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『桜色の1日 』
戸隠 菫(ib9794)

「やだー! 何アレ!」
「何って、あれは……」
「わあっ! いい! 言わなくていいっ!」
 淡々と事実を述べようとした相棒のからくり、穂高 桐の口を慌てて塞ぐ戸隠 菫。
 お弁当とお菓子を持ってお花見にと郊外にある花の名所に来てみれば、アヤカシが出て困っていると聞いて……それは放っておけないと駆けつけて来たのだが――。

 ずもーーーーん……。

 そんな効果音がぴったりのそれは、ものすごく巨大な黒い毛虫だった。
 大きさは菫と変わらないくらいあるだろうか。
 それが、桜の樹に噛り付いているように見える。
「何、あのアヤカシ。桜の生気吸ってるの……?」
「どういう特性があるのか分からないが、早々に片付けた方が良いだろうな」
「そうだよねー……」
 桐の言葉にこくりと頷く菫。
 今のところ人を襲う様子は見られないけれど、あのままにしておいたら危ないし、花見客も来られないだろうし。
 相棒の言葉はもっともだと思うけれど……。
 とにかくデカイし、ウネウネしていて気持ち悪い。
 小さい状態だってイヤなのに、それが大きいとか視力的な暴力だ。
 何と言うか、こう。できれば近づきたくないし触りたくないっ!
「菫の薙刀であれば近づかなくても斬れるだろう」
「え。やだー。桐、あたしの心読まないでよ」
「心を読むも何も、声に出ていた」
 驚く菫に冷静にツッコミを入れる桐。
 ああ、もう。こんな所で漫才をしている場合じゃない。
 さっさと倒してお花見をするんだから……!
「うー。桐も協力してよね!」
「分かった」
 ぐっと薙刀を握り締める菫。
 アヤカシは桜の樹に夢中なようだし、今ささっと近づけば、後ろを取って簡単に倒せるかもしれない。
 意を決して黒いアレに近づく菫と桐。
 このまま背中から一刀両断でハイ、終了! の予定だったのだが、そこで予想外のことが起きた。
 菫達の接近に気付いたらしい。毛虫が、ずるり……と頭を擡げてこちらを向いた。
「いやーーーっ! こっち見ないでよおおお!!」
「菫殿、落ち着いて……!」
 アヤカシは、菫と桐を見比べていたようだったが、狙いを菫に決めたらしい。
 ……まあ、開拓者とからくり、どっちが美味しいかって聞かれたらそりゃそうなりますよね。
 ずる、と嫌な音を立てて移動を開始する。
「ちょっ。えっ。来ないでーー!!」
 悲鳴を上げる菫。
 彼女とて開拓者だ。今まで様々なアヤカシやケモノと戦ってきた。
 それなりにエグい見た目のものとも戦ったことがあったが……巨大な虫、と言うシンプルな見た目故かどうしても生理的嫌悪感に襲われる。
「助太刀する……!」
 主と毛虫の間に割って入った桐。
 刃を投げつけて、アヤカシを地面に縫い付ける。
「菫殿、今のうちだ!」
「わ、分かった!」
 桐の声に応えるように、片手で印を結ぶ菫。
 瞬時に引き締まる彼女の表情。そこに怯えや嫌悪感はない。一人の開拓者としての顔。
 目を閉じ、意識を集中し、『渇!』と叫ぶと精霊の気配を感じ、力が漲る。
「ハァーーーッ!」
 菫の気合の篭った叫び。薙刀に全ての力を込めて、振り下ろす。
 それは稲妻のように閃いて……アヤカシを両断した。


「はぁ〜。無事倒せてよかったねえ」
「……想定より時間がかかったがな」
 涼しい顔をして言う相棒に、うぐ……と言葉に詰まる菫。
 菫達がアヤカシを退治した事を報告したからか、徐々に客足が戻りつつあり……出店や茶屋を営んでいる者達からいたく感謝され、色々と差し入れを貰ってしまった。
 自分達のお弁当もあるし、これは食べきれないかもしれない……。
 とりあえず、持って帰って今日の夕飯にしようかな?
 家で待っている相棒達のお土産にも出来そうだよね……。
 そんなことを考えていた彼女。桐に言い忘れていたことを思い出して顔を上げる。
「そういえば、お礼まだ言ってなかった。桐のお陰で助かったよ。ありがとね」
「礼には及ばないが……もうちょっとしっかりして貰いたいところだな」
「い、いつもはあんな風にならないでしょ!?」
「確かに。それでは、巨大な虫に対して耐性をつければいいのか」
 ふむ、と考え込む桐に引きつった笑みを返す菫。
 相棒が、何だかものすごく物騒なことを考えているような気がして、誤魔化すようにお弁当を差し出す。
「桐。ほらお弁当作ってきたよ。アヤカシも退治したし、桜見ながら食べようよ! お菓子もあるよ!」
「……わたしに食事は必要ないのだが」
「もー。またそんなことばっかり言ってー。食事はね、栄養を摂るだけじゃなくて、味や見た目を楽しむっていう意味もあるんだから。あたしの特製だから、騙されたと思って食べてみて!」
 そう言って、桐の手を引く菫。桜が良く見える場所に茣蓙を敷いて、相棒を座らせる。
「桐、はいこれ。どうぞ」
「……お茶に花が咲いてる」
「うん。綺麗だよねえ。桜茶って言うんだよ」
 にこにこと笑う菫。
 広げたお弁当には、鮭のつけ焼きに筍と野菜の煮もの、花寿司が綺麗に並べられている。
「お菓子は桜餅だよ! これは後で緑茶と一緒に食べようね」
 主の言葉に頷く桐。彼女は食事については良く分からないが……並べられたお弁当は、どれも彩りが鮮やかで、美しいと思う。
 満開の、散りこぼれる桜の花。空からはらはらと舞い降りる花弁。
 それを見上げて、菫はほう……とため息をつく。
「桜って不思議だよねえ」
「何が不思議なんだ?」
「毎年見てるはずなのに、いつ見ても綺麗だし、何度見ても飽きないの」
 桜は毎年咲くが、それは春のほんの一時期だ。
 桜の花の淡い色、一斉に花を咲かせる美しさ、一瞬で散りゆく潔さと儚さ……そういったものに、人は惹かれるのだろうか。
「……菫殿、弁当食べないのか?」
「あー! 食べる食べる! でもさ、何か上見ながら食事って言うのもどうなのかな。食べにくくない?」
「……桜は食事が終わってからゆっくり見ればいいだろう」
「あ、その手があった!!」
 あははは! と笑う菫。万事その調子の主に、桐がため息をつく。
 菫は徐にいただきまーす! と手を合わせると、箸を手にする。
「ねえ、桐」
「何だ?」
「来年はさ、お友達誘って来ようか。桐と2人も楽しいけど、皆と一緒も楽しいよね」
「……そうだな。菫殿には恋人はいないのか?」
「な、なに!? 急に」
「いや、いるのであれば、わたしを誘ったりしないか……変なことを聞いて悪かった」
「ちょっと一人で結論出さないでくれるー!? 今日は家族サービスであって、あたしにだって恋人くらいいますーだ!」
「ほう? それは初耳だ。今度是非紹介してもらいたいものだな」
「……桐、紹介したらブチのめしたりしない?」
「まさか。……まあ、菫殿に相応しい実力の持ち主かどうか、試させては貰うが」
「それをブチのめすっていうんだよ……」
 わぁわぁ騒ぎながら食べるお弁当、見上げる桜。
 気心の知れた相棒と一緒で、とても楽しい。


 今年はアヤカシ騒ぎで偉い目に遭ったけれど……楽しかった。
 この先もやって来る桜の季節。
 見る人、見る場所、起こる事件を変えながら……思い出を重ねて行く。
 ……次はこの花を、誰と見るのだろうか。
 叶うなら――来年も、再来年も、その先もずっと……この美しい花を、大切な人と一緒に見られますように。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ib9794/戸隠 菫/女/19/武僧

穂高 桐/からくり(上級)/相棒(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

今回は相棒の桐さんに登場してもらい、ほのぼの楽しいお話を目指してみましたが如何でしたでしょうか。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
MVパーティノベル -
猫又ものと クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年04月14日

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