……!」
 心に残るのは、終始悦びと余裕に満ちた柔らかな笑み、気持ち悪い理解不能の言葉、そしてディードリヒへの果てしない憎悪と殺意。
「こんなもの、食べるわけねぇだろ」
 街に捨てると犠牲者が出るかもしれないので、律儀に持ち帰ったプレゼントを指で弾いたロロは息を吐いた。
 絶対あの変態のことだ、食べた瞬間に死ぬ。
「まぁ、俺も同じ戦法だけどな」
 ニッと笑ったロロは、直後に同じ発想をしてしまったことに頭を抱えた。
「さっさと俺のチョコを食って死にやがれ、腐れ変態野郎!」

 ◆

 静かに扉を開けたディードリヒは、たんまり抱えたロロからのプレゼントを机に静かに置いた。傷がつかないように、下に布を敷くという徹底ぶりだ。
 椅子に座ることなく床に膝をついた彼は眉根を下げる。
「あぁ、ロロ様……」
 壁一面に飾られたロロの写真とプレゼントを見比べ、ディードリヒはうっとりと呟いた。あの憎しみと焦りに満ちる強張った顔、尽くされた罵倒、そしてロロへの果てしない愛情と殺意。
「食べてしまいたいのはやまやまですが……」
 ロロはこれを食べることを望んだだろうが、折角のプレゼントだ。自身の胃の中に落とすにはもったいない。
 棚から真空パックを出したディードリヒは、丁寧にプレゼントを入れていく。ロロ様専用棚のコレクションがまた増えたわけだ。そろそろ増設を検討しても良さそうである。
「溶けなくて良かったですね」
 しみじみと言ったディードリヒはロロに浴びせられた言葉を思い出し、両腕を抱えて目を閉じる。
「ロロ様、来年も……楽しみにしております」


 End.


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3858  / ロロ・R・ロベリア / 女 / 16 / 人間(クリムゾンウェスト) / 闘狩人(エンフォーサー)】
【ka3850 / ディードリヒ・D・ディエルマン / 男 / 25 / エルフ / 疾影士(ストライダー)】
MVパーティノベル -
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ファナティックブラッド
2015年03月19日

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