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『Dearest 』
常木 黎ja0718


 同じような軌跡を描いて、時には揺らぐこともあって、それでも進み続ける二重らせん。
 環として完成するでなく、それでも少しずつ、少しずつ。

 ――あれから、一年。

 どれくらい、進めただろうか?
 歩んでこれただろうか。




「引くよ。絶対引くよ?」
「えー、でもオススメなんだろ」
「……んー、だったらせめて、コッチかなあ」
 レンタルビデオショップにて、常木 黎と筧 鷹政は肩を並べて映画のセレクト中。
 きっかけは他愛ない雑談で、黎が好んで観るジャンルが鷹政には未開の地であったこと。
「しまった」
 あまりキツくないものに着地点を見つけて、黎が三本ほど手にした時、鷹政が唐突に呟く。
「学園の射撃場、使用申請するの忘れてた」
「え、急に何?」
「黎に教わろうと思ってたんだよ、射撃。俺、本職じゃないからどうにも」
「そういえば、フリーランスの場合って訓練とかどうやってるの?」
「施設が無いわけでもないけど……絶対、学園で学べるうちにガッチリ体に叩き込むのが得策。学園生万歳」
 V兵器の開発・各種技術の研究も、国内最先端を行くのが久遠ヶ原だ。
 国家撃退士であればともかく、そういった特殊機関との繋がりから離れた撃退士たちは、その後ろを追う形となる。
「今でもいざって時は銃より刀の方が安心しちまう」
「それは…… なんとなくわかる、かな」
 三つ子の魂、というやつで。
 頷きを返しながら、『いざという時』が決して少なくないのだろうと黎はボンヤリと考えた。
 フリーランス名義の任務へ同行する機会も得るようになっていたが、それは彼の日常のほんの一面なのだろう。
(『撃退士』として仕事をするなら……、でも)
 久遠ヶ原学園が如何に恵まれた環境か語る横顔を見上げ、けれどその環境に身を置いたままでは、きっと追いつけないのだろうとも思えば。
(なんでかな、……遠い、な)
 ヒョイと荷物を奪われて、空いた手を繋いで歩いて、こんなに近くに居るはずなのに。




 黎が初めてこの部屋へ足を踏み入れた時、それはもう緊張していたことを覚えている。
(あの時は、まだ)
 はっきりと、気持ちを言葉に出来ずにいた。タイミングを掴めず、偶然に頼るばかり。
「去年の今頃だっけ、もうちょっと前か」
 同じことを考えていたらしく、鷹政が小さく笑った。
 あれから一年。
 二人の関係に名前が付いた。
 鷹政から黎に対する呼び方が変わった。
 それから。――それから?
 学園での依頼。日々の小さな出来事。
 静かに、ゆっくりと、積み重ねは続いている。
「本当は、一緒に選べたらよかったんだけどさ。サプライズということで」
「? 何?」
 コーヒーを淹れにキッチンへ向かった鷹政が、DVDのセッティングをしている黎へ呼びかける。
「テーブルの上。開けてみて」
「え。あ……」
 使い慣れたローテーブルの上、シンプルなラッピングの小さな箱が一つ。手のひらより少し大きいくらい。
 ずしりと重く、箱にぴったりと収まっている感触。
(陶器?)
「どう? まー、その、ペアカップとはいきませんが。この家で、黎専用」
 白地に、モスグリーンのシンプルデザイン系のマグカップ。持ちやすく、両手で包むのに程よいサイズをしていた。
 機能性重視、なんとも『らしい』というか。
「どうにも、おひとりさま仕様の部屋だからなー……。何か足りないモノあったら、そういうの見に行くのも良いかもな」
「……邪魔じゃないの?」
「ないよ? というか、今までが不便だったろ」
 新しいカップへ、良い香りのコーヒーが注がれてゆく。包み込む黎の手のひらが温まる。
「私は別に…… 鷹政さんがクッションになってくれるし」
「あははは。俺で良ければ」
「あっ、えと、その、悪い意味じゃなくて」
「わーかってる」
 頭の後ろをクシャリと撫でて、慌てる黎の額に軽いキスが落とされる。
「〜〜〜〜〜ッ」
「気にし過ぎ、もっと甘えていいのに」
「でも」
(私ばっかりじゃ、ないのかな)
 自分ばかり、甘えている気がして。
 彼に、何も与えられないでいるような気がして。
「頼られるくらいで嬉しいものさ。俺だって、それで甘やかされてるんだから」
「…………」
 そう、なんだろうか?
 コーヒーや菓子類の準備を終えたところで、鷹政がソファへ座る。膝を叩く。
「おいで」
 屈託のない笑顔を浮かべられれば、黎には抗いようがない。
 猫の気配で歩み寄り、そっと定位置に収まる。存在を確認するように、鼻先を胸元に埋めた。
(鷹政さんの匂い)
 心臓の音、体温、それらが酷く、安心させる。
 上手く言葉が出てこなくて、体をすり寄せるしかできない。
 会えなかった時間の分だけ、満たすように。少しでも、距離を縮めるように。
「黎」
 耳元で、低音の声が甘く響く。
 無骨な指先が彼女の髪を梳き、肩に触れ、降りてきて抱きしめる。
(熱い)
 触れて、重なるところが焼けるみたいに熱い。
(離れたく、ない)
 吐息を漏らし、目を伏せて、黎は彼の腕の中でしがみつく。
 流れてしまう時間を繋ぎとめるように。胸の中の不安をかき消すように。




 ストーリーラインはシンプルだから、画像と音響の迫力を楽しむことがメインの作品。
 生々しさよりは感覚重視なので、比較的誰でも楽しめる、はず。
 そう思って選んだ映画は、幸い鷹政の好みにも合致したようだ。
 興味深げにクルクルと変わる表情を眺め、黎は安堵する。
「……ボンヤリ食べてるから」
 コンビニで買ってきたロールケーキ、クリームが口の端についている。
 くい、と上体を伸ばして、黎は舌で舐め取った。
「隙だらけ」
 不意打ちを受けて、真っ赤になる彼が年上だというのに可愛らしいなどと。
「へー?」
 鷹政は意地の悪い笑顔を浮かべ、彼女の腰に回していた腕に力を込める。
「……っ」
 泣きたくなるくらいに、それは甘かった。


「……本当は、外の方が良かったりする?」
「え。何が?」
「鷹政さん、行動的じゃない? その、……縛りつけてないかなぁとか 思ったり」
 すっかり冷めてしまったコーヒーを、二人で飲みながら。
「俺にもね、意思があってね? 嫌なら嫌って、ちゃんと言うから大丈夫」
 気にし過ぎだと、鷹政は笑う。先も言われたことだった。
「今は、こうしてるのが俺は幸せ。黎は違う?」
「鷹政さんと、一緒に居られれば……それで」
「凄い殺し文句だって、知ってて言ってる……?」




 出会ってから、数年。
 意識し始めて、気持ちを伝えて、関係に名前がついて、その存在の特別さは日増しに強くなって。

 一方的じゃないんだよ。

 そう言われても、どうしても恋うているのが自分ばかりのような気がして。
(でも)

 今は、こうしてるのが俺は幸せ

 誰よりも大好きな貴方が、そう言ってくれるなら。
 飲み終えたコーヒー、カップの内側文字が彫られていることに最後に気づく。
 コクン、と黎の喉が鳴った。


 ――My Dearest――




【Dearest 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0718/ 常木 黎 / 女 / 25歳 / インフィルトレイター】
【jz0077/ 筧 鷹政 / 男 / 27歳 / 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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少しずつ進んでる感を盛り込みつつの、おうちデートお届けいたします。
楽しんで頂けましたら幸いです。
MVパーティノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年03月26日

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