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『チーム・ディテクター 』
フェイト・−8636)&穂積・忍(8730)&I・07(8751)&ディテクター(NPCA002)


 ダイヤル式の黒電話。今の子供たちが見たら何だかわからないだろう、とフェイトは思う。
 部屋の隅では、奇妙な箱が、女性歌手の歌声を流している。手作りの鉱石ラジオである。
 壁際に放置されたテレビは当然、地デジ非対応だ。
 つぎはぎだらけのソファーに腰を下ろしたまま、フェイトは室内を見回した。
「俺……昔ここに来た事あるような気がするんですけど」
「気のせいだ」
 コーヒーをすすりながら、ディテクターが言った。
 古めかしいテーブルに、一皿のお茶菓子と4人分のコーヒーが置かれている。
 淹れてくれたのは、ディテクターの助手であるという1人の少女だった。少なくとも外見は、人間の美少女だ。
 その節は、どうも。そんなふうに彼女に言われて、フェイトは思い出したものだ。
 グランド・キャニオンの神殿型ピラミッドで、ディテクターが『虚無の境界』から救い出した少女。フェイトも、いくらかは手伝う事が出来たのか。
 そして、あの土偶の鎧を着た少女たちの、オリジナルでもある。
 フェイトに丁寧な礼を述べ、一礼し、少女は部屋を出て行った。
 残されたのはディテクターと、3名の客人。うち1人がフェイトである。
 ディテクターが個人的な活動拠点として使用している事務所、であるらしい。
 そこにIO2エージェントが3名、集められた。
 極秘任務を与えられるのだろう。それはそれとして、フェイトは落ち着かなかった。
「俺……ここに来たの、やっぱり初めてじゃないですよ」
「気のせいだ」
 ディテクターは、同じ事しか言わない。
 昔、一介の高校生・工藤勇太であった頃。フェイトは、いや勇太は、1人の探偵と知り合った。
 その探偵が開いていた興信所も、このような感じではなかったか。古めかしい黒電話、鉱石ラジオ。ブラウン管のテレビは、まだ辛うじて番組を映す事が出来た。
 その探偵には、妹がいた。
 先程の少女に、実によく似た妹。フェイトは今更ながら、思い出した。
「ディテクターさん。俺、初めてあんたに会った時から、どうも気になってしょうがない事があるんですよ」
「気のせいだ」
「いや、そんな事はない。あんた草」
「そこまでにしておけ、フェイト」
 言葉を挟んできたのは、穂積忍である。
 コーヒーを、気障ったらしく香りを堪能しつつ味わっている。そうしながら、真面目くさった口調で言う。
「みんな、突っ込みたくてしょうがないのに我慢してるんだ。お前も、そこまでにしておいてやれよ」
「……みんなって、誰」
「お前たちが何を言っているのかわからん。それより本題に入るぞ」
 ディテクターが、一気にコーヒーを飲み干した。
「お前たちには、ドゥームズ・カルトを潰してもらう」
 ドゥームズ・カルト。
 虚無の境界からの分派独立を、どうやらほぼ成功させてしまったらしい新組織の名である。
「そのような重要任務を、IO2司令部ではなく、ここで拝命しなければならない理由を確認したい」
 この場にいるエージェント4名の、紅一点である少女が言った。
 外見は15、6歳の美少女。だが、この世に存在してきた時間は、もっと短い。培養液槽の中から解放されたのは、本当につい最近である。
 顔立ちは、どこかフェイトに似ている。
 緑色の瞳も、フェイトと同じものだ。
 その目が、しかし片方しかない。左目は、黒いアイパッチで覆い隠されている。
 エメラルドグリーンの隻眼が、じっとディテクターに向けられる。
「ここは、言ってみれば貴方の私的空間だろう。つまりこれはIO2の正式な任務ではなく、ディテクター隊長個人からの命令……そう解釈するが、間違いはなかろうな?」
 彼女のコーヒーカップは、とうの昔に空になっていた。お茶菓子も、綺麗に4分の1が平らげられている。相変わらず、飲食が恐ろしく速い。
 イオナ。それが彼女の、エージェントネームであり本名でもある。
「隊長はよせ……まあ確かに、お前の言う通りだ」
 ディテクターは、いくらか苦笑したようである。
「ドゥームズ・カルトは潰さずに存続させ、虚無の境界・本家と派手に抗争を繰り広げてもらう。それで共倒れをしてくれれば良し、最低でも虚無の境界の弱体化くらいは期待出来る……そういう意見が、上層部では根強くてな」
「頷けない意見ではないな。私も、利用出来るものは利用すべきだと思う……あの女を、滅ぼすために」
 復讐。それがイオナの、戦う理由だ。
「では、やめるか?」
 別段、責めるふうでもなく、ディテクターは言った。
「俺の個人的な命令を拒んだところで、ペナルティは何もないぞ」
「私以外の2名は、この正式ならざる任務を受けるつもりでいるのだろう?」
 イオナの隻眼がフェイトに、続いて穂積に、向けられる。
「ならば私も行く。そうすれば両名とも、無きに等しい生還の可能性が……多少は、高くなる。その程度の戦力としては期待されているのだろう? 私は」
「大いに期待している。お前さんの力は、よく知ってるつもりだ」
 言ったのは、ディテクターではなく穂積である。
「俺もフェイトも2人がかりで、あんた1人に殺されかけてるからな」
「……1人ではない。あの時、私たちは7人がかりだった。なのに貴方がた2人を相手に」
 不覚を取った。そして、父と言うべき研究者を死なせる事となった。
 イオナは俯き、微かに唇を噛んでいる。
「私は、父を守ってやれなかった……仇など、討つ資格はないのかも知れない。私が非力であった、というだけの事なのかも知れない。だが、あの女は必ず倒す。それはそれとして、ドゥームズ・カルトという者たちも放置してはおけない」
「いいのか?」
 ディテクターが、確認を取った。
「虚無の境界・本家筋と、共食いをしてくれるかも知れない……結果として、お前の復讐の役に立ってくれるかも知れない連中だぞ」
「その共食いに巻き込まれて、被害を出している所がある」
「……例の、研究施設か」
 フェイトの言葉に、イオナは俯くように頷いた。
「何人ものホムンクルスが、命を落とした……かつて彼らを散々に殺戮した私が、言える事ではないけれど」
 その殺戮はイオナが、フェイトを救出するために行ったものだ。
 あの研究施設とは、そろそろ腐れ縁に近い関係が築かれつつある。
 数日前、あそこがドゥームズ・カルトによる襲撃を受けた際には、防衛のためにIO2からも人員が割かれた。フェイトとイオナが、派遣された。
 イオナの任務は施設正門の防衛戦で、そこでは大勢のホムンクルスが楯代わりに使われていたらしい。
 フェイトに割り当てられたのは、大勢が決した後の残敵掃討である。頼りになる掃除屋がいた事もあり、まあ楽なものではあった。
「他者を巻き込むような戦いを、私は自分の復讐に利用したくない」
「わかった、では改めて命令しよう。エージェントネーム・アシュラ、フェイト、イオナ。以上3名に反社会的組織『ドゥームズ・カルト』殲滅の任務を与える」
「拝命します……って、立って敬礼でもした方がいいのかな」
「要らんだろ。格式張った正式の任務というわけでもなし」
 フェイトの言葉にそう応えてから、穂積はコーヒーを啜った。
「で……この3人で直接の殴り込みを?」
「いや。穂積さん、あんた1人には別行動を取ってもらう」
 ディテクターは言った。
「ドゥームズ・カルトの本拠地は判明している。脱走者から、情報を得る事が出来たのでな」
「あの、人間じゃなくなった財閥御曹司?」
 自分に対してはやたらと尊大な、あの白人青年の事を、フェイトは思い出していた。
 彼は今、とある民間の情報屋に匿われている。
 その情報屋とも、このディテクターという男は、繋がりを持っているらしい。
 ドゥームズ・カルトの本拠地。そのような重要機密を、あの御曹司からどのようにして聞き出したのか、フェイトとしては気にならない事もなかった。脱走して命を狙われているとは言え、彼はドゥームズ・カルトへの忠誠心は失っていない。いや正確には、かの組織が擁立している『実存の神』への忠誠心だ。
「まさか、拷問でもしたんですか?」
「俺は知らん。聞き出してくれたのは、あの情報屋だ」
 駆け出しの情報屋、を名乗る1人の少女。
 また清掃員の格好をして、脅し恐がらせつつ情報を吐かせたのかも知れない。
 そんな事をせずとも、少しおだてれば、訊きもしない事まで饒舌に喋ってくれそうな軽薄さが、あの白人青年には確かにあった。
 何にせよ、ドゥームズ・カルトの本拠地の所在は判明しているようだ。
 とある地名を、ディテクターは口にした。
「そこへの直接攻撃はフェイト、イオナ、お前たち2人に実行してもらう事になる。ドゥームズ・カルトの拠り所である『実存の神』の抹殺排除。それが両名の任務だ」
「ありがたいね。若い連中には荒っぽい仕事、俺みたいなロートルには楽な仕事を割り当ててもらえると」
 ニヤリと笑う穂積を、ディテクターはサングラス越しに軽く睨んだ。
「経験豊富なエージェントに、ふさわしい仕事をしてもらう……この『実存の神』はな、実はまだ完全な状態ではない。完全なものにするためには、とある研究データが必要となる」
「ドゥームズ・カルトは、それを狙って……あの研究施設を、襲撃したと?」
 イオナが言った。
 つまりその研究データとやらは、あの施設の研究員たちが保有している、という事になるのか。
「お前たちの働きのおかげで、その襲撃は失敗に終わった。だがドゥームズ・カルトは、データを狙って何度でも行動を起こすだろう。データそのものを、この世から消してしまう必要がある……穂積さん、それがあんたの仕事だ」
「おいおい、その研究データって奴が本当はどこにあるのか……探すところから、始めろってのかい」
 穂積の文句を無視して、ディテクターはフェイトの方を向いた。
「『実存の神』が完全体に成れば、もはや日本支部のエージェントが束になっても手の施しようがなくなる。そうなる前に仕留めるのが、お前たちの仕事だ。不完全体でも、あれが恐ろしい怪物である事に変わりはない……油断するなよフェイト、イオナ」
「貴方は……その『実存の神』とやらの正体を、実は知っているのではないのか」
 イオナの隻眼が、ディテクターを睨み据える。
「それを私たちに対しては隠蔽しておく、何かしら戦術的な理由があるのか?」
「よせよ、イオナ」
 フェイトは言った。
「正体なんか知ったところで、有効な対応策を立てられるわけでもない……要は俺たちの徹底的な力押しでしか始末出来ない化け物だと、そういう事ですよね? ディテクターさん」
「……そういう事だ」
 ディテクターは、それだけを言った。


 フェイトとイオナは早速、任務に就いた。
「働きもんだな、あいつらは。まったく」
 フェイトが、イオナを車に乗せ、自身も運転席に入る。
 その車が、走り去って行く。
 それを部屋の窓越しに見送りながら、穂積は呟いた。
「最近の若い者は、なんてのはどの時代でも言われてきたんだろうが……今の若い連中ってのは、少なくとも俺たちなんかよりはずっと真面目にやってる。手抜き息抜きを教えてやるのも、俺らの世代の役目なのかねえ」
「する事が見つかりさえすれば、脇目も振らずまっすぐに進む。あの工藤勇太って奴は、昔からそうだった」
 いくらか懐かしむような口調で、ディテクターが言う。
「まあ、そんな事はどうでもいい……穂積さん、あんたなら探すまでもなく知っているはずだ。例の研究データが、本当はどこにあるのか」
「……まあ、な。あの研究施設にあったのは、余り物みたいなデータだけだろう」
 穂積はソファーに身を沈め、天井を仰いだ。
「本物を持っているのは、虚無の境界……本家筋の、女王様だ。随分とフェイトの奴に御執心らしいからな」
「そう、彼女が保有しているデータこそが本物だ。本物だが……不完全だ」
「……そいつは一体、どういう事かな」
 ディテクター。その名の通り、様々な事を探り出すのが、この男の本領である。
「今度は一体、何を探り出したのかな? この探偵さんは」
「彼女が持っているA01のデータには、少しばかり問題がある」
「リミッター、か?」
「……穂積さんなら、知っているかも知れないとは思っていたよ」
「あそこに忍び込んで、研究員に化けていた事もあるんでな」
 幼い工藤勇太を、実験体『A01』として扱っていた研究施設。
 そこを壊滅させたのは当時、穂積が率いていたNINJA部隊である。施設所長を始末したのは、穂積自身だ。
 その所長が、最強の実験体『A01』に施したリミッター。
 それはA01の強大な力を、普段は標準的な能力者のレベルに抑え込んでおくためのものだ。
 封印を、自在に施し、自在に解除する。そしてA01を便利な道具として操り制御する。そのためのリミッターである。
「仮に今、彼女が持っている研究データを『実存の神』に組み込んだ場合……実存の神は、確かに強大な力を得る。リミッターが施された状態の、力をな」
「そのリミッターを、解除する方法は……」
「穂積さんが始末した、あの所長しか知らない。つまり永遠に、闇に葬られた……とは断言出来ない部分があってな」
 ディテクターが、いくらか声を潜めた。
「あの所長の息子が、例の製薬会社に勤務している。そして付属の研究施設に、主任の1人として配属されている。父親から、A01のリミッター解除手段を伝えられている……かどうかは定かではない。穂積さんには、それを確認するところから始めてもらいたい」
「伝えられていたら……消せ、と?」
「どうするかは任せる。とにかくリミッター解除手段が、虚無の境界にもドゥームズ・カルトにも伝わらないよう手を打ってもらう。それが、あんたの任務だ」
 消せ、という事だろう。
「若い連中には任せられない、汚れ仕事……お互い、大変だよな?」
 穂積が、ニヤリと微笑みかける。ディテクターは、何食わぬ顔をした。
「ほう。俺も、汚れ仕事を?」
「うちの上層部で何人か、行方不明者が出てるよな」
「……経費を横領して、温泉旅行にでも行っているんだろう。どうせ、いても役に立たん連中だ」
「温泉じゃなくて、東京湾にでも沈んでいるんじゃないのかい」
 それだけを言って、穂積はソファーから立ち上がった。自分も、そろそろ任務に取りかからなければならない。
「浮気調査や幽霊騒ぎくらいしか仕事の来ない探偵さんに……いつか、戻れるといいな?」
 ディテクターは、聞こえないふりをしたようである。
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
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東京怪談
2015年03月30日

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