▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『Alice In WonderHole 』
エルシー・リデルka3891)&ティアンシェ=ロゼアマネルka3394)&アーク=ゼロ=シュバイツァーka3801)&フォブ=W・アクランドka3890)&シグ・ハンプティka3900)&ドア=アール=メイジーka3901)&ヘイヤ・ノワールka3903)&ハーツ=ランプロカプノスka3923)&ミルク=チェシャ=キャザレルka3936)&シルフィウム=クイーン=ハートka3981


 むかーしむかしの、たった今。
 どこか遠くのすぐそこで、アリスは穴を掘っていた。
 今日は楽しいお茶会だから、おもてなしは穴の底。
「何故かって? そんなの知らないよ」
 お茶会は大きな木の下、穴の底って決まってる。
 ドーナツに穴が開くよりも、ずっと前から決まってる。
 でも地面の穴はドーナツみたいに、当たり前に開いてない。
 だから掘るのだ、せっせと掘るのだ。
 森の外れの真ん中で、アリスは穴を掘り続ける。
 ティースプーンに一日一杯、土を掘り上げどっこらしょ。
 それで三年と三日と三ヶ月。
 掘った土に魔法をかけて、角砂糖がコロンコロン。
 シュガーポットにコロロンロン。
「これで皆が来てもお砂糖には困らないね!」
 準備完了、仕上げは上々。
 後は待つだけお客様。
「お茶とお菓子? それはゲストが用意するものだよね!」
 アリスは穴を用意した。
 落とし穴ではないけれど、落ちて来るより他にない。
 落ちたら二度と出られない。
「そう、ボクが良いって言うまではね!」
 そろそろ皆が来る頃だ。
 三年前の招待状、有効期限はあと三秒!

 3、2、1、どーん!

 落ちて来たのはいつもの顔ぶれ。
 ダイヤにスペード、ハンプティ、時計うさぎにイカレたうさぎ、ネズミに猫に、ハートの従者。
「やあやあようこそ皆!」
 イカレうさぎが飛び跳ねて、深くふかーく頭を下げる。
「元気に首をキリンみたいにながあああくして待ってたかな! 僕はウサギの様に縮こまっていたよ!」
 代わりに耳が、ほらこんなに!
「うわぁ…このメンバーでお茶会とか絶対に無茶苦茶になるよねー」
 チェシャ猫ミルクがにんまり笑う、だけどそんなのいつもの事だ。
 そして最後に女王様、落ち損なってご立腹。
「いったァい!」
 女王様が落ちる時は、誰かが下で支えるものよ?
 まったく気が利かないったら。
「そこにお並びさないな、端から順番に首を刎ねてさしあげますわ!」
 けれど女王様、足の下には卵の殻が。
「あら、貴方いらしたの」
 卵の殻を貼り合わせ、割れた卵が立ち上がる。
 落ちて壊れたハンプティ、堕ちる前から毀れてた。
 けれどその身に染みついた、仮面が落ちる事はない。
「これは、これは、気高くもいと麗しき女王様におかれましては、ご無事にて何よりにございます」
「良いでしょう、貴方に免じてその首はひとまず預けておきますわ」
 雁首揃えた首達は、その胸そっと撫で下ろす。
「でも貴方、ちっとも柔らかくないんですもの。痛かったじゃないの。もう少しお肉をお付けなさいな、私の為に」
 機嫌直した女王様、可愛いアリスにご挨拶。
「お招き頂いて光栄ですわ、私の可愛いアリス」
「ボクもお招き出来て光栄だよ!」
 楽しいお茶会始めよう。


 お湯を沸かして籠に盛り、お菓子はポットで冷めないように。
「ほらほら、スペードも手伝ってよ! ヤマネもそこで寝てないで、テーブルはキミのベッドじゃないよ!」
「あ、俺はアレや、さっき女王様に踏まれてもうてん。そんときアバラがバキッと逝ってもーてな」
「おや、おや、スペード。女王様の踵に蹂躙される栄誉を頂きましたのは、この私」
 サボリ魔のクチが何を言う。
 のらりくらりとスペードは、紙切れの様に避けていた。
『そんなに休みたいのなら、思う存分に休ませてあげましょうか』
 スケッチブックを振りかざし、ダイヤはその背に一撃二撃。
「痛って! おま、今の本気やろ、ちゅーかそのスケブ何で出来とんねん、鉄板か!」
『カドで殴らないだけ有難いでしょう?』
「ああ、あかん。今度こそほんまにアバラ逝ってもーたわ」
「ほうほう、それでは先程のお言葉は嘘偽りであると、自らお認めになると?」
『いつもいつも、そうやってサボってばかり。その尻ぬぐいは誰がすると思っているのですか』
 哀れスペード二面楚歌、けれどイカれたイカす仲間達、誰も助けに入らない。
「アリス、遅刻だ。時間はいくらでもあるが」
 時計うさぎが時計をちらり。
「仔ネズミも、そこで寝ていると身体の上に菓子を盛られてしまうぞ?」
「えー……ボク、食べられちゃうのぉ……?」
 眠りネズミの活け作り、ネコなら喜び飛び付くか?
「やだよ、ナマモノはお腹こわすだろ?」
 ニヤリと笑ったチェシャ猫は、ネズミの身体をつまみ上げ。
「鍋で煮込んでダシを取ろう、きっと美味しいスープになるよ」
 けれど魔女の大釜は、本日開店休業日。
「ボク、食べられるより、食べるほうが良いなぁ……。ケーキも、寝ながら食べられるよぉ……?」
 ネズミは小さく大あくび。
 さあテーブルは片付いた、お茶の用意も出来たかな?

「みんな! 早速だけど、Ohさまゲームを始めるよー!」
 なんでもない日のお祝いに、皆で集まりOhさまゲーム。
「おや、おや、おや、Ohさまゲームとはこれはこれは楽しみでございます」
 ハンプティがぐらぐら揺れる、多分笑っているのかも。
「王様ゲーム、ねぇ……王様は何処に行っちまったんだっけ、パイにでもされたんだったかね?」
 時計うさぎは気怠げに、懐中時計のネジを巻く。
 アリスはそれを取り上げて、反対回しにぐるぐるぐる。
「違う違う、王様じゃなくてOhさまだよホワイト! それにね、パイにされたのは蒼い世界の青い服着たウサギのパパだよ!」
 アリスも青い服だけど、蒼のアリスはウサギじゃない。
 エルフでもない、けれどそんなのどうでもいい。
「アリスは穴に落っこちて、紅い世界でボクになったのさ!」
 にっこり笑顔で差し出す藁は、三月兎の頭の毛。
 ぐいと引っ張りゃウサギが釣れる。
「待ちたまえアリス、それは藁じゃなくて藁のような僕の髪……」
「それじゃ、藁の先に色つけるよー?」
「って、だからアリス、僕の話聞いてる? ねえ?」
「聞いてる聞いてる、だからはい、マーチ。君の髪の毛20本くらい抜いてくれる?」
 抜くのが嫌なら塗っても良いよね、答えは訊いてないけれど。
 釣ったウサギにインクを塗って、ぺたりぺたぺた紙を貼る。
「…インク塗らないで…!?」
 文句を言ってももう遅い。
「はい、ウサギ拓の出来上がり!」
 真っ赤なインクが描き出す、人型ウサギの細い影。
 紙をびりびり引き裂いて、細く捻れば藁になる。
「これに色が付いてたら大当たりだよ!」
「当たりとは何だ、何が貰えるのだ?」
 甘いお菓子か口付けか。
 ハートがかくりと首傾げ、アリスはどーんと胸を張る。
「色のついた藁を引いた人がOh様になって、皆にいじめられるよやったね! ってゲームらしいんだけど」
「なんだ! 楽しいことのようだな!」
 そうそう、楽しい、楽しいよ!
 罰ゲームなんかじゃないんだよ!
『その籤、殆ど全部に色が付いているの、です』
 ダイヤが見せたスケッチブック、言われてみれば確かにそうだ。
 手にした籤の束10本、どれもインクのシミがある。
「だったらみんなでOhさまになれば良いよ!」
『それなら、籤を作る意味は……?』
「ないね!」
 意味がなくても全力で、それがアリスと仲間達。
「寧ろ意味が無いからこそ全力で、と申しましょうか」
 ハンプティがまたまた揺れる。
 落ちる塀はないけれど、倒れて割れたら一大事。
「なに、ご心配には及びませぬ」
 既に砕けておりますれば。
 それより何よりOhさまゲーム。
「とりあえずさ。Ohさまになったら、なにか一芸してもらおうか!」
 いずれ劣らぬ個性派揃い、存在自体がひとつの芸か。
「で、面白くなかったらパイとか紅茶とか投げられるんだって。青の世界はこわいよねー?」
「渋くてたまらぬ紅茶に唐辛子をたっぷり使ったパイの準備をしておりますが故、罰ゲームの中身に関してはお任せくださいませ」
 片手に紅茶、片手にパイを、ハンプティは準備万端。
「パイを投げるなんてとんでもない、代わりにコレをお見舞いしよう」
 時計うさぎは鉄のパイプを引きずって、カララン音を響かせる。
「この音は、少し耳障りかね? 振り回す前には、こうして床に引きずったり柵をカンカン叩いたりして場を盛り上げるのがセオリーだと、蒼の連中に教わったんだが」
「まあ、あちらの世界には素敵な作法がありますのね」
 女王様がコロコロ笑う。
「私も首を刎ねる前にはギリギリと床で刃物を研いで見せようかしら」
 きっと素敵に盛り上がる。
 けれども今は、まずお茶を。

「ってことで。恐怖のOhさまゲーム、開幕……!」
「誰がゲームをしろと言ったかしら? でも良いわ、アリスがそうしたいなら」
 勿論、籤も引いてあげましょう。
「おめでとう、さっそくアタリだね!」
「当たり? いいえ違うわ。これは一点のシミもない、ただの真っ白な紙ですわ?」
 女王様のお言葉は、赤い薔薇をも白くする。
 誰が見ても真っ赤だけれど、そこにあるのは白い薔薇。
「でも、どうしてもと言うなら……そうですわね。それなら、誰かの首を刎ねてあげましょうか?」
 とても楽しくオゾマシイ、スリル満点のマジックショー。
 タネもシカケもありません。
 ちょん切られたら、はいそれまでよ。
「さあ、誰か刎ねられたい人はいるかしら?」
「ならば女王、この私めが!」
 申し出たるはハートの兵士、女王の為なら例えこの身に薔薇が咲くとも。
「知っているぞ、蒼の世界にはボウリングという遊戯があるのだ。切り離した首を、首のない身体に投げる遊びだな」
 首をなくした哀れな身体、切り口に合う雁首が、ぴたりと嵌まれば元通り。
「はてさて、そんなゲームだったかねえ?」
 首を傾げる時計うさぎ、まずは誰かで首実験?
「そうですわね。ではスペード、一歩前に出なさいな」
「何で俺やねん。ハートで試せばええやん、せっかく立候補しとるんやし」
「いやよ、だってハートは私の大切な部下ですもの」
 スペードならば惜しくない、だってマークが違うもの。
「それに何やら電波を受け取りましたの、私の可愛いアリスから」
「え、ボク言ってないよ、スペードは酷い目に合えばいいのになー? なんて、これっぽっちも!」
 言ってないけど思ってた。
「さすが女王、以心伝心相思相愛らぶらぶだね!」
 ご褒美に、ケーキを一口あーんでどうぞ?
 美味しいケーキを食べながら、女王は贄に指示を出す。
「しっかりとなさい。さもないと、首を刎ねるから! あら、どちらにしても刎ねるのだったわね?」
「サボり兵も、とうとう年貢の納め時。さあさあ皆さん、とくとご覧あれ!」
 三月兎がやんやの喝采、けれどスペード動かない。
「当たり前や、本気で死ぬで」
「あらあら残念。駄目だというなら、私の代わりに誰かが罰ゲームをするわ。私? 私はやらないわよ、当たり前でしょう? だって、私は女王様ですもの」
 誰にしようかご指名は、天の神サマ言う通り。
 けれど私は女王様、神サマよりも偉いのよ?
 だから私は自分で決める。
「スペード、光栄に思いなさい。私の代わりなのですからね?」
「また俺かい!」
「ではでは、この唐辛子がたっぷり入ったバターをば、目の周りに塗ってあげよう!」
 三月兎は楽しげに、真っ赤なバターをひと掬い。
「大丈夫、痛くないから、少ししか!」
 逃げるスペード追うウサギ、普段はぐうたらサボリ魔も、こんな時だけ逃げ足速い。
「ああもう、逃げられた!」
 仕方ないから次の人!

「それじゃ、オレは自慢のジャンプを見せるよ」
 くすくす、にっこり、チェシャ猫は、片手に紅茶のポット持ち。
「この中で一番背が高いのはホワイトだね? じゃあ空のカップをこう持って」
 動いちゃだめだよ、ヤケドする。
「いくよー、ちゃんと見ててねー!」
 その場でうんと膝を曲げ、天井目掛けてハイジャンプ。
 一回転の捻りを加え、飛び越しながら紅茶を注ぐ。
 ポットを持つ手は動かさず、それを軸にクルリと回れば、見事紅茶はカップの中に。
「着地も満点、どう?」
「すごいよチェシャ、ウサギみたい!」
「そうかな、それほどでもあるけどね?」
 抱き付くアリスを受け止めて、どんなもんだと胸を張る。
「これで罰ゲームはないよね!」
「そうだね、面白くはなかったけど、スゴイから許すよ!」
 猫がこれならウサギはどうか。
「もっとスゴイの見せてくれなきゃ罰ゲームだよ、マーチ!」
 ご指名受けた三月兎、仰々しくも丁寧に、読み上げたるは次なる演目。
「僕がご覧に入れますは、パントマイムにございます」
 何を表現するものか、見事当てたらご喝采!
 三月兎はぴょんと跳ね、床に向かってダイビング。
 そして手足をばたつかせ、目を剥きながら喉抑え、虚空掴んでジタバタと。
「わかった、踏み潰されたカエルだね!」
『釜ゆでにされるイモリ、ですね』
「いや、羽根をむしられるガチョウではないか?」
 アリスにダイヤ、ハートの見立て、どれもこれも、バラバラだ。
「薔薇ですって? そうね、バラバラが良いわ。首を刎ねておしまいなさいな」
 女王様は嬉しそう、けれど全部が見当違い。
「違う違う、沼兎が泥の上に飛び込んで溺れる時のマネだよ!」
 三月兎が首を振る、けれど居並ぶ渋い顔。
「面白くないぞ」
 問答無用でハートが投げる、ハンプティ自慢の激辛パイ。
「えっ、なんで、そんな……うわっぷ!」
 辛子バターの三倍辛い、パイは見事な赤い色。
「ふははははは、このパイ投げ、楽しいな!」
「からーいパイの後には、あまーい紅茶をいかが?」
 チェシャ猫が手に差し出すは、砂糖たっぷりトロトロ紅茶。
 紅茶に砂糖を入れたのか、砂糖に紅茶をかけたのか、溶けきれないからスプーンで。
「虫歯になるよ!?」
「それなら、ボクが代わりに飲むよぉ……?」
 眠りネズミは居眠りしつつ、トロトロ紅茶をちびちび舐める。
「あ、ボクはねぇ、3秒あれば、ねれる、よぉ……」
 いち、にぃ、さん、ぐぅ。
 トロトロ紅茶に顔を伏せ、眠りネズミは夢の中。
「こら、起きろ。砂糖で窒息するぞ」
 襟首掴んだハートの兵士、けれどネズミは目覚めない。
「ふむ、ふむ。これは目覚めの呪文を唱える必要がありそうですね」
 塀から落ちたハンプティ、塀の上まで戻しても、割れた卵は戻らない。
 けれど眠りの呪文なら、逆さま唱えりゃ元通り。
 さん、にぃ、いち、はい!
「……おはよーみんなー、久しぶりだねぇー」
 15秒ぶりに、また会えた。
「んぁ……一発芸じゃないのぉ……?」
「ヤマネのそれは芸って言うより特技だよね!」
「特技……そうかぁ、ボクってすごいんだぁ……?」
 アリスに褒められ、眠りネズミは良い気分。
 気分が良いと眠くなる。
「何しても、みんなでやったら、楽しい、ですよねぇ……ふあぁぁ……」
 ぐぅ。

「じゃあ次! いってみよう!」
 挑戦するはハートの兵士。
「私が色付きを引く? そんなことあるわけないだろう!」
 ほーらこんなに真っ赤っか。
「な、なんだとう!?」
 どうするどうする、どうしよう。
 真面目なハートは芸なんて、自慢じゃないが覚えてない。
「お手をすれば良いのか?」
 それとも三回回ってワンと鳴く?
「そうだ、あったぞ! 私にも出来る事が!」
 手にした槍を床に刺し、そのてっぺんで逆立ちを。
 ほら、こういうの、なんだっけ。
 蒼い世界の正月の、デゾメスキーとか言ったっけ。
 ぐらぐら揺れる槍の上、両手離してバランス取って。
「ギャラリーは、タマヤーとかカギヤーとか、掛け声をかけて縁者を鼓舞するのだ!」
 なんか違う気もするけれど、何が違うかわからない。
「たーまやー!」
「かーぎやー!」
「いよっ、ニッポンイチ!」
 意味は知らない、わからない。
 でも何となく、良い感じ。
「よし、合格! 鐘三つ!」
 意味は知らない、わからない。
「さて、さて。次は私の番でございますか」
 毀れ卵のハンプティ、取り出したのは林檎とナイフ。
「この林檎を……そうですね、スペードの頭に乗せましょう」
 本日堂々三回目、これが有名税というものか。
「御婦人がたを的にするわけには参りませんので。もちろん、お子様がたも」
 手が滑ったりはしませんよ、ええ、わざとでもない限り。
 頭に林檎をポンと乗せ、壁に立たせて狙いを定め、えいやと投げればほらこの通り。
 見事ナイフの真ん中に、林檎が刺さっておりません。
「おっと、手が滑りましたね?」
 投げたナイフが分身し、顔の周りに20本、綺麗に並んで突き刺さる。
 そりゃもう見事、髪の毛ほどの隙もなく。
「ああ、動かないで下さいね? 動くと顔が切れますよ?」
 ついでに暫くそのままで、壁の飾りになりますか?
「何の罰ゲームやねん、俺はハズレ籤一個も引いてへんで!」
 なのに余りなこの仕打ち、不憫属性とはこの事か。
『どうせハズレを引いても、芸などやる気はないのですよね?』
「当たり前やん、めんどくさ」
『それなら罰ゲームにも正当な理由があるというもの、です』
 そう言うダイヤは何するの?
『私は何もしないの、ですね』
 ほらこの通り、赤いけれども白い籤。
「いや、それどう見ても大ハズレやし」
『あらあら、何かご不満でも? 文句があるなら――』
 ダイヤの歩兵は敵陣の、一番奥に突っ込んだ。

『 首 を 刎 ね て も い い か し ら 』

 ただのポーンがクイーンに!
「ボク知ってる、プロポーションってやつだよね!」
「それを言うならプロモーションでございましょう、アリス? チェスという遊技の、ルールのひとつにございますよ」
 毀れ卵は顔色変えず、渋い紅茶を一息に。
「おや、これでは罰ゲームになりませんね?」
 やれと言われた覚えもないが。
 そしてお次は時計のウサギ。
「一発芸なんてする気はないが、どうせ一度は回って来るんだろう? そういうもんだ」
 ならば聴かせてあげようか、とびきりおかしなこの歌を。
 今日の良き日の思い出を、愉快なゲームの顛末を。
「良いか、今から歌うのは全てここで本当にあった事だからな?」
 前置きをして、歌い出す。

 ♪ ティーパーティは穴の底、愛しき少女が言いました、Ohさまゲーム始めるよ ♪
 ♪ アタリがハズレ、ハズレがアタリ、白が赤で、垢が白、結局どれでも同じ事 ♪
 ♪ ハートの女王が首を刎ね、哀れスペード真っ二つ ♪

 時計うさぎは歌を止め、壁に貼られたサボリ魔ちらり。
「スペード、何をしている。さあ早く、あんたがバラバラにならないと歌が続かない」
「続かんでええわ!」
「ならば仕方がない、少々路線を変えるとしよう」

 ♪ 赤い仔兎ぴょんと跳ね ♪

「僕?」

 ♪ シュガーポットにダイビング、トロトロ砂糖と紅茶の海で、溺れて沈んで砂糖漬け、甘いお菓子になりました ♪
 ♪ 仔ネズミそれを丸かじり、甘い夢見てねんねんコロリ ♪

「ボク、そんなに食べられないよぉ……」
「それなら私が食べてやろう」
「いたたた、僕を囓らないで!? 眠り鼠にハート、僕は食べ物じゃないよ! 時計兎、変な歌はやめて!?」
「食べたら、眠く、なっちゃっ……」
 ぐぅ。

 ♪ 物言わぬ宝石、尊きダイア、遂にはその輝きを増し、白の女王となりました ♪
 ♪ 白の女王は白い薔薇、赤の女王は赤い薔薇、どちらが多く咲かせるか、歌合戦で決めましょう ♪

「よーし、一番アリス、歌いまーす!」

 ♪ けれどアリスは人柱、渋い紅茶で声も出ず ♪

「バンブディ、ギミは女王の味方じゃながっだの!?」
「いえ、いえ、私は常に誰の味方でもありません」
 けれど敵だと言われれば、望み通りになりましょう。
「ぞんなの誰も望まないがら、ぞの渋い紅茶をみんなに飲ませでぐれるがな!」
 これで誰も歌えない、歌合戦は引き分け試合。

 ♪ ああ、なんということでしょう、せっかくの平和的手段は反故にされ、戦いは遂に兵士達の一騎打ち ♪
 ♪ ハートの兵士とスペードが、槍と刀で真っ向勝負 ♪

 けれどスペード動かない。
「これは私、赤の女王の不戦勝と見てよろしいかしら?」
 本家本元筋金イン、真の女王は格違い。

 ♪ 世界を赤く、全てを赤に、赤いインクをぶちまけろ ♪
 ♪ 壁も天井も度に床、テーブル、椅子に、テーブルクロス、ポットもカップも全部赤 ♪

「砂糖も赤くしなくちゃねー」
 ニヤリと笑ったチェシャ猫が、白い砂糖にインクをポタリ。

 ♪ 出来上がりたるピンクの砂糖、赤白まぜこぜ幸せの色 ♪
 ♪ かくしてピンクの波に飲まれた本日のお茶会は、これにて終了! ♪

「えー、まだ終わらないよ!」
「そうそう、僕はアリスの芸を耳をながあああくして待ってるよ!」
 アリスの白いエプロンを、ピンクに染めて三月兎。
「ボク? ボクはほら、穴を掘ったし! お茶会の主催だし! ボスだし!」
 Ohさまゲームはこれにて終了、けれどお茶会まだまだ続く。
「飲むよ! 食べるよ! 騒ぐよ!」
 チェシャに抱き付きマーチをハグし、捏ねて丸めて千切ったら、こんがり焼いてトロふわパイに。
 女王にあーんでお裾分け、女王様からのお返しは?
「そうね、ハートにダイヤにスペードを、全部混ぜたら何が出来るかしら?」
 赤と白の薔薇の花、混ぜて作ったローズジャム。
 パイに付けたらほっぺが落ちる、落ちたほっぺはマシュマロに。
 チェシャはそいつをカップに入れて、ホットチョコをたっぷり注ぐ。
「これ最高だよねー」
「甘味のコラボは鉄板だな!」
 甘党ハートもご満悦。
「アップルパイに砂糖とシロップをかけて、チョコチップをまぶしても良いかもしれん」
「おいしそうだねぇー、誰か、作ってくれないかなぁー……出来る前に、寝ちゃいそうだけどぉ……」
 ぐぅ。
「パイならここにありますよ、唐辛子たっぷりの刺激的な逸品が」
「そこに唐辛子バターを塗って、渋い紅茶と一緒に食べたら、眠りネズミも目が覚めるかな」
 いたずらウサギが悪巧み、いいよ何でもやっちゃって!
 奇妙キテレツ摩訶不思議、イカレてイカしたお茶会だから!
「ホワイト、時間を止めちゃって!」
 時計うさぎよ、キミなら出来る。
 懐中時計の針を止め、流れる時間を堰き止めて。
 ハンプティのカップには、辛子バターをドボンと入れて。
 マーチが頬張る甘いケーキは激辛パイに大変身。
 塩と砂糖をすりかえて、お茶はコーヒー、コーヒーはソース。
 それから、それから。
 何でも全部、逆さまにしちゃえ!
 男は女、女は男、大人が子供で子供が大人、女王が兵士で兵士が女王。
「最後は却下よ、当然でしょう?」
 女王は女王、そこは不動。
 未来永劫、徹頭徹尾。

 時が戻れば阿鼻叫喚、けれど皆は楽しそう。
 楽しい時は、まだまだ続く。
「だって時間を戻せば良いんだもん!」
 それでも足りなくなったなら、名残惜しいがまた今度。

 三年と三日と三ヶ月後の、明日は毎日やって来る。
 それまで皆様、ごきげんよう!



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 CAST
 アリス:エルシー・リデル(ka3891)
 ダイヤのトランプ兵士:メイ=ロザリンド(ka3394)
 スペードのトランプ兵士:アーク=ゼロ=シュバイツァー(ka3801)
 時計うさぎ:フォブ=W・アクランド(ka3890)
 ハンプティ・ダンプティ:シグ・ハンプティ(ka3900)
 眠りネズミ:ドア=アール=メイジー(ka3901)
 三月兎:ヘイヤ・ノワール(ka3903)
 ハートのトランプ兵士:ハーツ=ランプロカプノス(ka3923)
 チェシャ猫:ミルク=チェシャ=キャザレル(ka3936)
 ハートの女王:シルフィウム=クイーン=ハート(ka3981)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 お世話になっております、STANZAです。
 この度はご依頼ありがとうございました。

 今回はアリスモチーフの奇天烈なお茶会という事で、書き方を少々変えてみました。
 リズム重視で内容は二の次、意味が通らなくてもそのままに、マザーグースを意識した部分もあります。

 イメージと違う等、何かありましたらリテイクはご遠慮なくどうぞ。

 では、お楽しみ頂けると幸いです。
MVパーティノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年04月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.