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『チョコレートを、君に 』
ロザーリア・アレッサンドリka0996)&ウェンディ・フローレンスka3505

 ロザーリア・アレッサンドリは、ほんの少し緊張していた。
 時は甘いチョコレートの香り漂う二月である。
 二月と言えばバレンタインデー。女性が意中の男性に、想いを込めたチョコレートを贈るのがリアルブルーではよく見られる光景であるが――このクリムゾンウェストにおいても、そんなリアルブルーの習慣を真似てか、チョコレートをプレゼントするという習慣がなんとはなしに出来ていた。
 ロザーリアは女性だが、かわいいというよりもどちらかというと格好良い、と表現する方が向いているタイプである。まるで小説から抜け出してきたような、という表現は陳腐きわまりないが、実際リアルブルーにはロザーリアによく似た主人公の登場する小説があるという話なのだから、全くのでたらめではない。
 そしてロザーリアを慕ってくれる女性が、ありがたいことにいる。
 むろんロザーリアも女性であるから、その相手――ウェンディ・フローレンスを好ましく思っているものの、それは当然ながら恋愛感情とは一線を画するものだ。
 ウェンディの方はというと、こちらも別に恋愛対象としてではなく、純粋なる『憧れ』としてロザーリアを慕っている訳なので、基本的に二人の関係は良好といえる。
 ……まあ、どちらもやや不器用なところのある二人なので、時々はハプニングが待ち受けていたりするが、まあそれはたぶん別の話である。

 さて。
 そんなバレンタインシーズンまっただ中の二月某日、ロザーリアはウェンディを家に招待していた。
 いつも何かと世話を焼いてくれるウェンディに対し、何かしらの礼をしたいと思っていたのである。
 バレンタインデーについてはまだ万人の知りうるイベントでない為中途半端な情報しかないのだが、ロザーリアはバレンタインをこう認識していた。
 つまり、『友人や親に、感謝の気持ちを込めてチョコレートを贈る』という。
 それはバレンタインの側面の一つではあるが、どちらかというと比較的近年になってから生まれた認識である――ということを、彼女は知らない。とりあえず感謝したい相手にはチョコレートを贈るものだと、そう言ううすぼんやりした情報で、ロザーリアはチョコレートを準備していた。
「どうしましたの、ロザリー」
 どこか落ち着きのないロザーリアに、小さく首をかしげるウェンディ。
「ああ、いや。いつものお礼にと思って――」
 そう言いながら、彼女が差し出したのは綺麗に包装された箱だった。
「ほら、バレンタインっていう、リアルブルーのイベントに合わせて、用意してみたんだけれど……」
「まあ! ありがとうございます、開けてもよろしいですか?」
 そう言ってそっと包装をひもとくと――そこに入っていたのは、ずいぶんと高級そうなチョコレートだった。いや実際高級なのは間違いないだろう、包み紙はこの近所でも有名な高級菓子店のものだ。ちょっぴり見栄っ張りのロザーリアのことだ、そう言うつもりではなくただ純粋に購入して贈っただけなのだが――
(……普通、こういうのは、本命って思われますわよね)
 年齢の割に耳年増なところのあるウェンディは、ロザーリアよりもバレンタインについての知識を豊富に持っている。
 普通に考えれば、こんな立派なチョコレートは意中の相手に贈るものだと言うことも。ロザーリアの顔を見ると、わずかに緊張してはいるようだが、そう言う意味合いではないことは直ぐにわかった。
(よくわかってないだけ、のようですわね)
 こんなロザーリアだからこそ、ウェンディは慕ってしまう。ただついでに言えば、ちょっとした悪戯心がくすぐられてしまうのも、事実なのだが。
 ふふ、と思わず口元から笑みがこぼれた。
「ロザリーさんは、バレンタインデーについて、余り詳しくご存じないのでしょう?」
 ウェンディがそう言うと、ロザーリアが少し驚いた顔をしている。
「……ああ、うん。いや、友人や親に感謝の気持ちでチョコレートを贈るものだと思っていたんだけれど……ちがうのかな?」
「半分正解で、半分外れですわ。もともとはバレンタインというのは、恋愛対象へ、女性がチョコレートを贈るものと……更にもっと古くは、花を贈るのが習わしだったそうですが」
 ウェンディは涼しい顔でそう言ってみせると、ロザーリアは一瞬目をぱちくりとさせてから、顔を真っ赤に染めた。まさかチョコレート一つにそんな意味が込められているなんて、思ってもいなかったに違いない。そんな、見た目とのギャップもまたロザーリアの魅力の一つなのだが、幸か不幸か本人は気づいていないようだ。
「ちちち、ちがう! 別にあたしは、そう言うつもりで贈ったわけじゃ、」
「じゃあどういうつもりで下さったんですの? わたくしは貴方がそう言うおつもりなら……その」
 ウェンディはちょっぴり意地悪く問い詰めていく。わざと目をそらし、頬を赤く染めてしまえば、きっとロザリーの気持ちを本物と受け取ったに違いないと誤解させてしまう程度には、彼女は名役者だった。
「大切な、友達だからってだけだよ! 深い意味は無いんだから!」
 ロザーリアはもう耳まで真っ赤になっていた。自分の勘違いとはいえ、あらぬ誤解を生んでしまったのではあるまいかと、肩を小さく落とす。
「……ふふっ」
 と、ウェンディは可愛らしい笑い声を上げた。
「勿論わかっていますよ、ロザリーはそういう人じゃないって」
 ちょっとした冗談です、そう言ってウェンディはにっこり。すっかり混乱していたロザーリアはやられた、と一瞬思ったが、まあ自分の認識不足でこういう事態になったのだから仕方ない。思わず肩をすくめる。
「……まあつまるところ、贈り物にも、相手に相応のものをというのはありまして」
 ウェンディは謳うようにいいながら、自分の持ってきていたカバンから可愛らしい包みをロザーリアにそっと手渡す。
「わたくしも、ロザリーにはとてもお世話になっていますからね」
 ロザーリアが驚いてその包みを開けてみれば、愛らしい熊のぬいぐるみを象ったチョコレートが入っていた。
「友達に差し上げるチョコは、このくらいのささやかな物でも十分なんですよ、ロザリー」
 ウェンディに言われ、ロザーリアは苦笑を浮かべるしかない。
「そういえばチョコレートを頂いたら、お返しを一月後にするそうですが」
「それにもマナーがあるのかい? リアルブルーというのは面倒なことが好きなんだなぁ」
 ロザーリアの苦笑交じりの声に、ウェンディも頷く。
「でも、お菓子を贈り合ったりするのは楽しいね」
 もらったチョコを一つ頬張りながら、ロザーリアは笑う。
「そうですわね。こういう機会、また楽しみですわ」
 勘違いはまっぴらごめんですけれど、ウェンディの言葉で二人はクスクスと笑いあった。

 バレンタインの、素敵な思い出。
 こんな愉快なバレンタインは、きっと二人だからこそに違いない。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka0996 / ロザーリア・アレッサンドリ / 女性 / 21歳 / 疾影士 】
【 ka3505 / ウェンディ・フローレンス / 女性 / 17歳 / 聖導士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびはご発注ありがとうございました。
そして相も変わらずぎりぎりで申し訳ございません……!
バレンタインというものの認識がクリムゾンウェストという世界ではどうなのか、それはみなさまの認識次第というものでしょうが、楽しく書かせていただきました。
お二人の女子会めいた雰囲気を書くのはこちらとしても楽しいものです。
それにしても、このお嬢さんたちはホワイトデーをどう過ごしたのでしょう……。
気になるところではあります。
では改めて、ありがとうございました。
MVパーティノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年04月14日

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