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『夢の国のとある1日 』
猫野・宮子ja0024)&ALjb4583



 大音量の明るい曲。負けじと楽しそうな笑い声もそこかしこから聞こえてくる。間違いなく騒がしいはずだ。だが気にならない。なぜなら自分たちもまた、笑っているから。
「せっかく誘ってくれたんだし、思いっきり楽しんじゃうよー♪」
 入場口を潜り抜けた途端、猫野・宮子は握りしめた拳を天高く掲げた。無邪気なその姿にALも口元が緩んだ。
 ALは「バレンタインのお返し」として宮子を誘った。現状として微妙に揺れる天秤の上にいるふたりだ。テーマパークというザ・デートコースへの誘いは受けてもらえないのではとも考えたが、宮子はふたつ返事で承諾してくれた。
 まっすぐに目当てのアトラクションへ向かう来園者を横目に、ALはすぐそこに設置されていた園内マップを広げる。特に予習はしてきていない。理由はふたつあって、ひとつは、今回はあくまでもお返しだから。宮子のその日の気分に沿って好きなように決めてもらえればいいと考えていた。
「宮子様、どれから行きますか?」
「うーん……やっぱり絶叫マシンかなぁ? でも同じように狙う人が多いだろうから、先にお化け屋敷にするっていうのもありなんだよ。AL君は外せないアトラクションってある?」
「外せないといいますか、僕はほとんどの物が新鮮に感じます……あまりこういった機会が無かったもので」
「ふぇっ、そうなの?」
 もうひとつの理由は、経験に乏しいから。知識としておすすめポイントを伝えたところで、実感を伴わないのでは宮子の琴線には触れないだろうとの判断だった。
 宮子が戸惑う様子に、無理もないと思いつつ。ALは宮子に笑いかけた。その必要はないと伝えるために。
「はい。ですから宮子様のお好きなように回りましょう。――ああ、でも、もし心細い時があれば、御頼り下さい」
 見つめ合うようにして少しの間をあけてから、宮子は大げさに肩をすくめた。ここで笑うのはずるいなぁ、と心中でひとりごちながら。
「ホワイトデーだもんね、遠慮はしないよ。ボクにとことん付き合ってもらうから!」
 ビシッと決める宮子。そのすぐ横を団体客が通り過ぎていく。彼らが進む道の先にあるのは、このパークで一番人気を誇る絶叫マシンのはずだ。
 これは大変だとALに視線を戻すと、きょとんとしている。
「列が長くなる前に並ばなくちゃ!」
 手に入れにくくなると知ると、より欲しくなるのは人の常なのか。宮子はALの手をとって走り出した。
「み、宮子様っ!?」
「ALくんも、最初に一番スゴイのを体験しておいたほうがいいよ! すっごく楽しいから!!」
 引っ張られるままにALも走り出して、宮子のテンションの上がりっぷりを改めて思い知る。
 だがそれこそ彼の望むところだ。
「転ばないよう足下にお気をつけをっ。それと、人にぶつからないようにご注意ください!」
「わかってるよー♪」
 彼女の後ろから、彼女の隣へ。持ち場を変えて、ALは宮子と笑い合う。

 楽しい時間は瞬く間に過ぎ去っていく。この真理を今日ほど実感したことはこれまで生きてきたなかで初めてかもしれない。
 結局、絶叫マシンは少し待っただけで乗ることができた。最初こそ驚いていたALだったが、最後には安全バーから手を離すという偉業をやってのけた。
 次に向かったおばけ屋敷では、絶叫マシンでは聞こえなかった宮子の絶叫が暗がりに響き渡った。
「はぅっ……お、お化けはちょっと怖かったんだよー」
 膝が笑うので半分無意識でALの腕にすがる宮子。自らの柔らかいところがALの腕に当たるも本人は気づいておらず、ますますきつく抱きつくばかり。
(頑張って、ボクの理性……)
 振りほどくこともできずに、ALはそっと目をそらした。
 観覧車では向かい合うように座って、景色を眺めた。一緒に歩いた道を確かめようと身を乗り出せば、おでこがぶつかって。ここが狭い密室であると思い出してからは、ぎこちないながらもどこか心地よい静寂の時を楽しんだ。

 夕焼けで空が朱色に染まる頃、ふたりはテーマパーク内のレストランを訪れた。古い城を模した空間に、パークのテーマ曲をバラード調にアレンジしたBGMが流れている。
「こういう雰囲気の所はちょっと緊張しちゃうね」
「大丈夫ですよ。ゆっくりいきましょう」
 繋がった手から宮子の強張りが伝わってきて、ALはそっと握り返した。
 侍従姿の店員に案内されたのは窓際の席だった。大きなガラス窓に沿ってテーブルが造りつけられており、ゲストは窓に向かって並んで着席する。
「わぁ、よく見えるねえ!」
 このレストランは眺望が売りだ。さすがにパーク全景とまではいかないが、パーク中央に大きく位置する庭園くらいなら一望することができる。オレンジ色の夕陽を受けた花々やマスコットキャラクターの彫像が織りなす幻想的な様に、宮子の視線も釘付けとなっていた。
「宮子様、あまりお店の中で騒がれては……」
 見かねたALが呼びかけると、宮子はハッとした表情で振り向いた。
 宮子のために椅子を引こうとする店員を、ALは制して下がらせる。そしてそれは自分の役目だとでも言うように、自然な流れで宮子の後ろに回る。
「どうぞ」
「えっ、あ、うん」
 音を立てずに引かれた椅子。宮子はゆっくりとした動作でビロードの座面に腰をおろしていく。その背中がどこか強張っているように、ALには感じられた。
「どうかしましたか?」
 肩越しに頬を寄せ、小声で尋ねるも、返事は無言。代わりに、大きく左右に首を振られた。
 仕方なくALも宮子の隣に座ったのだが、宮子は気が気でならなかった。まさか聞かれはしないかと思ったのだ。店の雰囲気と、窓から見える景色と、自分だけに向けられるALの優しい声色に、高鳴りすぎて限界を知らない自分の鼓動を。

 供された食事は、舌だけでなく目にも喜びを与えてくれた。皿の中のどこかに必ずマスコットキャラに関する何かがあったのだ。堂々と形を模したものもあれば、キャラの大好物とされているものまで、幅広い。
「なるほど、これがパーク内レストランというものなんですね」
 ALが唸りながら食べ進めるのがおかしくて、宮子もつい笑ってしまう。
 あれこれと随分廻ったような気がしていたのだが、それでもわからないキャラも混ざっていて驚いたり。パーク内を移動中に出会ったキャラが見つかって、サインを書いてもらった手帳を開いてみたり。
 話は尽きることがなく、ふたりの前に置かれた皿はいつの間にかデザートに達していた。
「宮子様はどのアトラクションが一番よかったですか?」
「うーん……一番を選ぶのは難しいんだよ。どれもすっごく楽しかったんだよね」
 ALからの問いに、宮子は名残惜しそうに最後のひと匙を口に運びながら答える。
「ALくんは?」
「宮子様が満足でしたら、何よりです」
 にこりとするAL。確かにALならそう言ってくれるだろうと予想してはいたが、実際その通りになるとそれはそれで物足りなく感じてしまう。
「あ、でも、これは買いましたよ」
 宮子の気持ちが漏れたのか、ALは上着の胸ポケットから薄いものを取り出した。パークのイラストが印刷された紙のケースだ。手渡された宮子が開いてみると――絶叫マシンで最大落下中に撮影された記念写真だった。ふたりのバンザイ姿がしっかりとおさめられている。
「いつのまに買ってたの!?」
「スタッフの方から良い記念になるとオススメされましたので」
「確かに記念になるけど――この顔は世に残しちゃダメなんじゃないかな!」
 自分の表情がお気に召さない様子の宮子に、ALはもうひとつ同じケースを取り出した。
「こちらはお化け屋敷の」
「もっとダメな顔だー!!」
 処分するだの記念品は渡さないだの、店の迷惑にならない程度の声量での攻防もまた、パークならではのお楽しみと言えるのかもしれない。

「そろそろ帰る時刻……ですね」
 まだまだ話したりないと思いながらも、ALは宮子の手を取って店の外に出た。空にはすでに星が瞬き、街灯が幻想的に足もとを照らす。
 数歩進んだところで、ふと宮子が足を止めた。ALも止まって隣を見ると、宮子はこれでもかというほどに顔をほころばせて笑っていた。
「ごちそうさまだよ、すっごく美味しかったよ。ありがとうね、ALくん」
 おなかいっぱい、胸の中も満ち足りた宮子からの、心からのお礼の言葉を告げられて。
 ALもついに、自分の気持ちに決心した。
「……ふにゃ!?」
 繋いだ手ごと引き寄せながら自らも一歩を踏み出す。咄嗟の出来事にされるがままの宮子の顎に指を添えて、薄く開いた唇にキスをした。
 完全なる不意打ち。唇を離したALは、紅くなりながらも微笑みかける。これが答えだとでも言うように。
 宮子もAL以上に真っ赤で、しかし笑みを返す余裕などなく。あまりの出来事に処理が追いつかないのか、目を皿のようにしたまま固まってしまった。
 そんな様子もなんて可愛らしいのだろう、とALは思った。
「えっと……宮子様、宜しければ家までお連れ致します」
 イエスもノーもないまま、横抱きに抱き上げる。少女と見間違われような体躯のどこにそんな力があったのか、ふらつくこともなく、つらそうな素振りもない。
「え、あ、ちょ、ALくん!?」
 浮遊感を覚えて慌てた宮子だったが、至近距離で改めて微笑みかけられたからか、抵抗らしい抵抗は特になかった。ためらいがちにではあるものの、両腕をALの首元に回していく。
「そのまましっかり掴まっていてくださいね」
 コクンと頷く宮子を一度だけ強く抱きしめてから、ALはパークの出口に向かって再び歩き出した。



━DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━

●今回の参加者

ja0024 猫野・宮子(外見年齢14歳・女・アカシックレコーダー:タイプB・人間)
jb4583 AL(外見年齢13歳・男・ダアト・悪魔)
MVパーティノベル -
言の羽 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年04月08日

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