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『水清く揺蕩う、通う夢路 』
奥戸 通jb3571)&百々 清世ja3082

 つまり、そう。夏だからだ。全ては夏のせいであり、天気がいいせいだ。
 ……別に、大好きな彼氏が「おそろで買った水着でねー」なんて、言ってきたせいじゃない。断じてない。
 ぶつぶつ。耳を朱に染めながら、鮮やかな髪を揺らした奥戸通(jb3571)は、ああでもないこうでもない、とロッカーに備え付けられた小さな鏡と睨めっこしつつ苦悩していた。
 切っ掛けは、まぁ。間違いなく「お揃いで購入した水着」で。海ではなくプールにしよう、と彼氏が提案してくれた理由はきっと、通が未だ泳ぎを不得意としているのを知っているからだろう。
(ほんと、こういう気遣い上手ですよね……)
 だからこそ、彼女として彼が喜ぶ最大限の努力をしたい。お互いに、多分青春する年齢からは少しだけ離れてしまっている。けれど心は何時だって初々しいままでいたい。
 可愛いと言われたいし、どうせならもっと好きに―――
「って、うわぁぁぁっ!!」
 何考えてるの私!! なんて、心の中の自分にセルフツッコミ一発。ついさっき、自分で初々しいままで、とか考えたがちょっと待て。これは恥ずかしすぎる。どれくらい恥ずかしいかといえば、今着ているビキニくらい恥ずかしい。
 とはいえ、このままここで悶えていては、外で待っているだろう彼氏に悪い。そしてなにより、周囲の目が痛い。
(えぇい! 女は度胸、そして愛嬌!)
 但し恥ずかしいからパーカーは羽織る。どうせプールの中に入れば、パーカーは脱がざるを得ないけど。それでも気休めにはなる。はずだ。
 颯爽と更衣室の中を歩き、プールサイドに踏み出した通だったが。
「やっぱむり……!」
 早速コソコソと隠れる様に歩く羽目になるのだった。

(通の事だから、また「恥ずかしいー!」ってなかなか出られなかったりしてー?)
 なんてまるで見て来たかの様に推察するのは、更衣室から少し離れた場所で待っていた百々清世(ja3082)だ。コソコソと自分を探す様に歩いて来る通を見て、小さく首を傾げる。
「通、何やってんのー?」
 おいでおいで、と手招きしてやれば、清世を見つけた通がパーカーを翻しつつ駆け寄って来るのが見えた。プールサイドは走ったら危ない。と注意するほどの速さでもないし、まあ大丈夫か。と静観して待つ事暫し。
「ご、ごめんね遅くなりました!」
「んーん。慌てなくても大丈夫なのに」
 ほら、折角可愛くセットした髪がぐしゃぐしゃになっちゃってるし?
 何気ない動作で手を伸ばし、軽く撫でて整えてあげる。
「いっ、いいですよ! どうせ水の中に入ったら崩れちゃいますし」
「いーのいーの。可愛い彼女の髪を整えてあげるのも、彼氏の特権だしねー」
 思わず暴発しそうな恥ずかしいセリフをさらりと笑いながら言えるのが清世だと知ってはいるけれど。それに通が慣れているかと言われればまだ「NO」で。
「じゃ、早速プールに入ろっか。ちゃんと教えてあげるよ」
 顔を赤くして口をパクパクさせた彼女の手をしっかりと引いて、清世は早すぎないスピードでプールへと歩き始めた。
「あっ! 駄目ですよキヨくん! 準備運動しないと!」
「通ってホント、変なとこで真面目だよねー」

 準備運動を終わらせた後、先にプールに身を滑らせたのは清世だ。一度頭まで潜り水を被ってから、ゆっくりと上半身を水面へあげる。
「そこまで深くないし、怖くないよ?」
「や、そうじゃないんですって。入った瞬間沈むんですよ」
 真剣な表情で水面を睨む通と水を交互に見て、清世はひとつ頷いた。そのままゆっくり、プールサイドの通へと手を差し出す。
「? キヨくん?」
「おにーさんの手、掴めば沈まないかなーって」
 だからどうぞ? お姫様。
 まるでそう言わんばかりの清世に、小さく噴き出して通はそっと手を伸ばした。しっかりとその手を取って、ゆっくりゆっくり、息を吐きつつ水へと身を沈める。
「室内プールって言うくらいだから、もっとあったかいのかと思ってた……」
 そこまで低い水温という訳ではないが、それでもやはり外に比べればひやりとしていて、通は軽く身を震わせた。
「それでキヨくん。最初はどうすれば」
 全くの金槌で水に入ればすぐ沈む。そんな通が泳ぎのハウツーを知っているはずもなく。伺うように自分を見つめる彼女を安心させるように笑って、清世はそのまま自分の二つの手で強すぎず弱すぎず、それでもしっかりと通の両手を握った。
「それじゃ、最初は俺が腕掴んでてあげるから、バタ足から始めてみるー?」
 浮き輪やビート板なんてお邪魔虫は必要ない。だって彼女には自分がいるのだから。
「ゆっくり引いてあげるから、諦めずにやってみよーね、通」
「が、がんばります……!」
「あー、ダメダメ。リラックスー。体に力が入ると沈むよ?」
「えっ!?」
(あれ? 逆効果?)






 結果から言うと。
 その日のプール特訓で通は真っ赤になりつつも懸命に練習し。清世に手を引かれながらなら、なんとかバタ足で前進する事が出来るようになった。
「キヨくん本当にありがとうございます!」
 始めこそ水を怖がって体が強張っていた通だったが、清世のリードとアドバイスによって徐々に水に慣れ。ほんの少しだが泳ぐ楽しみ、というやつを知る事が出来たようだ。
「夕ご飯はどうしますか? 何か、食べたいものあります?」
「んー、冷たいものー。あっさり系?」
 プールを終えて私服に着替えた通が提案したのは、彼女の家で「おうちデート」しよう、というものだった。勿論その提案を清世が拒否するわけもなく。夕方過ぎからは、通の家でゆっくりのんびりと二人で過ごす事になった。
 帰り道、手を繋ぎながら買い物をしている時に、ちょっとしたハプニングというか。人懐こいお店の店員さんに「新婚さんですか?」と問いかけられるという状況が発生したのだが。通が真っ赤になってしまったのは言うまでもない話だ。

 通の家のキッチンに立つのは、勿論彼女だ。清世も料理はそつなくこなす、というか上手いが。やはり彼女の手料理は嬉しいので、彼女に任せる事にした。
「作ってる間に、キヨくん先にお風呂入っててください」
「大丈夫−?」
「だ、大丈夫ですよ!」
 ぐいぐい、と清世を風呂場へ押しやって、通は一人キッチンに戻る。腕まくりして、いざ、調理開始だ。本日のレシピは鯛とカラフルな野菜を使ったアクアパッツァ。あさりとしたイタリアンで攻めてみる事にしたのだが。
「大丈夫ですよレシピ確認しましたから」
 気合十分。ぐっと握りこぶしひとつ握った通だが、実は問題はそこではない。レシピではないのだ。問題は―――。

 ―――ドガンッ!!
『ぎゃー!』
「あー……」
 風呂の中にまで響き渡る爆発音に、清世は小さく苦笑を漏らした。まぁ、予想はしていた。彼女が気合を入れて料理を作ると、こう。

 何かが爆発する。何故爆発するのかは清世にも通にも分からない。ただ爆発する。

 爆発音から間もなく。風呂場に力ないノックが響いた。すりガラスの向こうに見える人影は、間違いなく項垂れているだろう。
「キヨくんごめんなさい。また……爆発しちゃいました……」
 お詫びにという訳じゃないけど、背中を流しに来ました。と姿を見せた通に、清世は笑いつつ手招きをひとつ。
「怪我はないー? 何作ってたの?」
「私は大丈夫だけど、アクアパッツァが重体です」
「後で一緒に片付けよーね」
 バスタブの傍に屈んだ通の頭をぽんぽん撫でて、清世は俯いた通を励ますべく言葉を紡ぐ。
「それじゃ折角だし、一緒に入るー?」
「折角って!? 入りませんよっ……って脱がさないでー!」
 料理の失敗を吹き飛ばす発言に、思わず声を上げて脱兎の勢いで風呂場から逃げ出す通の後姿を確認して。
「ねー。俺の彼女、可愛いよねー」
 楽しげに眼を細めつつ、清世もゆっくり風呂からあがるのだった。





 爆発してしまった料理は幸い、まだ材料が残っていたので清世と二人で作り直し無事完成。
 のんびりと会話に花を咲かせつつ食事を済ませ、少し遅い時間まで二人で映画鑑賞。ベタだけど感動出来るラブストーリーを二人で観終えた頃には、お互いに程よい眠気が訪れていた。
「キヨくん、映画終わりましたよ。ベッドで寝ましょう」
 自分の膝を枕代わりにして気持ちよさそうに微睡む清世をそっと揺り起こし、通はかみ殺しきれなかった欠伸をひとつ漏らす。
「んー。じゃ、一緒にねよー?」
 二人で寝るにはちょっと狭いかもしれないベッドも、くっつけば広さなど気にならないもので。
 膝枕のお礼にと今度は清世が通に腕枕を提供する。
 自分の頭の下に差し入れられた大切な人の温かい腕に微笑みつつ、通はぎゅっと清世に抱きついた。
 優しい微睡みの中、差し入れられたのとは逆の手で、そっと髪を梳かれる。
「キヨく……あのね……今日はほんとにありが……」
 言葉の終りは、そっと夢に飲み込まれて。穏やかな寝息を立てる彼女の額に、そっと唇を寄せた後。
「おやすみー」
 清世もゆっくりと、目を閉じるのだった。

 二人の夢路を邪魔せぬよう、そっと静かに、夜は、更けていく―――。




END

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

奥戸 通(jb3571)  / 女 / 21歳 / 泳げない人魚姫
百々 清世(ja3082) / 男 / 23歳 / 姫を助ける王子

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は、当方の都合により長期に渡る未納となりました事、深くお詫び申し上げます。また、暖かいお言葉とお心遣い誠に有難う御座いました。
「大人の可愛らしい恋愛」を目指して執筆致しましたが、如何でしたでしょうか。
重ねてお詫びと、そしてご発注誠に有難う御座いました。
アクアPCパーティノベル -
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エリュシオン
2015年03月23日

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