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『エンドレス 』
アンドレアス・ラーセン(ga6523)&空閑 ハバキ(ga5172)&クラウディア・マリウス(ga6559)&不知火真琴(ga7201)


2016/03/28 13:18
Pulawska ave./Warsaw
Polska

『――被害者は少なくとも死者三名、負傷者二十五名にのぼり、当局は、現場より逃走したとされる黒いバンの行方を――』

 事件を告げるラジオを、アスは助手席で黙って聞いている。
 車は規制線を避けるようにして、市内をぐるぐると周回していた。そうしてかれこれ一時間が経つ。
 突然声を掛けられ、こうして連れ回されている事、妙な事件が起きた事で、アスはまた厄介事に巻き込まれたと察して、そしてそれはバレンタインの日に、アスが妙な取材を受ける以前から始まっていたのだろうと気づいて、苛立つ。
 煙草を取り出し、深く吸い込んだ一口を吐き出して、苛立ちを抑えようとするが、松沼がこれ見よがしに窓を開けたように思えて、効果は無かった。
「そろそろ、話してもいいんじゃねぇのか?」
 水を向ける。これで三度目。二回は無視されていたが、今回は反応が帰って来た。
「取材の続きだと言ったろ?」
「ハッ」
 三度目にして、この返事。
「あんたの書いた記事がここまで騒ぎになって、死人まで出た。満足か? この期に及んで何を取材するんだ。降ろしてくれ。気ィ悪い」
 高まっただけの苛立ちを煙草にぶつけようと、灰皿で強引に揉み消す。山になった吸い殻が崩れ落ちた。
「おいおい気をつけてくれ!」
 抗議にアスが返事をせずにいると、松沼は一つ溜息をつく。
「わかった、悪かった。取材と言ったのは嘘だ。あんたに頼み事がある」
 ようやく目的を引き出せそうだと、アスはやや安堵した。彼の苛立ちは少しだけ静まる。
「……命を狙われている。あんたに警護をお願いしたい」
 残っていた苛立ちは何処かへ消えた。面食らった、と表現するのが正しい。
「こんだけ、騒ぎになる原因を作ったんだ、自業自得じゃねェのか」
 言外に「お断り」と匂わせる風に言うが、アスの目論見は外れた。
「ラーセンさん、あんたに拒否権はない、そういう私怨で狙われているんじゃない」
 信号に引っ掛かった車が停まる。松沼が、視線を助手席のアスに向ける。
「あんたもいずれ狙われる。そうなれば、あんたは自分の身を護る。その時一緒に、俺も護ってくれればいい」
 車がまた動き出し、松沼は視線を前に戻す。この男の意図はわからない。わからないが、目的は理解した。あの銃撃事件の前、「ここは危ない」と言っていたのを思い出し、そこに何か裏が隠されているんだろうと、アスは考えた。
「わけを聞かせて貰いたいもんだ、俺も狙われているとか言われて、ハイそうですかって話にもなんねぇだろ」
 再びアスは煙草を取り出す。火を点けて、三口程吹かす間があった。
「どこか、安全な場所を用意してくれ。そこで話す」



2016/03/28 13:56
1F Lobby/Warsaw
Polska

 車を走らせて一時間程。アスの携帯に電話を入れて三度。路肩に車を寄せて、四度目の電話を試みようとした時に、ようやくハバキの携帯は鳴った。
 それはアスからの電話で、二言三言話してすぐに切れ、ハバキは場所を変え、市内のホテルのロビーにいた。
 何かが起こっているが、何が起こっているのかは判然としないまま、アスはホテルの一室を、アスでも松沼の名前でも無くハバキの名前で取るよう依頼し、そこで詳細を話すというので、つまりはそういう事なのだ。
 そういう事とは、ハバキの予想通り何か厄介事に巻き込まれていて、それは思っているより重大で、これからしばらく続きそうだ、という事。
 チェックインを済ませて再びロビーへと降りてきた時、ハバキは見知った顔と目が合った気がした。唐突なので記憶から引っ張り出すまで三秒程を要し、お互いに見つめ合っていたので、向こうも同じように記憶から引っ張り出す作業をしたのだろう。
 慌てて目を逸らす。今このタイミングは拙い。
 なるべく不自然にならないよう引き返そうとするが、「見知った顔」が喜色満面で近づいてくるのを見て、ハバキは観念した。アスの巻き込まれ体質は伝染するとでも云うのか。
「空閑さん!」と手を振るクラウには、さも今気がついたように驚いて見せた。「ご無沙汰してます」と挨拶する真琴には、本当に今気がついた。
「奇遇です! 何してるんですか?」
「いや、ちょっとね」
 いきなり核心にずけりと踏み込むクラウは狙ってやっているのではなく、分が悪いとハバキは思う。
「二人こそ、なんでここに?」
「うちは撮影で、そしたらクラウさんが」
「今度、ここにも事務所置くんで、先月から準備に来てるんです!」
 聞くと、二人はバレンタインの頃から仕事の関係でワルシャワに出入りしていて、お互いそれと知ると数度会って食事などしていたらしい。そして今日、何度目かのお茶に、真琴が部屋を取るホテルにクラウが迎えに来たところ、ハバキが現れた、という事だった。
 だが、これから予定があると知り、ハバキはなんとか遣り過ごす光明が見えた気がした。
「クラウもことちゃも、また連絡するよ、今度は時間ある時に――」
 他愛も無い会話を、お決まりの文句で切り上げようとした時、ハバキの携帯が鳴った。
 ポケットから取り出した携帯に、アスの名前があって、釣られて何となしに見てしまったクラウの笑顔がぱあっと明るさを増す。
「出ていいですよ?」
 真琴が促す。「後で掛けなおす」と云う前に機先を制され、ハバキは今日二度目の観念をして、通話ボタンを押す。
 通話は、要件だけ伝えてすぐに終わった。
 短い会話だが、彼女らに不穏な空気を感じさせるには充分すぎた。おまけにハバキの見るところ、この二人は特にそういった機微に敏い。
「アスお兄ちゃん、何かあったんです……?」
 クラウの顔は、さっきまでの笑顔をどこかに置き忘れて、不安一色になっている。
 誤魔化して切り抜けることは叶わなかった。
 説明しようにも、ハバキも事態を把握出来ておらず要領を得ない話にしかならないだろう。強情な所があるクラウは納得できず不安も募るだろうが、アスお兄ちゃんのピンチなら、黙っていても着いてくるだろう。けれどきっと、今ここでは、縋るようにハバキと真琴を交互に見るのだ。そうすると、真琴にも力を貸してくれとお願いする他無くなる。
 それは多分、アスにとって本意ではないのだ。



2016/03/28 15:12
Vauxhall bridge/London
England

 松沼の話は、俄かには信じがたいものであったが、事実は往々にして信じがたいものである。
 アスには、松沼の話を補強するに足る人物への伝手が、一つだけあった。
 ヴォクソール橋を渡る最中に鳴った携帯は、懐かしい名前を表示していて、エドワードは出てしまってから後悔した。懐かしい知人の久々の連絡が、良い話であった例は少ない。
「珍しい名前だと思ったら、君か、ラーセン。何か、問題でも発生したかね?」
『あんたに聞きたい事があってな。……松沼修一って名前、聞いたことあるか?』
「……相変わらず、人から都合良く情報が引き出せると信じてるな君は」
 エドは歩みを止め、川面へ視線を移した。長い話になりそうだ。
『わかった、質問を変える。死の商人に成り下がったどっかのメガコーポが、能力者嗾けて戦争始めようとしてるって話は? あんたとか、デルタで掴んだりしてねぇか』
「ふむ……デルタはもう無いよ、ラーセン」
『はぁ? 何言って――』
 判り易く狼狽する。エドの会話の「癖」に乗る癖に、時折素に戻るアスの性質は、彼にとって好ましい。
「あれは宇宙人と戦争するための組織だ。敵が変われば組織も変わる、それだけの事だ」
『敵って……』
「さっき自分で言ったろう? 良からぬ事を企てるメガコーポか? そういった話は幾らでもある」
 電話口で「マジかよ、そういう事か……」と呟くアスの声が聞き取れる。あからさまに落胆している様子だが、この会話で察する事が出来るのが、エドがアスを好ましく思う一端であった。
『あんたは今、何してんだ?』
「私か? 私はヴォクソール橋のたもとで、信用調査会社勤めだよ」
 嘘は言っていない。が、アスは「そうか」と呟いたきりだったので、ヴォクソール橋とわざわざ言い添えた意味に気付いてはいない様子だった。
「ラーセン」
 電話口の無言に、聞いて良いものかどうか生じた迷いを感じ取ったエドは、水を向ける。彼らしくはない行動だろうが、懐かしさからではない。アスが掛った釣り針は、間違いなく妙な所に繋がっている。
「君が今どこにいるか知らんが、君の携帯が使っている基地局に、今すぐ急に、盗聴防止のスクランブルは掛けられない。それを理解したら、話してみるといい」
 アスは、いきさつを話し始めた。バレンタインの日に受けた取材、松沼の書いた記事、そして今日のデモ隊銃撃。
『それで、命を狙われているから匿え、と言ってる』
「ふむ……ならラーセン、その松沼を置いて今すぐ逃げろ」
『見捨てろってのか?』
「忠告だが、ターゲットの顔を確認してからやるのはイギリスだけだ。アメリカは確認するが火薬と弾が多すぎる、ロシアは確認せず建物ごとやる」
『あんたにしちゃ、面白い冗談だ。だが、俺も狙われると奴は言ってる』
「何故、君も狙われる必要がある?」
『生贄、だとよ。能力者差別騒ぎを起こした所に、記事を書いた松沼と、取材受けた俺と、誰が殺したか好きなように偽装すれば、起爆スイッチの完成って訳だ』
「ふむ……」
 相変わらず、妙な釣り針を引っ掛けてくるアスは、幾つかエドが掴んでいない情報を持っていた。松沼はエージェントが今も追跡しているが、「良からぬ計画」は初耳だ。
『しかし、あんな記事一つで戦争になるもんなのかよ、どうなってんだ』
「人が実際に能力者をどう思っているか、は重要ではないんだよ。それが原因で銃撃事件が起こるほど不穏な空気になっている、と人々に認識させるのが目的だ」
『なるほどな。その方が、大義名分が立てやすいってか。……どうかしてンぜ、まったく』
 アスの悪態には反応せず、エドは言葉を続ける。
「ラーセン、二つ、伝える事がある。一つは、松沼の情報の確度だ。生贄にするつもりの奴に計画の全貌を教えておく間抜けはいない。まだ裏があると見ていい」
『だろうと、思ったよ』
「もう一つ、君の近くに、我々のエージェントが居る。必ず、君らの助けになる男だ」



2016/03/28 20:38
1F Lobby/Warsaw
Polska

「不知火さん?」
 背中から声を掛けられ振り向くと、スーツ姿の男が立っていた。
「ウッドラムです、どうも」
「不知火真琴です」
 にこやかに差し出された右手を握り返して、真琴は納得した。所謂ビジネスマンの手ではない。
「どこかでお会いしましたか?」
「テレビに出る事もあるので」
「なるほど」
 それでこの話題は終わって、初対面では大概この話を広げようと根掘り葉掘りされていた真琴には意外だった。
「じゃあ、自己紹介も済ませたし、堅苦しいのはここまでにしよう」
 そう言って笑うと、男はすたすたと歩き出す。真琴はその後を追って、昇りのエレベーターを呼んだ。ややあって扉は開き、二人が乗り込む。
 真琴はちらりと男を見た。大きめのビジネスバッグを肩に提げ、ネクタイはしていない。上背と肩幅は、なるほどエージェントと言われて納得出来る。雰囲気は傭兵に近いが、少し異質。
「あの」
 エレベーターが動き始めて、真琴は声を掛けた。状況を知らせる必要がある、と考えたが、男に遮られた。
「ラーセンに空閑は知ってる名前だ。君は彼らの友人か?」
「ラストホープで知り合って、だいぶ経ちます」
「そうか」
 話題が妙な方向へ進んで、真琴は状況を告げる機を逸したが、知ってか知らずか、男が続ける。
「今日まで何があったかは知っているよ。エドの野郎に聞いたし、見ていたしね」
 そう言って、何が楽しいのか男は笑って見せた。「見ていた」という辺りに、戦争は終わっても火種は消えていないと実感してしまう。ふと、家族の顔がよぎる。
「ウッドラムさんは」
「ウッディでいい」
「ではウッディさん、何か知っているんですか? その、アスさんの」
「古い友人ってとこだ、ラーセンは。相変わらずなんだろうな、まぁこっちも、あちこち飛び回っちゃいるがやってる事は一緒だ」
 聞こうとした事と、少し違った答えが帰ってくる。表情に落胆が出たのかも知れない。男は顔を見て、それと察したようだ。
「すまん。松沼は我々が追っていた。フリーライターの癖に、妙な所と接触している。目的が何かは掴めなかったが」
「妙な所?」
「プチロフ」
「それは――」
 真琴が何か言葉を継ごうとした時、地響きがして、エレベーターががくりと止まり、照明が落ちた。
 すぐに照明は灯り、それからエレベーターが再び動き出す。
「まずいな、予想より早い」
 呟いて、男がビジネスバッグを開ける。書類の類では無く、小銃が器用に納められていた。
 また家族の顔がよぎり、真琴は実感をより深める。
 戦争は終わっておらず、それに巻き込まれている事を。



8F Room813/20:44

 地響きは、八階の部屋でも感じられた。照明が一度点滅する。
 何が起きたのか、ハバキが窓から覗き込むと、丁度エントランスを囲むように数台のワンボックスが停まり、わらわらと降りてくる人影を見た。アスと一度目配せをする。おろおろするクラウの視線が、二人の間を泳いだ。
「くそっ、もう来たのかよ」
 声を荒げる松沼を無視して、アスはジャケットの下の銃を引き抜く。小型のPDWにSESを搭載したモデルは、戦後手に入れたもの。人に照準を向けた事はあるが、人にトリガーを引いた事はまだない。
 ハバキも拳銃を腰から取り出し、クラウはと言えば、状況を察して、覚悟を決めたようであった。だが、松沼は慌てた様子で、自分の荷物を纏めている。
「俺は先に逃げるから、裏口から」
「待てって」
 アスが立ち上がった松沼の肩を掴み、引き留める。
「一人じゃ無理だ」
「じゃあ、あんたらが囮にでもなってくれ」
 落ち着かせようとするアスより先に、ハバキが反応した。友人達の命を、自分の都合だけに利用するようで、カッとなる。胸倉を掴もうと、思わず手が伸びた所で、部屋の扉が開いた。
「落ち着いて、外まで聞こえます」
 真琴の声。彼女に続いて、ウッドラムが現れる。
「出会って早々で悪いが、話してる暇はない。それに、囮案もちゃんとやれば悪くない」
 伸ばしかけたハバキの手が、空を切った。



5F Elevator/20:47

 カウントダウンしていく階数表示を、クラウは見ている。
 この場から逃れられない覚悟はしたが、まだ呑み込めてはいない。戦争は、終わったのではなかったか。終わったから、復興を仕事にしていたのではなかったか。
 表示が四階を指して、クラウは雑念を振り払うように覚醒した。一階のエレベーターホールで動く気配を幾つか感じる。
 三階。ハバキが銃を目の高さに構え、ドアの正面から一歩離れた。クラウは射線を遮らないように、ドアの前に立つ。
 二階。一度深呼吸をした。
 一階。ドアが開く。黒づくめのバラクラバと目が合った。何も武器になるものを持っていないのに気付いたが、それより早くクラウの脚が動いていた。バラクラバを突き飛ばすように、両手を揃える。背後でハバキの銃声がした。クラウは向かいの壁まで、バラクラバと共に倒れこむように突き飛ばした。鈍い音がして、バラクラバは動かなくなる。
 クラウは立ち上がろうとして、ハバキのとは違う銃声もしている事に気がついて止めた。そして壁際からそっと目だけ覗かせて、さっき見たバラクラバと同じ顔を数え始めた。



8F Room813/20:48

 ウッドラムが、松沼を連れて出るのを見送って、アスは部屋の扉を閉めた。「手間を掛けさせろ」とは、今しがた出て行った元デルタ士官殿に教わった。扉を開ける手間。
 銃を肩に構え、扉を狙う。やがて、扉の向こうに幾つか気配があって、ゆっくりとノブが回る。口が渇いて、舌で唇を濡らす。
 時間を掛けてノブが回りきると、対照的な早さで扉が開く。黒づくめと目が合って、アスの人差し指が一番最初に反応した。
 衝撃が肩から抜けて、男がぐらりと崩れる。もう一人、奥に立つ男にトリガーを引いた時、小さな円筒が投げ入れられるのを見て、考えるより先に、部屋を出ようと駆け出していた。
 ドアを出てすぐ、もう二人待機していたのと鉢合わせする。丁度炸裂したフラッシュバンの光を半身に受けながら、アスは銃床で一人の顎を蹴り上げた。直後、もう一人の放った銃弾がアスの左腕を襲う。そいつに不殺を配慮する余裕は無く、トリガーを引いた。
 やがて光は収まる。アス以外、動くモノは見当たらない。男らが着込んでいた、警察の文字の入った黒いベストを、アスは見下ろす。
「終わったんじゃ、ねぇんかよ」
 硝煙と血の匂いが、三年前の記憶から呼び起こされる。



8F Hallway/20:49

 防火扉の向こうを昇ってくる幾つかの足音を確認して、真琴は廊下の陰に身を潜めた。
 息を殺す。扉が開く音がして、足音が聞こえると、真琴は立ち上がり、右手で廊下の角を掴むと、跳んだ。
 掴んだ右腕で遠心力を作り、そのまま両足を揃え、先頭の男を蹴りつけた。苦し紛れに放たれた銃弾が掠める。
 倒れた男のすぐ脇に飛び降り、真琴はすぐさま二人目の懐に飛び込んだ。銃を持つ右腕を抱え込むと、さらに後続の二人から発砲音があって、すぐ止んだ。
 味方を撃って狼狽したのか、防火扉の奥へ男達は一度戻る。
 真琴は、図らずも盾にした腕の中の男の、胸に提げられたグレネードからピンだけ抜いて、その体ごと防火扉の向こうへ押しやった。
 すぐさま、そこから離れる。
 降りかかる火の粉は、払わねばならない。真琴には、帰らなければならない場所がある。



1F Entrance/20:51

 ハバキはクラウと、エントランスの植え込みの陰に居た。まだ銃声は散発的に聞こえる。他の四人が逃げる隙を作るため、わざわざ正面突破を仕掛けたハバキとしては、上出来であった。
 自分達も脱出するため、ハバキはエントランスをぐるっと見回して、男共が乗ってきたワンボックスに目を付けた。お誂え向きに、エンジンが掛っている。
 クラウを見る。彼女が口を結んで一度頷いたのを見て、ハバキはワンボックスへと走った。
 耳元で銃弾の風切り音がする。振り返ると、クラウはしっかり着いてきている。
 そのまま、運転席へ飛び込んだ。クラウも助手席に乗り込み、弾を避けて丸くなった。
 アクセルを踏み込む。タイヤから白煙が上がり、横滑りしながら動き出した。カンカンと、弾が車体を穿つ音が断続的に続く。
 エントランスを抜ける時に、後部座席側の窓が割れた。そのまま通りに出て、たまたま走っていたコンパクトカーと軽く接触する。しかし、アクセルは緩めない。
 銃声は止んだ。ハバキの携帯が、短く鳴ってすぐ切れた。アスから、脱出成功の合図。
 その音を聞きつけたクラウが、もそもそとシートに座りなおす。ちらりと窺うと、まだ口は一文字に結んだままだが、眉尻が下がり、目に涙を湛えている。
「き、緊張した……」
 そう呟くと、クラウの目から涙が零れ、すぐに嗚咽に変わった。
 終わったはずの戦争に巻き込まれた感情を、どう処理していいか分らないんだろう、とハバキは思い、クラウの頭に伸ばしかけた右手を引っ込めた。
 ハバキも、まだ掛けるべき言葉を見つけていない。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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 CONCERNED LIST(CLASSIFIED)
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 NAME          SEX  AGE ID   JOB
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 アンドレアス・ラーセン MALE  28 ga6523 エレクトロリンカー
 空閑 ハバキ      MALE  25 ga5172 ハーモナー
 クラウディア・マリウス FEMALE 17 ga6559 エレクトロリンカー
 不知火真琴       FEMALE 24 ga7201 グラップラー
 松沼修一        MALE  -- NPC--- フリーライター
 トレバー・エドワード  MALE  -- NPC--- 情報分析官
 マーティン・ウッドラム MALE  -- NPC--- 現地工作員
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MVパーティノベル -
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2015年03月25日

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