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『すれ違い未遂 』
ルシフェル=アルトロ(ib6763)&宮鷺 カヅキ(ib4230)


 家を出て間もなく宮鷺 カヅキは尾行者の存在に気付いた。付かず離れずの距離を保つ気配。
 肩越しに姿を確認する。恋人のルシフェル=アルトロだ。物陰に身を隠しているつもりなのだろうが金色の髪が覗いている。
 尾行に気付いた素振りをみせずカヅキは路地を曲がり、体重を感じさせない軽やかな跳躍で屋根へと上がった。そしてシノビとして身に着けた呼吸法で気配を消す。
 程なくして路地にルシフェルが現れた。
「あれぇ……どこに行ったのかな〜?」
 あちこちを覗き込みカヅキを探す姿に申し訳なくも思うが、今行先を知られるわけにはいかない。
 カヅキは気配を消したまま足音を忍ばせその場を去った。

 最近恋人のカヅキの様子がおかしい。話しかけてもどこか上の空だったり、一人台所でごそごそしていたり……ともかく落ち着きがない。しかも頻繁に外出もしている、一人で。
(束縛とか……嫌なんだけど〜……)
 カヅキが話さないと決めたのであれば無理矢理聞き出すような真似も詮索もしたくはない。そんなの格好悪いし、それにほら重たい人って嫌ってよく聞くでしょ、と。
 だが自分の本心は誤魔化せない。隠し事の内容はともかく、彼女が自分に対し隠し事をしているという事実に不安になるのだ。
 思い切って今日、彼女を尾行してみたりもしたが途中で見失ってしまった。いや見失ったというよりは巻かれた気がするのは自分が不安になっているせいだろうか……。
 長屋の路地を大きな溜息と共にとぼとぼ歩く。すると「どうしたのさ?」と声をかけられた。
 井戸端会議中の長屋の奥様達だ。
 正直なところルシフェルは困りきっていた。遊び相手は沢山いる。戯れで「好きだよ〜」なんて言ったこともある。でもこうして一人と真剣に向き合うのは初めてだ。遊び相手ならいかようにでも言葉で取り繕えるが、カヅキ相手ではどうしていいのかわからない……。そもそも遊び相手にここまで心を悩ませたりしない。
 だから同じ女性ならばカヅキの気持ちもわかるかも、とルシフェルは藁にでも縋る思いで輪に加わった。
「……最近カヅキちゃんがおかしい?」
 一緒に大根洗いつつこくりと頷く。
「ひょっとしてうわ……ないわね」
 浮気するくらいならばっさり別れるだろう、という共通見解の下、浮気疑惑は即効却下された。
 そうカヅキは浮気するくらいならば……。するくら……。
「ちょっと、大丈夫」
 慌てて目元を擦る。無いと思っているのに想像だけで泣きそうだ。
「倦怠期じゃない?」
「毎日顔を合わせていればねぇ」
「亭主元気で留守がいいってね」
 頷き合う女達。
「けんたいき?」
 何それ、と首を傾げるルシフェルに「二人でいることに飽きてくることだよ」と教えてくれる。
「……飽きて……え、それって……ちょ、ちょちょっと、お姉さん達そこんとこ詳しく教えて〜!?」
 顔色を変え身を乗り出すルシフェルに「はい」と渡される白菜。それも言われるままに洗う。
 話しかけても反応が薄い、居て当たり前だと思ってしまう……倦怠期の特徴、心当たりがなくもない。
「ど……ぅ、しよ……」
 ルシフェルは血が引く音を聞いた。手にした白菜の葉が千切れる。そこに普段の余裕はまったく無い。

 台所で夕食の片づけをするカヅキの背を見つめるルシフェル。「俺のこと飽きたの?」と聞きたい。だが「あれこれ聞くのは逆効果」との言葉を思い出す。
 ぐっと結ぶ口。だが「聞きたい」気持ちが端でぴくり、ぴくりと痙攣している。
 このままでは余計なことを言ってしまう……。
「俺も手伝うよ〜」
 皿を食器棚にしまおうと手を伸ばした。
「だめっ!」
「え……?」
「えっと、その……そう、お茶、お茶を淹れるので……」
 有無を言わさぬ力で背中を押されて台所から押し出される。
 その視線の先に俺はいるの、と再び向けられた背に心の中で語り掛けた。しくり、と胸が痛んだ。
 夜中、カヅキが寝たのを見計らいルシフェルは寝床を抜け出し隣の部屋へ。文机に用意する便箋と封筒。気持ちを手紙で伝えるという手段も有効らしい。
 だがルシフェルはアル=カマル出身。天儀語を書くのは得意とは言いがたい。
「カヅキへ お元気ですか……いやいや違うって。毎日会ってるでしょ。 ……あ、天儀の伝統に倣って歌とか? ほら、なんだっけ、さんさんななびょうし?」
 結局一行も進まないまま迎える夜明け。更に次に気付いた時は文机に突っ伏している始末。
 肩に掛けられた上着、そして脇に置かれた朝食。
「あぁ、俺のバカ……」
 真白いままの便箋を前にルシフェルは頭を抱える。
 それにしても今日も出かけているらしい。
 膳の上に置かれた「出かけてきます」というカヅキの覚書。
「俺のこと飽きた、のかな〜……」
 言葉にすると胸にずしっと来る。ルシフェルはカヅキの覚書を抱きしめた。

 そして数日後、とうとうルシフェルは長屋から追い出されてしまう。
「夕方まで出掛けてきてください」
「え……ちょ、ま……」
「覗き見、厳禁ですから」
 念押しとともに閉められる戸。
 どうした、どうしたと戸の前で呆然とするルシフェルの周囲に長屋の住人が集まり始めた。

 ルシフェルを追い出したカヅキは襷を締め台所へ向かう。
 小麦粉、砂糖、橙花水……食器棚に隠した袋から次々と取り出す。
 今から作るのはルシフェルの故郷アル=カマルの伝統的な菓子。ルシフェルの好みに合わせ甘さ控えめに。
 二人一緒に暮らすようになって初めてのバレンタイン、その贈り物だ。
 頭の中に作り方は入っているが念のため手順を書いた紙も準備。
 作り方はアル=カマル出身のエルフだという馴染みの医師の夫人に教えてもらった。
 練習もなかなか一人になれない自宅の台所ではなく、医師宅の厨房を借りて重ねた。
 先日、ルシフェルの尾行を容赦なく巻いたのも、この事を知られたくなかったからだ。
 そしてバレンタイン当日の今日、此処で知られては元も子もないとルシフェルに少しだけ強引に外出をお願いした。
 もっとも……。
「一緒にいると、胸の辺りがこう……」
 ふわふわとしてくる、と胸の辺りを押さえる。陽だまりのようなとても優しくて安心する二人の時間。でも同時に、胸が苦しくなったり動悸が早くなったり……落ち着かなくもなる。
「この気持ち、なんといえば……良いのでしょうか」
 心の制御が利かなくなる、でも怖くない。寧ろ温かい……。きっとこんな気持ちでは料理に集中できないだろう。
 心を落ち着かせるため深呼吸を一つ。
「では……」
 カヅキは意識を菓子作りへと集中させる。

 夕方近くのせいか女子供だけではなく、仕事帰りの男達も集まってきた。
 「何か物音がする」と裏から戻ってきた偵察の子供達。
「家出の準備か?」
「えっ?!」
 誰かの声にとルシフェルが慌てて振り返った。
「女は一旦決めると早いからなあ」
「さっさと謝っちまえ」
「何か心当たりはないのかい?」
「え、っと〜……」
 読書中に構って、と邪魔したこと? 皿を割ったこと? 他には、他には……頭どころか視界さえもぐるぐる回り始める。
 上手く考えられない、汗で濡れる掌。
「カヅキに聞いてみる!」
「恩返し中に覗くとお姉ちゃんが鶴になって帰っちゃうよ!」
 ルシフェルの腰に子供達が抱きついた。どうやら子供達は鶴の恩返しのことを言っているらしい。
「へ、鶴? 帰っちゃうって……恩返しなんていらないから帰らないでよ〜!」
 引いた戸は、がしりとはまったつっかえ棒のおかげで小指の先ほども開かない。
「鶴の恩返しってより天岩戸だな……」
 ならば自ら出てきてくれるように仕向ければいいのだ、と大工。住人達が頷いた。
「どうだい、皆で天神様の梅見に行かねぇか」
「いいねぇ、得意の煮物を持っていこうか」
「この前寺子屋で教わったお唄うたうー」
 しかし軍配は長屋住人の喧騒ではなくカヅキの集中力へ。外の音は彼女に届かない。
「俺と話すのも嫌なのか、な……」
 ルシフェルががくりと地に膝をついた。天岩戸は閉じたまま。話を聞くことすらできない。
 戸に伸ばしかけた手を落とす。
「カヅキ……」
 冷たい気持ちが心を覆うと同時に潮が引くようにルシフェルの顔から表情が消えていく。
「俺を……捨てる、の……?」
 喜怒哀楽なにも含んでいない声。真っ白に燃え尽きる寸前、そのときルシフェルの肩に手が置かれる。
「最終手段だ。脱ごう」
 大工の後ろで男達が頷く。
「天宇受賣命の裸踊りで天照大神も外へ出てきたのだ」
 長屋一番知恵者の薬師が眼鏡をくいと上げる。
「カヅキちゃんの話を聞くために脱ごう!」
 そこでどうして脱ごうにつながるのか不明だ。裏から回って声をかける、とかあるはずなのに。ただそのとき誰もがそれしかないと思ったのだ。
「脱ぐ……?」
「そして踊ろう。カヅキちゃんのために!」
 その一言がルシフェルに再び活力を与えた。
「わかった……。カヅキのために」
 首に巻いたマフラーを空高く放り投げ、上着に手をかける。

 ガラッ……

 音を立て戸が開いた。中から出てきたカヅキの頭に落ちるマフラー。

「……?」
 頭に乗ったマフラーを取りながらカヅキが周囲を見渡す。
「カヅキちゃん、まずは話し合ってみないかい?」
「おにーちゃん、反物いらないって」
 状況を飲み込めていないカヅキと心配そうに見つめるルシフェルの視線が重なった。
「俺のこと捨てるの?」
「一体なに、が?」

「けんたい、き?」
 事の次第を聞いたカヅキが瞬きを繰り返す。はあ、と一呼吸。
「何を勝手に勘違いしているんですか」
「えっ?」
 今度はルシフェルが驚く番だ。
「捨てる気ならとっくに捨ててるし……」
 一度家に入り再び戻ってくるカヅキの手に可愛らしく包まれた箱が光る。
「そもそもこんなの作るわけないでしょうが!」
 一喝、長屋に響くカヅキの声。
「それって……」
「ばれんたいんでしょ!」
 寺子屋で教わった、と得意そうな子供の笑顔にカヅキが頬を染め頷く。
「カヅキ〜!」
 小さな箱ごと、満面の笑みでルシフェルがその手を包んだ。
 おおん、と長屋を包む歓声。
「ご迷惑をおかけしました」
 頭を下げるカヅキに「めでたし、めでたし」と長屋の住人は楽しげに笑って三々五々に散っていく。

 部屋に戻り、改めてカヅキはチョコと菓子の包みを手にルシフェルに向き直る。
「今年はアル=カマルのお菓子にも挑戦してみ……っ!」
 包みごと引き寄せられ、ルシフェルの腕に捕らわれるカヅキ。
「……た」
「ルーさん?」
「……すげぇ焦った……」
 腰に回った腕に力が篭る。
「ホントに、ホント〜ぉに良かったぁ。カヅキ居なくならなくて……」
「何度も言ってるでしょう? いなくならないと」
 うん、うん、と頷くルシフェルの手がカヅキの頬に触れた。大きくて温かい、カヅキの大好きな手……。その手が震えている。
「……っ」
 本当に彼は不安だったのだ。
「不安にさせてごめんなさい……」
 自分は此処に居ます、と震える手を握り伝える体温。
「……ずっと傍に居てくれる?」
 上げられた視線に微笑んで頷く。
「もう今夜はこれで寝る……」
 抱き締められたまま畳の上に。
「カヅキ、抱き締めて寝る」
 抱き締めるよりしがみ付くが近い力強さだった。
「どうぞ御随意に……」
 少し拗ねたようなルシフェルの声にカヅキは苦笑を零し手を彼の背に回す。彼の腕の中は力強くて安心する……でも心音が騒がしくなって困る。寝るのに煩くないか……などと少し外れたことをカヅキは考えた。
「カヅキ……」
 首筋を擽るルシフェルの吐息はとても熱い。
「はい」
 小さく応え、その金色の髪に頬を寄せる。
 肌寒い二月の夜。でも二人一緒ならば……。
(温かい……)
 カヅキはそっと目を閉じた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名        / 性別 / 外見年齢 / 職業】
【ib6763  / ルシフェル=アルトロ / 男  / 23歳  / 砂迅騎】
【ib4230  / 宮鷺 カヅキ     / 女  / 21歳  / シノビ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございました。桐崎です。

お二人のバレンタインいかがだったでしょうか?
お互いのこととなると全力を尽くしそうなお二人がとても可愛く素敵に思えます。

イメージ、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。
それでは失礼させて頂きます(礼)。
MVパーティノベル -
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舵天照 -DTS-
2015年03月26日

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